陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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49箱目 助けたい

「ありがとう、ありがとう、名瀬ちゃん・・・・・・」

「感謝する相手が違うぜ、古賀ちゃんが感謝するべき相手は些細無の野郎と人吉だ。それと、俺は今冷静じゃいられねーほどにムカついてる。古賀ちゃんをこんな目に遭わせたあのクズ野郎に、きっちりお礼しとかなきゃならねーな」

 

 

まだ、息をすればむせ返るほどの硝煙の臭いが残るこの運動場。

影照は今にもシャットダウンしそうなその意識を必死につなぎ止め、目の前の光景をせめて最後まで見届けようとしている。

迫りよる傀儡を文字通り蹴散らし、地面から体を貫こうと突出してくる鉄くずの槍を交わし弾く。

人吉善吉は奄美の攻撃を全て予測しているかのように立ち回り、圧倒的なまでに優勢な戦局を生み出していた。

明らかに焦っているのは奄美の方、自分より格下だと踏んでいた人間に押されているのだ。その事実が余計に苛立ちを増す一因となっている。

「なんであそこまでの立ち回りが・・・?俺の『己の支配者(マイマイスター)』に劣らない動きじゃねぇか・・・・・・」

「まぁ、そーだな。原理は全く一緒、人吉のヤツは今集中(・・)しているのさ」

古賀に肩を貸したまま、近づいてきた名瀬が影照の問いに答える。

「深く考えんなよ。テメーも分かってんだろ?所詮『己の支配者(マイマイスター)』はその程度のスキルなのさ。人吉のヤツは異常(アブノーマル)過負荷(マイナス)でもないただの普通(ノーマル)だ、別にスキルなんか持っちゃいねぇよ」

古賀をその場にゆっくり下ろし、今度は慣れた手際で影照に応急処置を施す名瀬。

するといきなり持っていた水筒を開けて影照の頭から冷えた水をひっかけた。全身の火傷に水が染みる、硝煙の中に長くいたせいで大きな声も出せずにただ歯を食いしばった。

「男の子だろ?動くんじゃねーぞ、火傷の応急処置は冷やすのが一番なんだからよ」

水筒が空っぽになったのを確認した名瀬はすぐさま切り裂かれた影照の足の止血に取り掛かる。

「本当に・・・すまない」

「最初に言っとくがこれは俺の意思じゃない。古賀ちゃんの為だって事を忘れんな」

足に巻いた包帯を名瀬は力強く絞め、本当に殺気の隠った目で影照を睨みつけ、喉元にメスを突きつける。

 

「もう二度と古賀ちゃんを泣かせるな、マジでブッ殺すぞ」

あまりに冷酷な声色、確固たる覚悟と言っていることが全て本当のことであるというのが肌を切り裂くように伝わってくる。

「どうして、俺が?」影照はそう言いかけ、口を紡いだ。

そしてその代わりに「分かった」と一言だけ返した。

メスの切っ先が震えている。名瀬の目が潤み、傷だらけの影照の顔を映していた。

おそらく、名瀬にとって「古賀いたみ」はそれほど大きな存在なのだ。

影照は思った。古賀の告白の意味を。

まだ今のままでは、自分は彼女の想いにどんな返事をしたら良いのかわからない。自分が釣り合う人間ではないことは承知だし、まだお互いに知らないことが多すぎる。

だからこそ、前を向かなければならない。お互いの納得できる答えを知るために。

 

影照はゆっくりと下がっていくメスの切っ先を眺めながら、古賀に呼び掛ける。

「古賀さん、俺はまだ君の想いになんと答えて良いのかわからない。もちろん半端な答えを返す気はない。だから――」

顔の(すす)を払う。

お互いがお互いの目を見つめ合う。

「──俺達の仲間になってくれないかな?内容は破魔矢が前に話したと思うから、改めて話さなくてもいいよね。古賀さん、俺はもっと君のことが知りたいし、もっと俺のことを知ってほしい。話は、それからだと思うんだ」

「私がいても迷惑じゃない・・・・・・んだよね」

「あぁ。むしろ、とても嬉しい」

 

 

 

 

(しかし、不可解だ)

目の前の磁力を操っている敵の攻撃をすべて迎撃して、ジリジリとその差を詰めていく。

誰がどこからどう見ても優勢なのは人吉善吉の方であった。

それでも、善吉の表情は晴れなかった。あまりにも奄美の攻撃が単調すぎるからだ。

傀儡や様々な形状に変化する鉄くずが善吉に押し寄せる。善吉の死角から、数に物を言わせて、受け止めきれないような重い一撃から空気すらも切り裂くような鋭い一撃。

攻撃パターンは数多であり、過去に善吉に弾かれた攻撃は決して繰り返さない。

それでも、善吉は単調であるとそう思う。

攻撃すべてに集中している頭の中で生まれたこの「違和感」。コレのせいで善吉は一歩踏み込んでの攻撃ができずにいた。

 

 

「なぁ、名瀬さん。善吉くんの今の戦闘スタイルは『サバット』と・・・もう一つあるな」

「ん、気づいたか。そうだな、もう一つ人吉には戦闘スタイルを教え込んである」

『サバット』、フランスで発祥した戦闘技術の一つである。その特徴は、靴を履いていることを前提とした蹴り技を主体とするスタイルであり、フットワークと間合いの見極めが重要となってくる。

戦闘というより護身術向きで、何より外靴を履いているためより実戦を考えに置いた戦闘スタイルとなっている。

 

「っ!!」

善吉が迫りくる二体の傀儡を瞬時に蹴り飛ばし上半身を砕く。

しかしそれを予想していたと言わんばかりに、下半身だけ残された二体の傀儡は合体して善吉の懐に飛び込む形で出現した。

『サバット』のような蹴り技を主体とした格闘術は間合いが非常に重要で、このように懐に攻め寄られると十分な対応ができなくなってしまう。

しかし、善吉はその不利な状況を瞬く間に覆す。

「ふんっ!!」

いうなれば鉄の塊である傀儡に向かって思い切り頭突きを繰り出した。

ゴンッという鈍い音が響く、その一撃で傀儡が砕けることはなかったが代わりに十分な間合いができる。

そしてまた得意の蹴り技で今度は全身を砕いた。

「そう『サバット』よりも実戦向きの格闘技術、『クラヴマガ』を人吉に教え込んだ」

「・・・初耳だな」

名瀬が言うには『クラヴマガ』というのは、イスラエルので発祥し、その後軍隊や一般市民が習得できるようになった格闘技らしい。

不利な状況に置かれた自分の身を守る為にはどうすればよいか、過酷な日々を送っている国の人間だからこそ習得することのできる防衛術で、身近に落ちている武器となりそうなものの扱い方から不利な体制からいかに抜け出せるか、急所の狙い方、そういった実践を大前提においた格闘スタイルである。

(人吉善吉、あのポテンシャルはやっぱり現生徒会を敵に回した時に一番の脅威になるだろう)

 

 

「貴様ァ、本当に普通(ノーマル)の人間なのか?」

「生徒会庶務の人吉善吉だ。しっかりと覚えとけ!そしてもう二度と、些細無先輩達に近づくんじゃねーぞ!!」

地面から複数の槍が突きだしてくるが、善吉は震脚でその全てを弾き返した。

そして、そこで攻撃のラッシュが止まる。

「なんだ、もう降参か?」

それでも善吉は警戒の構えを解くことなく、腰を落とし拳を胸の前に据える。

「なんなんですか、さっきから。全員が寄ってたかって些細無(アイツ)のことばかりを気にかけて僕に刃向かってきやがる」

「あ?」

「だってそうだろうがっ!どう考えたって僕はアイツより強かった。なんで貴様等は弱い奴の味方をする!?今まで僕を馬鹿にしてきた奴らは、この力のおかげで僕の前にひれ伏した!僕を差別した教師や大人たちも、僕をまるで汚物でも見るような眼をしてきた女共も、僕より幸せそうにしてたやつらもみんな、みーんな僕の力の前には成す術も無くひれ伏した!考えれば分かるだろ、弱い奴はただ大人しく僕の言うことに従えばいいんだ。なのに、なのになんでお前らはそんな弱い奴の味方をする!?」

いまだかつて聞いたことのない、奄美の大声の前に善吉は委縮してしまい思わず飛び退いてしまった。

奄美は息を荒げ、足元の磁力の紋様も不規則にグネグネと形容しがたい形へと変わっていく。

「おい、そこのクズハゲ野郎が。そんなもんもわからずに今まで生きてきやがったのか?」

名瀬が立ち上がり、気怠そうに奄美に言い放つ。

そしてその言葉に続くように、善吉は闘志剥き出しで答えた。

「『友達だから命すら賭けられる』ですよね、師匠」

「ケッ。そこは『仲間だから』だろう?まだこいつを俺は友達と認めたわけじゃねーぞ」

 

「・・・・・・んだよ、なんだよ畜生。本当に、心の底から気に食わないです。『仲間』だとか『友達』だとか。わかりました、それだったら貴様等の望み通りみんな一緒にブチ殺してやりますよ」

「──なっ!?」

鉄くずや砂鉄が一斉に奄美の体に殺到する。そして、それは腕や足や頭や胴、身体全てを覆い隠す真っ黒なプロテクトを形成し始めた。

今のうちに叩かないと、すべての攻撃が通らなくなってしまう。そのことを本能で感じ取った善吉は瞬時に黒い渦の中に飛び込み、十分な勢いを込めた飛び蹴りをその顔面に繰り出した。

しかし

「グッ・・・ハッ・・・・・・」

防御も何も考えずに繰り出した攻撃は、奄美の拳によるカウンターを喰らい無残に弾かれてしまう。

そして自らを傀儡と化してしまった奄美のような黒い塊が、完成した。

 

「・・・・・・・・・・」

もはや言葉すら発さない傀儡は、両腕に刃物を形成させゆらゆらと善吉に迫る。

しかし、先ほどのカウンターの打ち所が悪かったのだろうか、善吉はその場から動けずにヒューヒューと苦しそうに呼吸をするだけで、奄美のほうへ注意がいっていない。

 

「・・・・・・助けないとっ」

もう何も武器も道具も持たない影照は、動かない両足を引きずりながら善吉のほうへ向かおうとする。

もはや彼の体を動かす原動力は気概だけだっただろう。

そんなボロ雑巾のような影照に名瀬はドクターストップをかけた。

「心配すんな、アイツを育ててやったのはこの俺だぜ?大船に乗ったつもりでいろ」

「んなこと言ったって!」

「あーうるせーうるせー。人吉にはまだ教え込んでいるモノがある。一番集中的にアイツに叩き込んだのは『ボードゲーム』だ。今のアイツは、常に相手の一歩先を頭の中でシュミレーションしてるんだよ」

名瀬がふと善吉から目線を外した。

 

そして善吉が口から血を吐き出して、不敵に微笑む。

「──些細無先輩を助けたい『友達』ってのは、何も俺と師匠だけじゃないんだぜ?」

 

 

刹那、圧倒的なまでの力と硬度を誇る奄美の身体は地面に沈められる。

「いやー、下手に動かん方がええで。両腕をがっちりキめとるからなぁ」

「真黒さんに止められたんですけど、リハビリを兼ねての戦闘なので大丈夫ですよねっ」

「鍋島先輩と阿久根くん!?」

突如現れた阿久根と鍋島の姿に影照は驚きを隠せない。

奄美は万力を込めて体を動かそうとするが、柔道界の逸材が両腕を掴んでいるためビクともしないようだ。

しかしこれで諦めるようなヤツではないことは影照が一番よく分かっていた。

 

「二人とも!すぐに離れて!!」

奄美の全身から無数の針が突き出される。影照の掛け声のおかげで、二人は直前で反応することが出来た。

「なんや、さっきまでこんな奇妙奇天烈な物体と戦ってたのかいな?」

影照の声がなかったら一瞬で蜂の巣になっていたであろう自分の姿を想像して、鍋島は冷や汗を拭った。

奄美は重い体を起こしながらゆっくりと立ち上がる。

「一瞬で関節を破壊すれば何も問題はないですよ」

阿久根はそう言って奄美に隙が出来ているうちに追い打ちをかけようと鍋島に提案する。そして、それに抗議をすることなく二人は頷き同時に駆け出した。

 

しかし、動けない。

 

奄美の射程圏内に入ってしまった彼らは、逆に奄美の前に跪くようにその場に平伏した。

「・・・・・・・・・・」

全身からあらゆる鈍器や刃物が突き出した奄美が善吉もろともすべてを壊そうと迫る。

しかし、そんな中でも影照は落ち着いていた。

だって一番影照と共に生きてきた時間の長い彼らが見えたから。

 

「91101462917203272890118(尺を取りすぎなんだ、さっさとくたばれ)」

無数の刃物や鈍器をものともせず、その全てを打ち砕いた鉄球が奄美の体を捉えた。

「姉ちゃんの攻撃でも、申し訳程度のヒビしかつかないなんてなー」

宙を舞う奄美の身体に向かって放たれた複数の小さな玉。その小さな玉からかろうじて見えるくらいの細い糸が出てきて、体中を絡めとった。

ドサリという音を立て奄美は地面に落とされる。

あがけばあがくほど絡まる鋼の糸、ギシギシという不快な音がなるだけで奄美における現状はますます悪化していくばかりであった。

 

「冥加、冥利・・・・・・、そしてやっぱり一番おいしいところは君が持っていくわけだね」

 

煮えたぎるマグマのごとく、紅蓮に染まる髪をなびかせ横たわる奄美を見下ろすように立つ。

黒神めだか。彼女の拳が空気すらも握りつぶさんばかりの握力で握られている。

「古賀二年生、些細無二年生、くじ姉、善吉・・・ここに居る全員の顔を、姿を見れば大体の察しが付く。貴様が何者で何を背負ってるのかは知らんが、ここまで『友達』を傷つけられて穏やかでいれるほど私はできた人間ではないぞ」

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