陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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一周年記念 食欲の秋

「いやぁ、秋ですねぇ」

「え、えっと、うん。そうだね」

「オイ、時系列とかはこの際もうどうでも良いから、何で集められたかを教えてくれ」

「082619262691191729(久しぶりの登場、雲仙冥加です)」

夏も終わり、気温は一気に冷え込んできた。

そんな休日に、学校の調理室で世にも奇妙な面子が集まっていた。

 

「おっと、自己紹介が遅れましたね。私の名前は百町破魔矢です、仲良くしてね」

何故かエプロン姿の百町は、目の前の女性三人に恭しくお辞儀をする。

頭に疑問符を浮かべまくっている古賀いたみ

明らかに不機嫌な志布志飛沫

変わらず鉄のように無表情な雲仙冥加

その三者三様の反応に、百町の微笑みも満たされたものに変わっていく。

「いやぁ、秋ですねぇ」

「それはもう聞いたんだよ!何でアタシ達がここに集められたかを聞いてるんだよ、殺すぞ!!」

 

 

「では、いきなりですが趣旨を説明しましょうかね。あなた方三人は、些細無影照くんのことが好きですよね?」

 

 

「ひひひひ百町くん!?いきなりどうしたの!?」

「な、何であの野郎の名前が出てくるんだよ!殺すぞテメー!!!!」

「影兄のこと、大好き」

「「!?」」

百町の思わぬ発言で慌てていた古賀と飛沫だったが、それよりも冥加の一言に、更に驚いていた。

「うんうん。あなた方の気持ちはよーくわかりました、私も親友の幸せを願う人間ですので、その反応はとても嬉しく思いますよ。それより、冥加さんはテルくんのことになるとちゃんと喋れるんですね」

冥加は小さく頷く。

 

外を見れば、今日はとても良い天気で、調理室にも柔らかな日射しが入り込んでいた。

「くだらねー、アタシはもう帰るぞ!」

顔を真っ赤にした状態で、飛沫は身を翻す。しかし、百町はここでみすみす逃がすような男ではない。

飛沫は肩に手を置かれ、悪戯な笑みを浮かべる百町がその耳元に囁きかける。

「大丈夫ですよ、これはあなたにもメリットがありますから」

「興味ないね」

「まぁ、聞いていってくださいよ。そもそも、あなたが私の異常(アブノーマル)から逃れられるとでも?」

「・・・チッ」

大人しく飛沫が定位置に戻ったのを見て、百町は楽しそうに両手をパンパンと叩き、この場の注目を集めた。

 

 

「まぁ、飛沫さんはまだその心が固まってはいないでしょうから少し酷な話でしたかもしれませんね。それでも、あなた達にはこれからちょっとした勝負を行ってもらいたいと思います。もちろん景品も用意していますので、頑張っていただきたい」

そう言うと百町は調理室から出て行ってしまう。

三人が難しそうに首を傾げていると、何やら扉の外が騒がしくなってきたのが聞こえた。

 

再び現れた百町。

しかしその両手は何故か車イスを引いており、そしてその車イスには更に何故か、両手両足が縛られ目隠しを施された些細無影照が座らされていた。

「おい、ハマ!一体どういうことだ!?」

「まーまー、落ち着いて、テルくんには妹さんを始めとした皆さんの料理の味を審査していただくんですから」

「っ!?今、冥加が料理をするとか──」

「ちょっとうるさいですよテルくん」

古賀達は未だかつて見たことのないような、嬉々として影照の口を片手で塞ぐ百町に少し引いている。

みんなの頭の中で、『親友』という言葉が急に薄っぺらになっていったのは言うまでもない。

 

「はい、では今から皆さんには『テルくんに何でも好きなことを一回だけ命令できる権利』をかけて勝負していただきます。これなら飛沫さんも好きなだけテルくんに仕返し(・・・)することができますよ?」

「そ、そうだな。これなら今までの恥辱も返せる・・・」

「モゴモゴ(俺の人としての権利はどーなった)」

「鈍すぎるテルくんにそんな権利はありませんよ」

「モゴォ!(よくわからんがヒデェ!)」

本人の人権の預かり知らぬところで、身勝手過ぎる権利が発行された。

ブツブツと自分の世界に入る志布志をよそに、冥加と古賀の目が爛々と輝き始める。

 

「勝負内容は、秋の食材で料理対決です。あ、一応この勝負に私も参加しますのでよろしくお願いいたします。なお、実況兼審判として長者原さんに来ていただきました」

「よろしくお願いします」

「シクシク(もうやだこの学校)」

 

 

『さぁ、始まりました。秋の料理対決、実況は長者原融通がお送りいたします。今回のルールは至って簡単、一番おいしい料理を作り上げた方の勝利となります。なお、審査員の好みに合わせる為、些細無さんへの質問も好きなだけOKとなっています。それではまず、古賀いたみさんの陣営へ参りましょう』

 

「あ、こんにちは長者原さん」

「こんにちは。えっと、ところで古賀さんは今から何をつくるつもりなんですか?」

「うーん、スイートポテトを作ろっかなぁって、エヘヘ」

奄美との戦いの後、髪を思い切ってショートヘアにした古賀は、長者原の質問に照れ笑いで返事をした。影照はそんな古賀に、不意に目を奪われてしまう。

両手両足が縛られたままの影照。古賀は制服の上にエプロンをかけながら、少し照れたような笑顔を向けた。

「ね、ねぇ些細無くん。スイートポテトって好き?」

「え、あ、うん」

「良かった!」

髪を切ってからだろうか、影照は最近何だか一段と古賀の表情が明るくなったように見えていた。

しかし、何故だろう。影照は額から出てくる冷や汗をどうも抑えきれない。この汗を拭いたいが、両手両足が縛られているせいでその要望は叶えられそうにもない。

影照は出来るだけ彼女の笑顔を崩さないように、自分も同じように微笑みながら、彼女の両手に持っている食材(・・・・・・・・・・)がどのような用途に使われるのか聞いてみることにした。

「ちょっといいかな、古賀さん」

「うん、なに?」

「スイートポテト作るんだよね?」

「そうだよ♪」

「えーっと、その両手に握っているマヨネーズは何に使うのかな?」

「え、些細無くんマヨネーズ嫌いだった?」

「嫌いではないけどね」

「なら良かった!」

そう言って古賀は鼻歌でも歌いだすのではないかというほどの上機嫌で、両手にマヨネーズを携えたまま調理台へパタパタと駆けて行った。

「どゆことおおお!?」

影照の悲痛な叫びは、誰にも届かない。

 

 

『古賀さんの視察も終わりましたし、次は志布志さんのところを見に行きましょう』

 

「こんにちは志布志さん」

「・・・・・・」

長者原の話しかけを無視し、黙々と作業を続けていた。

無言でガツガツとクッキーを砕く飛沫の姿は、どこか鬼気迫るものを感じる。

こうなると、解説者として立つ瀬が無くなってしまった長者原。仕方なく、審査員の影照へと呼びかけを行う。

「些細無さん、志布志さんは一体何を作っているのだと思いますか?」

本当に小さい頃から雲仙家のキッチンに立っていた影照。調理台に置かれてある材料をもとに、飛沫が何を作り出そうとしているのかを経験則から導き出してみる。

「砕いたクッキーと梨がメインか・・・・・・多分、洋梨のタルトじゃないかなぁ?」

 

───ゴッゴッゴッ!

 

影照は、心なしか飛沫の叩くスピードが速くなった気がした。

何だか少し嬉しそうな飛沫の表情、生憎遠目の影照からはよく見えていない。

「なるほど、タルトですか。しかし、タルトの器となる生地はこうして砕いたクッキーなんかで作れるんですか?すぐぼろぼろに崩れそうですが」

「いやいや普通に作れるよ。砕いた後にバターと混ぜると、ちゃんとした器の生地になるんだ。少量の牛乳を加えても良いけどね。こういった工夫が、とっさの場面で出来るのは素直にすごいと思うよ。でも、飛沫さんが料理できるなんて少し意外だったよ。うん、飛沫さんならいいお嫁さんになれると思うな」

「そうですね。これはポイント高そうです」

 

───ゴッゴッゴッゴシャッグシャァッ!!!!

 

顔を真っ赤に染めて、なおも力強く叩き続ける飛沫。

もうすでにクッキーは粉末状へと変わっているのだが、叩き続ける勢いは止まらず、調理台が少しへこみ、おかしな音を立て始めていた。

「あぁ、なんか、こう、惜しかった・・・・・・」

ボコボコになっていく飛沫の調理台を眺める影照の目から、涙が一筋流れた。

 

 

『志布志さんが調理台を別の場所に移したところで、今度は雲仙冥加さんのところを拝見しに参りま・・・っと、なにやら早速冥加さんは審査員の方へと動いてますね。少し覗きに行ってみましょう』

 

 

「03827482764147748618716897364(影兄、まな板って上と下、どっちに敷くんだっけ?)」

「下に決まっているだろ?上にしたら材料が切れないじゃないか」

「027452815(私は切れる)」

「それでも下に敷くんだ、分かったか?」

 

「ちょっと来い冥加」

「69203746204(どうしたの、影兄)」

「確か、お前が今作っているのは栗のモンブランだったはずだよな。なぜさっきから、ニンジンとまな板をザクザク切っているんだ?」

「95730298288474(影兄知らないの?ニンジンは栄養豊富なんだよ?)」

「知ってる。知ってるけど、ニンジンを使ったモンブランは知らないんだが」

 

「来い、冥加」

「6584(何?)」

「お前が作るモンブランは、ニンジンとジャガイモと鶏肉とまな板の乱切りを使うのかい?」

「034838709010841754(何言ってるの?まな板は食べれないよ?)」

「あぁ、そうだな。でも何だか、遂にまな板の乱切りが6枚目に突入したから、居てもたってもいられなくなってな」

 

「冥加ちゃん!?」

「?・・・・・・(トポン)」

「違う!それはモンブランじゃないよ!!材料を切り始めて、鍋にお湯を張った時点でもう大体気づいてたけど、さっきトポンって鍋に入れたものではっきり気づいたよ、それはカレーだよ冥加ちゃん!!!!」

「084730473984485982(馬鹿だなぁ影兄は、何も見てなかったの?私その前にちゃんと栗も入れたよ)」

「・・・・・・へ?」

「フンッ(まるで子供を諭すかのような瞳で、平らな胸を大きく逸らしながらのドヤ顔)」

「助けてくれ長者原くん。我が妹はどうやらカレーの具に栗を入れたものをモンブランと呼んでいるらしいんだ・・・・・・って、ちょっと待ってくれ!冥加、乱切りまな板は入れちゃだめだぁ!!」

「04838989164369487316(おっと、トッポギと間違えてしまった)」

「あああああっ、入っちゃったあああ!?」

 

長者原は、開いた口がふさがらなくなってしまった。

 

 

青白い顔で小刻みに震える影照をよそに、二時間弱ほどの調理を終えた四人が各々の皿を持ち寄る。

長者原の目から見て、誰が優勝なのかは明らかだった。

「はい、ではここで些細無さんには目隠しとヘッドホンをしてもらいます」

「・・・もう、好きにしてください」

それでも淡々と事務をこなす長者原。こんな時にまで、その異常(アブノーマル)ぶりを発揮しなくてもいいのにと、視界と聴覚を奪われながら影照は心内で思った。

 

「えっと、それでは皆さんが作ったものを一通り見ていきましょう。古賀さんは確かスイートポテトを作ったんでしたよね?」

「はい」

見栄えは完全にスイートポテト。黄金色の焦げ目と独特の甘い匂いが、何とも食欲をそそる。

しかし、長者原はここで気を抜かない。なぜなら調理台に、二つの空になったマヨネーズのチュ-ブが見えているからである。

「マヨネーズをスイートポテトの薄皮で包んでみました。名瀬ちゃんがよく私に作ってくれるんだ、おいしいですよ!」

それってただのマヨネーズの塊のようなものではという突っ込みを押し殺し、長者原は古賀に一礼、視線を次に移す。

 

「次は、志布志さんですね」

不機嫌に顔を長者原から背ける飛沫。

彼女が手に大事そうに持っている皿の上には、決して上手とは言えない不恰好な洋梨のタルトが乗っている。

「文句あるのか」

「いいえ。些細無くんも喜んで食べてくれると思いますよ」

「本当か!・・・・・・っく、べ、別にそんなことはどーでもいいんだよクソが」

いや、本当に。マヨネーズの塊を食べた後ならどんなものでも美味しく感じますよという、心無い自分の突っ込みを抑え込み、長者原は自分の公平さが崩れかけたのを感じ猛省した。

 

「えぇっと、冥加さんが作ったのは・・・・・・」

「0374437398(モンブランです)」

「このゴロゴロした白い板は?」

「07932792462056008146(まな板・・・トッポギです)」

「わ、わかりました」

モンブラン(まな板入りカレーライス)・・・・・・ご愁傷様です。

 

最後の参加者、長者原は破魔矢の方へ視線を移す。

皿に盛り付けてあるのは、まさに「完璧」の一言がよく似合う逸品が添えてあった。

「これは、一体?」

「はい。熟した柿のソースを層の所々に織り込んだミルフィーユです。層のサクサク感を柿のソースで損なわないように工夫するのが大変でしたね。いやぁ、優勝賞品が賞品なだけに、柄にもなく張り切ってしまいました。前々からテルくんに私の恋人達である車やバイクを紹介したいと思っていたのですが、なかなか承諾してもらえなかったものですから───」

 

 

今日も朗らかな日差しが、冷たい風とは対比的に温かい。

悲しそうに震える影照の口にスイートポテトをいくつも運ぶ古賀。

破魔矢を今すぐにでも潰さんと襲い掛かる冥加と飛沫。

長者原はなんだかもうこの争いを止めるのも面倒に感じていた。

「不思議な人たちですね」

 

結局、冥加の料理(まな板)を食べた時点で影照にドクターストップがかかり、勝者は出なかったというのは、また、別の話。





この物語を始めさせてもらって一年が経ちました。
思えばちょうど一年前と言えば、受験の真っ最中でしたな。一時期はストレスにより口内炎が一気に12、13個できて大変でした。
そんな時に、物書きを始めて大分救われた感がありますね。
今では、自分にとって物語を描く作業が欠かせないものになりました。

更新速度の低下などで、読んでいただいている方々にはこれからも迷惑をかけることになると思いますが、これからもよろしくお願いします。
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