「あれ?こんなところで何をしてるんですか鍋島先輩☆」
「おー、不知火ちゃんやないか。最近あんまり見てないなーって善吉くんが寂しがっとったで」
「あひゃひゃ。今のあたしは敵なんだよって教えといてくれませんか?」
「そんなつれへんこと言わんでえーやん」
『選挙管理委員会』の立札のある教室の前で、
互いに笑顔のポーカーフェイス。
これは、水面下で動く道化師二人が思わず顔を合わせてしまった一場面である。
「鍋島先輩、いえ、些細無先輩かな?一体何を考えてるんですかね、もしかしてあたしと一緒の事を考えてたりするんですか☆」
「いやーなんのこっちゃろうな。ウチはただここで喜界島ちゃんと待ち合わせしとるだけやで?外野は外野らしく大人しくしときーやってな」
子供の様に、無垢を装いながら不知火は鍋島の前に餌を垂らしてみたが、当の本人は知らぬ存ぜぬの押し問答。
互いにここで出会うなんて考えていなかったものだから、何も手札を持たずに手の内を探るのは難航を極めた。
ここはボロを出す前に退く。互いに相手が悪かった。
「まぁ、そういうことにしときますよ。あんまり変なことはしないで下さいよ」
「ククッ、かーちゃんみたいなこと言うなぁ。大丈夫やで、何てったってウチはただの外野なんやから」
不知火は手元に持っていた、業務用かと思うほどの大きいポップコーンの袋を開けて、片手いっぱいに握りそれを乱暴に自らの口に放り込んだ。
鍋島を睨む視線が、先ほどの無垢な表情とは違いとてもキツイ。
「選挙管理委員会は、アタシが先に見つけた獲物なんだ。横槍を入れるっていうんなら容赦しませんよ」
「じゃあ約束するか?ウチは余計なことはしませんよって」
「反則王相手に約束なんてするわけないですよ」
「クククッ、相当嫌われてんなぁー」
不知火はそのまま何を言うでもなく鍋島の横を通りすぎ、ふと目を離した隙にはもういなくなっていた。
「はぁ、はぁ、鍋島先輩!」
「おー、喜界島ちゃん。お仕事ご苦労様やで」
不知火が消えた直後に喜界島もがなが走って鍋島のもとにやって来る。
先程まで鍋島を覆っていた緊迫感は消え、いつも通りのふざけた先輩風の空気が場を包んだ。
「とりあえず、些細無先輩に渡されたリストの方々に声をかけてみました。皆さん、些細無先輩の名前を出すと渋々ながらも協力的になってくれたんですが、どうしてなんでしょうね?」
「まーアイツはあんな成りしとるけど、元風紀委員長で過去最高に違反者を出さなかったていわれとるヤツやしな、グレーゾーンに手足突っ込んどったってなんもおかしくはないやろ」
そう言って、鍋島は楽しそうに喜界島の持っていたリストを手に取り、そこに連ねてある名前を一人一人確認していく。
「あの、その名前の横に○をつけている人たちが協力してくれると約束してくれた人たちです」
「クククッ、喜界島ちゃんも相当やで」
リストを一通り確認し終わると、その紙を喜界島に返した。
「私、何かしましたか?」
鍋島の言葉に引っ掛かりを覚えた喜界島は、渡された紙をオドオドしながら受け取った。
しかし、鍋島はそんな様子を見た上で尚更笑いを押さえられない。
「いやいや、誉めてんねんやからそんなにビクつかんでもええで」
「は、はぁ」
「いやー、喜界島ちゃんの鑑定眼は本当に凄いと思うわ。仲間に入れんでええようなヤツは一人も仲間につけんで、利用価値のあるヤツは全員仲間に入れとる。多分このリストの人間は全員仲間にしようと思えばできたようなやつらやろーに」
「あははっ、買いかぶりすぎですよ。裏切られる可能性は出来るだけ小さくした方が良いかなと思いまして」
「ククッ、ほなごくろーさんやったな。喜界島ちゃんはゆっくりしとってええで、ここからはウチの仕事やからなぁ」
「はい、では頑張ってくださいね」
可愛らしく首を傾げ、笑顔で喜界島は鍋島に激励を送る。鍋島はパタパタと手を振り、駆けていく彼女を見送った。
時折、可愛らしい喜界島が見せるゾクゾクするような暗い眼差し。
そんな彼女にかかれば、自分がどう策を練ろうがその全てを先回りされてしまいそうな、危機感に近い気分の高揚を鍋島は感じる。
「全く、些細無くんの人選に惚れ惚れするなぁ」
鍋島は喉の奥でクツクツと笑い、教室のドアを開いた。
「太刀洗ちゃーん、お邪魔するでぇー・・・・・・っとぉ、なんやぎょーさんおるやん」
ドアを開けた瞬間に、
その奇妙な光景を不気味に思いながらも、鍋島は相変わらずの微笑み顔で演技じみた驚きを見せた。
すると黒衣の一人がこちらに近寄ってくる。
「こちらにどのようなご用でしょうか?」
「そんな警戒せんでええよ。ただの部外者がちょっとここの太刀洗会長さんとお喋りしに来ただけやって」
そう言って鍋島は少し強引に黒衣の横を通り抜け、中央奥へと進んだ。
そして黒衣は大した抵抗をするでもなく、鍋島に小さく呟きかける。
(ここに居る黒衣は全員、喜界島さんに言われた『味方』です。詳しいことをあまり聞いていないのですが、我々はいったい何をすればよろしいのでしょうか?)
(聞いてないんか?
鍋島がそのままスタスタと通り過ぎる。
周囲の黒衣も特にその進路を阻むことなく、ただその鍋島の自慢げな微笑みを遠巻きに傍観していた。
ただ一人を除いては───
「止まっていただきたい。ここから先は、許可なしに踏み込ませるわけにはいきません」
「ククッ、長者原くんつれないこと言うなや」
さっきまでいなかったはずの委員会副会長、長者原融通が何かの仕掛けに反応したかのように突如として鍋島の背後に姿を現し、ギリギリと肩を掴んで離さない。
その力強さから鍋島は額に汗を流す。
女性であろうと、誰であろうと規則を破る者は厳正に処罰するといった心づもりをヒシヒシと感じさせた。
「話し合うからその手を離してくれへんか?別にウチは殴り込みに来たんやないんやで」
「分かっていますが、立場上こうせざるを得なかったので。それでは、あちらの席にまずはお座りいただきたい」
長者原はパッと手を離すと、近場にあった机を軽くて前に引き寄せ、自分の向かい側に座るように促す。
跡がついているのではないかと不安になる痛みを肩に感じたまま、この場の雰囲気に少し不安を感じていた。
長者原が現れてからというもの、あきらかに周囲の黒衣達が一気に委縮してしまったのだ。
鍋島も予測をしていなかったわけではないが、自身が事態を甘く見ていたということも否めない。
この短期間でこれだけ大勢の協力者を得ることが出来た理由は2つ。
一つは偏に喜界島もがなの手腕。
もう一つは、協力の内容が「味方になってくれるだけで良い」という簡易的すぎる拘束力だからだ。
確かにこの方法ならば早く味方を得ることが出来るが、裏切ることも容易い。
しかし、この作戦を考えたのが「些細無影照」であること。
彼が考えていることなのであるから、鍋島は信じて行動することが出来た。
(確かに、これはウチが一番大変なお仕事かもしれへんな。まずは、この空気をこっちに引き寄せんと)
てきぱきとなにやらの書類を取り出して机の上に並べている。
そのあまりの生真面目さに、鍋島は長者原とは根本的に分かり合えないなと感じながら、椅子を引いて腰を下ろした。
「さて、それではこちらに伺った理由をお聞きしたいのですが」
「やから言うてるやろー、太刀洗ちゃんとお喋りしに来たてぇー」
「あの会長と、プライベートで親しいのですか?」
「違うよ、今日が初顔合わせやな」
「・・・・・・はぁ、目的を話してください。ご用件は何ですか?」
「つれへんなぁ」
挑発をして相手に軽く揺さぶりをかけてみようとしたが、流石にこの程度じゃ揺れてくれ無いようだ。
「今がどのような時期か分かっているのですか?まさに生徒会戦挙が行われている時期に、鍋島先輩の暇潰しに付き合っていられるほどこちらは暇ではないのです。しかも規則としては鍋島先輩は『部外者』、選挙に関する申し立ては一切認められないと言うことを頭に入れてから、ここに来た理由をお話し下さい」
「うっ・・・・・・そんな
「我々は次の書記戦の準備をしないといけません。用がないなら帰っていただきましょう、うちの会長も就寝中のようですし」
長者原が顎をくいっと動かし黒衣の一人に指示を出した。
黒衣は少し迷ったような間を置いた後、出入口のドアを出来るだけ静かに開く。
「どうぞ」
席を立ち、少しも表情を崩さず退席を促すように長者原は開かれたドアに手の平を差し向けた。
事務的な態度。訪問相手がいくら変わり種であろうと『公平』の
しかし、それは『反則王』こと鍋島猫美も同じである。
「まぁ、もうええか。用事っていうのは、選挙管理委員会にちょっと変更してほしいことがあってきたねん」
「変更してほしいこと?」
「書記戦を取りやめてくれっていう話」
久方ぶりです眼鏡です。
とりあえず新人賞用のお話も書き終わり一段落です、と言いたいところですが(ぇ
友人にゲーム制作をする際のシナリオ係りを任せられたり、とあるWebゲームのシナリオも描きたいのでそっちのサイトの方の勉強をしたり、また別の新人賞用のお話も書いたりと大忙しです(´・ω・`)
少し更新ペースは落ちると思いますが、これからも本当によろしくお願いします(__)