陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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58箱目 お願いだからそっとしといて下さい

 

 神様、居るなら俺の言葉を少しだけ聞いて下さい。

 

 お前頭おかしくね?

 

 

 影照は自身の異常(アブノーマル)も相まって、順調に回復が進んでいた。流石に歩けるようになるにはまだ幾分の時間が必要なようだが、車いすで移動できるほどにはなっていた。

 しかし、それでも回復の見込みがあるだけ奇跡の様であった。アキレス腱断裂なんて、そもそも二度と歩けなくなるような怪我なのに。

 

 破魔矢の方はというと、その体に蓄積されていたダメージが予想よりもはるかに多く、回復に手こずっているのが現状であった。まずはその体力の回復とダメージを取り除かないと、治療作業に入れないということで、ずっと寝たきりになっているようだ。

 

「まぁ、でも命に別状はないんだし。完治するまでに時間がかかるだけで」

 深夜二時。

 目を開けても閉じても変わらない真っ暗な視界の中で、影照は軍艦棟の一室、今は病室として扱われているベッドの上でそんな一言を呟く。

 いつもならもう夢の中だというのに、どうも影照は眠れないでいた。

 その理由はというと。

 

「くっそ、あのミイラ医者め。本当に俺を治す気があるのかよ・・・・・・イテテ」

 

 寝返りを打つだけで、全身の関節がギシギシと鈍い痛みを放つ。寝返りを打たなくてもジンジンと痛んでいるのだが。インフルエンザに罹った時よりも寝苦しい夜を過ごしていた。

 いくら順調に回復が進んでいるとはいえ、未だに全身にダメージを負っているのは事実。少量ではあるが、痛み止めや睡眠薬を処方してもらわないと、とてもじゃないが眠れなかった。

 そして今日、見事にあの影照担当の医師である名瀬夭歌は、その二つの処方をすっぽかしていた。

「・・・・・・眠いのに、寝れない」

 一筋の涙が枕を濡らす。

 

 

 しかし、ドラマはいつも劇的であるのだ。

 

 

 カチカチと小さく鳴る秒針だけが聞こえてくる病室の一つだったのだが、よく耳をすませば微かに別の音も聞こえてくる。

「これは、外だな・・・・・・ドッコンバッコン鳴ってる。学校の敷地内に暴走族が入れるわけないし、どういうことだ?」

 痛む関節を抑え、のそのそと暗闇の中を歩き、微かに月明かりが漏れる厚手のカーテンを微かにあけた。

 爆発音や衝突音と共に、まるで何かのモールス信号のようにパッパッと一瞬の明かりが点滅して見える。

「なんだ、あれ・・・・・・」

 明るさに慣れない目をうっすらと開く。

 ドコバコ鳴る騒音の中に紛れて、なぜか聞いたことのある声も聞こえた。

 

 

『名瀬っ!テメー抜け駆け企んでんじゃねーぞ、死ねぇっ!!』

 

『クソガキが、お前も同じこと企んでたからこうなってんだろうが!』

 

 

 恐らくこれは、きっと悪い夢なんだろう。

「これが夢じゃなかったら、神様を呪い殺してやる」

 グスンと鼻をすすり、大人しく布団にもう一度入る。『全身が痛むのだから、恐らくこれは夢ではないのだろう』と言う脳内仮説を間違った仮説と無理矢理認識して、影照は頭の奥底に仕舞い込んだ。

 しかし、何か忘れている気がしないでもない。

 影照は、先ほど争っている二人の顔を思い出す。天性の悪ガキ弟「雲仙冥利」と、マッドサイエンティスト「名瀬夭歌」。

 そもそもあの二人は何であそこで争っていたのだろうか?

 あの二人の事だから、本当に些細なことで争っているのだろうとは思うのだけれど。

 

 影照の違和感。これは、これから起こるであろう事象を予測するには少しだけ方向性が異なっている。

 あの二人がなぜ争っているのかではなく、あの二人が何の為に争っているのかを考えるべきであった。考えたところで結果は変わらないのではあるが。

 

 

(────おはよーございます)

 

 

既視感(デジャヴ)!?」

 

 

 身の危険を察知し、反射的に耳元でささやかれた側とは逆の方へと体を転がす。

 そしてベッドから落ちた。全身がとてつもなく痛いのは言うまでもない。

「くぅ・・・・・・っ」

「だ、大丈夫?ごめん、影兄」

「心配しているふりして、何で君は俺のズボンを引っ張る!?」

「・・・・・・暗かったから、分からなかった」

「いいから早く俺をベッドの上に戻してくれ、冥加(・・)

 カチリと音が鳴り、人工的な白い明かりが部屋にパッと点いた。

 暗闇に慣れていた影照の網膜はその急な刺激に驚いて、反射的に瞼を閉じてしまう。しかしその一瞬の間に、いつものようにゴスロリ衣装に身を包んだ冥加の姿が見えた。

 冥利が居たのだ、考えてみれば冥加もいるというのは何らおかしくはない。

 

「よいしょ」

 軽々と自分の兄を持ち上げ、お姫様抱っこする妹。

 兄としても、そして男としても、威厳もクソもない姿であるが、そんなことより体の節々の悲鳴を聞いてあげることの方が、今の影照にとって大事であった。

 ボスンとベッドの上に影照の体が乗る。

「・・・・・・どう?」

「うーん、体が痛すぎて、あまり治ってきているって実感はないな」

「うぅ・・・・・・そうじゃなくて」

「へ?」

 うっすらと片目を開けると、「どや」と言わんばかりに胸を張っている冥加。

 相変わらず胸回りは小さいし、洋服もいつも通りのコスプレ衣装。髪を切ったってわけでも無いし。

「影兄、今失礼なこと考えてた?」

「っ・・・・・・何のことだ?」

「これ見て!」

「あー」

 首に巻いてあるチョーカー。自分でデザインとか考えた癖に、全く気付いていなかった影照。

 

「いや、あまりにも衣装とマッチしていて気付かなかった。そういや数字言語じゃなくなっているし、いやぁ成功してたのか、良かった良かった!」

 思わずその上半身を起こし、影照は冥加の頭をわしわしと撫でる。

 その不意打ちに驚いたのだろうか、冥加は顔を沸騰させて思わず俯き、小さく「あぅ」と呟いた。

 

 

 刹那、壊れたんじゃないかと思うくらいの勢いで開かれたドアの音にびっくりして、影照は冥加の頭の上から手を離す。物足りないという言葉が、冥加の表情に出ていたが、当の兄は気付いていない。

 

 その開かれたドアの向こうに立っているのは───古賀だ。古賀いたみが、肩で大きく息を切らし、顔を真っ赤に染めてそこに立っていた。

 なぜだろう。古賀の目が、混乱している人の目ってこういう目をしてるよね、って感じがしてならない。影照の背筋に悪寒が走る。

「えっと、どうしたの、古賀さん?」

「名瀬ちゃんが、名瀬ちゃんが・・・・・・」

 あわあわとしている古賀に、とりあえず落ち着いてくれと影照はなだめた。

 彼女は一つ深呼吸をしてみるが、相変わらず落ち着きを取り戻せていないようだ。

「・・・・・・で、名瀬が俺の看病をほったらかしてどうしたって?」

「名瀬ちゃんが言ってたんだよ!些細無くん、このままじゃ死んじゃうって!・・・・・・だから、だからこれを早く飲んで些細無くん!」

 

 影照は手渡されたドリンク剤を一目見て「ん?」と呟き、冥加は「おぉ」と呟く。

 それもそのはず、手渡されたそのドリンク剤は「精力剤」であったのだ。

 まず、自分が死ぬっていうこと自体初耳だし、もし死ぬとしても、処方される薬が精力剤というのは明らかにおかしい。

(もしかして「死ぬ」って、男として死ぬっていうことなのか?・・・・・・って、そんな馬鹿な)

 涙目で分かりやすく慌てている古賀にひとまず精力剤を返し、こそっと薬の棚から同じドリンク剤を何本も持ち出そうとしている冥加の首根っこを掴んで、無理矢理こっちに引き戻す。

 

 

「ふぅ・・・・・・こっちは体中が痛いってのに。よし、二人とも、とりあえず外で暴れている冥利と名瀬をここに連れて来てくれ」

 

 

 影照はニコリと微笑む。しかし、目は笑っていない。

 冥加と古賀は、何か触れてはいけない気がして、正座で「はい」と答えた。

 

 

 この後、影照は冥利と名瀬に、めちゃくちゃ説教した。

 

 

 

 

 今日の天気は雨模様。空にかかる曇天雲の向こう側では、とっくにお日様は真上に差し掛かっている頃であろう。つまり昼だ。

 だというのにこの軍艦棟の病室はひっそりとしていて、じめじめとした雰囲気と合いまりどこか不気味になっている。

 

「ったく、警備の一つもついていねぇ。生徒会側(アイツら)は、凶化合宿とやらの教訓を何一つ学んでねーのかよ」

 悪態をつきながら、鍵のかかっていない病室のドアをこっそりと開けた。

 いつもの露出の高い制服ではなく、この箱庭学園の制服をきっちりと着ているのは、『致死武器(スカーデッド)』の過負荷(マイナス)を持つ志布志飛沫である。

 

 病室の中には、薬瓶の並ぶ棚の近くに一つだけあるベッド。そこには、些細無影照が横たわっていた。

「・・・・・・寝てんのか?」

 やりすぎなのではないかと思うくらいに腰を引かせて、ジリジリと足音一つ立てずに飛沫がベッドに近寄っていく。

 この人が影照を殺しに来た敵だと言っても、誰も信じてはくれないだろう。

「・・・・・・ぅ・・・うぅ・・・っ」

「っ!?」

 影照が寝苦しそうに唸っただけだが、飛沫は過敏に慌ててしまい、その場でガッシャンと転んでしまった。

 その音につられて、影照の瞳が三分の一くらい開く。

 疲れが相当溜まっているのだろうか、影照は寝ぼけたまま、呂律の回らないまま声を出した。

 

「いやっ、これはっ、その、違くて・・・・・・」

「あぁ・・・・・・すまないが、水を、コップについでくれないか?」

「・・・・・・は?」

 一言を発して息切れたのか、影照がそれから動くことは無い。

 極度に慌てて頭が真っ白になっていたのもあるのか、とりあえず飛沫はコップを片手に、思わず言われた通りに水をついできてしまった。

 

 ついできたは良いものの、これをどうすればいいのか、ベッドの横でぽかんとしている飛沫。

「・・・・・・おぉ」

 その視線に気づいたのか、むくりと重たい体を起き上がらせ、飛沫の持ってきたコップを何も言わず手に取り、ごくごくと勢いよくそれを飲み込む。

「え・・・・・・っとぉ」

 飛沫はその様子を一部始終、何も言わず眺めていた。

 すべての水を飲みほし、影照はほっと一息を吐く。そしてまだ寝ぼけているのだろう、コップを近くの机に置き、その右手が飛沫の頬に触れる。

 

 

「えっ、ちょっ!?」

「・・・・・・助かった、ありがとうね」

 

 

 ニコッと儚げに微笑んだ影照は、再びそのまま死んだように眠りへつく。

 固まって動かない飛沫。

 しかし、その顔は沸騰を通り越して爆発しそうな勢いで赤く染まっていっている。

「あぁ・・・ぅうっ・・・・・・バカ野郎がーーー!!」

 

 

 当初の目的を忘れた暗殺者は、そのまま人気のない軍艦棟をダッシュで出て行ってしまった。





 ども、眼鏡です。

 ついこの間艦これで、駆逐艦の中で一番育てていた叢雲ちゃんが、自分のうっかりで轟沈してしまい、リアルに二日間寝込んでいました。
 バレンタインイベのときスクショしておいたその姿、それが今や遺影となってしまいました。(´・ω・`)グスン
 中学生の時、彼女に振られたあの時よりショックを受けていたかもしれな(ぇ

 てなわけで、次回から書記戦です。
 名瀬ちゃんと飛沫ちゃんの戦い。頑張って書かせていただきますので、これからもよろしくお願いします。

 ではでは。
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