「邪魔すんぜー、っと、おお。相変わらず無様にくたばってやがんなぁ影兄ぃ、ケケケ」
「お前も相変わらずの悪人面してやがんな。あれ、冥加は?」
「ん?影兄のベッドの下」
「は!?」
「07346297486(おはよーございます)」(小声)
「うわ、マジで居やがった!?」
「なんや、賑やかになってきたなぁ」
病室。騒がしさで言えば、宴会会場の様である。
この中の二人は全身に包帯を巻いている重傷者。しかもこの二人の主治医は傷に響くから騒ぐな、なんてことは言わず、逆にその騒がしさを煽るようなことをしていた。
「あ、違う違う。影兄をいびる為にここに来たんじゃねーや。おい名瀬、テメーに用があってきたんだよ」
「ちょっと後にしてくんない?俺は今、忙しいから」
自称忙しい名瀬夭歌は、絶賛ルービックキューブ中である。
影照の解けかけた腕の包帯を、優しい妹である冥加が巻き直してあげていた。普通ならこの光景はとても微笑ましく映るのだが、だんだん紫色になっていく影照の腕と、お兄ちゃんとしての悲痛な叫び声が、その微笑ましい光景を地獄絵図へと書き換えている。
そんな担当患者(影照)の叫び声をまるでBGMかのように聞き流し、二面色を揃い終えた主治医(名瀬)。
もちろん主治医に見放された今、影照の味方はどこにもいない。
むしろ、もう一人のお兄ちゃんである黒神真黒は、包帯を持って名瀬に縛ってくれと頼みに来るような有様である。
「ちょっと質問するだけだから別にいいだろ。風紀委員会の武器庫から武器があらかたごっそり抜かれてたんだが、どういうことだ?ウチの役員に聞いたらテメーが持って行ったらしいじゃねーか」
「あー、そのことか」
カシャ。あっという間に全面を揃い終え、名瀬はそのルービックキューブを目の前のお兄ちゃんの顔面に思いっきり投げつける。幸せそうな表情で真黒は倒れた。
「庶務戦で使うから借りただけだよ、文句あるか?」
「別に無いけどね。庶務戦って、あー、そういえばもう始まってんのか。確かステージが『木漏れ日』だったはずだから、今回の庶務戦は『火付兎』といったところだろうな。んで、人吉の他に誰出場してんだ?黒神めだかか?人吉母か?」
冥利は腕時計を眺めながら、この場にいる全員に話しかける様に質問をした。
全員が「さぁ?」といった具合に首を傾げる。冥利は溜め息を吐いた。しかし、名瀬だけがその質問に、何の感情も込めることなく淡々と答える。
「古賀ちゃんだ。人吉と古賀ちゃんが戦ってるはずだ。んで、きっと相手は江迎と球磨川の旦那だろうな。百町の話から聞くに、蝶ヶ崎のは十分に俺の妹にも通じる能力だから、庶務戦で出すわけにはいかないだろうし、志布志は書記戦に出るらしいから」
「えっ!?」
素っ頓狂な声。影照が片手で冥加の頬をギュムと鷲掴みにしながら、名瀬の言葉に驚いていた。
「フガフガ(影兄、離して)」
「こ、古賀さんが庶務戦に!?怪我はもういいのか?いや、そんなことより相手はあの球磨川だぞ!?何で止めなかったんだ!」
寝たきりだった影照が、無理矢理体をガバッと起き上がらせる。
その様子を見ていた名瀬の表情が一気に不快な表情へと変わった。
ベットの隣に今まで大人しく座っているだけだった名瀬が瞬時に体を動かして、影照の腰の上に馬乗りし、肩を両手で押し倒す。
「名瀬、さん?」
「テメーは大人しく寝てろ。古賀ちゃんは自分で言ったんだよ、テメーと肩を並べていられるように強くなりたいって。テメーなんかの人間の為に、古賀ちゃんはあえて球磨川と対峙することを望んだんだ。だったら俺は友達として、あいつを信じる。だからテメーも、いつまでもウダウダしてねーで覚悟を決めろ。早く古賀ちゃんの気持ちに答えろ。古賀ちゃんを悲しませるようなことだけは、俺が絶対にさせねーからな」
名瀬が懐からメスを取り出し、それを影照の鼻先に突き付けた。
「くじらさん、テルくんを殺す気なんてさらさらないくせに、変なことはしない方が良いですよ。ほら、メスの向きが逆ですし」
「あ?」
破魔矢の一声で、影照の目から、自分の手元に視線を移す。その時だった。
───グルンッ!?
一瞬の隙に破魔矢に腕を掴まれた後、名瀬の体がグルンと回転しベットから転がり落ちた。さすがの光景に、この場の全員は唖然とするしかない。
「ってーな、オイ。クソが、俺ともあろう者があんな簡単な嘘に騙されるなんてよぉ。怪我人のクセして、今の立場分かってんのか、あ?」
「いえ、これ以上踏み込むのは無粋ですよ。くじらさんも恋をすれば分かります、今あなたがしている行動が、本当に二人の、古賀さんの為になるのかよく考えてみた方が良い。私が知るテルくんは、あなたが考えている以上に、ちゃんと古賀さんのことを考えているはずですから。ね、テルくん」
「・・・・・・あぁ、中途半端な答えが許されるような立場じゃないことぐらいは分かってる」
「うん。少しずつですが、成長しているようで何よりです」
影照はバサッと掛け布団を頭までかぶる。
「ケケ、どーする姉ちゃん?今のまんまじゃ影兄は捕まえらんねーぜ?」
「9705702778(・・・・・・うん、わかってる)」
「心配すんな。俺は姉ちゃんの味方だからよ、ケケケッ。あとでちょっとしたプレゼントもあるから、期待してくれや」
☆
「すみません球磨川さん、私のミスです。私は本当に失敗ばかりで、残念で・・・本当に恥ずかしいです」
「『大丈夫だよ怒江ちゃん』『きみの失敗も』『残念も恥も』『僕がぜーんぶ無かったことにしてあげるから!』」
茨の壁には、爆破された大きな穴の跡が残り、未だに硝煙の臭いが鼻につく。
その中、球磨川と江迎、善吉と古賀は向かい合う様に対峙していた。
「今のではっきり分かった。球磨川の奴は引き分けを狙いに来ています。古賀先輩、一つだけ俺のわがままを聞いてくれませんか」
「まずは言ってごらんよ、それを聞いてから判断するから」
「球磨川の奴はどうでもいい、幸せになろうとしない奴を幸せにしようなんて俺は思いません。ただ、江迎だけは確かに言ったんです。不気味な言葉だったけど、不器用な言葉だったけど、必ず幸せになるって、幸せになりたいって言ったんだ!」
善吉が一歩前に出た。
過負荷を前に心を折ることなく、強く真っ直ぐな瞳で江迎を見つめる。
「幸せになりたい奴がいるなら誰であろうと幸せにしてやる、それが俺の考える生徒会執行部の在り方です!だから、先輩。俺が江迎と対話している間、時間を稼いでもらっても良いですか?」
「なーんだ、お安い御用だよ。じゃあその間に決着をつけてしまっても良いわけだよね」
「はい、ありがとうございます」
二人の足が同時に土を蹴った。
「『怒江ちゃん』『学園最強の前生徒会長』『日之影空洞がなぜあんなに強いのか』『知ってるかい?』」
「・・・・・・『
「『
球磨川は横目で、駆けだした敵の二人を確認し、江迎の手を取る。グズグズに腐敗していく自分の手を気にすることなく、江迎の手の平を土の上につけた。
「『
大きく上下に地が揺れ、思わず善吉と古賀の足は止まってしまう。
江迎のすぐ傍らにある大きな杉の木が、みるみるうちに太く大きく成長していくのが分かった。その光景はまるで、特撮戦隊モノで怪人がラストに巨大化するソレそのものである。
巨大な怪物となった杉の木は、植物園の天井を突き抜け、自分の力を誇示すかのように、張り巡らされた天井を大きく凪いで破壊した。
「カッ、勝負を急いだな。先輩、よろしくお願いします」
「あはは、全く人吉も人使いが荒いよ。巨大ロボ艦隊を持ってない私にアレと戦えなんて」
「すいません、でも、出来ますよね?」
「私を誰だと思ってるの?名瀬ちゃんの最高傑作古賀いたみちゃんだよ、出来ないわけないでしょ」
どこから取り出したであろう、見たことの無い銘柄のエナジードリンクを古賀は一気に飲み干して、大きく手を広げた。
体中のあちこちから湧いて出てきた様々な武器の数々。それはまるで
「それってもしかして、宗像先輩の・・・」
「んー!体力補充完了!そうだよ、これは『暗器』。宗像くんが出来て、私が出来ないわけないじゃん。まぁ、これも名瀬ちゃん仕込なんだけどね」
巨大な怪物が、二人を押しつぶさんと、手のように見える大木を勢いよく振り下ろしてきた。
二人を覆い隠すのに余りある強大な手の平。古賀はその場から大きく飛び上がり片手に持った大木槌を全力でぶつけた。木槌は砕け、怪物の手は弾きかえされる。
「些細無くん達と一緒に居続ける為には、これくらい倒さないとねっ!!」
☆
「・・・・・・江迎」
「・・・なによ、人吉くん。あっち行っててくれない?あなたと話すことなんて何もないんだけど☆」
「・・・・・・俺の家の庭に、一本の古い桜の木があるんだ。俺はちっちゃな頃、春が来るたびにその桜の木の下で行われる花見を楽しみにしていた。しかしその木もいつからか花をつけなくなってさ、お母さんでもどうしようもなかったのかな、今じゃすっかり立ち枯れちまったよ。幹だけになったその桜を見るたびに、俺は悲しい気持ちになるんだ。だけどお前ならもう一度、あの桜を咲かせることが出来るのかもしれない──」
「──わかるか?江迎、お前が
「・・・やめてよ、私に手なんか差し伸べたりしないでよ。そんなことしても無駄なんだよ・・・。球磨川さんは手を差し伸べてくれただけじゃない!私の手を取ってくれたんだ!私がどんなに酷いことをしても、無かったことにしてくれるって言ったんだ!」
「俺はそれを無かったことになんかしない!お前を
「・・・・・・死んじゃうの。私が触ると、みんな腐って死んじゃうの。私も、死んだ方が良いのかなぁ───」
「カッ、良いわけねーだろうが。お前みたいなやつを幸せにするために、俺達は生徒会をやっているんだ──」
「二十四時間三百六十五日!