陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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29箱目 決意した

球磨川と再会(・・)したあの日。

黒神めだか率いる生徒会役員はフラスコ計画を視察した結果、計画の凍結を決定。

なお、計画の研究員かつ被検体である『十三組の十三人(サーティーンパーティー)』は必然的に解散となった。

 

もっとも、視察中の事故(・・)により彼らの大半は現在入院中だ。

古賀さんは体を貫かれるなどの重傷を負い、軍艦塔(ゴーストバベル)にて療養中。そして本人の強い希望もあり、同じ部屋で事故(・・)に巻き込まれたハマも療養中である。

 

事故に遭った『十三組の十三人(サーティ-ンパーティー)』と冥利、冥加、鬼瀬ちゃんはとくに目立った外傷(・・・・・・・・・)こそないものの、精神的ダメージが大きかったらしくて病院で療養中らしい。

 

 

「あっ!影照さん」

「こんにちは呼子さん。ごめんね、冥利たちの世話までしてもらって」

薬の臭いがする味気のない病院の廊下で呼子さんを見つけた。

ここは冥利たちが入院してるとある病院。

先ほど病院の先生に聞いてみたところ、冥利と冥加は明日、明後日には退院できるそうだ。

鬼瀬ちゃんはまだ精神状態が不明瞭らしく、睡眠薬を使い別室で療養中らしい。退院できるのはもう少し先のようだ。

 

「いえいえ、雲仙委員長のそばにいられるだけで満足です」

うん、とても良い笑顔だ。球磨川と出会った時のような怯えた様子は見られない。

「委員長はすっかり元気になられて、暇だ暇だと連呼しています。冥加ちゃんは冥加ちゃんでふてぶてしく昼寝をしてますよ」

冥利たちの様子を語る呼子さんは喜々としている。

あの二人を彼女に任せても大丈夫だろう。

 

「お見舞いにスイートポテトを作ってきたんだ、呼子さんたち三人で食べなよ」

そう言って手に持っている、淡い桃色の布がかかったカゴを見せる。

「わかりました、じゃあ委員長の病室に先に行っといて下さい、私はお手ふきを貰ってきますから」

そう言って呼子さんは静かに頭を下げて、パタパタと廊下を走って行った。

 

 

ーガラッ

冥利と冥加の名前の書かれたプレートが張ってある扉を開ける。

「おぉ影兄」

コイツ・・・入院中なんだよな?

ベッドの上に座っている冥利の周りには高そうなジュースや果物、手には最新ゲーム機を持っており、所狭しとお見舞いの品が置いてあった。おそらく『雲仙冥利を愛でる会』の人たちが置いて行ったに違いない。

冥加はおそらくふて寝をしているのだろう。このままじゃ、また別の原因で冥加の精神がやられてしまうのではないだろうか。

呼子さんに冥利達を任せるのがなんだか不安になってきた。

 

「お前らにお見舞いのスイートポテトを持ってきたが、お前にはやらん」

「ぅおい、勘弁してくれよ」

カゴを冥加の寝ているそばのデスクの上に置いた。

「ったく、あの球磨川にやられたっていうのに大したもんだよ」

「ケケケ!鍋島先輩を見てたら寝込んでいるが恥ずかしくなってくるぜ」

そうだった。反則王こと鍋島猫美先輩は、あの球磨川の攻撃を受けた振りをしてそのままやり過ごしてただけなので、精神的ダメージも外傷も受けることなくピンピンとしていた。

あの人にかかればどんなことも切り抜けられる気がするよ。卑怯だけど。

 

「・・・ふん。言っとくけど呼子さんもあの球磨川に遭って、精神的にも少し心が折れかかっていたと思うのに。いち早くお前のところに向かって、ずっとお前のそばにいてくれたんだぜ?」

「・・・・・・」

「もう無茶なんてするなよ、お前の体はお前だけのものじゃないんだから。呼子さんを大切にしてやれ」

「・・・ケケケケケッ!まさかあの影兄にこんなこと言われるなんてなぁ!」

無邪気に笑う冥利。

 

 

ーガラッ

「お手ふきを貰ってきましたよ」

微笑みながら病室に呼子さんが入ってくる。

「んじゃ呼子さん、あとはよろしくね。お菓子は三人で食べてくれればいいから」

「おう、ありがとな影兄」

「そんな、冥加さんが起きるまで待ってくれてもいいではないですか」

呼子さんは俺にお手ふきを渡そうとしたその手を止める。

 

「いやいや、あとは鬼瀬ちゃんのお見舞いに行って、すぐ学園に帰らないと。委員長と副委員長が居ないとなると、俺が行くしかないだろう?球磨川がこの学園に来たとなるとなおさらだ」

「ケッ!影兄じゃ力不足なんじゃねえか?」

もう絶対にコイツのお見舞いなんか来てやるものか。

 

 

 

「ふむ、検査結果は(おおむ)ね良好、この分なら来週にはもう古賀さんひとりで歩けるようになるね。百町君も特に外傷はないし、明日、明後日には完治するだろう」

白衣姿のまぐろがカルテを片手に持ち、ベッドに横になっている古賀と破魔矢に症状の説明をしている。

そのそばには何故かメイド姿の名瀬がいた。

「おいおい百町さんよ、なんでお前がここにいるんだよ。古賀ちゃんを助ける理由があっても、テメェを助ける理由は別にないんだぜ?」

「・・・はい、無理を承知でのお願いです。もうこの際、意地とかプライドとか言ってる場合ではないと気付きましたから」

「・・・・・・ほぅ、まぁ俺には関係のない話だ」

一通り話し終えた名瀬はメイド姿で道具を取りに行くとかで、別室にまぐろと一緒に移動しに行く。

部屋に残ったのは古賀と破魔矢の二人だけだ。

 

「あの・・・破魔矢さん」

古賀が顔だけ破魔矢に向けて話しかける。

「さっき名瀬ちゃんに話してた、あの、ここにきた意味みたいなのって、何なんですか?」

話しかけてきた古賀に顔を向けることなく、仰向けの状態で破魔矢は答える。

「・・・古賀さんは聞いたところによるとあの時は気絶していたから知りませんよね?」

「あのとき?」

「はい、『裏の六人(プラスシックス)』と雲仙姉弟、高千穂、宗像、鍋島さん、鬼瀬さんの全員が一瞬で殺されていた(・・・・・・)、あの瞬間のことです」

「・・・・・・え」

古賀は表情が固まり、何が起きたのかわからないといった顔をしていた。

 

「・・・ど、どういうこと!?」

「言ったとおりのことです。本当に、一瞬でした。たった一人の介入者(・・・)によって我々全員が殺されてしまったんですから」

相変わらずニコニコとした表情でその時の状況を語っている。

しかしその表情には、どこか怯えが見えた。

「もう、思い出したくもありません。嫌う、嫌われるという形でも出会いたくない人間というものに、出会ってしまいました」

古賀はふと破魔矢の手元を見てみる。その手はきつく握られていた。

 

破魔矢は古賀の方に顔を向ける。

「だからこそ、私は今のままじゃいけないんです。テル君と約束しましたから、空洞さんを『英雄(ヒーロー)』にすると。そのために、まぐろさんの『解析(アブノーマル)』に頼ってみようかな・・・と考えた次第なんです」

体は微かに震え、額は湿っている。それでも彼はその笑顔を崩さぬまま言った、今のままではいけないと。

口に出すことで決意した、恐ろしい存在に真っ向から戦いを挑むことを。

 

「・・・・・・何で、何でそんなに強くいられるの?」

古賀にはわからなかった、怖くて恐いものに敢えて立ち向かう意味が。

「だって、テル君は、空洞さんは、私の『親友』ですから。ずっと一人ぼっちだった私の、大切な存在なんですから。あなただってもう知ってるはずですよ、私の言葉の意味が」

 

 

ーコンコン

不意に扉を叩く音が聞こえる。

「失礼しまあーす、黒神まぐろさんはこちらにおられますかー?」

「ーっ!!」

開かれた扉の向こう側に立つ少女。破魔矢は彼女の独特の雰囲気をいち早く察知した。

(あれは・・・あのとき(・・・・)の彼と同じ感覚っ!)

「あれー?居ないんですかー?困ったなあ、まあいっか。手間が省けたと思えばっーー!!」

 

ードスッ!!

少女の胸元に一本の矢が突き刺さる。

「・・・はぁ、はぁ、出会い頭に失礼しました。このまますいませんが動かないでいただきますね、責任者が不在なもので」

とっさに破魔矢は側にあった弓と矢を使って、『初恋(ラヴ)』を発動させる。

(この距離なら、体の自由くらいは奪えるはず)

 

しかし彼の予想とは裏腹に、彼女は自らに突き刺さったその弓矢を握る。

「ふふふ、何ですかこれは?痛くもかゆくもありませんよー?」

そして、その握られた弓矢がグズグズに腐敗し始め、崩れ落ちた。

「・・・・・・・・・・え?なんで!?」

「あれ?これだけですか?じゃあ、次は私のターンですね」

包丁の刃を両手に握って鮮血を流している少女が、その包丁を放り捨て、赤く染まっている両手を向け飛びかかってくる。

破魔矢は咄嗟に古賀を抱えて横に飛ぶ。

 

「・・・くっ!」

出来るだけ古賀に負担をかけないように、膝をクッションのようにしてその場に着地した。

「破魔矢くん、私も戦う!」

「ダメです、あなたに何かあったら怒られるのは私なんですから」

その場にそっと古賀を下ろし、破魔矢は振り返る。

先ほどまで破魔矢たちの居た場所、二つのベッドが腐敗してグチャグチャになっていた。

「ふふふ、逃げないで下さいよお」

「逃げる女の子は追いたくなるけど、向かってくる女の子からは逃げたくなるのが男の性なんですよ。といってもまぁ、私は車体にしか興奮しませんがね」

 

ーガラッ

「お兄様、お姉さま、なにやら派手な音が聞こえますが・・・セクシュアル・ハラスメントの最中ですか?」

黒神めだか、喜界島、阿久根の三人が入ってくる。

「・・・ちゃあ、流石にこの人数差は私じゃきついな。逃げる!!」

彼女は床を腐らせて、階下に逃げた。

 

 

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