金網の上に伏し、頭や心臓や腹部から血液を流し倒れている影照。
血液は金網の底に流れ、ハブはその血臭に反応して興奮していた。
影照の体は、ピクリとも動かない。
「球磨川・・・貴様、また私の前で同じことを繰り返すのか」
「『あはは』『乱心モードのめだかちゃん』『久しぶりだね!』」
球磨川は手や顔についた返り血をハンカチで
「『めだかちゃんも見てただろう?』『どう見たって僕の方がやられていた』『僕は被害者だ』」
あまりにも平然に、そう訴えかける球磨川。
その顔には悪気も後悔の念も微塵にも感じられない。むしろ、ちょっとした恍惚感に包まれているような表情をしていた。
「A~C班は救命措置の手配を急げ!あとの残りの班は、私と一緒に黒神さまが暴れださないようにその場を取り囲むんだ!!」
近づけば、その身が切り裂けそうなほどの怒気を発するめだかを多数の選挙管理委員の役員が取り囲む。
「どけ、貴様ら」
「絶対に包囲を崩すな、少しでも緩んだ瞬間に全員死んでしまうかもしれないと思え」
長者原融通と黒神めだかが面と向かって対峙する。
当の球磨川はそんな外の様子を気にせずに、影照に近づく。
「『気づいてるのかな?』『些細無くんの
「・・・・・・そうだな。世界はつまらなくて、未来は退屈で、現実はアンニュイだ。だけどな、生きるということはやっぱり劇的だったんだよ」
「『え?』」
つい先ほどまで、本当に死んでいた影照の体がゆっくりと起き上がる。
「『あれ?』『なんで?』『まだ「
立ちあがった影照。
頭から足元まで赤色に染まり、立っていられる方がおかしいその姿でいた。
「『うーわ』『なんのホラー映画だよ』『怖すぎるだろ』」
ヘラヘラと興味深そうに影照を眺める球磨川。
「・・・球磨川さん、あんたが言っただろう?俺とあんたの戦いはまだ始まったばっかりだって」
「些細無くん!もう、もういいから。お願いだから、もう立ち上がらないで!!」
影照は血が目に入らないように瞼を閉じていたが、その声の主が古賀さんだということは分かった。
まぁ、そりゃそうか。
頭の大半は抉られ、喉は貫かれ、心臓と腹部に穴をあけられている人間が立っているんだ。
もう人間である定義を超えて、苦しんでるように見えるのだろう。
「『
俺は、そんな古賀さんの願いをわざと聞き流した。
影照は唯一開く右目を開く。
「『些細無くん』『それは』『彼女の目・・・ではないようだね』『一体』『どうしたんだい?』」
・・・ギリギリ右目は開けられるようだけど、やっぱり血がにじんで視界がかすむ。
まぁ、そんなことは言ってられないわな。俺の
影照の目の色が変わる。
黒眼と白眼の色が入れ替わったように変色している。
「俺は俺の
球磨川が影照を睨む。その表情はいつものような楽観的なものではなく、とても険悪なものだ。
「『なにそれ』『俺をがっかりさせるなよ』『そんな新しい力に目覚めるとか』『プラスじゃんかよ』『そんな君は望んでないぜ?』」
驚いた、球磨川にも『憤り』とか『がっかり』とかいう感情があったんだな。
球磨川に感情が少しでもあると分かった以上、俺の策はおそらく通じる。
ここで、球磨川の『心』をへし折る。
「見てくれ、球磨川さん。これが俺の
影照は左手を前に出す。その光景を、球磨川は不可解そうに睨む。
刹那、影照の差し出した左手の前で爆発音が鳴る。いきなりの出来事に驚いた球磨川は腕で顔を覆い、一瞬だけ影照を視界から外す。
そして再び球磨川の目に映ったのは
よくバラエティー番組などでみるくらいの大きさをしたルーレット台だった。
「運命を面白半分に
「『僕と同じくらい』『取り返しのつかない
球磨川は両手に螺子を持ち、ルーレット台を破壊しようと距離を一気に詰める。少し遅れて影照はルーレットを回し始めた。
「『えいっ!』」
球磨川は回転速度が少し落ちてきたルーレットに、螺子を突き刺そうとした。
ーザクッ!!
球磨川の螺子が、影照の両手を貫く。
影照が必死にその身を動かして、ルーレットを破壊されないように身を挺した。
「ウッ・・・グアァッ!!」
頭を半分抉られている影照の顔が苦悶の表情を浮かべる。
「『あはは』『ま』『いっか』『些細無くんを殺しても』『結果は一緒だよね』」
球磨川はさらにその手にもう一本の螺子を出現させ、影照のその顔に先端を向ける。
「『いくら「
螺子が空を切り、影照の右目に向かう。
その先端は、影照の右目を貫き、ほお骨を砕き、脳を抉った。
ーーカチッ
そして、運命の歯車が噛みあった。
「『ぅぐっ!!』」
球磨川は急に、その顔面に重い衝撃を受け吹き飛ぶ。その体を金網にぶつける。金網が下がる。
うつ伏せの状態で倒れる球磨川、底で
しかし、そのハブまでの距離が思ったより
ハブの巣窟まで、適当に測っても9~10mくらいある。
「『っ!?』」
球磨川は、重い衝撃を受けた方向を慌てて振り向く。
そこには傷一つ負っていない影照が立っていて、さっきまで地面の断面だけが広がっていた景色が一変し、箱庭学園の運動場が広がっている。
「『些細無くん』『これは?』」
額に汗を浮かべ、鼻から血を流す球磨川は目の前の不可解な現象を、影照に問う。
「球磨川さん、
影照は親指でルーレット台を指し示す。
『さっきの勝負は無し!もう一回最初からやろうぜっ』
ルーレット台には、ふざけたポップ体表記でそう
「はっきりいって、俺の
影照は周りを見渡す。
そこには酷く困惑した表情の融通くんや会長さん、名瀬さん、古賀さん・・・そして
「たぶん、会計戦スタート時まで時間が戻ったんだろうね」
「『はぁ・・・』『何を言ってるのか』『僕にはさっぱりだ』」
球磨川はため息交じりに立ち上がる。
その瞬間にはもう、顔の負傷はどこにも見当たらない。
「・・・?」
「え・・・これは一体?」
冥利と冥加は不思議そうに自分の体やあたりを見渡した。
「お、おいテメェら、大丈夫なのか!?」
名瀬が二人に急いで駆けよる。
そんな名瀬を見て、冥利と冥加の混乱はますます深まる。
「んだよ、気持ち悪いな。俺と姉ちゃんの顔をなんて目で見てやがんだ」
この世の怪奇を見るような目で、名瀬は冥利と冥加をみる。
おそらくそれが冥利の気に障ったのだろう。少し喧嘩腰の口調になる。
「い、いや。何でもない・・・悪かったな」
「な・・・何だよ、本当に気持ち悪いぞお前」
・・・賭けには勝った。
あとは、融通くんをどう説き伏せるかというところだが。
「些細無様、球磨川様、ご無事で何よりです。それではこれにて些細無様の勝利で会計戦を終了し・・・」
「ちょっと待って融通くん!」
急な申し出に融通くんは首をかしげる。
「どうかしましたか、些細無様?」
「よく記録票とか見てみてよ、たぶん時がさかのぼってるから勝敗はついていないと思うんだ」
「はぁ・・・分かりました。しかし、勝敗が記録についていなかった場合、もう一度勝負を行わさせていただきますが、かまいませんか?」
超がつくほど生真面目な長者原融通くんのことだ、こうなるのは分かってる。
それを考慮すれば、こう誘導するのはとても簡単だ。
融通くんが席をはずす。
「『えー』『もう疲れたよ』『いいじゃん』『僕の負けで』『些細無くんは馬鹿なのー?』」
明らかに戦意を失っている球磨川。
球磨川禊。誰よりも
・・・・・・ふふん。こんなに
何の冗談だよ。
おそらく球磨川の『勝利』には、なにか特別な意味があるんだろう。とても、とても大切な理由が。
だからこそ、球磨川は『勝てなかった』のではなく『勝たなかった』のでは?
そうだとしたら、その大切な『初勝利』を、彼はどのように達成するのだろうか・・・・・・
「いいや、そんな君の
「『?』」
あれだけのことをされたんだ、俺に非は無いぜ。
これから眼鏡は寮生活に移ってしばらくPCが使えない期間が出てきてしまいますので、しばらく更新が開く期間が出てくるかと思いますが
気長に待っていただければ幸いです。
ストーリーの方は、少し予定より間延びしてしまっていて・・・何だか申し訳ありません。
次回には決着をつけて、
これからもよろしくお願いします。