陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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46箱目 私の仲間でいてください

「『名瀬さん』『僕の仲間にならないかい?』『僕と居れば』『きみは世界一不幸(かわいそう)になれる』」

「・・・・・・・・・ときめくね」

 

 

 

空洞の砲弾のような拳が過負荷(マイナス)の頭蓋や腹部を大胆かつ正確に抉る。

めだかが通った後には、過負荷(マイナス)たちの屍が乱雑に横たわっていた。

誰がどう見ても二人の圧倒的な優勢であることは間違いなく、この後ここに来る手筈の善吉や人吉瞳の来る前にはこの戦闘は集結してしまうであろうと予想できる。

しかしそんな中、空洞の表情は劣勢を強いられているかのように険しいものになっており、めだかはどうしてもその表情に違和感を感じざるをえない。

「日之影三年生」

めだかは目の前にいる過負荷(マイナス)達から目をそらさず、足や拳を振るいながら空洞に問いかける。

「別に私はこの状況に、決して油断や慢心を抱いているわけではありません。しかし、決して相当厳しい戦局というわけではないと思うのです。なのに何故そのような顔をされるのですか?」

空洞の拳がまた一人、また一人と過負荷(マイナス)を地に沈める。

「・・・おそらくこれは、過去の俺の失態なんだ。気にするな、お前はさっさとこの場をかたずけて古賀のところに行っててくれ」

 

残すところ敵の数もあとわずか。

「地獄で詫びいれてきやがれっ!!」

そして、空洞が爆音を響かせると同時にその場に立つものは現生徒会長と前生徒会長の二人だけになっていた。

廊下というある程度密閉された空間に、気が付けば血臭が充満している。

鼻を通り抜ける鉄の臭い、戦いの後のこの独特な感覚は空洞にとってもめだかにとってもあまり気分の良いものではなかった。

 

「それでは、私はお姉さまに連絡を・・・」

めだかは少し焦った口調で携帯を取り出し、乾いた血のついたその指で番号を打つ。

「・・・・・・もしもし、お姉さまですか?ご安心ください、古賀同級生は──」

「──おい、黒神っ。テメェはいち早く影照のもとへ向かってくれないか?人吉親子にもそう伝えてくれ」

「え?」

空洞はそう言うといきなりめだかの肩を掴んで、影照の出ていった窓へと思い切り放り投げる。

めだかは終始何が起きたのか分からないといったような顔をしたまま空中に投げ出される、電話の向こうが騒がしい。おそらく名瀬が今の状況の説明を求めているのだろう。

落ちてゆく景色の中で空洞の表情が見えた。

めだかは電話を口元に当てて名瀬に応答する。

「大丈夫ですお姉さま!古賀同級生は私たちがしっかりと保護しています!だから、だからどうか私の仲間でいてください!!」

 

 

「・・・・・・お久しぶりですね。どうか俺の見間違いであってくれと願いましたが、やはりあなたでしたか。先輩(・・)

「ふ、ふへっ。思い出したよ(・・・・・・)、お前は日之影空洞だな。まずは君から血祭りにあげることにしよう」

 

 

 

 

「いてて・・・大丈夫か、古賀さん?」

「ご、ごめん。重かったよね!?」

三階から勢いよく飛び出した二人。

空中で古賀を抱えたまま影照は『己の支配者(マイマイスター)』を発動させ、姿勢や体の向きなどを微妙に変えながら茂っている木に落下する。

影照を下に着地してしまったので、慌てて古賀がその場から離れた。

「あぁ、っしょっと」

影照は自分の服をはたいて立ち上がる。

「古賀さん、今から運動場の方へ向かおう」

「え?えっと、何でそんなに逃げてるの?並の過負荷(マイナス)が相手なら日之影さんや黒神で十分すぎるほどなんじゃないかな?」

「違う、俺と空洞が危惧している相手はまた別のヤツなんだ。そして逃げてるわけじゃないし、逃げ切れるような相手でもない。より有利に戦えるような場所で先手を打たないと・・・」

影照は治療中である古賀を気遣うような速さで、そしてできるだけ早めに運動場へ着くよう歩き出す。

 

夏休み中である箱庭学園。

本来なら運動場には運動部が夏期の練習を行っているところなのだが、生徒会戦挙期間である今は原則校内へ特別なことがない限り関係者以外は立ち入れないことになっているので、閑散とした広い空間が影照と古賀の目の前に広がっていた。

「・・・・・・あっついなぁ」

「ねぇ些細無くん、いつまでここに居なきゃいけないの?」

「んー、とりあえず会長さんか空洞が連絡をよこさない限りここから動けないなぁ」

「・・・そっか。あ、暑いねー」

グラウンドの砂が太陽を照り返し、日本の気候独特の嫌な暑さが汗をにじませる。

影照はあまり気にしてないようだが、今の現状がよく分かっていない古賀はこの二人だけの空気感にぎこちない雰囲気を覚えていた。

 

「あのさ、些細無くん」

「・・・んー?」

「変なこと言っちゃうかもしれないけど、私と居るのは居づらくないのかなぁ・・・なんて」

「ん?あー、俺も少し変なこと言ってしまうかもしれないけど、良いか?」

「え、うん」

影照の顔はどことなく恥ずかしげになっている。

「古賀さんは、もしかして三年前のことを言ってるのかな?」

 

三年前、古賀が影照に「普通」に告白し「普通」に振られてしまったあの日のこと。

そして「普通」の人間関係が渦巻くあのころの中学校で、影照は元々人望があったわけでもなく陰気で狡猾なやつだと評価されていたので、影照へのイジめが表面化してしまうのも当然といえば当然であった。

「・・・うん。結果的にこうなることは容易に想像できたはずなのに、私はただ自分の都合だけを考えて些細無くんに告白してしまった。些細無くんの立ち位置、私の立ち位置、人間関係はとても複雑なものだっていうのは『普通』のことだったのに」

「──あ、あのさ。古賀さんはもしかして俺に悪いとか思ってる?」

「っえ?う、うん」

「うーん、古賀さんなら分かってもらえると思ってたんだけどなあ」

影照が首筋に伝う汗を肩で拭う。

 

「あの頃の俺たちは『普通(ノーマル)』ながらも『異常(アブノーマル)』に憧れていた。苛められる生活というのはもちろん楽しくはなかったけど、『普通』ではない生活を送れてると思うととてもワクワクできたんだ。たぶん古賀さんも俺と同じ立場だったら分かると思うよ」

古賀は影照の笑顔に驚いた。

なんというか、拍子抜けしたのだ。自分はてっきり影照に疎まれているばかり思っていたのに、逆に感謝されていたなんて。

「そっか。そうだね、日之影さんの言ったとおりだ。些細無くんは本当に優しいね(・・・・)

「っ・・・そ、そうか」

「あはは、照れてる」

「うるさいなぁ」

 

何だか今までウジウジ悩んでいた自分がちっぽけに思えた。

始めて、影照と笑い合えたのだ。古賀はなんだかとても可笑しかった、幸せだった。

「なぁ、古賀さん。一つ聞いていいかな?」

「なに?」

「どうして、その、俺だったんだ?ズルくて『普通』な俺を、選んでくれたんだ?」

お互いの体温が一気に上昇していくのが分かる。

影照も今のが失言だったのを理解したのだろう、手を振って今の発言を取り消そうとした。

「い、いや!別にいいんだ、大したことじゃないというか、なんというか!」

「──えっとね」

「へ?」

「な、なんでだろうね?私も些細無くんを選んだ具体的な理由はよくわからないけど」

古賀は顔を上げた。

影照を好きになった理由。人を好きになるということ自体初めてのことだったから、自分の頭の整理ができない。

でも一つだけ自信を持って言えることがいる、伝えられることがある。

 

「私は、些細無くんを好きになることができて本当に良かったって思ってるよ」

「う、そうか・・・・・・」

気温が暑いのか、この状況で火照っているのかよくわからない。

「ねぇ、些細無くん。あの時言ったよね?『友達から始めよう』って」

「あー、そうだね。確かに言ったよ」

「私、まだ諦めてないから!」

古賀は影照の顔を覗き込んで、自分の心に覚悟を決めるかのようにはっきりとそう宣言した。

 

 

 

 

「『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』、よく考えたら認識できるかどうかというだけの能力でしたね。そんな異常(つよさ)は今の僕に通用しませんよ」

「テメェ、逃げんじゃねーよ!!」

「ふへへ。オマエのような『綺麗な戦い』をするような奴には、目の前で仲間がボコボコにされるのを見せた方が応えるだろうね。楽しみに待っててくださいね、お土産に些細無影照の五体のいずれかを切り取ってきますから」

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