陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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31箱目 日之影三年生を呼ぼう

「『そうさ』『些細無くんの敵はめだかちゃんだ』『大切な人たちを主人公にしたいのならば』『今の主人公を倒さなくちゃいけないよね?』」

球磨川はヘラヘラしながら俺に手を差し出す。

「『あはは』『よろしくね些細無くん』」

 

 

「ん?なにか勘違いしてないか、球磨川さん?」

「『え?』」

そうさ、誰よりも強くて、気高くて、優しくて、正しい彼女。黒神めだか生徒会長。

彼女こそ主人公にもっともふさわしい人間(・・)であることは間違いない。

「確かに、あんたの言うとおり俺の敵は主人公さ。だからこそ俺は、黒神めだか側につく」

「『・・・・・・』『どういうこと?』」

 

「俺は、球磨川さん。あんたこそがこの物語の主人公(・・・・・・・・)なんじゃないかって思うんだが(・・・・・・・・・・・・・・)?」

「『なんの冗談かな?』」

球磨川は立ち上がり、両手から彼の腕と同じサイズくらいの螺子が現れる。

周りの空気が歪み、螺子曲がっていくような感覚に陥る。

「俺の問題は俺自身で克服して見せるさ」

影照は球磨川の方に右半身を向けるように立ち、いつでも動けるようにかかとを少し上げる。

そして、いつしかその眼の色は黒眼の中心が白くなっていくように変色していた。

 

「『わかってないなぁ』『君の闇は、君が思ってる以上に過負荷(マイナス)なんだぜ?』『似た者同士の感ってやつさ』」

まるで相撲の立ち会いのように、二人はお互いの(ふところ)目がけて飛びかかる。

 

 

「あひゃひゃ☆気になって見に来たら、案の定喧嘩してるじゃないですか先輩方」

「ー!?」「『ー?』」

 

声のした方へ二人同時に振り返る。

「『不知火ちゃん!』」

お菓子をくわえた妖精のような彼女、不知火半袖ちゃんがいつの間にか開いていた窓に腰掛けて、こっちの様子を見学していた。

「『あれあれ?』『今日は学校お休みしたんじゃなかったの?』」

「っていうか、どこから入ってきたんだよ・・・」

この教室は二階のはずなんだがなぁ。

影照の目の色はすっかりいつもどおりに戻っていた。球磨川の方も、いつの間にか両手の螺子が消えている。

 

「些細無先輩、あなたもとんだ道化師(ピエロ)ですね。球磨川先輩をだましちゃダメでしょう?ただでさえピュアなお方なんですから、あひゃひゃ」

「『そうなんだよ不知火ちゃん』『僕、人生初のぬかよろこびを味わったよ』『うわーん』」

球磨川がわざとらしくその場で泣き始める。

 

過負荷(マイナス)の人々を前にして、心が折れるどころか普段道理に接している。それで性質的には普通(ノーマル)と。先輩って、とても面白い人ですね」

「は、ははは。不知火ちゃんの方が面白いと思うんだけどなぁ・・・なんてね」

その神出鬼没ぶり。某青い鬼さんに匹敵するんじゃなかろうか。

 

「先輩、球磨川先輩の言うとおりですよ。あなたは、あなたのことをよく考えた方がいいんじゃないですか?そのまま逃げてたら、つけが回ってきますよ」

「ふん。さっきから不知火ちゃんも球磨川さんも俺のことを買いかぶり過ぎだよ。俺はつまらない(・・・・・)人間だぜ?」

俺は、この空気に耐えられずに教室を出た。

 

 

「球磨川先輩、どうして些細無先輩にそこまで執着するんですか?柄にもなく喧嘩なんかしちゃって☆」

「『彼こそ』『彼女(・・)を倒しうる可能性なんだよ』」

「?」

「『あ』『不知火ちゃん、そのポテチ一袋ちょーだい』」

 

 

ふむ、まさか球磨川がここまで他のマイナスの生徒を掌握し始めているとはな。

しかも球磨川らしいといえばらしいのだが、この箱庭学園に来た理由が十三組(エリート)全員の抹殺とは。

負け続けてきた人生のはずなのに、何故そのようなことをしようとしているのか。まぁ、この目的も嘘だという可能性もある。

全く、存在自体が嘘のような男だよ。

 

「カッ!めだかちゃん、どうすんだよ。この際いっそ風紀委員会と同盟でも結ぶか?」

「・・・・・・俺は絶対に嫌だね。しかも雲仙冥利が負傷で不在なんだから、あいつが退院するまで組織だった協力はしてくんねーと思うぜ」

「・・・グッ」

 

うーん。生徒会役員に加え、お姉さまと古賀二年生で意見を話し合ってはいるが、なかなかこれといった解決案はでないな。

「もう名瀬ちゃん、そんなに善吉君の意見を頭ごなしに否定しなくてもいいじゃん。・・・あ!鍋島先輩は?あの人の柔道なら過負荷(マイナス)にも通用するんじゃないかな?」

「「「・・・・・・」」」

 

どうしたのだ?みんな揃って黙りこくってしまって?

しかし、いくら鍋島先輩でも、一度球磨川を見てしまっているのだ、もう一度対面してしまえば心が折れてしまうのは時間の問題ということになるだろう。今回の件で彼女の人生を左右してしまってはならないのだ。

情けないことに、これはもう私だけの問題ではなくなってしまっている。

過負荷(マイナス)と向かい合っても、決して折れることなく腐ることのない、そう言った人でないと・・・・・・

 

「そうだ、日之影三年生を呼ぼう」

「ああそっか・・・その手があったか。しかしめだかちゃん、よく思い出したな(・・・・・・・・)あの人のこと」

「あの人ならば何があろうと決して腐ることなどないだろうがな」

『空気を腐らせる』という江迎同級生の話を聞いて、その腐らせるというくだりで思い出せた。

 

「・・・めだかさん、その日之影さんて誰ですか?」

「阿久根書記、日之影空洞三年生は先代の生徒会長なのだぞ。おまえも頑張れば思いだせるさ」

 

しかし流石だな。全校生徒が一人もその名を認識出来ないほどにさりげなく、私でさえその存在を記憶できないほどになにげなく。

さながら空気のように当たり前に、誰にも気づかれないまま、箱庭学園の平和を守りぬいた。

日之影空洞、私の尊敬すべき人です。

 

「というか阿久根先輩、その日之影さんはめだかちゃんと雲仙先輩との喧嘩を仲裁してくれただろう?」

「・・・あ!!あのときの!?」

ふむ、どうやら阿久根書記も思いだしたようだな。

それでは行動に移るとするか。

 

「それでは、お姉さま。一緒について来てくれないでしょうか?今から日之影三年生に会いに行きましょう」

お姉さまはとても不機嫌そうな顔をしているな。

まだフラスコ計画の遺恨がなくなったわけでもないし、当然の反応か。私もお姉さまとうやむやに仲直りしようなんて思ってもないのだから、これはこれで良いとしよう。

「あ!?何で俺がテメェと一緒に行動しなきゃいけねーんだよ」

「名瀬ちゃん、こんなところで喧嘩してる場合じゃないでしょ!」

「うぅぅ・・・」

・・・私を睨まれても困ります。

 

「そして善吉、貴様には私たちと別行動で説得してほしい人物がいるのだが」

「あぁ、分かってるよ。日之影先輩に味方に入ってもらうのなら、あの人は絶対に説得しとかないとな」

さすが私の幼馴染だ、私と同じように一つ先を見ていてくれてたか。頼もしいな。

 

「おいおいおいおいおいおいおい!!黒神ぃ!勝手に話を進めてんじゃねぇよ。その『あの人』ってのも誰だよ。あ、待て!やっぱ言うな、何だかスゲー嫌な予感がするんだが・・・」

何をお姉さまはそんなに危惧しておられるのだろうか?

今は顔に包帯を巻いているが、それでもありありと『すごく嫌』そうな表情が見て取れる。

 

 

「お姉さまもよく知ってる人ですよ、元風紀委員長の些細無二年生のことです」

「あぁ・・・最悪だ。この不幸だけは何だか乗り越えられなさそうな気がするぜ」

うーん、何かあったのでしょうか?この間、雲仙二年生とメールをしていて聞いた話だとお姉さまは些細無二年生と一夜を共に過ごすくらい仲の良い人だと聞いてたのですが。

まぁ、お姉さまはシャイな人だからな。恥ずかしがっているのかもしれん。

これは何がなんでも善吉に連れてきてもらいたいところだ!お姉さまの喜ぶ顔が見られるのだから。

 

「え、えぇ!?どどどどーしよ、些細無くん来ちゃうの!?今さらどんな顔して会えばいいのよぉ・・・あわわわ・・・・・・」

うぅむ、お姉さまといい古賀二年生といい、どうしたのだろうか。

これが些細無二年生の影響力か、恐るべしだな。

 

「おい、黒神!あいつ(影照)のところには俺が行く!!」

「落ち着いてください、そんな両手いっぱいに注射器やらメスやらを持っている人には頼めませんよ」

・・・・・・お姉さま、そんなに早く会いたいのだろうか?

 

「な、名瀬ちゃん!ど、どうして些細無くんに会いたいの?」

「んなもん、あいつをぶっ殺したいからに決まってるからだろうが」

(・・・・・・あれ?私が思ってた名瀬ちゃんと些細無くんの雰囲気とはなんか違うような?)

「わかったか古賀ちゃん。俺を止めないでくれ」

 

 

やれやれ、お姉さまが変に暴れてしまったせいで出発の予定時間が10分近く遅れてしまった。

これがうわさに聞くツンデレというやつなのかもしれんな。

 

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