陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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今まで結構シリアスな場面とか戦闘シーンが多かったので
今回はのほほんとした日常系を書いてみました。

ていうか眼鏡の計算では、書記戦が始まるのはもう少し先になりそうなんですよね^^;

そんなわけで
44箱目の始まりです。


44箱目 ドッピオ

会計戦が終わって、しばしの休息。

明日には早速書記戦に向けての作戦会議があるらしいが、影照は正直いってもうだるくて夏休みを謳歌したいと思っている。

具体的にはゴロゴログダグダしたい。

影照は風紀委員長から解任されてからやっと暇ができると思っていたのに、生徒会戦挙のせいでそんな淡い希望はなし崩しに消えてしまった。

そんなわけで、影照はしばしの休息を楽しもうと最近巷で噂の喫茶店に行ってみることにした。

 

「・・・・・・なんだよドッピオって、なにそれ知らない単語だよ。まじで何語だよ」

カウンターで店員と一悶着したところで、待合の番号をもらい空いてる席に行く。

先ほど書店で買ってきたマンガ本をゆっくり読もうと、「ドッピオ」への怒りを少しなだめさせる。

そこでふと、見覚えのある人が目に入った。

『くっそ・・・待ち合わせはここだって球磨川さんが言ってたはずなのになぁ。アタシが間違えたのか?』

少し離れた店内の奥隅で、人と待ち合わせしていると思われる女子生徒がいた。

破れかぶれのスカートや制服から覗くことのできる柔肌が実に目に毒だ。

「・・・私服持ってないのかな?」

 

でもとりあえず関わると厄介なことになりそうなので、影照はコソコソと反対側の店内奥隅に席を取ってエスプレッソの到着を待つことにした。

店内に香る独特の芳ばしい匂いが、集中力を高めてくれる気がする。

柔らかく光る電球が、影照の取り出したマンガ本のページを綺麗に照らす。

「エスプレッソをお持ちしましたー。ご注文は以上ですかー?」

変に語尾を伸ばす店員に軽く会釈を返し、また視線を本に戻す

 

ことは出来なかった。

 

「おい、テメェは確か・・・・・・」

不意に声をかけられた影照は、読みかけのマンガ本を静かに閉じ、流し目でゆっくりと声のかけられた方へとと振り向く。

(ヤバイヤバイヤバイヤバイ、何でバレた何でバレた何で──)

しかし、実はすごく焦ってたりする。

 

「どうして、分かったのでしょうか?」

出来るだけ穏便に争わないように関わりあわないように早く済ませようと影照が問いかける。

「ん」

彼女は顎だけをしゃくりあげて、そっちの方向を見ろとばかりにある方向を指し示す。

そしてその方向というのが・・・

「・・・え、俺?」

「世間的には夏休みという立派な長期休暇中だ。そんな中でテメェとアタシだけが制服で入ってきたら、変に注目浴びんだろうが」

最近巷で噂のおしゃれな喫茶店。確かに周りを見渡すとファッション雑誌に載ってそうな少し独特なおしゃれ服を着込んだ若者が多くいた。

こんな中でさえない高校生が制服で、一人で入ってきていたらすごく浮いてしまう。

「些細無影照、何でテメェがここで何気なくコーヒーなんか飲んでるんだ?」

「えっと、あの、どうして?」

「ウチの球磨川さんと戦ったんだろ?そんなヤツが何で平気でピンピンと休暇を楽しんでるのかって話だよ」

「はぁ・・・・・・」

妙に温度差のある二人にますます周囲の関心が集まる。

目の前の女子生徒、志布志飛沫の目には影照しか映っていない。対する影照はというと、志布志の話より周囲の目が気になるようだ。

 

「あの、お話し中ゴメンけど少しいいかな?」

「あ?」

影照は極力声を潜めて話しかける。

少し顔が近づいたことに、志布志は苦虫をかみつぶしたような嫌そうな顔をする。そのことで影照の心が少し傷ついたのは言うまでもない。

「少しは周りの目を気にしてくれないかな?ただでさえ浮いてるんだからさ」

「じゃあアタシがその周りのヤツとテメェをまとめて殺してやるよ」

「違う違う!俺が言ってるのはそういうことじゃなくて、その服装のことだよ!?」

過負荷を発動させるような素振りを見せる志布志の手を慌てて影照が握った。

「服・・・?」

そして急に何かを思い出したように、志布志の顔が一瞬で真っ赤になる。

加えて影照が手を握っているので、益々様子がおかしくなっていた。

「ぁ・・・ぁうぁ・・・くそぉ!寄るな!触るな!握るなテメェ!」

影照の手を振り払って、ブンブンとどこから取り出したであろうか剃刀を縦横無尽に振り回し始める。

流石にこれでは周囲の視線が集まるどころか、警察官が集まりかねない。

 

「あわわ、『己の支配者(マイマイスター)』!」

少しくらい傷いても構わないくらいの覚悟で志布志の腕を強引に掴み、影照はスキルを発動した。

これにより周囲の人間は影照と志布志への関心を無くす。

「テメッ、掴むな殺すぞ!!」

何故自分にかかわってくる女性は、自分に危害を加えるような人が多いのだろうかと、影照は至極真面目に悩んでいる。

鉄球振り回したり、注射器を投げつけてきたり、手錠で殴りつけてきたり、このように剃刀を振り回したり、この世の女性は何かしらの武具で男性に攻撃するのが好きなのかな。

「と、とにかく!君に出会う度にこう何度も攻撃されちゃ敵わないよ!」

「んなもんアタシの勝手じゃねーか!!」

「それで毎回暴れてたらキリがないぞ。一応俺はこれでも風紀委員なんだ、そんな今にも危ないところが破れそうな服で登校されたら困るんだ。わがまま言ってないでついてこい!」

とにかく駄々をこねまくる志布志に心の底からため息を吐き出す。

しかし、最初に出会った時のような剣呑な雰囲気が彼女から消えてることに影照は「過負荷も普通も異常も結局は同じ人間なんだ」ということを当然のことながら改めて再認識した。

 

 

「離せよー!アタシは今から球磨川さんたちとカラオケ行くんだからー!!」

「だったらなおさら服を着替えなさい。そんな恰好で球磨川と一緒に密室なんかに行った日には・・・あー怖い」

「なななな、テメェはいったいさっきから何なんだよ!離せよ畜生!!」

男子高校生と女子高校生が手をつないでいるという場面は、(はた)から見たらデートをしてるように見えるものなのだが、この二人においてはそんな甘い関係には全く見えなかった。

男子高校生がガチャガチャ騒いでいる女子高校生をズルズルと引きずっているのだ、まるで歯医者を嫌がる子供とその親のように見える。

しかもその女子高生が思い切りヤンキーの格好なのだから、影照のスキルがなかったらとっくに警察沙汰になっているのだろう。

「いい加減にしろっ!テメェはここでマジで殺す!!」

一瞬思い切り力を入れて影照の拘束から抜け出す志布志。

そこから地面を軽く蹴って1m程度の距離を空け、自身の手のひらを影照に振りかざす。

「『致死武器(スカーデッド)』!!」

志布志の過負荷が発動する。

 

「おうっ!?」

過負荷が発動した瞬間に影照の体が仰け反るようにしなる。

しかし、それだけで何もその体には異変起きていない。

「・・・・・・この前と同じか。何でアタシの『致死武器(スカーデッド)』が効かねぇんだ」

「効いてるよ、効いてる!体中が痛いよ今!」

「だったら何で!」

「『己の支配者(マイマイスター)』、開いた傷口がすぐに閉じるくらいに自然治癒力を集中させている」

志布志の表情がどんどん険しく鋭いものへと変わっていく。

その瞳に殺意の意思が浮かび上がっているのがありありと分かる。

「だったら、これなら・・・っ!?」

もう一度志布志が過負荷を発動させようとした途端、影照が急に背を向け逃げ出した。

「なっ!?待ちやがれ!」

慌てて志布志が追いかけようと走り出す。

しかしその瞬間、志布志は特に何の変哲もないちょっとした段差につまずいてしまった。

「ってー。くっそ、アイツのせいで今日は厄日だぜ」

「違うよ、俺が志布志さんの足元への注意力を少なくしたんだ」

「なっ、いつの間にそこに・・・」

うつぶせに倒れてる志布志のそばにいつの間にか影照が立っており、その志布志の顔を覗き込んでいる。

「這いつくばってるアタシの顔を見れて満足かよ?」

「いや、あのー。悪いことしたなぁって、どこかケガしてない?大丈夫?」

本気で心配しているような影照の顔。その表情に志布志は驚きを隠せない。

 

「なんだよ、何なんだよテメェはよ!アタシは過負荷側の人間でテメェの敵で、マジでうっとおしいんだよ!」

「・・・んー。でも君が綺麗な女性で、そんな娘が不用意に肌を晒してしまっているんだから心配するのは当然だろ?」

「んなっ!・・・ま、またテメェはそーやって気持ち悪ぃこと言いやがって!!」

「えー・・・・・・」

女性には常に優しく紳士的にかつ好意的に接しなさいと、普段から破魔矢に口煩く言われているので無意識に行動してしまっている影照。

無意識がゆえに、彼女のささくれだった言葉が妙に傷ついてしまう。

「うん、まぁ、ゴメンね。立てるかい?」

それでもめげずに手を差し伸べる。

影照は自分で自分の心の強さに感動の涙が出そうになる。

「だっ、だからアタシに触んなって。一人でも立て──っ!?」

差しのべられた影照の手を振り払って自分で立とうとした志布志だったが、立ち上がった瞬間顔をしかめて不自然によろめき後ろに倒れこんでしまう。

 

「あっぶない!」

少し反応に遅れた影照。

必死に手を伸ばし志布志の手を何とか握ったのだが、今度は無理矢理手を伸ばしていた影照の姿勢が不安定になり志布志の方へ倒れこんでしまう。

 

──「のわっっ!!」「きゃ!?」

 

「イテテ、大丈夫か?」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・」

倒れこむ中、どうしても後頭部だけはぶつけてはいけないと、反射的に影照は志布志の後頭部に片手を回しこむ。

それによって影照は片手で志布志の頭を抱きかかえるような姿勢で倒れこんでしまった。

顔と顔の距離が異様に近い。

状況をうまく把握できなくて、しばらく無言の時間がたってから影照は慌てて志布志から離れる。

 

(ヤベェ、めっちゃ志布志さんの顔赤いよ?頭に血が上ってるんだろーなぁ、今度こそ殺されるぞ俺)

顔が真っ赤な志布志と真っ青な影照。

互いの思考が落ち着くまで、それはそれは長い時間を要したのであった。

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