陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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50箱目 傷つけた者、傷ついたもの

「人と人の絆は奇跡を起こす」

いやー、まさにその通り。スタンディングオベーションの拍手大喝采、見事なまでに僕の期待を良い方向に裏切ってくれるね。些細無くん。

運命という水面に、君が起こした変化はすでに波紋のように大きく広がっていたんだね。

道理で君の運命だけを弄ったところで、どうにもならないわけだ。久々に楽しませてもらったよ。

誇るべきことだ、君はこの「安心院さんを欺いた」んだからね。

人だけにとどまらず人外すらも欺いた些細無影照くん。

 

ますます君の事が知りたくなってきたよ。

 

直接会って是非ともお茶をしたいね。

君の過去を今を未来を、君の全てが知りたい。僕は今君に夢中なんだぜ?

おっと、この事は是非とも球磨川くんには内緒にしてくれよ?あの子はあれでいて結構嫉妬深いからね。

 

そうそう

最近、些細無くんのお父さんお母さんと仲良くやってるんだが、なかなかあの人達も面白い人達だ。

あー、ちなみにこの場合の君のお父さんお母さんは雲仙の二人のことだから心配しなくてもいいよ。

そういえば、冥日さんのあの料理、僕はなかなか言い腕をしてると思うんだ。

この前僕は冥日さんと一緒に料理を作ってみたんだが、我ながら中々の出来でね

宣託さんと半纏は喜びに打ち奮えながら料理を食べてくれたよ。

 

っと、無駄話はここらへんにしておこう。

 

さてさて、君が変えたみんなの運命。

しかし、君もよく分かってると思うんだが、必ずしもみんながみんな幸せになったわけではない。

よーく考えてみてくれ。今回の戦いで一番の被害者は、誰だと思う?

 

 

 

 

間に合え、間に合え、間に合え。

いくら力んでもビクともしなかった鉄の拘束具が急に外れ、締め付けられていた手首に血が通い熱を帯び始める。

奄美がこの場を離れてどれほどの時間がたったであろうか。時折聞こえる大小さまざまな爆撃の音、あれは影照と奄美が戦闘を行っている音だと思って間違いない。

しばらく動いていなかった足腰にいきなりエンジンをかけたせいか、内から地味な痛みが広がって腰とひざの関節がギシギシと鳴る。

間に合え、間に合え。

爆撃が響いてきたのは運動場の方向だ。

はっきり言って今の影照では奄美には到底かなわない。どれだけ策を練ろうとも、孔明でもない限りこの戦力差をひっくり返すなんてことは出来やしない。

間に合え。

もう嫌なんだ。俺のせいで誰かが傷つくのは。

破魔矢のあの姿を見て決意したはずだ。もう二度と過ちを繰り返さないと。

この拳は、脚は、頭は、声は、心臓は、すべて仲間を守るために使い果たすのだと。

 

────間に合え!

 

いちいち一階まで下りて運動場に出ることはできない。

その大きな巨体を、運動場を奥に移す窓ガラスに突っ込ませた。肌が破片で切れる、しかし今はそんなことは気にならない。

両足で地面に着地する。脚から響いてくる衝撃など、すべて力でねじ伏せた。

走る。

運動場に近づくにつれ、硝煙の臭いがはっきりと鼻腔に浮き出てきた。

 

「影照っ!!」

 

学園側で綺麗に整えられた茂みを抜けると、急に視界が広くなる。グランドの砂が照り返す太陽の光が痛いほど目に染みた。

萎んだ目に映る黒く焦げた砂。クレーターのように抉れた地面などの惨状が心をきつく締め上げる。

そこに見える複数の人影、足取りを速めた。

 

 

 

「あぁ、日之影三年生。やっぱり、あなたもここに駆け付けてこられたのですね」

肩を大きく息をしながら、辺りを見渡した。

無残に切りそろえられている髪型の古賀いたみ。白目をむいたボロボロな姿で倒れている奄美鋼折。黒神めだかを筆頭に、この場にいる仲間全員が様々な傷を負っている。

そして何より、生きているかどうか怪しいくらいに全身を包帯で巻かれている人が目を引く。

「あれは、影照だな・・・・・・?」

「心配なさらないで下さい。今は意識を失っているだけです、くじ姉の適切な応急処置によって命に別状はありません。しかし、回復には時間がかかるようです、全身火傷にアキレス腱の断裂。再び、立って歩けるようになる日が来るのは、考えにくいかと・・・・・・」

まただ。

・・・また、俺のせいで守れなかった。俺の力不足で。

なにが「英雄」だ。ふざけるな。

「・・・・・・なぁ、影照。お前が本気で慕ってくれていた『英雄』は、所詮この程度の男だったんだぜ?笑えないよなぁ。どこに、目の前で仲間が傷ついているのを、二度も見逃した英雄がいるんだよ?口先ばっか偉そうなこと抜かしてよぉ」

「日之影三年生・・・・・・・・・・」

強く握られた拳には自身の爪が刺さり血が滲む。

深く沈んだ日之影の心に、めだかはどのように手を差し伸べれば良いのかわからなかった。

 

 

 

 

沈んでいた意識がズルズルッと、一気に表の世界に引き抜かれる。

目を開ける、多分自分の体はベッドの上に横たわっているはずなのだが、狂った平衡感覚が脳を揺らし腹の底から嗚咽を誘発させる。

しかし、胃袋にはなにも入っておらず、不快な気分が波状になってますます脳を揺らす。

「テルくん、落ち着いてください」

口と鼻を覆うように、顔にビニール袋が被せられる。

クシャクシャと乾いた音を出しながら、呼吸にあわせ袋は膨らんだり萎んだりしている。

徐々に呼吸が整い始め、気分も最初よりは落ち着いていった。

 

「ありがと、もういいぞ」

「それは良かった」

目の前の親友、百町破魔矢がにこやかに微笑みビニール袋を自らの足元に、縛りまとめて置いた。

よくみると破魔矢の腕には複数の管が通っており、目元と口元以外を覆うように包帯が巻かれている。

「一体どうしたんですかテルくん。病室にこれだけ人を集めこんで、皆さん二次会終わりの朝みたいになってますよ」

破魔矢の苦笑いにつられて影照はゆっくり首を動かし周りを見渡す。

冥利や冥加だけでなく、古賀や名瀬、黒神めだか、善吉、阿久根、鍋島先輩がベッドの周りで各々が疲れたようすで眠っていた。

「あぁ、そうか」

一人一人の顔を見て、記憶がフラッシュバックしていく。

「良かった、勝ったのか」

みんな生きている。

影照の心に暖かい熱がジワジワと広がっていった。

 

「あー、安心したらまた急に眠くなってきた。あと加えて腹も減ってる気がする」

「それもそうでしょう、テル君は気づいてないかもしれませんが丸三日眠ってたんですよ?」

「え、ホントに!?」

「かくいう私も、ずっと寝たきりだったんですけどね」

長い間、異常性の強い人間たちに囲まれていたせいか通常の感覚が麻痺しているのかと、今さらになって影照は破魔矢の体や顔に巻かれている包帯に気づく。

包帯の隙間から微かに見える裂傷や火傷の跡がとても痛々しい。

「お前も大変そうだな」

「お互い様ですよ」

二人とも口をつぐむ。お互いの傷の原因より、それよりもひとつ気になっていることがあった。

 

「なぁ、ハマ。今、アイツはどんな顔してると思う?」

「私も今同じようなことを考えていましたよ。いやまぁ、どんな顔をしてるかなんて想像には難くないでしょう」

「だよなー。アイツは善吉くんよりも誰よりも人間やってると思うぜ俺は」

誰に頼ることもなく、己の両手に収まりきれないほどの物全てを守るために戦い

強き者が弱き者を守る、それを当たり前のように考えて、誰にも振り向かれず、ひたすら我が身を他人のために削り続けた。

このままでは、いつか必ず壊れてしまう。

誰の記憶に残ることもなく土に埋もれていってしまう。

そんなの、あまりにも悲しすぎるではないか。

「テルくん。あなたは、どうしたいですか?」

破魔矢が悪戯な笑みを浮かべ、影照に問う。

思わずつられて笑ってしまう。

あぁ、いつも俺は空洞にこんな意地悪な質問をしていたのか。

「決まってるさ。友達が困っているのなら、それを助けてこその友達じゃないか。今のアイツに必要なのは、自分の声に耳を傾けることよりも、周りの声を全身で感じることだ」

 

確かにこの学園を綴る物語の主人公は黒神めだかや球磨川禊、人吉善吉なのかもしれない。

日之影空洞や百町破魔矢、古賀いたみではないのかもしれない。

「それでこそ、私の親友の些細無影照くんです」

どこかしら朗らかな声が、影照の心を内側から暖める。

そして今度は、影照が悪戯な笑みを浮かべた。

「もちろん、お前も助けるぜ?どんな手を使ってでもだ」

「・・・へぇ、楽しくなりそうですね」

「そうだな、楽しくなりそうだ」

お互いに不敵に口角を上げる。

 

 

「っし、いつまでも盗み聞きは趣味悪いですよ鍋島先輩。いい加減起きたらどうですか?」

破魔矢もビックリな会話の方向転換。

不意を突かれたのだろうか、鍋島は体をビクッと動かした。

怪訝な目線を向けられている鍋島は、しばらく抵抗を続けたが、観念したように目を開けた。

「あーもー、どこまでも目ざといなぁ。ホンマビックリしたで」

ニヤニヤと(いや)らしい顔をして、鍋島は開いた目で破魔矢と影照の二人を交互に見渡す。

「鍋島先輩、保険にとっといたアレを使いましょう」

「まー、妥当な判断やな」

破魔矢は二人が何を話しているのかわからず、首をかしげた。

 

「喜界島さんの方もある程度下準備は終わっているようですし」

「おー。じゃあウチは御託をダラダラ並べるだけの楽なお仕事や」

「相手は長者原くんですよ?一番大変なのは先輩だと思うんですけど」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

ついに疑問を抑えられなくなった破魔矢が二人の間に割って入る。

頭が軽くショートしかけている百町破魔矢。痛んでる体に悪いことをしたなと、申し訳なく思った影照は後で密かに謝っておこうと心内で決めた。

「いったい何の話ですか?私にもわかるように説明してくださいよ」

「いやいや破魔矢くん。サプライズを事前に教えちゃあつまらんやろ?」

「だったら最初から、私に聞かれないように企んでください!」

あきらめたように、眉間のシワを揉み解す破魔矢。

この様子から見ると、話の内容を聞くのは諦めたようだ。

「んー、まあヒントを出すとすると・・・・・・上を動かすより、まずは根元からって話だよ」

「ますますわかりません」





更新遅くなり本当に申し訳ありません。
今リアルの方で、試験やらとある文庫に応募するための一次創作の締め切りやらが迫ってきていて
この作品に当てられる時間がどうしても少なくなり、亀更新になってしまいました。
これからもしばらくこの更新速度のままだと思いますが
どうかこれからも応援よろしくお願いします。
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