「・・・・・・・・・・ガハッ!!」
「些細無くんっ!!」
「んーー。二人とも実に良い声で
影照は黒い傀儡数体に肢体を固定され、奄美の良いように殴られていた。
口の中は切れて、瞼は赤く腫れている。鳩尾を何度も殴られているせいで呼吸も整っていない。
「まだ気を失わないで下さいよ?君に、見せてあげないといけないものがたくさんあるんですから」
顔を近づけながらそう言って、影照の頬を軽く叩いた。
「君が一番心を痛める為には、僕はあの娘に何をするべきだと思いますか?首を切り落とすべきでしょうか?全身の皮を剥ぐべきでしょうか?原型が分からなくなるほどぐちゃぐちゃにするべきでしょうか?」
目つきだけで人を殺せそうな視線を飛ばす古賀を、まるで何とも思って無いかのように奄美はためらわず一歩一歩近づいてゆく。
不敵な笑みを浮かべ、古賀の方に顔を向けながら影照に話しかける奄美。その姿を血のにじむ視界で力なく影照は見ていた。
「でも、殺しちゃうのはあまり得策とは言えませんよね。殺してしまったらもはやそれまで、きっと君は守るものなど何もないと言わんばかりに僕に襲い掛かってくるでしょう。では、どうするのが一番いいか・・・」
奄美は片手を古賀の方へ振りかざす。
それに合わせるように、古賀の肢体に絡みついた砂鉄の縛りが強まり悲痛なうめきが聞こえる。
「それはね、君の目の前でこの娘を
古賀の顎に奄美は指を這わせる。
明らかに古賀の顔には恐怖の表情が浮かび、奄美は息を少し荒げ始めた。
「触らないでよっ!!」
「ふへへ、よく見ると本当に良いスタイルですね。ただ、口の利き方がまるでなっていない」
「うぐぅっ!?」
より一層強まる締め付け。
「あまり、
「誰がアンタのものなんかにっ!」
痛みに顔を歪めながらも反抗的な態度を崩さない古賀は、奄美に唾を吐きかけた。
奄美は服の裾で頭を拭う。その手はわなわなと震えていた。
思い切り古賀の髪の毛を掴み、自分の鼻先まで思い切り引っ張りこむ。
「覚悟はできているんでしょうね?」
「離してよっ!痛いでしょ!!」
「あーもー、五月蠅い口ですねぇ」
古賀の髪の毛を掴んでいる手とは逆の手で、奄美は思い切り古賀の顔を拳で振りぬいた。
髪を掴まれ固定されているせいで、その衝撃を受け流すことは出来ずもろにその拳の衝撃を受け止めてしまう。
古賀いたみの
しかし、フラスコ計画に黒神めだかが関与したその日にその
今現在は名瀬夭歌と黒神真黒の治療により徐々にその力を取り戻しつつあるが、それでもまだ治療中の域を越えず、自分で歩けるようになったのはつい半月前だったりする。
古賀の目にはうっすら涙が溜まり、殴られた頬は赤黒く変色している。
「・・・・・・サイテー」
「まだ自分の立場が分かってないようですね」
ついさっき古賀の顔を殴った拳に黒い素が集束し始め、鋭利な刃物を形成しだす。
「まずはその身ぐるみから剥ぎましょうか。うーん、あとはその団子みたいな髪形も僕的にはあまり萌えませんねぇ」
奄美が腕を振り、古賀の髪に一閃させる。
古賀の団子状にまとめられていた髪がバッサリと切り落とされ、無残な形に切りそろえられる。
「イヤああぁ・・・・・・」
消え入りそうな叫び声が響いた。
「うーん。何だか思っていた髪形ではないですが、まぁいいでしょう」
微妙な表情で頷く奄美。
「絶対、絶対に許さないんだから・・・」
「そんな泣き顔で脅されても何も怖くありませんね。それに、僕に誰が審判を下すのですか?」
刃物の切っ先を古賀の首元に突き付け、首をかしげる。
「アアアアアアアアァァァ!!」
奄美の背後で大きな、雄叫びともいえる声がビリビリと空気を震わした。
その変化に急いで振り返る。
そこには黒い傀儡人形達に肢体を捕らわれたボロボロの影照の姿があった。先ほどと何か違う点があるとすれば、その足元に数個の野球ボールが転がっている。
「んなっ!?」
奄美が驚いたその瞬間、まるでその場に雷でも落ちたかのような爆音が鳴り響き、空気を地面を大きく揺らしながら辺り一面が業火と爆薬特有の臭いに包まれた。
「ふぅ・・・全く、馬鹿な真似をしますね。まさか僕とこの娘を道ずれにして、全部を消し去ろうとでも思ったのでしょうか?」
爆発のおよそ中心部。そこには半球体形の真っ黒な核シェルターのような建造物が立ち上がっていた。
あの爆発が起きてしばらくしてから、シェルターがボロボロと崩れ落ちる。
奄美達二人の目の前に広がる光景。未だに立ち上る炎とごっそり持っていかれた
あまりの別次元のような運動場に、古賀はただ力なく首を振るだけだった。
「あぁー。大丈夫ですかー・・・って聞こえていないようですね」
「・・・・・・・・・・嘘だ、嘘だよ」
とめどなく古賀の頬を伝わるその涙。
その様子を、奄美は冷めた目で眺めながら頭を掻いている。
「もう死んでしまったものをそんな気にしても無駄なだけですよ?・・・あっ、ここで心の傷を埋めるように僕が
「──おい・・・・・・勝手に、人を殺してんじゃねぇよ」
鎮火していくこの空間に、肌や衣服を焼かれ本当に生きているのかどうか疑わしい人間が立っていた。
「・・・今度は、どんな手品を使ったのですか?」
「手品じゃねえよ、こんなもん気合いだ。『
皮膚の所々が炭のように焦げてしまっているが、影照はその口元から不敵な笑みを崩さない。
その表情から過去の記憶が思い出された奄美は、警戒心を強め腕に形成していた刃物を解除した。
「ははっ、お前さっきの爆発で頭が河童みたいになってるぜ?不細工面にはお似合いの髪形だな」
その言葉に奄美は慌てて自分の頭を手で確認する。
「キサマァアア!!僕の髪を、焼きやがったなァ!?」
「古賀さんの心の痛みを考えろ。しかも、ほとんどが焼失してしまった俺よりはマシだろ?」
影照は奄美へ向けて、腕をあげて中指を立てた。
「かかって来いよ、ハゲブタが」
怒りに身を任せ、奄美の周囲から砂鉄が渦巻き始める。
影照は力なくその場に立ち尽くすだけで、しかし視線だけは決して逸らさない。
ここでふと、奄美の周囲に渦巻く砂鉄の流れが止まった。
「・・・・・・よく考えてみると、現状は何一つ変わっていませんね。むしろ、流れはまだこっちにある」
奄美は怒りを抑えるように一つ大きく深呼吸をする。
「はぁ・・・。この娘も僕の手元にある、君は爆発したせいで相当なダメージを負い、なおかつ戦い用のアイテムも焼失している。何も焦ることはない、勝つのは僕だ」
「テメェ!怖気づいてんじゃねぇぞ!!」
「ふへへ、逆に僕の選択肢が広がったようなものですね。君を無様に殺すか、この娘を堕とすか」
そう言っていた奄美の表情が急に無表情に変わった。
「本来の目的を果たしましょう」
奄美の足元から三体の傀儡が再び蘇る。
「今の君には、この三体の攻撃を避けることもままならないでしょう。その全身やけどじゃあ、集中したくてもできないでしょうしね」
その瞬間、二体の傀儡が走り出し影照の両足を切りつける。
影照は「グッ・・・!?」と声を上げ、その場に倒れこんだ。
「些細無くんっ!?・・・お願い、もう逃げて!!」
「ふへへ、両の腱をぶった切ったんですよ?もう二度と立って歩けないんですよ?まぁ、ここで死ぬんですから結果は一緒なんですけどね」
傀儡が両の腱を切られ倒れこんでいる影照の脇を抱え、無理矢理立ち上がらせる。
奄美はその手に先ほどと同じような大きな刃物を形成させ、徐々に影照の方へと近づいていく。
「無様ですね。僕の人生を狂わせた君には相応しい最後です」
「・・・・・・」
「話す力も残っていませんか。まぁ、良いでしょう」
奄美がその手を振り上げる、背後から古賀の叫びが聞こえる。そして影照が笑った。
刃物が影照の首元でピタリと止まる。
「何を企んでいる?」
「いやぁ、
「どういう意味です?」
影照の目線の先で、奄美の背後で破裂音が鳴り響く。
古賀と奄美をつなぐ対角線上にいた一つの傀儡が弾け飛んだ。
「・・・・・・一体、いつの間に」
「ほらな、あの時と全く一緒だ。俺が大切な人を逃がしてここで死ぬ運命と立ち会う。先輩も覚えているでしょう?」
伝導体を失ったせいで、古賀を縛っていた砂鉄が拘束力を無くし風に吹かれて飛んでいく。
一気に解放された古賀は体力を使い果たしていたのだろう、その場に膝から崩れ落ちる。
「逃げろ!古賀さんっ!!」
「嫌っ!些細無くんを見捨てて逃げるなんてできない、私だって戦えるっ!!」
言葉の威勢とは裏腹に、古賀の足はおぼつかなく肩で大きく息を切らしていた。
「いいから行けっ!空洞でも会長さんでも誰でもいいから呼んできてくれ!!」
「嫌だっ!!」
「俺は絶対に死にはしない!あの球磨川にも殺されなかったんだ、ましてやこんなヤツに殺されてたまるかよ!!」
その場で泣きじゃくる古賀に対して、血を吐かんばかりに叫ぶ影照。
奄美が再び大きく手を振り上げた。
「良い根性してんじゃねぇか。今日だけは古賀ちゃんに免じてテメェを助けてやるよ。カマせ、人吉ィッ!」
「助けに来ましたよ、些細無先輩っ!!」
影照の腕を掴み上げていた二体の傀儡が一瞬で消し飛び、奄美は刃物を砕かせながら思い切り蹴り飛ばされた。
「ははっ。ほら、あの時と全く一緒だぜ」