陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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47箱目 元に戻してみた

「貴様ら・・・・・・」

「いやぁ、ゴメンね生徒会長さん。これも球磨川さんの指示でね」

めだかが影照と運動場へ向かう途中、廊下で囲まれた時と同じくらいの人数に鉢合わせてしまった。

相変わらず球磨川達と比べると大分劣る過負荷(マイナス)の奴等であるが、先ほどの集団よりは明らかにその脆弱さ(・・・)が洗練されている。

(私一人では無理というわけでもないが、時間がかかる・・・・・・)

めだかの黒髪が、より深くより艶やかに黒く黒く染まり出す。

全身から(たぎ)り出す気力が、周囲の空気を震わせているように見えた。

「初っ端から全力で行くぞ・・・!!」

「あはは、弱いものいじめはやめてくださいね」

 

 

はてさて、影照くんは自身の力によって運命を変えたわけだが・・・

君たちはそのことについて何か思うことはあるかい?

このたくさんの物語に恵まれた現代に生きる君たちは、やはりそういう感覚が麻痺してしまっているのかもしれないと僕は思ってね。

「運命」を変える。はっきり言って人間がおいそれとそんなことできるわけないだろ?

そんなことができる奴はもう人間じゃない、神かもしくは人外(・・)だ。

何度も言うようだけどね、最近の小説や漫画の類の物語に出てくる台詞の『運命は変えられる』なんてのは嘘っぱちだ。この安心院さんが言うんだ、間違いない。なんてね。

だからこそ僕は彼にすごく興味がある。

この物語の主人公「黒神めだか」。完全な不完全、混沌よりも這寄る過負荷(マイナス)「球磨川禊」と同じくらいにね。

そして、そんな彼を魅了して止まない「日之影空洞」も。

彼が運命を変えているのか、それとも彼の介入(・・)によってこの世界が変わってしまったのか。

あははは、いやいや久々に楽しめそうな謎解きだよね。

 

だからこそ、僕がちょっとだけ運命を弄って些細無影照くんの運命を元に戻してみた(・・・・・・・)

 

さて、どうするかい些細無くん。

もう一度君は、運命を変えることができるかい?

人外(・・)という存在に近づくことが、できるのかい?

僕は楽しみに待っているよ。

 

 

 

「あの時から何も変わっていませんねぇ、あなたは。まるで僕に見せつけるかのように傍らに女の子を置いているんですから」

「人のこと言えないな。テメェも何ら変わり映えのしないブサイク面を俺の前に晒しやがって。今度『鏡』がどこで買えるのか教えてやるよ、先輩」

 

運命の歯車が、狂って喰い違って元に戻った。

そして二人が再び顔を合わせて、止まっていた時間がまた駆動し始める。

 

照りつける太陽と、その熱によって揺らぐ空気。

影になるものなど何もないこの運動場の中央で、些細無影照と奄美鋼折が向かい合っていた。

「些細無くん、あの人が敵なんだね・・・・・・」

「古賀さん。万全な状態でない君は前に出ないで、できるだけ俺の背後にいてほしい。あいつだけは俺の手でケジメをつけないといけないんだ。俺が、過負荷(オレ)が中途半端に運命を変えてしまったせいでもあるんだから」

「些細無・・・・・・くん?」

古賀が見る影照の目は、黒曜石のように深く暗く、しかし黒曜石とは違い光を照り返さない、この真夏の太陽の下だというのにすべての光を吸い込んでいるような目をしている。

「っ!?下がれ、古賀さん!」

 

奄美を中心にしてできた半径1~2mの地面に浮き出た円の紋様が変形し、触手のようになって古賀に向かっていく。

影照は慌てて駆け出して古賀の手を思い切り引っ張り、共に奄美から距離を取る。

触手は古賀の足に触れる一歩手前でピタリと止まった。

「僕の目の前で女の子と喋るだなんて、相当良い根性してるじゃないですか」

「・・・・・・ははっ、嫉妬ですか?」

「いいや、僕はどうやら人の物が欲しくなっちゃう性格だからね。まぁ別にこの能力のおかげで、君に嫉妬を抱かないくらいの欲求は満たしてるから大丈夫だよ」

「この・・・・・クソ野郎がっ」

影照の奥歯がギシギシと擦れ合い、不快な音を鳴らす。

 

「些細無くん、アイツの能力って・・・・・・」

「あらゆるものに磁力を付加させて、その磁力を操る異常(スキル)だよ。射程範囲はあの足元に見えている紋様が示してくれる」

三年前、奄美の異常(スキル)は「磁力誘導(マグネットフォース)」といって「あらゆるものに磁力を付加させ、それを操る」という代物を使っていた。

その時、能力の射程範囲を視覚化させることにより影照は戦いを有利に進めることができた。

だからこそ影照は地面が磁力を通さず、加えて射程距離を視覚化しやすいこの運動場を戦いの場に選ぶことにした。

「さすがに、あの時とは違い射程距離と能力精度は上がっているだろう。・・・でも、大丈夫」

影照は懐に手を入れ、両手に一つずつの野球ボールを取り出した。

「まさか、サッカーの技術を上げるためのリフティング用に持ち歩いていたコレが最終的にこんなもんになるとはな」

その様子を奄美は余裕のある目で眺めながら、影照の攻撃を待つ。

影照は奄美に向かってその野球ボールを投げつけるというより、放り投げた。

「冥利直伝、火山すらも消し飛ばす新型爆弾。どうぞ召し上がれ」

 

二つの野球ボールが爆ぜると思われる直前に影照は古賀に合図を送り、奄美から離れるように大きく後方へと飛び退く。

ボールが奄美の目前に迫り、轟音をあげながら炎が辺り一面を包む。

影照はそう予想していた。

 

しかし、目の前に映った現実は予想を遥かに上回る。

放たれたボールは影照と古賀が後退した瞬間、奄美の足元から突如現れた2mはあろうかという大きくて真っ黒な手で握り締められた。

爆発の衝撃が確かに空気を震わす。巨大な手の内で莫大なエネルギーを放出させたはずだが、その手は決して崩れることはなかった。

黒い指の間から立ち上る黒煙と火薬の匂いが、余りに現実離れした光景を現実のものであると認識させる。

「まさか、それは……」

こうしている間にもその巨大な黒い手は、周囲から黒い素のようなものを吸い寄せ大きさを増していく。

そして影照は自分の選択を深く後悔した。

「ふへへっ。この場所が僕にとって不利?その逆ですよ、こんなに僕向き(・・・)のステージはないですからねぇ。『磁力誘導(マグネットフォース)』の磁力に引き寄せられた砂鉄や鉄くずが、僕の手となり足となる」

「三年前とは、桁違いのパワーと精細度じゃんかよ・・・・・・」

「別に僕が悪いわけでもないのに後輩に二人にボコ殴りにされて、悔しくないわけないじゃないか。だから僕は『正義』のために君たちを(なぶ)り殺そうと、そう決めたんですから」

 

奄美がパンッと、一度手を叩く。

それを合図として大きく聳え立っていた手はいくつにも分裂し人型を形作った。その数およそ十数体、ただの人型の黒い塊が影照と古賀を取り囲む。

「ふへへへ。まさかこの程度でギブアップだなんて、言わないで下さいよ?」

「はっ、誰に向かって言ってるんだ?」

影照の黒眼の中心が白く染まる。

「変わってるのは俺も同じだ。『己の支配者(マイマイスター)』」

奄美の動きが、周囲の黒い塊の動作の一つ一つがはっきりと見えた。

次にどんな攻撃を繰り出せばよいのかが、予知するように影照の頭の中でシュミレートされる。

一斉に向かってくる傀儡達、影照はイメージ通りにそのすべてを文字通り蹴散らせていく。

古賀を守ることを第一にすべての攻撃をいなし、傀儡を砕かんばかりの蹴り技を叩き込む。

 

ここで、影照の頭にふとした疑問が思い浮かぶ。砕かれた傀儡達はすぐに再生し、また影照に向かってくる。

もう奄美の射程距離の外にいるというのに。

「くそっ、このままじゃ埒があかねぇっ!!」

影照はじりじりと奄美と距離を離し、敵側に向きつつある『流れ』を一旦止めようかと思っていたがなかなかうまくいかない。

見た感じ奄美はその場から動くことなく、下賤な眼差しを影照の方へと向けているだけである。

「くっそ、とりあえずテメェら黙っとけ!」

影照は周囲に野球ボールを一気にばらまく。その多くのボール達は、地面につくなり銃声のような音を上げ弾け飛んだ。

小さな爆発に巻き込まれた傀儡達は、手足や頭といった箇所を破壊され一時的にだがその場で動かなくなった。

久しく訪れた開けた視界。

すべての状況を一瞬で把握する。

 

黒い傀儡達はそのすべてが影照に向かってきているというわけでなく、奄美のそばに一体と影照と奄美の対角線上にさらに一体、爆発に巻き込まれていない傀儡が立っていた。

「・・・・・・あいつらが磁力の伝導体(アース)になってるわけか」

「ほほー。この短時間でよく気づきましたねぇ」

「状況把握は、サッカープレイヤーとしての基本なんだよ」

「ふへへ、じゃあアレはどういうことなんですかね?」

奄美が影照の後方を指さす。

「っ!?・・・・・・古賀さん!」

膝から下がガチガチに鉄クズで固められ、動けないどころかその締め付けに苦痛を覚え顔をしかめている。

何とか抜け出そうともがいているが、そのたびに締め付けが強まり痛みが増してきているようだ。

「ごめんっ・・・些細無くん」

「もういい!すぐ助けるから!!」

すぐさま古賀のもとに駆け出す影照。

 

しかし、影照の前に数体の傀儡が立ちふさがる。

「ふへへへ。動くとどうなるか分かりますよねぇ?本当の戦いは、ここからですよ?」

 

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