陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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何だか最近、閲覧数や評価数も増えてきて
この物語がランキングに乗ったりもしました。

なんて言うか、とても嬉しいです。
これもすべてこの物語を読んでくれている皆さんのおかげです。
これからもっと、皆さんの期待に添えられるように微力ながらも頑張って行きたいと思います。

それでは28箱目です。


28箱目 『僕だよ』

「・・・ん」

夢から目が覚める。

時計を見てみると六時ちょうどだ。もう、アラームを鳴らさなくても自然にこの時間に目覚めるようになっていた。

頭が重く、なんだか気だるい。睡眠をとったのに、かえって疲れてるように感じる。

イヤな夢を見た。もう覚えてはいないけど、凄くイヤな夢だった。

 

影照はのそのそとベットから起き上がり、今日の仕度を始める。

あぁ、そういえば昨日、古賀さんと一悶着あったんだっけ?

・・・学校行きたくないなぁ。

 

 

「0544123698547(どうしたの影兄?難しい顔して)」

影照は教室のドアの前で立ち止まる。

「何で俺より一つ下の学年のやつがここまで付いて来てるのかなって」

「241856974530(大丈夫、そんなやつは私が叩き潰してあげる)」

そう言って冥加は鉄球と腕をつなぐ鎖を持ち上げる。

もうヤダ、今日はつっこまないでおこう。

 

影照は扉を横に開く。

「おはよー」

「何で俺より一つ下の学年のやつが、授業開始数分前にこの教室に入ってきてるんだ」

「あぁ、おはよう空洞」

うん?どうしたんだろう?

今日の空洞はご機嫌斜めのようだ。ちゃんとカルシウムはとってるのかな?

「よし、これはお前のためだ。ありがたく思いやがれ」

「だ、ダメだよ空洞!そのグーに握った手を下ろしなさい!」

 

 

・・・・・・・・・・痛い。

「いつも言ってんじゃないか、ちゃんと授業出ろって。三年になったら本当に大変なんだぞ」

空洞はいつものように、やれやれといった表情で椅子に腰を下ろした。

拳骨を喰らった頭が割れそうに痛い。たんこぶができてる箇所を撫でてくれる妹の優しさが身にしみるなぁ。

「01843659326709346418147(影兄、この膨らんでるとこは押しこんだら治るかな?)」

「なんて恐ろしいことを考えてるんだお前は」

 

慌てて冥加の手を払って、自分で自分の頭を撫でることにした。知ってたよ、結局こうなるって。

「いやいや、でもね空洞。今日の授業のほとんどは自習なんだよ」

「ん?そうなのか?」

空洞はバックから勉強道具を取り出す手を止めて、顔だけこっちに向ける。

「なんだ、珍しいこともあるもんだな。そういや、今日は生徒会が総出で不在だとか言ってたなぁ」

ということは、今日はある程度のことをしても大丈夫っつぅわけだ。

風紀委員の俺が言うのもなんだけど、いろいろ違反しやすくなってるんだな。やったね。

「じゃあさじゃあさ、今からモン○ンやろうよ。冥利とかハマとか呼んでさ」

「おまえそれでも本当に風紀委員か?・・・っと、そういや破魔矢は今日は用事があるらしい。なんでも理事長命令なんだと」

嫌そうながらもバックから携帯ゲーム機を取り出して空洞は答える。

んー、理事長命令ともなると例のフラスコ計画のことに違いないだろうが。

「・・・じゃあ、冥利でも呼ぼうかな」

制服の内ポケットから携帯を取りだす。

 

ーーガラッ

「影兄居るかー?」「失礼するでー」

携帯を取り出したと同時に教室のドアが開かれる。そこには、まさに今から呼びだそうとした冥利と・・・

「ゲェ!?鍋島先輩!!」

「先輩に、ましてや女子高生にその態度はあかんのちゃうん?」

おっとついつい本音が。

しかし、まぁなんとも珍しい組み合わせだな。

「先輩、先に言っときますが柔道部は入りませんよ」

「そんなキリッと言わんでもええやん。大丈夫や、もうウチは引退した身やからな。あと、今日はもっとも別の要件で来とんねん」

何だろう、空洞と影照は同時に首を傾げる。

 

「おぉ、姉ちゃんも居るじゃんか。ちょうどいい、ちょっと姉ちゃん借りてもいいか?」

「012895532(何の用事なの?)」

何故かちょっと不機嫌な妹。ギュッと俺の服の裾をつかんでいる。

「んーまぁ、ちょっとした人助けだよ。恩を売っとくと後々使えそうなやつらの手助けをしに行くだけだ」

相変わらず悪役顔負けの笑い顔をしてるなぁ。

 

「あ、あと今日はなんか転校生が何人か来るらしいから、影兄と呼子で問題が起きないように校門で検査とかしといてくれ」

「えぇ・・・俺今から空洞とゲームするつもりなんだけど」

驚くべきことに、これが箱庭学園の元風紀委員長である。

「はぁ・・・行ってこい影照。俺のゲーム機はどうやらバッテリーが無いようだ」

そう言って空洞はゲーム機をバックの中に戻して、代わりに勉強道具を取り出した。

勉強の邪魔だからどこかに行ってくれっていうことだろうな。

「んじゃ、頼んだぜ影兄。たぶんもう呼子は校門前で待ってるだろうからよ」

 

 

 

 

もうそろそろお昼時だ、日もだいぶ照ってきて暖かくなってきた。

風紀委員会使用の上着は結構厚手だから熱気が中にこもって気持ち悪いんだよなぁ。

「ふぅ・・・・・・」

チャック式になってる風紀委員使用の制服のジッパーを胸元まで下ろし、熱気を外に逃がす。

「影照さん、仮にも風紀委員なのですからもう少ししっかりした身だしなみをですねぇ・・・」

「だって熱いじゃん、呼子さんも熱くない?」

「我慢します。そんなはしたない恰好をするよりはマシです」

おうおう、健全な10歳の冥利くんにその豊満な胸で、膝枕ならぬ胸枕をしている人間のセリフとは思えないな。ちくしょう。

 

しかし暇だ。呼子さんとはそんなに親しいわけでもないから、会話が続かない。

転校生がいつ来るのかを聞いてなかった俺が悪いのかな。

「ねー呼子さん、その転校生たちはいつ来るの?」

何度目だろうこの質問を繰り返すのは。

 

「・・・・・・っ」

「・・・呼子さん?」

なんだか様子がおかしい。あえて俺を無視してる・・・という表情ではないな。

呼子のその目線の先を見てみる。

「・・・・・・・・・・っ!?」

目線の先には()があった。明るいこの昼間に、闇が歩いてきていた。空間に人一人分の何もない(・・・・)スペースがあった。

それが、一人の生徒だって気づくのにどれほどの時間を要しただろうか。

 

 

「『やぁこんにちはっ』『僕だよ』」

球磨川(くまがわ)・・・(みそぎ)・・・・・・っ!?」

「『あれ?君と僕はどこかで会ったっけ?』『うーん、思い出せないなぁ』」

何年振りだろうか、急に思いだした。

顔も姿も形も声も匂いも名前も、忘れていたはずの記憶が急に湧き上がってくる。

忘れていた(・・・・・)んじゃない、きっと俺は忘れたかった(・・・・・・)だけなんだ。彼を、球磨川を思い出すと、なんだかどうしようもないもう一人(・・・・)の自分みたいなのが表立ちそうで、怖かったんだ。

「『なーんてね、嘘嘘!』『冗談だよっ!』『君のような姿かたちをしてる人間なら覚えているよ』『些細無影照くん!』」

球磨川はわざとらしく大きく手を広げ、まるで感動の再会かのように振る舞う。

「『でも残念』『僕は、今の君(・・・)には興味はない』『綺麗になってしまった君には・・・ね』」

「・・・どういうことだ」

影照の問いに答えることなくサッと視線を外し、今度は呼子の方に歩いて行く。

 

「『あはは、とてもお綺麗ですね』『散々遊んだあとにポイ捨てしたくなるくらいに綺麗だ』」

まるで握手を求めるように球磨川は呼子に手を差し出す。

それに対して呼子は明らかな拒絶反応を示し、逃げるように後ろに下がった。

「『傷つくなぁ』『僕はこう見えても意外に紳士なんだぜ?』」

怯える呼子に、少し離れた位置から球磨川は笑顔で話かける。

その笑顔には何の感情もこもっていなかった、虚像のような笑顔だった。

 

「・・・その辺でそのつまらない(・・・・・)おふざけを止めてくれませんかね」

呼子と球磨川の間に影照が入る。

あ、別にこう、手を大きく広げながら入って行ったわけじゃないですよ。

「『うっわ、何?正義のヒーロー気取り?』『だっせー、今時少年誌でもこんなベタな展開流行んないぜ』」

・・・・・・不思議だ。自分でも驚いているくらいに冷静で、ただ目の前の球磨川にだけ意識を向けている(・・・・・・・・)ような感覚だ。

 

スゥッと影照の黒眼の中心が白く変色し始める。

 

「『はぁ・・・』『もういーよ、僕は行きたい場所があるんだ』『さっさとそこどいてくんない?』」

「・・・一つ聞きたい」

球磨川の腕をつかみ、影照は小さくつぶやく。

「この学校に何をしに来た?」

「『異常(エリ-ト)さんの質問は答えたくないでーす』『・・・って答えてもいいけど親友の質問だ』『ちゃんと紳士的に答えてあげるよ』」

球磨川は掴まれた腕を振りほどく。

 

「『どうしようか』『親の都合とか、婚約者を迎えに来たとか』『あっ、影照くんに会いに来たでもいいな』」

ヘラヘラと嘘を次々に並べる。これが、球磨川禊。まるで存在自体が嘘みたいな男だ。

「・・・わかった、もういいよ」

そう、たぶんここに来た意味なんて何も無いのだろう。

「『あはは、わかった』『じゃあね影照くん、また明日とか!』」

そう言って球磨川は、校舎に向かって駆けだした。

 

そしてすぐに足元の小石につまづき、転びそうになったのを踏ん張っている。

「おいおい球磨川、ちゃんと足元に注意(・・)しとかないとなぁ!」

「『どうやら今日もいつもどおりに、ついてない日みたいだ』」

 

影照の目の色が戻った。

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