陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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23箱目 やり過ぎだ

めだかと冥利を取り囲むように白い粉が霧散した。

生徒会室を爆破したものとはまた別の火薬の臭いが微かに鼻に残る。

おそらくこの白い粉も爆薬なのだろう。

「阿久根先輩、喜界島」

人吉善吉は、粉塵の中に隠れてしまっためだかの方向を睨み、立ち上がる。

「引き際があるとしたら多分ここだぜ。これ以上めだかちゃんに巻き込まれたくなかったら、今が生徒会の辞め時だ」

善吉は一度も阿久根と喜界島に目を向けることなく話す。

しかし、それはこの二人も同じだった。

めだかを見失わないように、ただ一点だけを見つめていた。

「そうだよ。あたしは黒神さんに巻き込まれたいんだ!」

「俺はめだかさんになんと言われようと、生徒会を辞めるつもりはない」

 

生徒会役員の三人は、まっすぐに霧の中へ突っ込んだ。

 

 

 

爆破に成功しても、失敗しても、オレを待つ結果は同じだよな。

でもまぁ、オレらしい最高にカッケー終わり方じゃんかよ。

めだかは拳を降り上げる。冥利は不敵に笑みを浮かべる。

 

「「これで終わりだ!!」」

 

めだかの拳は轟音をうならせ、冥利めがけて打ち出される。

冥利も動くなという体の信号に精一杯抵抗し、手に持ったマッチをヤスリに乗せた。

 

 

「「二人とも、これぐらいにしとけ」」

 

突如、めだかの拳は止まり、冥利は両手のマッチを取り上げられる。

めだかの拳が勢いを殺された反動で、あたりを舞っていた爆薬を吹き飛ばした。

真っ白な視界が急に(ひら)けた明るい空間へと変わる。

「何の真似だ、影兄」

「どういうことですか、日之影三年生」

そこにはめだかの拳を片手で握り抑えている空洞と、呆れ顔でマッチを持っている影照が立っていた。

 

めだかは止められたその拳に再び力を入れる。

しかし、しっかりと固定されたその腕はまったく動く気配がない。

「・・・・・・止めないでください」

「いいや止めるね。今のお前はらしく(・・・)ない」

空洞は手を開き、めだかを押し返す。

めだかは一歩だけ後ろに下がり、拳を下ろした。

 

「・・・・・・私はあの男を許す気にはなれません。どうしても止めると言うのでしたら、私はあなたも倒さざるをえません」

「まるで昔の俺みたいだな。いいだろう、かかってこいよ。今のお前には負ける気がしねぇ」

空洞もめだかも同時に腰を落とし、拳を構える。めだかの髪はなおも赤く染まっており、怒りの感情だけが彼女を支配してるかのように見えた。

二人の拳に力が入る、いつでも動けるようにかかとは少し浮きあがり、目は前だけを睨んでいる。

 

「やりすぎだ、めだかちゃん!!」

二人が今にも飛びかからんとした時、今度は善吉、阿久根、喜界島の三人が手を広げて間に割って入った。

「・・・・・・どけ。貴様達も邪魔をするというのか」

「はい。俺達もめだかさんが一人で傷ついていくのを見ていられるほど、落ちぶれてはないつもりです」

「・・・・・・めだかちゃん、俺達はもう二度とお前を一人にしないよ」

 

めだかの髪の色がスッといつもの黒髪に変色し、両手の力は抜けていく。いつもの生徒会長 黒神めだかに戻った。

そのあまりの変わりように空洞は少し戸惑い、しぶしぶ腕を下ろした。

(あれほどの憤りを一瞬で?)

空洞は少し困った顔をしながら影照のほうに顔を向ける。しかし、影照も同じ心境だったのだろうか、困った笑顔を空洞に返した。

 

「・・・・・・ふむ。確かに先ほどの私はちょっと自分を見失っていたな。日之影さん、私を止めていただきありがとうございます」

めだかは姿勢を正し、丁寧に深々と頭を下げる。

そんなめだかの姿に空洞は「お・・・おぅ」という気のない返事をしてしまう。

 

 

「ところで雲仙二年生、生徒会の副会長になってもらえないだろうか?」

「・・・・・・・・・・は?」

 

空気が死んだ。

 

「いやいや、ここまで私に張り合った人間なんて貴様くらいのものだろう。貴様には私の対抗勢力になってもらいたいのだ」

めだかは止まった空気感をものともせず、話を進める。

「・・・・・・ふざっけんな!!オレは風紀委員長だぞ!!生徒会なんかに入れるわけねえだろ!!」

当然の反応だ。先ほどまで、本気でお互いを殺してやろうと思いながら戦っていた、その相手から急に仲間になろうと言われた。理解できなくて当たり前である。

しかし、めだかは残念そうに、本当に残念そうに頭を軽く下に傾けて

「そうか、ならば仕方ない」とつぶやいた。

 

 

 

「・・・これでいいだろ」

空洞のあの大きな手からは似合わない繊細な動きで冥利に包帯が巻かれていく。実際あいつがシャープペンシルを持ってるだけで面白いもんな。

「おい、何をニヤニヤしてんだ」

「ん?何でもないよ」

応急手当が終わった冥利が、すごく不機嫌そうな様子で口を開く。

「影兄、なんで邪魔をした?あのままいけばオレが勝ってただろうが」

「勝っても負けても、お前は無事じゃ済まなかっただろ?しかも、お前は絶対あれじゃ勝てなかったよ」

「アぁ!?」

 

影照はごそごそとポッケの中から、先ほど取り上げたマッチを冥利の目の前に出す。

よく見るとその先端は血がついて湿っており、ヤスリでいくら擦っても火はつきそうになさそうだった。

「・・・な?」

「・・・・・・ケッ」

本当にもう疲れているのだろう、特に何も言い返すことなく冥利はそっぽを向いた。

そういえば冥利は学園内で怪我をしたわけだし、保険はおりるのかしらん。

 

「ん・・・しょっと」

空洞が冥利を片手で軽々と持ち上げ、肩に乗せる。

「とりあえず応急処置だけはしたが、この怪我じゃあちゃんとした病院に行って治療を受けないとな」

「いやぁ、頼んだよ空洞」

「オメーも来るんだよ。てかオメーの弟だろうが」

「冗談だよ」

いつものように俺と空洞は笑う。そんな様子を見て、冥利はただためいきをついていた。

もうすでに日は傾き始め、ベタな表現をするようだが、カラスが茜色の空を飛んでいた。

はっきりいって、もうそろそろここを引き上げないとこの崩壊した校舎に人間がわんさか群がってきそうだ。

今でさえも結構な野次馬が集まっているのに、これ以上集まられると俺の『己の支配者(マイマイスター)』でこちらに注意を集まらないようにするのも難しくなってくる。

瓦礫の物影を、何事もないかのように素通りし、そのまま群衆を抜け出す。

 

「ふぅ・・・もうそろそろいいかな空洞」

「あぁ、いいんじゃないか」

俺はためいきと同時に体の緊張感を抜く、結構これ疲れるんだよな。

言うなれば、三時間連続のテストからの解放感、みたいな。あとでちゃんと糖分を摂取しておこう。

 

「・・・・・・なぁ、影照。ちょっといいか?」

「んー?」

さっきから自らの手を開いたり閉じたりしている空洞が俺に話かける。

「黒神めだか・・・あんなに自分を見失っていたのに、一瞬で我に戻りやがった。これは、アイツが異常(アブノーマル)だからで片づけていい話なのか」

「あぁ・・・あのときか・・・・・・」

確かに、憤りが人間の形になって暴れていたような、そんな感じだったな。

あの状態から一瞬で素に返るのは、正直不可能に近いだろう。

 

「・・・人吉だよ。人吉善吉だ」

突然、空洞の肩の上で座って揺られている冥利がつぶやく。

俺より上からの目線で話しかけてくる冥利はなんだか新鮮味がある。負けた感がある。

「黒神めだかが戻った(・・・)んじゃない、人吉に戻された(・・・・)と言ったほうが正しいだろう」

ひとしきり喋った冥利が「ふぅ・・・」と息をつき、空洞の頭にもたれかかった。

「確かにな・・・会長さんと戦うときが来たときは、きっとそのへんがネックになるんだろうな」

うーん、そもそも注目すべきなのは「黒神めだか」の豪華絢爛な能力ではなく、もっと、こう・・・・・・

あー、ダメだ。糖分が足りないなぁ。難しい話は苦手だ、俺バカだし。明日、ハマに相談してみるか。

 

「・・・おい、空洞」

「あ?」

冥利がもたれかかっているからだろうか、空洞は頭を動かさず返答する。

「今日の黒神めだかを見ても、まだ躊躇(ためら)うか?」

「・・・・・・・・・・」

この平和主義者め。まぁ、いいさ。

あれだな、今日わかったことは、生徒会は「黒神めだか」だけのものではないということかな。

いやぁ、強いね。勝てる気がしないや(・・・・・・・・・)

 

 

今日の晩御飯は、簡単なモノにするか。

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