陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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45箱目 力になれない

「球磨川さん、()過負荷(マイナス)の人間ではなく異常(アブノーマル)の人間なんですよ?彼女(・・)をこちら側に引き入れるためにも、この作戦の要となるようなポジションに彼を使役するのはあまり良い選択ではないと思われますが・・・・・・」

「『ちっちっちっ』『使役するだなんて言っちゃいけないよ蛾々丸くん』『僕らの先輩なんだから、もっと敬意を払わないと怒られちゃうぜ?』『しかも共同戦線、あくまで僕らと対等な関係をしてるんだからさ』」

「はぁ・・・しかし、私はどうも彼に敬意を払いたくはありません。なんというか、彼にだけは負けてるとは思われたくないといいますか」

「『あはは』『正直者だね、蛾々丸くんは』『でも、だからこそ(・・・・・)』『彼をこちら側に引き入れる意味がある』『過負荷(マイナス)に劣る異常(エリート)という奇妙奇天烈な存在の彼にこそね』」

「球磨川さんがそうおっしゃるのなら・・・・・・」

 

「『それじゃあ動き始めようか』『いやはやそれにしても、彼女はどう考えてもこちら側の人間だろう』『名瀬夭歌(・・・・)』『なにより死体を見る死体のようなあの淀んだ目が最高だ』」

 

 

 

生徒会室に集まるいつもの生徒会メンバー。

黒神めだかを中心に、人吉善吉とその母の人吉瞳、体の節々に包帯を巻いた阿久根高貴、日之影空洞、古賀いたみと名瀬夭歌。

窓に広がる朗らかな天気とは裏腹に生徒会室の空気は重く、この場にいる全員が黒神めだかの口が開かれるのをただ待っていた。

そして、眉間にしわを寄せ目を閉じたままめだかは口を開く。

 

「お姉さま、阿久根書記の容体を詳しく教えていただけないでしょうか?」

阿久根本人を目の前に、めだかは名瀬に質問する。

それは、この質問を阿久根本人に行ったところで返ってくる答えは決まりきっているからである。

体中に痛々しい包帯を巻いている状態で、『自分は大丈夫です。戦わせてください』と答えるだろうから。

めだかのそんな意図をくみ取った阿久根は、顔を伏せ強く唇をかみしめた。

 

「詳しく、ねぇ。とりあえず絶対に次の書記戦に出していい状態じゃあねーな」

「っ・・・・・・・・・・わかりました」

覚悟はしていたが、この答えを頭で整理するにはあまりにも重すぎる現実であった。

再び訪れる沈黙。

そんな様子を名瀬は、今にでもあくびが出てきそうな退屈なものを見る目で傍観していた。

「なぁ、黒神。ほかに替えの人材はいないのか?」

「日之影三年生。阿久根書記と並ぶほど身体能力の高い生徒などこの学園はおろか、世界中を探してもいませんよ」

 

「・・・・・・なぁ」

珍しく名瀬が自分からめだかに声をかける。

その声色は非常に呆れているような疲れているような、そんなぐちゃぐちゃな意思の込められた色をしていた。

「兄貴は今、破魔矢の治療でつきっきりで実質この生徒会戦挙はリタイアだ。そーなりゃ俺達がここにいる理由はねーじゃん。俺達は生徒会役員じゃねーんだしな。それに、この程度の不幸で絶望する奴に付き合ってらんねーんだよ。俺はそんな奴を妹とも生徒会長とも思えねえのさ」

名瀬は扉に手を伸ばし、右にスライドして開いて教室から出ていく。

その様子を見ていた古賀が、「待ってよ名瀬ちゃーん」と言いながらそのあとに続いた。

扉がピシャっと乾いた音を立てる。

 

「それじゃあ黒神、俺も少し出るわ」

「どうなされたのですか日之影三年生?」

先ほどまで携帯の画面を見ていた空洞が顔を上げた。

その表情は少し呆れたような形をしている。

「うちの影照を連れてこなきゃならん。学校まで来ているというのは分かってんだ、またどっかでサボってるに違いない」

「は、はぁ・・・・・・」

あまりに温度差のある会話に、めだかは口を半開きにしたまま閉じることができなかった。

 

 

 

人間とは、基本的には<欲>に基づいて行動していると言われている。

食欲、睡眠欲、性欲、金銭欲、権力欲などなど。

しかし、一番人間を強く行動に駆り立てる行動原理はおそらく『復讐』であろう。

 

 

「『やあ』『名瀬さん、古賀さん』『こんなところで奇遇だね』」

「名瀬ちゃん、あいつ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・古賀ちゃん、わりーけどそこらへんで時間をつぶしといてくんねーか?」

廊下の真ん中で奇妙に対峙する。

偶然出会ったなんていう球磨川のセリフはおそらく嘘で、本当は少し前から待ち伏せしていたに違いない。

そう考えた名瀬はひとまず古賀をこの場から逃がすことを選択した。

「どうやらこちらの先輩が、何やら俺にご用らしーからよ」

球磨川が微笑んだ。

 

「『ごめんね古賀さん』『少しだけ(・・・・)名瀬さんを借りるよ』」

 

俄然古賀の警戒の眼差しは強くなっていく。

しかし名瀬が言ったからというのもあるが、ここで自分が残ったとしても何も力にならないどころかかえって足手まといになるということは分かっていた。

数分前に見た阿久根の表情がフラッシュバックする、古賀は強く拳を握った。

そして、二人が別教室に移動していくのを見るだけ、遠くなっていく足音を聞くだけしかできなかった。

「・・・戻ろう」

二人の姿が見えなくなってから、古賀は一言だけそうつぶやき手の力を抜いて今来た道を戻ることにした。

 

「っ?」

廊下の角を曲がろうかとした瞬間、古賀の本能に『球磨川のソレ』とは違う過負荷の気配を感じ取る。

ここまでの接近に気付かなかったことに、球磨川の過負荷の脆弱さ(・・・)を改めて認識してしまう。

「気配が・・・複数いる?」

前後左右一人一人は球磨川と比べるとかなり劣るが、されど過負荷(マイナス)であることは十分にわかる。

その気配達が古賀を取り囲むように近づいてきていた。

どうして自分を狙っているのか、考えるのは後にして今は逃げることだけに専念しようと古賀は意識を高める。

 

「・・・ひっ!?」

開けた場所に移動しようと、古賀は運動場へと続く窓を開け、ここが三階であるにもかかわらず飛び降りようとしたその時

背後で──ドシャッという粘着質な音がした。

すぐさまそっちの方へ振り返る。

そこには、今さっきまで誰かとつながっていたであろう手が、赤色をしたたらせながら切り離されてポツンと落ちていた。

急いで窓から飛び降りる。

が、飛び出したはずの自分の体が再び廊下に立っていた。

「くっ・・・どういうこと!?」

同じ動作をもう一度繰り返し、そして同じ結果が繰り返される。

 

「あははは。むっだだよぉ、僕の過負荷(スキル)逃げるが勝ち(ドントエスケープ)』があるからね」

声のする方へ振り向く。

ジャラジャラと装飾品を服や顔につけた、細身の金髪男が近寄ってきていた。

ふと彼の手元を見てみるが、しっかり両方の手がくっついている。

「あー、この手はまた別のヤツの過負荷(スキル)なんだよねェ」

「・・・何が狙いなの?」

「うっひょー、怖い顔すんなよぉ。まだ(・・)君には手を出すつもりはないからさっ」

ピアスのついている長い舌を出して、男は挑発をしてくる。

 

「っ!?」

「へっ。へへへっ、痛い痛い痛い痛い痛いよ、痛いよー。私の右手はここにあったんだねぇえ」

「おー、きたきたイカレ女」

右手が無くなった女性が、そこに落ちていた自分のであろう右手を拾い上げ頬擦りしている。

頬に滲む赤色。彼女の狂気に近いその笑顔に古賀は吐き気すら覚える。

「あー、一応説明しとくと、イカレ女の過負荷(スキル)は『自虐怨念(マゾ)』っつって、なんか追跡型の能力とか言ってたよーな?」

自分から解説を始めたのに、なぜか古賀に疑問符を投げかけた金髪男。

 

彼女のあとに続いて大勢の過負荷(マイナス)がぞろぞろと現れる。

「あーあー、いっぱい来たなぁ。ごっめん古賀さん、たぶんみんな抑えきれないと思うから、とりあえずグチャグチャになってくんない?」

「くっそ・・・」

ジリジリと狭まる包囲網、このまま一斉に飛びかかられたりでもしたら本当に手も足も出ないであろうことは明白である。

 

「女の子一人にそれはねぇだろ?」

「え?」

 

金髪男の顔面が廊下にヒビが入るほどの勢いで叩きつけられた。

あまりの急な出来事に、その場の全員の体が固まる。

「大丈夫か!古賀先輩!?」

「え、あぁ、うん」

包囲網の中心、古賀の傍らにパッとあらわれる黒神めだか、日之影空洞。

そして──

「些細無くん?」

「あぁ。いきなりで悪いがここから離れるぞ」

「え?え!?」

いきなりそう言って、影照は古賀の体を抱きかかえる。

「頼む、空洞」

「あぁ、任せろ!!」

影照はその場で大きく上方向に飛び上がり、その体に向かって空洞が拳を振るった。

うなりをあげるその拳を影照はボレーシュートを行う要領で蹴り、古賀を抱えたまま目で追うのは困難なほどの速さで開いた窓を突き抜けた。

 

「さぁて黒神、見せてくれよ。俺がお前に生徒会長を託したことが間違いではなかったということを」

「はい。あなたとこうして肩を並べる以上、現生徒会長として恥じない戦いをお見せしましょう!」

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