ここは生徒会室
しかし、今ここに広がる光景は戦時中を思わせるような惨状である。
窓ガラスは全て吹き飛び、むせかえるように硝煙の臭いが立ちこめる。
壁や天井はボロボロに破壊されて、たくさんの瓦礫が消し炭にまみれながら積みあがっていた。
すると、この瓦礫の山から子供が這い上がってきた。
「風紀委員会特服『
体についた炭を軽くはたく。
彼の左腕には“風紀”の文字が書かれた腕章がついている。
風紀委員長 雲仙冥利、正義を貫く者。彼は今、
「しかし、俺が爆弾持参で殴り込みに来たっつーのに、思ったより被害が小さいな」
冥利は辺りを見渡す。
俺がバラまいた爆弾の数からすりゃあ、校舎全壊とまではいかなくても、ここいら一帯は消し飛んでるはずなんだが。
だんだんと硝煙の臭いがする煙は下火になり、視界が開けてくる。
ん?あれはー
運動場の方向に冥利が目を凝らした先には、腕に会長の腕章がついた人間がいた。
そしてそこには気絶はしているものの、会長以外の生徒会役員の三人が大した怪我もなく横たわっていた。
・・・マジかよ、俺だってそれなりに命かけてやったんだぜ。
それを誰一人として傷つけることなくアイツはみんなを守ったってやつか・・・・・・、ケッ。
もう聖者とか言ってる場合じゃねぇな、アイツは紛れもない
「黒神!テメーいったい何をした!?」
生徒会長 黒神めだか。彼女は冥利に目を向けることなく、横たわる三人の役員を見つめながら口を開く。
「・・・・・・簡単なことだ。爆発の恐ろしさは爆風にこそある。だから私はこの三人を咄嗟に壁際のロッカーに詰め込んだ。扉を外側から閉めるために、私は外に残ったがな」
・・・っ!?簡単に言ってくれるが、何が簡単なもんかよ。アイツ、あの一瞬でどれだけのことをやってんだ。
しかもさっきの話からすると、アイツは部屋が一つけし飛ぶような爆発をモロに喰らったってことだろ!?
バケモン女め、マジで正気とは思えねえな。
「ケケケケ!いや本当スゲーわ、その聖者っぷり。テメーのそのガンコな信念にちょっぴり感動すら覚えるね!」
めだかは言葉を、何も返さない。
「そんでアレだろ?どうせテメーは争う理由なんかねーって言うんだろ?一件落着のめでたしハッピーエンドってわけだよなーー」
「ーーうるさい」
「っ!!」
「・・・・・・哀れなことだ。貴様もかつては善の心に満ち満ちた優しき美少年だったに決まっている。情状酌量に値するだけのきっかけがあって、残虐無比な性格を帯びてしまったとしか考えられん」
「しかし!だからと言って、私は貴様を許さない!!」
めだかの叫びで冥利は後ろに思わず飛びのいてしまった。
な・・・!?ビ・・・
睨まれただけで!凄まれただけで!思わず後ろに飛びのいちまったっていうのか!?
めだかの髪の色がだんだんと赤く染まっていく。その深い赤色は、まるで今の彼女の怒りを体現してるかのように赤かった。
決して触れてはいけないものに、触れてしまったのだ。
「雲仙二年生、貴様の言うとおりだ。私と貴様はそっくりだよ。私も貴様と同じで自分を正しいだなんて思ったことはない。私は正しくなんかない、正しくあろうとしているだけだ!!」
ようやく気絶から覚めたのだろう、善吉含む役員たちが起き上がっている。
「友達を危険な目に遭わせてまで貫きたい信念など私にはない!!」
めだかが冥利の方向に歩みを進める。だんだんとその歩幅は大きくなり、歩むスピードは上がっていく。
確かにそうだ、アイツの言うことはなにも間違っちゃあいないし、俺もその意見には賛成だ。
ただ、
「ケケケ!ボケが!いくらテメーが度を超えたバケモンだろうが、火山の前では消し炭だぜ!!」
冥利はめだかに向かっていく形で大きく跳んだ。両手には生徒会室を吹き飛ばしたスーパーボールに似せた爆弾を複数持っている。
しかし、めだかはそれを回避しようと後方に飛ぶことなく、逆に一足飛びに冥利との距離を縮めて
かつて、英雄と互角に渡り合ったその拳を全力で振りぬいた。
冥利は計算していた。たとえこの拳がモロに当たろうとも、『
そしてその隙に爆弾をぶつけて、今度こそ終わらせてやろうと。
しかし、その小さき天才の読みは外れる。
ーードンッ!!!!
めだかの拳が冥利の腹部に命中する。
「ダンプにはねられてもへっちゃらな制服だって?それを聞いて安心した。つまり、私が本気で殴っても三発までなら大丈夫ということだよな!!」
冥利の小さな体に、大砲のような衝撃が走る。まったく意図していなかっただけに、彼の体は何の防衛反応もなしにすべての衝撃を吸収した。
そして冥利の体は後方に押し返され、体ごと背後に位置する校舎に激突する。
「ガッ・・・ハァッ・・・・・・!!」
全身が痛みを叫び、もうどの箇所が壊れているのか分からない。
「たいしてダメージがあるとは思えんが、そのまま立ち上がれない振りをしておけ。今ならまだ許してやれるかもしれん」
「・・・ケケケ、冗ー談!痛くもカユくもねーっつの、ノーダメージだよボケ!」
冥利は立ち上がるなという体の危険信号を無視し、錆びついた歯車を無理やり回すようにギシギシと鳴る足腰で立ち上がる。
しかしマジかよ、こちとら衝撃吸収材の塊を着込んでるんだぜ!?
それを何メートル吹っ飛ばしてくれてんだよ。あのバケモン女、キャノン砲みてーなパンチ力してやがる。
あー、スゲーピンチだぜ。こんな開けた運動場に飛び出してしまって、オレの武器のスーパーボールも爆弾も役に立たねえ。
ここは一旦詫び入れてーー
冥利は自分の血と炭で汚れた腕章を見る。
ーーそうはいかないよな。
こんな俺でもみんなの、風紀委員会の看板背負っちまってんだ。
それよりなにより、影兄のあの“楽しそうな笑顔”をこれからも見続ける為に、今までの恩返しをする為に、ここで倒れるわけにはいかねーよなあ!
「黒神めだかァ!!正しい正しくないかかわらず、正義は必ず勝つんだよ!!」
ここでオレ様の勝利への布石、その一!
バケモン女のキャノン砲ばりのパンチをーー
冥利はもう一度跳ね上がり、めだかとの距離を縮める。
しかし今度は、その手に武器も何も持たず、ただ距離を詰めた。
案の定、その小さな体目がけてめだかの拳がうなりをあげる。
ーーあえて喰らう!!
先ほどと同じ光景がもう一度繰り返される、めだかの拳が冥利の体に叩き込まれ、小さな体は吹き飛ばされる。
しかし先ほどと違う点は、冥利がパンチを喰らう直前にその体の向きを微妙に変化させたところだ。
「ぐ・・・ふうっ!!」
冥利の体は校舎の空き教室の窓ガラスを突き破り、石つぶてのようにその身を転がした。
その姿をめだかはじっと見つめる。
「・・・・・・また何か企んでいるらしいな。しかしまあ、とどめを刺さずにいられる気分でもない」
めだかは冥利にとどめを刺すべく、その歩みを早める。
「めっ・・・めだかちゃん!!」
まだ起き上がれないその身を無理矢理動かし、あるだけの声を振り絞って、人吉善吉はめだかを呼び止めた。
このままではめだかが自分のどこか遠くへ行ってしまうと、そう感じた善吉はめだかを呼び止めた。
しかしー
「私の主義に巻き込んで悪かったな。あとで腕章を返してくれ、これからは一人でやって行くことにするよ」
めだかは止まらなかった。
「私を校舎内に誘い込むのが貴様の策か?だとすれば小賢しい子細工だな」
「ケッ・・・ナメてんじゃねぇぞ、この一年坊が!テメーとオレじゃあキャリアが違う」
血が目に入りこんで目も開けられない。口の中はズタズタに切れて、喉は焼けるように熱い。
・・・・・・でもこれで揃ったオレの布石。コイツの
「オラオラオラァ!避けれるもんなら避けてみやがれ!!」
冥利は両手に持ったスーパーボールをあちこちに向かって投げつけた。
そしてそのすべてがめだかを打ち抜かんとばかりに勢いを増す。
「この
めだかはあえてその弾幕に突っ込んだ。
「ケケケッ、
突如、めだかの動きが止まる。
「これがオレの
めだかは目だけを動かし、自分の体を見渡す。
そしてその眼に映ったのは、細い糸に絡め取られた自分の腕や脚だった。
「無理矢理動こうとか考えんなよ、テメーの体が八つ裂きになるぜ」
・・・・・・ッ!?
突然、冥利の足腰の力がシャットダウンし、小さな体が腰が抜けたかのように地に沈む。
クソッ、どこも力が入らねぇ。あと少しだ、もってくれよオレの体。
このバケモンに勝利するまで、
「ハァ・・・ハァ・・・オレもご覧の通り動けねえ、そのままじっとしといてくれや、黒神」
「小賢しい小細工だな、雲仙冥利!八つ裂きなんぞすでにされている、貴様は私の心を引き裂いた!」
・・・ケケケ!そうだバケモン、テメーはこれじゃあ終わらねえだろう?
めだかは鋼鉄の糸をものともせずその身を前に進める、固定しているほうの校舎ごと引きずりながら、体中から鮮血を飛ばしながら、前に進む。
一本、また一本と鋼鉄の糸はめだかの体から千切れ飛ぶ。
めだかは足元でもう動けないでいる冥利を見下ろす。
「言いたいことがあるなら言っておけ、もう貴様に明日は来ないのだから」
・・・・・・勝負は、ここからだ。
「あっ!・・・
めだかは冥利から決して視線を外さないように、軽くあたりを見渡す。
するとあたりにはたくさんのスーパーボールが散らばっていた。
そして、冥利は腕を大きく広げる。そしてそれがまるで合図だったかのように、スーパーボールが爆ぜた。
ースパパパパァァアアン!!!
「ッ!!」
一気に破裂するスーパーボール達、そのひとつひとつから白い粉が吹き出して辺り一面を覆う。
まるで濃霧の中にいるような感覚になる。
「・・・・・・何の真似だ」
「ケケケ、今俺らを覆っているこの煙は、そこまで良質じゃねぇが、れっきとした爆薬だ。こんな視界じゃ、人吉とかもテメーを助けに来れねぇかもなぁ。・・・・・・そしてこれでチェックメイトさ」
いつの間にか冥利の両手にはマッチが握られてあった。
その震える両手、たぶんマッチを持ち上げるのすらやっとなのだろう。
「・・・貴様もただではすまんぞ」
「バーカ、俺は正義の味方だぜ。バケモノにやられるわきゃねーだろ」
改めてめだかの拳は力いっぱい握られ、冥利は不敵な笑みを浮かべる。
「「これで終わりだ!!」」