「『そうだ!』『些細無くんをマイナス十三組に誘おう』」
「あひゃひゃ☆いきなりどーしたんですか、球磨川先輩?すごく面白げな提案を出して」
「あのー、球磨川さん。その些細無さんっていったい誰ですか?」
「『僕とめだかちゃんを足して二で割ったような人かな』『ごめん、適当なこと言った』」
「はぁ、要するにあまりこれといった特徴がない人なんですね。そもそも、球磨川さんと黒神めだかを足したら
「そうだねー、些細無先輩は二年一組のノーマルだからね。
「『だけどね
「でも球磨川さん、ノーマルの人間がわざわざ
「あひゃひゃ、大丈夫だよ。些細無先輩のことを考えるとこっちに来る可能性の方が高い」
「『そうだね』『だって、彼の敵は
☆
箱庭学園校門前、だんだんと蝉の鳴き声も聞こえてくるようになってきた。
そんな温暖な気温の中、校門前に対照的な二人が言い争いをしていた。
厚手の長そで、白色の風紀委員会専用特服を着用し、代理で風紀委員長を務めている些細無影照。
相対するのは、箱庭学園の制服とはまた別の黒色の半そでミニスカートといった制服を着用している女子生徒だ。
「で、ですからっ!俺も風紀委員だし、その格好で学園にはいられるのはちょっと」
「いいじゃねぇか!!あたしの勝手だろうがこんなもん!」
影照の目の前の女子生徒は、どこからか釘バットを取り出して威嚇する。
「あ、危ないから引っ込めて!せっかく綺麗な肌をしてるのに、危ないですって!!」
「き、綺麗とか言ってんじゃねぇよ!!お前、マジで殺すぞ!」
彼女は持っている釘バットをブンブンと振り回し、影照に襲い掛かってくる。
あ、もう、ほら、見えるって!!こんなに短いスカートとか、大きく胸元が空いてる制服着てるとさ!
「うああああ!何なんだよテメェはよ!さっきからしつこく付きまといやがって、あたしの
向かってくる攻撃の一つ一つを冷静にかわす。影照はただ一点、彼女の腕の動きに集中する。
そして「落ち着いてくれませんか?」と、彼女の腕を掴んだ。
「あーチクショウ、マジで調子狂うわ」
彼女の腕から力が抜けていくのがわかる。目を合わせると、本当に人一人殺せそうなくらいの視線で影照を睨んでいた。
「だから、危ないんですって」
もう、どうしよう。俺って意外と人見知りなのかもな。こんな場合の対処法が全然わからん。
「テメェに心配される理由がわかんねぇよ。知り合いでも何でもないくせに、偉そうに心配なんてしてんじゃねぇよ偽善者が」
驚いた。なんでそんな目で人間を見ることができるのだろうか。
蔑むとか、怯えとか、怒りとか、そんな感情が一切籠められていない。諦めに近いような、深く暗い目をしていた。
「はぁ・・・そんな恰好で暴れてたら誰でもハラハラしてしまいますって」
「あ?」
「だって、よく考えてみてよ・・・その、ただでさえはみ出そうな、その、む、胸が、うっかり釘バットのせいで・・・ね?危ないでしょ?」
何これ?新たな羞恥プレイなの?自分の顔が熱くなっていくのが嫌なほど分かってしまう。もう、あの目を直視することすらできない。
「テテ、テメェ!!なんてこと言って!・・・はっ!?さ、触ってんじゃねぇよバカヤロー!!」
「ーーグホゥッ!!」
腕を握っていた手を無理矢理振りほどかれて、体重を乗せた見事なアッパーが腹部にはいった。
やばい、もう死んじゃうかもしんない。
体は必死に酸素を求めるが、みぞおちを殴られたダメージがそれを許してくれない。
「・・・・・ぁぅぁぅ」
「ケッ、一生そこでもがいてやがれ!」
本当、何か自分悪いことをしたんでしょうか?理不尽すぎる・・・。
そうやってうずくまって、熱くなっているアスファルトの地面を引っかいていると
「『おやおや?』『些細無くんに
ーーゾクゥッ!!
体のダメージが、より危険な事象に上塗りされる。
すぐさま声のした方向、背後を振り返ると・・・
「あ・・・あぁ・・・・・・あんたが球磨川さんか」
「『あはは、はじめましてだね飛沫ちゃん』『校門前で不純異性交遊だなんて、頼もしい限りだよ』」
ケラケラと笑う球磨川。・・・まぁ、笑ってるように見えると言った方が正しいかな。
「球磨川さん・・・・・・あんた、死にてぇのか?あ?」
「『もう、冗談だよ』『こんなことにいちいち反応してたら先が思いやられるぜ?』『
「・・・・・・・・・・ケッ」
バツが悪そうにその場を飛沫さんが去ろうとする。
「『あ、待ってよ飛沫ちゃん』『マイナス十三組の教室は僕が案内してあげるからさ』」
うん、なんだかあっちはあっちで盛り上がってるな。
もういいだろ、今日の風紀委員の仕事は終了しましょう。・・・さーて、帰ろ帰ろ。
「『些細無くんもついて来てよ』『今日は、君に用事があるんだ』」
「死亡フラグキター・・・・・・」
☆
「『ようこそ些細無くん』『ここがマイナス十三組だよ』」
おいおい、ここは二年十三組だよ・・・って言うのは野暮だよな。なんか球磨川の本人は気にいってるみたいだしな。
二年十三組、もといマイナス十三組で席を向かい合わせて球磨川と俺が座る。
そして最悪なことに教室には二人だけ、さっきの飛沫さんって人は教室を確認し終わったらさっさとどっかに行っちゃったし。
なんだか顔が終始赤かったけど、まだ怒ってたのだろうか?・・・はぁ、だめだな、どうしても俺はいつも親切心が空回りしてるような気がするよ。
古賀さんとも、なんだか
「『ーーってことでね』『・・・って、おーい?聞いてるのかい、些細無くん?』」
「・・・・・・ん?あ、あぁ、うん。大丈夫だよ、俺の補習は夏休みにたっぷりたまってるからな」
「『そんな話はしてないよ』『まったく、僕を目の前にしてその態度ってのは大物すぎるぜ』」
球磨川は大きな溜息を吐く、このマイナスに呆れられるというのはなんだかすごく傷つくな。
「『じゃあ、人の話を聞かない不良生徒の些細無くんのためにもう一度言うよ』」
まさか球磨川に不良扱いされる日が来るとは。
「『些細無影照くん』『君に僕たちの仲間になってほしいんだ』」
はてさて、いよいよもって意味がわからない。
「モ○ハンのことかい?」
「『違うよ、何言ってんの?』『些細無くんがシリアス嫌いなのはよくわかったからさ』『もう、とっくに気づいてるのだろう?』『僕とめだかちゃんの対立が避けられないことくらい』」
「・・・ん、よくわからないね」
あぁ、全く分からない。球磨川に味方する意味が。
彼についたところで何一つメリットは無い。空洞だって、絶対に会長さんの方につくに決まってるし。
「だいたい、俺の可愛い弟と妹と後輩と友人と・・・あんだけボコボコにしといてよくそんなことが言えるな。今すぐにでもあんたを蹴り飛ばしたい気分なのによぉ」
影照の目が、深く黒く変色していく。
「『ふふふ、良い目だ』『でも別に外傷とかも無かったんだろ?』『しかも先に攻撃されたのは僕の方だ』『僕は悪くない』」
どこからが嘘で、どこからが本気なのだろうか。まぁ、あまり深く考えない方がいいな。
「ふん、よく言うぜ。そんな言い訳で俺が許すと思ってんのかよ?とんだ
あぁ胸クソ悪い。とりあえず、外の空気でも吸ってくるか。
「話はこんだけかい?それじゃあな」
影照は席を立つ。
「『なるほど』『君はそうやって逃げてきたんだね』」
なぜだろう、足が止まる。
「『そうやって君は、自分から目をそむけてきたんだ』『恐いんだろ?』『わかるよ、それでこそ人間だ』『人間は妥協しながら生きる生き物だからね』」
「・・・ふん」
何でもない、球磨川の言うことを真に受けちゃいけない。
「『君の今の敵は誰だい?』」
ードクンッ
「何の話だ」
「『さて何の話だろう』」
相変わらずヘラヘラした野郎だ。
おぞましくて、怖くて、気持ち悪くて、雑然として、下劣で、陰険で、汚い。
まるで、
「俺の・・・敵か・・・・・・」
「『どうするかな些細無くん』『もう逃げるのはやめにしようぜ』『一生一緒に居なきゃいけないんだぜ?』『自分ってもんは』」
俺は、俺のために、空洞の、ハマの、冥利と冥加のために。
「俺の、俺の敵は・・・・・・
球磨川は不敵に微笑んだ。