陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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54箱目 反則を屁理屈で丸め込む

 お互いのチームの二人組が所定の位置に付き、長者原の開戦の合図が伝えられる。

 だけど、その場から動かない二人。江迎は地に手をつけ『荒廃した腐花(ラフラフレシア)』の力で、土をグズグズと腐らせている。

 その様子を傍らで見守る球磨川。瞳の奥はやはり真っ暗である。

「『怒江ちゃん』『ごめんだけど今回の勝負』『勝つことは諦めてちょうだい』」

「・・・・・・球磨川さん?」

「『かと言って負けて欲しいってわけでもない』『タイムアップ』『つまり引き分けを狙ってほしいんだ』」

「引き分けって、球磨川さんが爆死しちゃいますよ?」

「『まぁ僕には大嘘憑き(オールフィクション)があるから大丈夫なんだけど』『一度は死ぬことになるんだよね』『死ぬのは嫌だ』『死ぬのだけは本当に嫌だ』『僕は死んでも死にたくない』『死んだら』『嫌な奴に会わなくちゃいけないから』」

「それなら──」

「『でも今回ばかりは仕方がない』『久しぶりに彼女も交えた三人でお話もしたいし』『何より大切な人を目の前で失わせる痛みを』『めだかちゃんと名瀬さんには知ってほしいからね』『ほら』『次の書記戦に向けて』」

 球磨川はケタケタと笑う。

 そのあまりに空虚な笑い声は、江迎ほどの過負荷すら身を引かせてしまう。

「『まさに一石二鳥さ』『正々堂々と』『怒江ちゃん以外のプレーヤーをみんな殺してしまおう(・・・・・・・・・・)』」

 

 

 

 

 生徒会側、プレイヤー人吉善吉。サブプレイヤー古賀いたみ。

 開戦の合図が『木漏れ日』に響き渡った瞬間、足を瞬時に動かした。二人が狙うは圧倒的な勝利、ただひたすらに江迎と球磨川の首を狙うだけである。

 先頭を走るのは善吉、その背後にぴったりと古賀がついている。

「人吉、球磨川の気配は本当にこっちで合ってるの?」

「目を閉じているからビンビンに感じるぜ、球磨川特有の気持ち悪いオーラがな。古賀先輩の親友である名瀬師匠に鍛えられたんだ、信用してくれていいですよ」

「んー、それは頼もしいね」

 土を蹴り、国宝級である植物園の草木を構わずただ一直線に突っ切る。

 爆弾の示す制限時間は一時間、タイマーはまだ一分と経っていなかった。

「それで先輩、さっき言ってた作戦なんですが、本当に些細無先輩や名瀬師匠の入れ知恵ではないんですか?」

「あはは!正真正銘私の知恵だよ」

「・・・・・・マジっすか。もしかして、先輩ってすごく性格悪かったりします?なんか、些細無先輩と名瀬師匠の悪いとこも丸めて合わさったような作戦ですよ。反則ギリギリってか、反則を屁理屈で丸め込んだようなものじゃないっすか」

「それは、私にとっての最高の褒め言葉だね!」

 鼻息荒く、嬉しそうに声が上がる古賀。本当に心から喜んでいるようだ。

 善吉は思わず溜め息を吐いた。

「それに、これなら結果がどうであれ、誰も死ぬことはない(・・・・・・・)

 

「っ、先輩、下がって」

 善吉が物理法則を無視するかのように、突如後方に飛ぶ。古賀もいきなりのその動きに合わせた。

 目を閉じ眉をひそめる後輩の表情に、状況の変化を機敏に感じ取る。

「どうしたの?」

「球磨川ではないが、過負荷(マイナス)が地を這うようにじわじわと迫ってきているのを感じるぜ。というか、この植物園一体がもうすでに過負荷の手中に収まってやがる。たぶん、この能力は江迎の──」

 刹那、地が揺れる。

 地震か?いや、違う。これは一体?我慢できず善吉は目を開いた。

 確かここは植物園『木漏れ日』の中、しかし、目の前に広がる光景はまるでSFアニメでも彷彿させるような、触手の如くうねうねと伸びた異形の植物が、二人をぐるりと囲んでいる。

「なっ!?」

 蔓や木々の枝、長草が二人の四肢を絡めとる。痛いくらいに締め上げられた二人の体が宙に持ち上げられた。

「ど、どういうこと?植物が、まるで意思を持っているように私達を!?」

「くっ、理屈は分かんねぇが、江迎の過負荷が絡んでいると思って間違いないだろう。クソッ、だとすれば最悪だぞ!?このステージ全体が俺達の敵になったようなもんじゃねぇか!」

 力強く数多もの植物に動きを封じられ、善吉のその意思に反するかのように、四肢はビクとも動いてくれない。

 こうなってしまっては、名瀬仕込みの「サバット」や「クラヴマガ」はてんで使い物にならない。

「人吉、まぁ落ち着いて」

「古賀先輩?」

「形ばかりに気を取られずとも、こいつらの本質は所詮植物。委縮さえしなければ、エイッ!」

「え?」

 ただでさえ露出の多い衣服を着ている古賀が触手に捕えられているその姿に、無意識に善吉は目を反らしていたが、彼女が起こした行動に一瞬で意識を奪われる。

 自分が身動き一つできないっていうのに、古賀は何食わぬ顔で腕をグイッと、胴部分に巻きついていた蔓を掴んだ。

「要するにこれは、草むしりだよ」

 

──ブチブチブチィイッ!!

 

 開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。

 古賀は四肢に絡みつく植物を片っ端からブチブチと豪快に千切って、向かってくる触手をあしらい、根こそぎ引っこ抜く。

「のわっ!?」

 引っこ抜かれた異形の植物は、力を無くしてしまったようにただの植物へと戻り、拘束を解いた。

 善吉は無様にドスンと尻もちをつく。

「もー、名瀬ちゃん仕込なんじゃないの?名瀬ちゃんの顔に泥を塗るようだったら私許さないからね」

「す、すいません。気をつけます」

 古賀いたみ、完全復活。むしろパワーアップしているのではないかと思うほどに。

 それにしても、この引っこ抜かれた植物達って、すごく珍しいやつなんじゃ。そして、善吉は考えるのを止めた。

 しかし、行く手を未だ遮る異形の触手壁。

「この植物達の変化のタネは大体分かりました、あとはもう、進むだけです」

「流石だね、ボードゲーム特訓の成果ってとこかな、その戦術眼は」

「カッ、もう遅れはとらないですよ」

 善吉の説明からすると、こういうことだ。

 物体を腐らせる能力の『荒廃した腐花(ラフラフレシア)』、恐らくそれを生かして植物園全体の土を腐らせ、過負荷を取り込んだ腐葉土に仕立て上げたのだろうと。

 過負荷を取り込んだ腐葉土から栄養分を摂取し、急激に成長した植物達。しかし、それと同時に過負荷も大量に摂取してしまっている為、植物達が江迎の奴隷と化したのだろうと。

「そんな、過負荷(マイナス)を取り込んだだけで植物が奴隷と化してしまうって、なんか信じられない」

「んなこと言ったら、異常性(アブノーマル)過負荷(マイナス)も、普通(ノーマル)の俺からすればわけわからない事ばかりっすよ。そんなことより、タネ明かしは済みましたから行きましょう。球磨川と江迎はもうすぐです」

 

 

 向かってくる触手を走りながら、善吉が順当にはじき返し、古賀が行く手を阻む植物を根こそぎ引っこ抜き、道を作るように押し倒す。

(このフィールド、俺らの完全不利だと思っていたが、そうでもないみたいだな)

 軽快に、重力などお構いなしに、縦横無尽に、植物を使い飛び回る古賀。

 彼女の異常性は、圧倒的な駆動性と自然治癒力、そしてパワー。名瀬夭歌が直々に改造を施した彼女の体は、破壊臣の破壊すら通用しなかった。

 

「先輩、あそこですっ!」

「了解!」

 過負荷が過負荷たるその所以は、圧倒的な弱さ。そして、底が見えない敗北精神。

 それならば、相対するまでに一瞬の隙も与えず倒すことが最も最適な攻略法である。

 そして、先を読む術を叩き込まれた善吉が考え出した、今回の戦闘における攻略法は、「必ず、プレイヤーとサブプレイヤー同士の戦闘を行わなければいけない」だ。

 そうすれば、勝つか負けるかの選択肢しか残らなくなる。

 そこで相手が過負荷となると、万に一つも負けは無い。

「球磨川が何を考えているのかはわからねーが、こっちは圧倒的に勝ちに行くことだけを考える」

 古賀が、地面を抉るほどの力で蹴り飛ばし、その体を槍と化す。一直線に球磨川の顔面へと拳を振るう。

 

───バラッ

 

「なっ!?」

 古賀の拳を受けた球磨川の顔面が粉々に霧散する。

「・・・これって、植物(ダミー)?」

「『今だよ怒江ちゃん』『思いっきりやっちゃって』」

「了解です☆『荒廃した腐花(ラフラフレシア)』狂い咲きバージョン、タイプ『(しがらみ)』!!」

 球磨川は善吉の背後から湧いてきたかのようにぬっと顔を出し、その肩に大きな螺子を突き立てた。

 江迎がその両手を土につける。思わず顔をしかめてしまうほどの腐敗臭が拡散された。刹那、善吉、球磨川の二人と、古賀、江迎の二人を隔離するための、まるで大樹みたいに太い茨が壁のように生えて固まる。

 

「テメェ、球磨川・・・一体どんな手を使って気配を消した」

「『だって善吉ちゃんが』『僕の気持ち悪さを肌で感じる──なんて修辞的表現を使うから』『僕は本当に深く深く傷ついたんだぜ?』」

「『だから』『僕の気配を無かったことにしたのさ』」

 ギリギリと善吉の歯が軋む。

 気配を無くすということは、誰にも気づかれなくなるということとほぼ同意。そう、自身の強さ(アブノーマル)ゆえに誰からも忘れ去られた元英雄『日之影空洞』のように。

 その苦しみを知っているからこそ、善吉の歯が軋む。

「『さぁ』『善吉ちゃん』『時間切れまで楽しもうよ』『正々堂々』『僕が君を殺してあげるから』」

「・・・・・・カッ、言っておくが今の俺達は負ける気も引き分ける気もさらさらないぜ」

 善吉は衣服の袖を引きちぎり、それを肩で縛って止血する。

 目の前で悠々と応急処置を施す善吉に多少の違和感を覚えながらも、隙ありとばかりに球磨川は螺子を投げた。

 

 一瞬だった。

 

 まるでその場に雷が落ちてきたかのような轟音。焼け焦げた硝煙の臭いが嗅覚の全てを襲う。

 震える空気が土砂の如く、その場の全てを凪ぐ。腕や手で急所を反射的に庇ったため、何が起きたのかさっぱり分からない。気づけば数メートル、善吉と球磨川が吹き飛ばされていた。

「ゲホッ、ガハッ・・・・・・こ、古賀先輩、何で俺まで・・・」

「あ、ごめんねー。しょうがないじゃん、爆弾使ったのって初めてだったんだからー!」

 茨の壁に大きく空いた穴。そこに古賀いたみが一人立つ。

 

「『・・・・・・腕に爆弾ハメといて』『よくこんなことできるね』『ゲホッ』『異常なのか』『馬鹿なのか』」

「あはは!反則じゃないから良いよね、ほら、江迎さんだって包丁いっぱい持ってたし!」

 

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