陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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39箱目 『また勝てなかったよ』

「おい、長者原二年生。もうこの会計戦は些細無二年生の勝利で良いではないか!?」

融通は手元の数枚の資料を閲覧しながら、めだかに返答する。

「はい、私もそう思いますが、些細無様がああ(おっしゃ)った以上はこちらとしましても取り決めに公平でないといけませんので」

そう言いながら、手元の資料を整えた。

 

 

「『・・・・・・』『些細無くん』『今度は何をたくらんでいるのかな?』」

球磨川はその場に寝転がって、あくびをしている。

これほどまでに台詞と態度が一致しないことも珍しいだろう。

「いやいや、球磨川さん。俺はこの戦いで分かったことがあるんだ、過負荷(マイナス)の気持ちってやつをね」

「『へー』『すごいなー』『それで将来お金を稼げるねー』」

あーあ、ついに鼻の穴に指を入れ始めちゃったよ。

俺達、ついさっきまで生死をかけた勝負をしてたよね?

 

「大変長らくお待たせしました些細無様、球磨川様。記録の確認を行いました結果、勝敗の記録が一切残されていませんでしたので、大変申し訳ございませんがもう一度勝負を行っていただきます」

まぁ、そうなるわな。

確かに時が戻ってるから、身体的疲労は一切残されてないけど・・・精神的疲労が溜まってる。

 

 

「あ、融通くん。じゃあ俺の負けで良いよ」

「『え?』」

 

 

「もう怖いんだ、球磨川さんが。なんてったって俺さっき死にかけたしね。閻魔大王さまにご挨拶までして、死んだはずの両親に会って来ちゃったんだぜ?しばらく安眠できないよ」

影照はまるで悲劇の役者のように語り始める。

 

「それに球磨川さんは、今までの人生で一度も勝利を味わったことがないとか?俺はそんな球磨川さんの話を聞いて胸を撃たれてしまいました。きっと彼がこうなってしまったのも、挫折しか知らない人生を歩んできたからでしょう」

影照は球磨川を見下ろす。

「『・・・・・・』」

「球磨川さん、良かったですね。これがあなたの普通の(つまらない)『初勝利』ですよ。過負荷(マイナス)の人間にとって、これは大変意義のある『勝利』になるんじゃないですか?」

 

 

「おいおい、些細無のヤツ雰囲気変わり過ぎだろ」

名瀬は二人の様子を見ながら、そうつぶやく。

そして内心は、とてもヒヤヒヤしていた。

 

ここでまた球磨川が『大嘘憑き(オールフィクション)』をつかってまた誰かの存在が消したり、それよりもっと恐ろしいことが起きてしまったら、どうするつもりなのだろうかと。

確かに影照の『身勝手な悪戯(フェイトトリック)』は『大嘘憑き(オールフィクション)』を上塗りしてしまうほどの、恐ろしい過負荷(マイナス)だが

何しろ影照の過負荷(スキル)は、運試し要素が多分に含まれてるものだ。そうそう好き勝手に思い通りに運命を変えられないだろう。

 

「どうしたの、名瀬ちゃん?」

古賀が名瀬の神妙な表情に疑問を感じ、問いかける。

「・・・ん、古賀ちゃんは何も感じないのか?些細無のヤツの雰囲気に」

「あ、そっか。名瀬ちゃんはしらないよね。あの些細無くんの雰囲気って、中学時代はよく見かけたものなんだよ?むしろ最近の優しい影照くんの方が、私にはちょっと違和感だったんだ」

 

 

「『いいのかい?』『些細無くん』『ここで僕を勝たせるということは』『生徒会側がグンと不利になるということだよ?』」

「うん。どうせ球磨川さん達が生徒会に勝ってこの学園を支配したとしても、すぐリコールできるし」

確かに、黒神会長さんを相手にするより、球磨川を相手にした方が勝ちやすいだろうしね。

まぁ・・・口には出さないけど。

「それより球磨川さんが勝利して、その過負荷(マイナス)な人生を色のない普通(ノーマル)な人生に矯正することの方が、よっぽど意義がある」

 

相変わらず何を考えてるのかわからない表情の球磨川。

あの深くて暗くて目に睨まれただけで心が折れそうだ。まぁ、でもそれを表に出してしまったら全部おじゃんだ、気をつけないと。

「それでは球磨川様、些細無様。会計戦を終了してもいいですか?」

融通くんが取り仕切る。

 

「『あぁ』『ちょっと待ってね』『融通くん』」

なんだろう?

球磨川がとぼとぼと金網の中心まで歩いて行く。

「『この程度で僕に負けた気になるなんて』『君もずいぶん過負荷(あまく)なったんじゃない?』『でもそんな些細無くんも』『嫌いじゃあないぜ?』」

 

「『大嘘憑き(オールフィクション)』」

 

急に床の金網や、その下にいた数多ものハブが消え、そこにはただの運動場が広がっていた。

「球磨川様、これは一体どういうことでしょうか?」

「『僕だってこんなことしたくなかったんだけどなぁ』『・・・あはは』『この会計戦自体を』『なかったことにした』」

・・・・・・まじかよ。大胆すぎる発想だろ。

 

 

「球磨川様、些細無様。はっきり言いまして、先ほどからあなた方の行動にはいささか問題がございます。あまり好き勝手にやられると、選挙管理委員会(こちら)側は対応しきれません」

待ってよ、俺はあんまり関係なくない?。とばっちりも良いとこだろ・・・。

「とはいいましても、球磨川様が記録票やこの会計戦にまつわる資料もろもろを消してしまわれたので、どうすることもできません。」

融通くんが大きく溜息を吐く。

「仕方ありませんね、些細無様と球磨川様の勝負は引き分けいう結果でこの会計戦を終了したいと思います」

 

「『あはは』『やっぱり』『また勝てなかったよ』」

 

 

 

「ねーねーところでお前ら、夏を過ごすなら海派?山派?あたしは断然血の海派!」

「聞かれるまでもありませんね志布志さん。私は向かいから夏とバイクは山派と決めています」

「私も山派かなぁ、志布志ちゃん。ほら、私が泳いだら海が腐海にになっちゃうもん☆」

 

「んー?なんだよ二人とも山派だったのかよ、先に言えよなそういうことは!あたしの勝手で血の海を作っちゃってごめんなー。ちょっと待っててね、すぐに死体の山を気づくから!」

 

時計台の地下五階。日之影空洞、黒神真黒、阿久根高貴の三人が凶化合宿の場所と選んだこのフロアで、三人は体中から血を流していた。

阿久根高貴と黒神真黒を守るように、立ちふさがる空洞。

そしてその空洞に対面するように過負荷(マイナス)の三人が楽しそうにおしゃべりしながら立っていた。

 

「・・・俺に構わず戦ってください日之影先輩!」

「・・・・・・・・・・」

空洞は阿久根に顔を向けることなく、全神経を目の前に向けている。

 

「認識が甘いよ阿久根くん。過負荷(かれら)の狙いはきみなんだから。会計戦の隙をついて、合宿中のきみを潰そうってのがあの子達の発想なんだよ。しかし、ここまでなりふり構わない手を使ってくるとは・・・」

真黒はそう言って額をしかめる。

そして、真黒はふと部屋の奥を見た。

 

「うーん、あのチビッ子の話だと、人吉ってやつもここに居そうだってことだったんだけど・・・まぁいーや」

「・・・んだよ、影照のヤツの作戦バレてんじゃんかよ」

空洞は、戻ったら相棒の顔を一回殴ろうと決意した。

 

阿久根が急に身を乗り出す。

「・・・ここまでの狼藉!生徒会や選挙管理委員会はもとより、職員や理事会も黙って無いぞ!学園中を敵に回すことになるんだぞきみ達は!!」

明らかにキレている阿久根だが、そんな彼に対して過負荷(マイナス)達はこの場にそぐわないような、少し驚いた表情をしていた。

 

「学園中を敵に、ねぇ・・・・・・だいたいいつもそうだけど」

志布志飛沫のその言葉に、二人の過負荷(マイナス)蝶ヶ崎(ちょうがさき)蛾々丸(ががまる)江迎(えむかえ)怒江(むかえ)は当然のごとく頷く。

「お前らさあ、親からのまされるガソリンの味しってるか?変態教師の靴の味ならどうだ?同級生から食わされる砂の味は?飢えを凌ぐために自ら食べた新聞紙の味くらいは知ってるかな?知るわけねーよな。だってお前ら幸せそうだもん」

過負荷(マイナス)過負荷(マイナス)たらしめる言葉だった。

 

しかし、だからと言って同情を投げかけることがないのが日之影空洞の英雄たる所以(ゆえん)である。

「あたしたちはひどい目にあってきた。だから酷いことをしてもいいんだ」

「いいわけあるか!テメェらはただの悪党だ!!」

空洞は思い切り拳を握りしめ、飛沫目がけて飛びかかる。

 

「悪?そんなぬるいものと一緒にするな。あたしたちは『負』マイナスだ」

飛沫が、迫ってくる空洞に向かって手のひらを突き出す。

致死武器(スカーデッド)・・・・・・っ!?」

 

飛沫の目が大きく開かれ、急に彼女の体が硬直する。

(・・・なんだ?イケる!?)

空洞はいまだに飛沫のスキルが分かっていなかったので幾分か防御に意識を置いていたが

彼女に明らかな隙が出来たのを見て、全ての意識を拳に乗せる。

「オラァッ!!」

空洞の拳が空気を荒々しく切り裂く。

 

「っ!?・・・不慮の事故(エンカウンター)!」

蛾々丸が身を乗り出し、飛沫の前に立つ。

空洞の拳が蛾々丸の体に触れる手前ではじかれる。

「くっ・・・」

空洞は深追いすることなく、そのまま一歩引く。不思議なことに蛾々丸の足元のコンクリートが大きく凹んでんいる。

 

「どうしたんですか、志布志さん。いつもらしくない・・・」

蛾々丸が飛沫の方を振り向くと、彼女の胸元に弓矢が突き刺さっているのが見えた。

「クッ・・・なんでだ、体が動かねえっ」

飛沫の顔がどんどん険しくなっていく。

 

ードスドスッ!

飛沫に刺さっていた弓矢と同じ種類の矢が蛾々丸と怒江に突き刺さる。

 

 

「退くぞ!空洞君!!」

真黒が阿久根に睡眠薬を嗅がせて、そう叫ぶ。そしてそのまま、眠った阿久根を空洞に押しつける。

「話は後だ、今は退く方が賢明だ!」

真黒はそう言って我先にと駆けだす。その口の端が微かに上がっていたことに、誰も気づいてはいなかった。

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