陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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3箱目 冷めきった真実

 時の移り変わりとは早いもので、最初のころは、この世界がとても新鮮に見えて、不思議なことがたくさん、目の前に溢れていた。

 しかし、成長するにつれ人間は"不思議"を"常識"に変換していく。

 

 例えば、まだ私たちが幼子だったころ、ストローと紙コップを見れば、そこから無限の可能性を感じ、夢中になって工作活動に励んでいたのではないだろうか?

 

 しかし、成長するにつれ、ストローはただの"吸うための道具"へと変わり、紙コップはただの"飲み物を注ぐ容器"へと変わった。

 

 

 三歳になった影照はもうしっかりと話すことが出来るようになっていた。

 この三年で、影照の周囲の環境は大きく変わっていた。

 

 まず始めに、影照には一人の妹が出来ていた。

 影照が雲仙家にお世話になり始めた頃、今まで全くと言って良いほど子宝に恵まれてなかった彼女"雲仙冥日"に待望の第一子が宿った。

 それが一つ年下の妹

 名前を"雲仙(うんぜん)冥加(みょうが)"という。

 目元や髪の色など、母親の血を色濃く受け継いでいるようにそっくりだ。

「冥加、もう母親そっくりだなー・・・俺にあんまり似てないなー・・・」

「宣託さん、そんなに落ち込まなくても、ほら、性格とかは父親に良く似るとか言うじゃん?」

自分で言ってて何だが、そんな迷信は聞いたことがない

「そっかー・・・影照は優しいなー、そうだと良いなー・・・」

 あれ、この人こんなキャラだったっけ?

 

 あ、ちなみにこれは補足なのだが

 影照は雲仙家の主の二人のことを「お父さん」「お母さん」ではなく、「宣託さん」「冥日さん」と呼んでいる。

 これは、影照が雲仙家に来た当日に決められたことだ。

 顔に似合わず、温厚そうな宣託の表情が、その日だけはとても真剣で力強いものだったのを覚えている。

 

 もし、本当の親が影照を引き取りにくるような事があって、本当の「お父さん」「お母さん」がやって来たとき。

 影照が混乱しないようにと。

 無論、自分達が影照を引き留めて無駄に悲しい思いをしないようにと言う意味も含まれているのだろうが、影照も、もうすでにそのころには自我などが出来上がっていたこともあり、彼らの意志をくみ取り、抵抗なくそう呼ぶように決めたのであった。

「大丈夫よあなた、影照はあなたに良く似ているわ」

「冥日さん、その発言は色々リアクションに困る」

 そう言って嘆息していると。

 

「ママー、オッパイー、お腹すいたーー」

 

 噂の冥加ちゃんだ、我が妹だ。

 もう二歳なんだから、もうそろそろそう言うのはやめて。

 精神年齢的にはもう高校生ほどでもある影照には、こういう光景は妙にこっぱずかしいものがあった。

「こら冥加、もうそろそろ止めなさい」

「やーー」

 そう言って冥加は「うー」とうめきながら、母親の服の中に潜り込む

「もう・・・あ!!」

「どしたの冥日さん?」

「こういうところ、あなたにそっくりね♪」

「ブッ!!!・・・ゲフッゴフッ・・・・子供の前で、きょきょ教育上不適切だぞ冥日!!」

 今日の宣託さんはなんだか見るに堪えない。

「そ、そういえば、今日は何か俺が病院に診察受けに行かなきゃいけない日じゃなかったっけ?」

 慌てて宣託に助け舟をだす影照

「そういえばそうね、冥加も一緒に連れていきたいんだけど」

 冥日は服の下に目をやる。

 未だ離れようとしない娘を見て、少し困ったように微笑む。

 

「何しろ、この調子だから、影照は宣託さんと一緒に先に行っててくれないかしら?」

「ふぅ・・・それじゃあ行こうか影照」

 

 

 

 

 待合室に座り、自分の名前を呼ばれるまで待つ。

 そして今、影照はひどく困惑していた。

 その理由は、自分の両脇に座っている子達だった。

(おいおい、この右側に座ってる『黒神』って子、もしかしてあの黒神グループの黒神か!?)

 黒神グループとは、今や世界を牛耳っていると言っても過言ではない、世界一の大手財閥だ。

 テレビ番組やニュース、新聞などなど、今やその名を聞かない日はないほどである。

 そしてその黒神の名を背負う(・・・)その娘はとても二歳とは、妹と同じ年だとは思わせない風格があった。

 『凛』としているといった表現が、妙にしっくりくる。

(そしてこの左側のやつ、周りが暗く歪んでいるように見えるんだが)

 名札を見ると『くまがわ』と書いてある。

 ていうか一緒に連れてるそのぬいぐるみ、おぞましすぎるだろ。アメリカのホラー映画に何本も出演してそうな、不気味さ漂う兎のぬいぐるみだ。

 もう少し時間をずらしてくれば良かったと今更ながら後悔。

 

「『まったく』『なんのためだなんて』『みんな大人のくせに』『的外れだよねえ』」

 ふと周りが静かになって彼の声だけが聞こえるような、そんな感覚に陥る。

「『人間は無意味に生まれて』『無関係に生きて』『無価値に死ぬに決まってるのにさ』」

 心に徐々にしみていくような言葉に自然と聞きいってしまう。

「『きみ達もそう思うだろう?』『えーと』『めだかちゃん?とささいなくんかな?』」

 

「球磨川くーん、五番検査室に入ってくれるー?」

 あのおぞましいぬいぐるみの片手をつかみながら、そのまま立ち上がる。

「『めだかちゃん、きみもきっといっぱい人を終わらせて(・・・・・)ここに来たんだよね』『いいんだよそれで』『僕やきみはなにをしてもいいんだ』」

 そう言ってくまがわは影照のほうに向く。

「『あはは』『君とはなんだか仲良くなれそうな気がするよ』『だって君はこっち側(・・・・)の人間だよね?』」

 

「『世界には目標なんかなくて』『人生には目的なんてないんだから』『ね?』」

 

 

 ・・・俺は何も言い返すことができなかった。

 

 

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