陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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33箱目 布石

「うん・・・・・・うん!びっくりだよ百町くん。きみの異常(アブノーマル)の実態がようやく掴めてきたよ」

「はぁ・・・はぁ・・・そうですか・・・・・・」

黒神真黒は白衣で片手にカルテを持ち、百町破魔矢のデータをとっている。

 

普段は百町破魔矢専用の駐車場兼コレクションルームとして活用している時計台の地下五階で、真黒は『解析(アナリシス)』を使い、破魔矢を解析していた。

いつもは駐車場いっぱいにコレクション(くるま)が敷き詰められているが、今回はそのコレクションを地下十一階(雲仙冥利専用の球技場)に移していたので、二人はだだっ広いコンクートの空間で、何の気兼ねもなく『解析』を行い、『強化』を行っていた。

 

「百町くん、君の異常(スキル)は無限に成長するものだ。人の心に、自らの心にとても深く関わり合う・・・僕にはあまり理解できない世界のもの(スキル)だよ」

百町は真黒の言葉にただ頷く。正直、難しい話はよくわからない。

それでも『強くなっている』という事実を感じ、自分の両手に持っている弓と矢を強く握りしめる。

 

「それでね百町くん、もう少し君を『解析』したいのはやまやまなんだが、君の成長のためを考えるとこの一面コンクリートの場所で修業するのはあまりオススメできない」

真黒は肩をすくめて、カルテを閉じる。

「・・・どういうことでしょうか?」

「君の心の多様性こそが君のスキルなんだよ。もっと多くのことを経験し、感じなさい。僕が言えるのはそれだけだよ」

 

真黒はそう言って駐車場から出て行った。

 

 

フラスコ計画だ、マイナス十三組だ、あるいは凶化合宿だと言ったところで、それはあくまで水面下の出来事。

今日は箱庭学園一学期の終業式である。

 

「阿久根先輩!終業式がもうすぐ始まるってのに・・・喜界島がどこに行ったか知らないですか?」

善吉は小走りで阿久根に近づく。

「あぁ、実は俺も探していたんだ。はぁ・・・どこいったんだろう」

生徒会役員の男二人は頭を抱えて溜息をつく。

 

「どうしたのだ?善吉に阿久根書記。二人して落ち込んでいるが」

「あ!めだかちゃん!!喜界島が居ないんだよ」

善吉がめだかに言い寄る。

 

「ん?・・・そういえばさっき、些細無二年生、鍋島三年生と一緒に居たな」

「えぇ~・・・・・・・・・・」

男二人は益々深い溜息を吐いた。

「今日は私たち三人だけで終業式を行うぞ。喜界島会計は少し遅れるらしい」

「なんか、あの先輩二人が一緒に居るって・・・すごく怖いぜ・・・・・・」

 

 

明日からは夏休みである。

マイナス十三組という脅威が目の前に迫っていた生徒会執行部だったが、今日の彼らの気も少しだけ緩んでいた。

 

「それでは、これより本年度一学期終業式をー」

 

しかし水面下での出来事は、この日唐突に表面化する。

 

開始(ふぁいひ)ふる」

 

ーー!!!!

 

混沌よりも這い寄るマイナス、球磨川禊は唐突に現れた。

球磨川はいきなりめだかの頬を左右に引っ張り、彼女の目の前にあるスタンドマイクを奪った。

「『やっほー』『箱庭学園の皆さん』『はじめまして!』『僕は球磨川禊!』『めだかちゃんの元彼でーっす!!』」

 

体育館に集められた全校生徒がざわつきだす。

それもそうだろう。いきなりわけのわからない気持ち悪い奴が、あの黒神めだか生徒会長の『元彼』だとぬかし始めるのだから。

それ以前に、終業式中に壇上に役員でもない見知らぬ人間が上がってくる時点でおかしな事態である。

 

「『あはっ!』『今信じた馬鹿どれくらいいるー?』」

「・・・・・・球磨川。このような場で何の用だ、壇上に上がってよいのは生徒会役員だけなのだが」

「『生徒会役員』『ねえ』『・・・・・・』」

球磨川は深く暗いまなざしで、めだかの方を眺める。

 

「『ん-』『このような場でめだかちゃんに話しておきたいことがあるだけなんだよ』」

球磨川は懐から束になっている紙を取り出した。

「『これは署名だよ』『めだかちゃんの大好きな』『みんな(・・・)の意見ってやつさ』」

 

 

「『箱庭学園 学校則 第45条 第三項に基づき』『生徒会長黒神めだか』『きみに解任請求(リコール)を宣言する』」

「ー!?」

 

 

 

こいつ、最近偉そうだなぁ。なんだか先輩風をビュンビュン吹かしてるように見える。

俺が善吉くんに先輩風吹かしてるようなもんかな?

 

「黒箱塾時代の塾則に基づく生徒会選挙ねぇ・・・。やっちまったな黒神」

空洞は腕を組んで、椅子に深く腰をかけている。

善吉を除く生徒会役員は、その空洞の前にきちんと横並びで整列していた。

解任請求(リコール)(しの)ぐためとはいえ、結果は同じのようなもんだ。いや、おそらくもっと悲惨な結果が待っていると言ってもいい。お前のせいで箱庭学園はお終いに近いよ」

 

この短期間で、『解任請求(リコール)』まで持っていく手腕。不知火ちゃんが絡んでいたのならば、納得だ。

球磨川と不知火ちゃんの裏をかく(・・・・)。そう簡単なことではなさそうだな。

でも、ここまでは予想通りだ(・・・・・)

 

「・・・で、その生徒会選挙ってどういうルールで行われるのかな?」

近くの席に座っていた古賀さんが手を挙げてまぐろさんに質問をした。

「ざっくり説明すれば、形式自体は五対五の一般的な団体戦だよ。五戦やって三勝した方の勝ち。バトルの形式は生徒会の役職ごとに違うけど、基本的には強度を競う真剣勝負だね」

生徒会室に圧し掛かる、重苦しい空気。

 

「ねぇまぐろさん。一番最初は庶務戦だよね?」

「ん?あぁ、そうだな。どうしてだい些細無くん?」

「いやいや、ちょっと確認しただけだよ」

 

空洞が腕組みを解いて、めだかの腕章を見る。

「選挙の原因となった肝心の『副会長』の空席を早急に埋めなきゃならねーだろ?」

 

そう、この『副会長』の不在のせいで生徒会執行部は『解任請求(リコール)』をされてしまった。

しかも、副会長が居ないということは『生徒会戦挙』でひとつ『敗北』しているということになってしまう。

「・・・・・・しょーがねーな、俺が副会長になってやるよ!」

不気味な声のした方を振り向くと、顔に包帯をぐるぐるに巻いてるシャイな女の子がいた。

まだ頼んでもないのに・・・。本当は良い子なんじゃなかろうか?

「ふむ。それはまたおいおい考えるとしましてー」

あ、やんわりと断られた。

 

「・・・・・・プッ」

「・・・おい!!テメェか、笑いやがったのは!!ダメだ、今度こそお前をぶち殺す!」

「止めてよ名瀬ちゃあぁん!!」

暴れようとした名瀬さんを抑え込む古賀さん。

ヤベェ・・・うっかり笑ってしまったよ。まさか歯を削る用のドリルを取り出すとは思わなかった。

あんなので殺されたら・・・・・・体の震えが止まらなくなってきた。夏なのに。

 

 

「・・・日之影前会長。例の凶化合宿、準備を急いで貰えますか?」

「うーん。凶化合宿はどんな急造のハイペースでやったとしても、過程終了まで二週間はかかる。つまり、どうしたって最初の庶務戦には間に合わない」

空洞は携帯のカレンダーをみてそうつぶやく。

 

「あ、あの・・・ちょっといいですか?」

「ん?」

急に喜界島さんが手を挙げて空洞の前へ一歩出る。

 

 

ーーキュイィィイイン!!

「ちょっ・・・こっちも、こっちもちょっといいですかー!?空洞さーーん!?」

「逃げんじゃねーぞぉ!!」

「な、名瀬ちゃあぁん!?」

「ちょっと黙ってろテメェら!!」

いやいや、ピンチだよピンチ!物語が始まる前に俺死んじゃうよ!?

 

「・・・・・・」

「あ、すまない。続けてくれ」

喜界島は話の腰を折られてしまい少し話しづらそうにしていたが、そのまま話を続ける。

「あのね、最初は庶務戦じゃなくて・・・会計戦なんだ」

「・・・・・・どういうことだ?」

空洞は怪訝そうな目で喜界島を睨む。

 

「はぁ・・・はぁ・・・言った通りの意味だよ、空洞」

やばい、疲れた。名瀬さんは今、どうやら古賀さんにつかまって説教中のようだ。

「あなたが何かしたのですか、些細無二年生」

「ふふん、そう睨まないでよめだか会長。あと、何かしたのは俺だけじゃないよ」

「・・・鍋島三年生か」

めだかの問いかけに笑顔で応える。

 

「しかし廊下には、正式に選挙管理委員会から予定表が貼り出されてありましたよ。しっかりと 七月二十五日に庶務戦を執り行うと」

さて、今答えてしまっていいのかな?

当日になって、サプライズってのを見たかったし・・・情報漏れを一番気をつけないといけないしな。

 

まっ、いっか。

 

「俺と鍋島先輩で署名を集めてたんだよ。こうなることを見越して(・・・・・・・・・・・)

「え?」

俺だっていっつも生徒会を乗っ取る準備をしていたんだ。これくらいの予想はつくぜ。

・・・なーんて、言えるわけないけど。

 

「鍋島先輩のファンと、俺が風紀委員長だったころに貸し(・・)のあるような生徒たちの署名を集めて、ほんのちょっとだけ順番を変えてもらったんだ。ちなみに廊下のはダミーだ、鍋島先輩にとりかえってもらったんだ」

空洞が溜息を吐く。

「バレたらどうするんだ?」

「ふふん。バレなきゃ反則じゃないんだぜ(・・・・・・・・・・・・・・)?・・・っつってもまぁ、大丈夫だ。選挙管理委員会の会長さんや副会長さんはアレ(・・)なんでどうしようもないけど、その下のやつらの協力は得てるんだ、ばれてもただの役員のミスっつうだけさ」

 

 

「しかし、庶務戦と会計戦が入れ替わっただけで・・・あまり現状は変わってないと思いますが?」

めだかは少し威圧的に影照に言い寄る。

おそらく、少し彼女の正義心(・・・)に俺の行動が反したんだろうな。ったく、過負荷(マイナス)相手に正義もへったくれもあったもんじゃないが。

 

「よく聞いてくれ。初戦で過負荷(マイナス)の出鼻を挫く。そのための、勝利への布石(・・・・・・)だーー」

 

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