廊下や登下校中の曲がり角で、男の子と女の子がぶつかって始まるストーリー。
そういうのに憧れていた時期も俺にはありました。
ぶつかった拍子に荷物を落としてしまって、それを拾ってあげる。
そのあとはまた何もなかったかのように二人とも目的地を目指して駆けだす。
しかし、俺はその場に落ちていた財布を見つけてしまって・・・・・・っと
いやいや、今はそんなボーイミーツガールの話をしてる場合ではない。
何故、俺が今そんな話をしているのかと言うと
そんな「奇跡」の出会いが今さっき起きたからです。
しかし、こんな青春ラブコメストーリーと、今、俺の体験したストーリーの異なる点は・・・・・・
俺の体が、とても重症だというところでしょうか。
「わっ、わわわ、些細無くん!?大丈夫!?」
背中がすごく痛いです。今度からカタツムリの殻を壊そうとするようなヤンチャ小学生を、ちゃんと注意しなくちゃと思うほどに。
☆
「うーん、名瀬を探すっつってもなぁ・・・どこにいるか全然知らないし」
授業の始まりのチャイムが鳴る。二年一組のごくありふれた高校生の俺は、どこを目指すでもなくただただ廊下をぶらぶらと歩いていた。
「たぶん、っていうかフラスコ計画の統括者なんだから
そうなるとすごく厄介だな。
手がかりもないとなると、このだだっ広い学園内を手当たり次第に散策しなくちゃいけないし、何より登校義務のない十三組だ、学校に来てないということだって十分にあり得る。
(とりあえず二年十三組まで行くか、ハマもいるだろうし・・・・・・)
なるべく授業のあってる教室の近くの廊下を通らないように、少し遠回りしながら十三組を目指す。
授業中にこうやって無断で歩き回るのって、最初は背徳感とかでドキドキしたが、今じゃもう慣れたものである。『慣れ』って本当に怖いわ。
そして、次の角を右にー
「!?」「わ!!わわわ!?」
ーードォンッ!!
一瞬だった。自分でも何が起きたのかわからない。
軽トラにでも衝突したのかと思うくらいに自分は吹き飛ばされて、背中を強くコンクリの壁にぶつけた。
肺の中にある空気が反動によって全て外に吐き出され、息をしようにも体が言うことを聞いてくれない。
「カッ・・・ハッ・・・」とむなしく、空気の擦れる音が俺の喉から聞こえる。
「わっ、わわわ、些細無くん!?大丈夫!?」
目をあけると、ざっくり開いた胸元が何とも魅力的な古賀さんがいた。
☆
「ごめんね、私がちゃんと前を見てなかったから・・・」
「ゲホッ・・・だ、大丈夫だよ。知ってるでしょ?俺はサッカー部だったんだ、これぐらいのことで簡単に怪我なんかしないよ」
古賀さん、彼女はただ力が強くなったわけじゃないようだ。冥加と比べてみるとわかるが、古賀さんは「力」というより「フィジカル」がどうやら
でも、ほんの二、三年前までは「普通の」古賀さんだったはずだし・・・彼女の異常性って、一体・・・・・・
「い、痛むの?保健室行く?」
古賀が影照の表情を見て、わたわたと騒ぎ出す。
「あ、あぁごめん。もう大丈夫だよ」
影照は立ち上がって何回か腕をまわして見せる。実際、痛む箇所もあるがそこまで気にはならない。
どうやらさっきの俺の考え事をしている表情を、古賀さんはどこかが痛んでいるのかと勘違いしていたようだ。
「ごめんね、ごめんね」
「ははは・・・そんなに謝らなくていいよ。俺も気にしてないし、古賀さんに怪我もないようだし。よかったよかった」
二人の、お互いを気遣った笑い。
(ヤ、ヤバイ、気まずい・・・・・・)
「そ、そういえばさ、名瀬さんがどこにいるか知らないかな?」
慌てて頭の中の引き出しをひっぱり出して、この空気を打開するような話題を振る。そもそも、俺の本来の目的はこれだったのだ。
話題振りと、本来の目的、まさに一石二鳥。よくやった、俺。
「名瀬ちゃん!?・・・どうして?二人は嫌い合ってるって聞いてたけど」
「いや、あのね、古賀さんについて・・・」
あっ、そういえば、古賀さんにこれを言っちゃだめだった。
「えっ・・・私?」
「い、いやいや、別に古賀さんには関係のない話なんだ!」
「そ・・・そう・・・・・・」
何故だろう、古賀さんが心なしか寂しそうな表情をしている。
(そ・・・・・・そうだよね、そういえば前に名瀬ちゃんと些細無くんが一緒に寝てたこともあったし・・・)
「古賀さん?」
「ううん、何でもないよ」
そう言って古賀さんは微笑みかけてくれるが、どこかその笑顔には陰があった。
「じゃ、じゃあ私が案内してあげるよ」
いや、でも、このままついてこられたら、たぶん質問の内容とか聞かれちゃうかもしれないな。
古賀さんのことを古賀さん以外の人に聞く、よもやその場面を目撃なんかされたら、何か俺スゴク気持ち悪い男だよな。内容が内容なだけに、あまり本人には聞かれたく無い。
「こ、古賀さん!」
「え?」
歩きだそうとする古賀さんを呼び止める。彼女は少し驚いた顔をして振り向いた。
「ほ、ほら、結構大切な話だからさ、やっぱり、こう、名瀬さんと二人で会いたいって言うか・・・・・・」
我ながらすごく苦しい言いまわしだ、どんどんドツボにハマっていく感じがする。
「・・・っ」
「だからさ、場所を教えてくれるとありがたい、んだけどね?」
なんとか笑顔で苦し紛れの言い訳を紡ぐ。もう頭の中はしっちゃかめっちゃかで、自分が何を言ってるのかあまり整理できていない。
「あ、あはは、うん!そうだね、そうだよね!」
ぎこちなく笑う古賀さん。その笑いは俺に向けられているものではなくて、何だか自分自身に言い聞かせているような、そんな笑いだった。
「古賀さん?」
「ご、ごめんね些細無くん。やっぱり駄目だな私、
どうしたのだろう?何だか声が震えている。
「私、せっかく変わったと思ってたのに、やっぱり何も変わって無かったんだ。せっかく・・・振り向いて、もらおうと・・・・・・」
「え、ええと、古賀さん?ごめん!何か俺が悪いことをー」
言葉が詰まり始めた古賀さん。はっきり言って、全然何が起きているのかわからない。
ああ、クソッ。嘘をついたからだろうか?原因が全く分からない、そんな鈍感な自分に無性に腹が立つ。
「ううん、些細無くんは何も悪くないよ・・・大丈夫、大丈夫だから・・・・・・」
そう言って古賀さんが無理に微笑む。
痛い、とても胸が痛い。誰かに、こんな顔させる人間にはならないって、どこかで決めてたはずだったのに。
「こ、古賀さん・・・」
こういうときって、なんて声をかければいいんだろうか。古賀さんに伸ばそうとした手を、そのまま下におろす。
「ごめんね、些細無くん。そっか、うん。名瀬ちゃんと些細無くんだったら、安心だね」
「・・・・・・?」
「じゃ、じゃあね!些細無くん!」
俺に目を合わせることなく、そのまま背を向けて廊下を駆けだす古賀さん。
・・・何故だろう、ものすごく大変な食い違いが起こってそうで怖い。
「・・・・・・あ」
結局、名瀬さんの居場所を聞いてないや。
でも、まあ、こんな気分じゃ聞けるわけない。少し、考えよう。
古賀さんの、あの笑顔が頭から離れない。
女性にあんな顔をさせるなんて、ハマにバレたらめちゃくちゃ怒られるよなぁ。
深く、深く溜息を吐く。だからといって心のモヤが晴れることはなかった。
☆
ふぅ、やっと登場出来たね。もう27話目じゃないかい、ちょっとひどいと思うよ。
といっても、まあ・・・僕の出番はまだまだ先のようだしね。この封印さえなければ、この物語をもっとおもしろおかしく引っかきまわしてあげたのに。
・・・・・・ふふふ、ちょっと自惚れがすぎたかな?
おっと申し遅れたね、僕の名前は「
はてさて、実は安心院さんが
ふふふ、そう身構えないでくれ。僕だってか弱くて誰かに甘えたいお年頃の女の子なんだぜ?
そんなふうに露骨に身構えられちゃあ、僕だって傷つくんだよ?なんてね。
空気を読めない登場なのは重々承知したうえでの登場なんだ、聞いてくれ。
びっくりだろ?僕もさっき気づいたんだが、いやーびっくりしたよ。
このスキルは、誰がいつ死ぬのかを確認できるスキルなんだ。これを見てると、歴史の教科書がひっくり返りそうな記録まで残ってるんだぜ?
話を戻そう。
影照くん、簡単に言うと君は二年くらい前に死んでるはずなんだ。死因は「圧死」。
おや?何か心当たりがあるようだね。
そう、君は奄美っていう人に殺されていたはずなんだ。なのに今、君は生きている。
ところで君は、マンガとかで「運命を変える」というセリフを見たことはあるよね?
ちょっと引っかかる言い回しだと思わないかい?運命を変えることがそもそも運命だったんじゃないか、なんて思わないかい?
そう、この
しかし、初めてだよ、本当に「運命」を変えてる人間がいたなんて。あとで携帯番号でも交換したいくらいだぜ。
おや、もうそろそろ時間のようだね。もうちょっと君のことを知りたかったのに、残念。
そういえばこんどそっちに、僕のお気に入りの男の子が転校するらしいんだ。
その時に、もしかしたら君の眠ってる才能が開花しちゃうかも・・・なーんちゃって。
ん、それじゃあね些細無影照くん。また、明日とか。