陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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26箱目 異常(おもしろい)

「え・・・わたし?」

「はい、古賀いたみさん。あなたに話があってきました」

 

そう言って、ニコッと微笑んだ。

 

「オイオイオイオイ、百町の旦那よぉ。俺の古賀ちゃんに一体全体何の用なんだよ?」

頭全体に包帯を巻いている、フラスコ計画の統括者。黒い包帯(ブラックホワイト)こと名瀬夭歌さん。

何だか、お怒りのようですね。

 

「おい名瀬よ、偉大なる俺はもうすでにここに降臨しておるのだぞ。この偉大なる俺をおいて話を進めようなぞ、それは俺に対する反逆とみてよいのか?」

「エヘヘ、王土。会話に入れなくて寂しかったのかい?」

「行橋、それは俺への進言と受け取ってよいのか」

「いやいや、出過ぎた真似をしてゴメンネ」

そして、一番厄介な二人。正直、この方たちとはあまり戦いたくはありません。

あの仮面をかぶった人、狭き門(ラビットラビリンス)こと行橋(ゆくはし)未造(みぞう)

そしてあの圧倒的な存在感、君臨(・・)という言葉があれほど似合う人もなかなかいません。

創帝(クリエイト)こと都城(みやこのじょう)王土(おうど)

このお二人だけで、実際フラスコ計画が成り立つというんですから、なんだか自分の存在が薄れますよね。

 

「まぁ、よい。側近(ゆくはし)の進言は王として受け入れなければならんからな。・・・・・・だが、民であるのに貴様らのその態度は受け入れられん。・・・・・・ヒ・レ・フ・セ」

 

 

ーーズンッ!!

 

理事長室にいる彼ら二人を除く全員が王土の前に平伏す。

かろうじて膝を曲げる程度で破魔矢が平伏さないように踏ん張っていた。

「ほぅ、流石と言うべきかな百町破魔矢。裏の六人(プラスシックス)に属するだけある」

「・・・・・・ふっ・・・光栄ですね・・・っ」

しかし、ただお話をしに来ただけなのに、こんなことになるなんて。全く今日は異常(・・)な日ですね。

 

「おいおい王土、別に今回の件は僕たちに関わり合いのあるようなもんじゃないだろう?それに無闇やたらに民に圧政を敷くのはよくないんだからね」

「ふむ、そうであったな。こんなことをしている場合では無かった、早いところめだかボックスやらを見つけなきゃならないとこだったな」

王土が一度だけパンと手を叩くと、体の縛りが消えたかのように全身が軽くなる。

手足の指を軽く動かして、別におかしなところがないか確かめる。

「行くぞ、行橋」

「エヘヘ、今日は何だかご機嫌のようだね」

そのまま二人は何事もなかったかのように部屋を出て行った。

 

「ったく、ホントに都城先輩には勘弁してほしいぜ。んで、ナルシストメガネ、まだ俺の話は終わってないぜ」

統括さんは私が嫌いなんでしょうか?あの呼び名は私としてはホントに勘弁願いたいのですが。

「えぇ、わかっています。少しだけ古賀さんをお借りしたいのですがよいでしょうか?」

「テメェのその笑顔が気にくわねぇんだよ、俺は」

困りましたね、こればかりはどうしようもありません。

「少しだけ聞きたいことがあるだけです。すぐに済みますから」

「本当だな?ちゃんと俺に誓えるか?」

「はい、私は女性には嘘はつきません」

統括さんは私の顔を訝しげに睨みつけ、ドカッと理事長室のフカフカの椅子に座る。

「まぁ、お前のその性格のことだ。信じてやるよ、古賀ちゃんちょっと質問に答えてやりな。俺はここで待っといてやるから」

その様子を見ていた古賀さんは何故か呆れたように溜息をつく。

 

「あのさぁ・・・私についての話でしょ?なんでその二人で話を進めちゃうかなぁ・・・まぁ、いーけど」

あ、そうでしたね。私たちの態度は少し問題アリでしたね・・・

「すいません古賀さん。少しだけ話を聞いてもらってもよろしいでしょうか?」

「わかった、どこか場所を移す?」

「そうですね、では私たちの教室の二年十三組に行きましょう」

 

 

 

相変わらずシンとした教室。授業中の時間だというのに誰一人として、この二年十三組の席には座っていない。

黒板には、何年間消されてないのだろうかと思われる「自習」の文字だけが書かれてある。

そんな教室に、別に誰の席とも決められていないので適当に座る古賀と破魔矢。

「それで、話ってなに?百町くん」

「そう身構えないでください。あなたにとって良い話を持ってきたつもりですから」

こういう空気のときは笑顔がよいものだと思うのだが、何だか私の場合は逆効果のようですね。

 

「簡単に話しますと、些細無影照君プロデュースの対生徒会役員に入ってくれませんか?」

「・・・・・・え?」

その反応は、当たり前ですよね。

「もう少し詳しく説明しましょうー」

そう言って破魔矢は今までの経緯をかいつまんで話す。

「ーとまぁ、テル君が考えた計画なんです。日之影空洞をもう一度生徒会長にする為に立ち上げた組織のことで、といってもまぁ今のところ私と空洞さんしかメンバーはいませんけどね」

「・・・・・・なんで、私がそれに?」

すごく不思議そうな顔をしている古賀。

 

「・・・・・・ふふふ、こんなことを私が言うのは本当に無粋だと思うのですが、もっとテル君といる時間をつくることができますよ?」

たちまち古賀さんの顔が赤くなる。

詳しいことは知りませんが、古賀さんとテル君は小学校から中学三年の一学期くらいまで一緒の学校に通ってたとか。

まあ、さすがにそこまで探るのは下品ですよね。

そのまま顔をうつむけている古賀に破魔矢が話しかける。

「どうでしょう、これは良い話だとは思いませんか?」

 

しばらく古賀さんは考え込んで、そして少し泣きそう(・・・・)な顔を上げた。

「ごっ・・・ごめん百町くん!」

そして、そのまま教室の扉のほうに向かおうとする。

その古賀の手を破魔矢は無意識に掴む。

「・・・・・・ど、どうしてですか?これは私たちにも、あなたにもとっても魅力的な話だと思うんですが?」

「う、うん。そうだけど・・・でもね」

古賀さんは眉尻を下げた笑顔を私に見せて

「私が入ったら、些細無君に悪いしね」と言った。

 

 

「・・・・・・わかりません。ですが、これ以上私が粘ったところで古賀さんの意見は変わらないのでしょう?」

古賀は小さく首を縦に振る。

「では、気が向いたらでいいので私に話しかけてください。相談があるなら言ってください。いつでも歓迎しますから」

「う、うん。ありがとね」

そして私は握った手を離した。

 

 

 

ふぅ・・・、学校の授業というのは本当に眠くなる。

寝過ぎて逆に気持ちが悪くなるほどだ。

こういう時に思う、本当に空洞やハマは良いなぁと。俺だって『己の支配者(マイマイスター)』を使えるのだから十三組に入れてくれたっていいのに。

いつからだろうか、異常に憧れて、いつか異常(おもしろそう)な生活をしたいと望んでたのは。

影照はポッケから三つのサイコロを取り出して、それを転がす。

 

「・・・」

出た目はいつもと変わらず、普通の目。みんなバラバラだ、面白くない。

冥利は多くのサイコロを一度に振って、全部の目で「6」を出す。うーん、こればっかりは努力じゃどうにもならん。

影照は授業中ずっとサイコロを転がすことにした。

いつしか、この作業だけを繰り返して授業を乗り切るようになっていた。

座ってる席は、一番廊下側の後ろから二番目。サボるにはもってこいの席だ。

少し隙間風が寒いが、まぁ耐えられないほどのものでもない。

 

 

そういえば・・・古賀さん。彼女はどうして十三組にいるんだろうか?

俺が知ってる彼女は、誰よりも普通で、どんな人よりも平均的で、「その他」という表現が似合っていた。

突出した成績は何一つなく、全てのテストで平均点を叩きだす、そんな普通すぎる女の子だったはずだ。

・・・・・・やっぱり転校してから、彼女は変わったのだろう。

 

うーん、すごく気になる。

どうしてなのか、彼女に直接聞くのが一番手っ取り早いだろうが・・・

何だか、俺避けられてる気がするんだよなあ。嫌われるようなことを何かしたかなぁ?

しかも、こういうことを人に聞くのも何だか無粋だよなぁ。ハマに怒られちゃうぜ。

 

何度目か、別に数えてはいないが、「2・1・4」の目が出た時授業終了のチャイムが鳴る。

チャイムが鳴ってから先生は「今日の宿題」を配りだした。

・・・英語の宿題か、冥利にやってもらおう。俺は、ほら、ご飯を作らないと。

よし、今日は冥利の好きなグラタンにしようかな。

サイコロをポケットにしまう。

 

「・・・ん」

誰が落としたのだろうか、自分のイスの足元に糸くずが落ちていた。

俺が着ているのは黒い制服。白い糸くずが落ちているということは、俺ではないだろうが。

気になるので拾って、ごみ箱に捨てる。

 

あ・・・・・・

どこでどう結びついたのか、影照の頭には包帯を顔に巻いた女の子が思い浮かぶ。たしか・・・名瀬とか言ったっけ?

彼女はよく古賀さんと一緒にいるな。

自分も古賀さんのように、異常になることができるのなら・・・

あわよくば、古賀さんが何故俺を避けている感じを出しているのか聞けるだろう。別にこれといった根拠はない。

 

まだ、あと授業は一時限残ってるけど・・・・・・ま、いっか。

影照はクラスメートに「トイレに行ってくる」と言い、教室を出た。

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