陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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53箱目 庶務戦

箱庭学園が誇る一大植物園『木漏れ日』。四季折々の草花のみならず、地球上の植物の半分以上を展示する、国宝級と言っても過言ではない施設であり、そして

 

生徒会戦挙第二試合庶務戦『火付兎(ひつけうさぎ)』の舞台である。

 

「それでは、皆々様が会場に到着いたしましたところで、江迎さまが選ばれた『卯』の試合形式、『火付兎』のルールを説明させていただきたく存じます」

本来であれば書記戦が行われていたはずのこの日、『木漏れ日』南口前に黒神めだかを筆頭とした生徒会メンバーと球磨川禊を筆頭とした過負荷メンバーが集まっていた。

いつものように清廉な身だしなみで、凛と佇むめだかとは対照的に、球磨川の格好はいつも以上にあまりにもだらしなく、やる気の「や」の字も見受けられなかった。

その不自然なまでに気の抜けた姿の球磨川に、業を煮やした善吉が思わず問いかける。

「おい、球磨川。俺が言うのもなんだがもう少しやる気を出せよ、だるそうにしやがって」

「『んー?』『それは君たちの所為なんじゃないの?』『次は書記戦だと思って、せっかく飛沫ちゃんの試合が見れると思ってたのにこれだ』『これで肩すかし喰らうの二回目だよ』『当の黒幕だろう些細無くんもいないし』『生徒会メンバーは善吉ちゃんと人吉先生とめだかちゃんしかいないし』『やる気がないのはどっちだか』」

「クッ・・・誰のせいで些細無先輩が来られなくなったと思ってやがんだ」

「『そんなの知らないよー』『それよりさっさと終わらせて早く帰ろうよ』」

呑気に大きな欠伸をひとつ。

このまま放っておけば、その場に横になりそうなほど、球磨川の生気は抜けきっていた。

 

「ルール説明に移らさせていただきます。さて、今回は候補者の他に各陣営からそれぞれ一名ずつ、サブプレイヤーとして競技に参加していただくことになります───」

 

 

 

軍艦塔の一室、集中治療室にて。

 

「いやぁ、助かりました鍋島先輩」

「ホンマやで、エライ大変やったんやからなぁ」

「俺の考えた通りでしたよ。学園一の変人である大刀洗さんに対抗できるのは、鍋島先輩しかいないと思ってましたから」

「それは、褒め言葉やんな?」

「え、あ、うん」

「くじらちゃん。コイツ一回しばいてもええかな?」

「どうぞ」

「えっ、ちょ、ちょっと待ってくださいすいませんでしたごめんなさい!?」

未だ体に痛々しい包帯を巻いてベッドの上に横たわる影照と破魔矢。

しかし、以前と比べると目覚ましい回復を遂げており、その立役者たる黒神くじらと黒神真黒がベッドの傍らに立っていた。

 

選挙管理委員会に実質上の殴り込みを行った鍋島は、自分の役目は終わったと言わんばかりに、ここ最近はよくこの部屋に訪れている。

「まぁまぁ、統括さん。いえ、今はくじらさんとお呼びした方がよろしいでしょうか。テルくんの発案のおかげで古賀さんも予定より随分早く回復したわけですし、そこまでふてくされずとも」

「いやぁ、百町くん。僕の愛しい妹はああ見えて照れているのさ」

「なるほど」

「お兄ちゃん、口を閉じろ」

「おっと、あはは。え、まさか、その注射針をホントに刺すわけじゃないよね?だって僕はお兄ちゃイタタタタ」

いつも通りとも呼べるこの光景に、一同は揃えて苦笑いを浮かべた。

 

鍋島は猫耳の様なアホ毛をピコピコと楽しそうに揺らしている。

「でも、なんでくじらちゃんはそこまでふてくされてるん?」

「何でもないさ。それより、おい、些細無影照」

急にキツイ声で名前を呼ばれ、思わず背筋を伸ばして「はい!?」と返事をする影照。

「古賀ちゃんに何かあったら、お前を殺す」

「え、え、何の事!?」

 

 

「古賀ちゃん、初めて俺にあそこまで反抗しやがって・・・・・・」

 

 

 

 

「説明は以上です。つまり、今回の戦挙は形式としてはタッグ戦ということになるのでしょうか」

今回の庶務戦、生徒会側からは当然「人吉善吉」が、過負荷側からは「江迎怒江」が出場することになっている。

「『んーサブプレイヤーかー』『じゃあ、まー僕でしょ』『一応リーダーだし仕方ないや』」

寝ぐせでボサボサの髪をボリボリと掻きながら、球磨川は周りの空気を我関せずといった様子で手を上げた。

生徒会側はそんな球磨川に不信感を拭えない。

 

「球磨川が出てくるのなら、ここは私が──」

「落ち着きなさいめだかちゃん。会長選を控えているあなたがここで出てくるべきじゃないわ。ここは私に任せなさい、と言いたいところだけど」

険しい表情で球磨川に対抗してきためだかを、人吉瞳が片手で制する。

この場で唯一大人の彼女の不敵な笑みに、球磨川を除く全員が怪訝な表情を浮かべた。

「『別に誰でもいーじゃん』『なんなら全員で来ても良いからさ』『さっさと終わらせて早く帰ろーよ』」

「まぁまぁ、球磨川くんももう少し待って。ほら、噂をすれば」

 

「──遅れてすいませーん!」

 

「古賀二年生!?」

楽しそうに指さす人吉瞳の先に、まさに「爆走」といった走りで向かってくる少女が一人。

十三組の十三人(サーティーンパーティー)の一角、現在治療中であるはずの古賀いたみの姿があった。

「お待ちしておりました、古賀いたみ様」

「ごめんね長者原くん」

「いえいえ、謝るべきはこちらの方です。検査の方で少し手間取らせてしまったようで」

「まぁ、大丈夫だったわけだし。それで、今回のサブプレイヤーに、私が出場してもいいんだっけ?」

「はい。検査の方でも、体調面は何ら問題はありませんでした。出場していただいても結構です」

なんのことだか全く分からない。

めだかと善吉の顔には、そうありありと描かれてあるのが見て取れる。

「こ、これはどういうことだよ、母さん」

「見たまんまだよ。今回の勝負は彼女に出てもらう、それだけさ」

 

長者原との会話が終わったのか、元気そうにぴょこぴょこと生徒会側の輪に入る古賀。

「こ、古賀二年生、もう怪我の方はいいのか?」

「あなたのお兄ちゃんとお姉ちゃんのおかげですっかりこの通りさ」

古賀はその場で、体操選手顔負けの空中ひねりを難なくやって見せた。

 

「『ねぇ』『古賀さんだったっけ?』」

切って貼りつけたような笑顔の球磨川に呼びかけられ、古賀はふと視線を彼に移す。

気持ち悪い、おぞましい。

相対するだけで心が折れそうになるそんな人物。しかし、古賀の眼差しは一瞬も怯むことなく、ただ真っ直ぐにその姿を見据えた。

「『またあの些細無くん直伝の』『孔明の罠改め、影照の罠とやらを引っ下げてきたのかい?』」

「違うよ、私がここに来るのを知っていたのは人吉先生と名瀬ちゃんだけ。些細無くんは何も知らない」

「『へぇ』」

今日初めて見せる球磨川の反応。

狡猾で残忍な、やる気と呼ぶには程遠い悪意。自然とめだかと善吉の警戒心が高まる。

それでもなお、古賀の瞳は輝きを失わない。

 

「私は、日之影先輩や百町くんや些細無くんと比べると、遠く及ばない、どうしても見劣りしてしまう存在。そんな私にも些細無くんは、一緒に居てくれないかと言ってくれた。だったら私もみんなに追いつけるように、今できることを精一杯見せつけないといけないんだ。だから、どんな壁でも乗り越えて見せる。いつか本当に、みんなと、大好きな些細無くんと胸を張って肩を並べることが出来る様に」

 

「『ふーん』『何を言っているのかさっぱりだけど──』」

どこから取り出したであろう櫛で髪を整え、まるで新調したてのようなパリパリの制服を、球磨川はあっというまに身に着ける。

誰もがその様子を、ただただ唖然と眺めるだけしかできないでいた。

「『──そんな眩しい異常(プラス)を見せられたら』『こちらとしてはぐちゃぐちゃにしてあげないと失礼ってもんさ』『君を殺すだけで』『たくさんの人を絶望に追いやることも出来るんだし』『例えば』『名瀬さんと、些細無くんとかね』」

 

「生徒会戦挙庶務戦『火付兎』に参加の方々は準備に入ってください。サブプレイヤーである古賀いたみ様と球磨川禊様は腕輪もとい爆弾を装着してもらいます。ルールは簡単、相手のメインプレイヤーの持つ鍵を奪い、腕輪を先に外した方の勝利です。なお、鍵を隠したり壊したりするのは反則となりますのでお気をつけください。それでは、ご健闘をお祈りいたします」




いやぁ、やっと二試合目ですね。

え、まだ二試合目?嘘、ヤバい、何してんの俺←

もう54話目だというのに何をしているんですか、もうこうなってしまったのも全部「奄美鋼折」というオリキャラの所為だプンプン。
・・・・・・はい、違いますね。完全に俺の所為です。分かってます、頑張ります。

ではでは、これからもよろしくお願いします。
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