陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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64箱目 生き難きを

 飛沫の過負荷は「古傷を開く」という能力。

 そこに、更なる負荷が加わり「開いた古傷を悪化させる」という能力が加わった。

 例え僅かな擦り傷であろうと、致命傷になりかねない。まさに最悪な退化を遂げてみせたのだ。

 

 しかし、覚醒した名瀬の過負荷「凍る火柱」は、炎と氷を操る能力である。

 炎にも氷にも、もちろん古傷なんてのは存在しない。

 更に全身の傷をピキピキと凍らせたことで、古傷は開いてもすぐに塞がれる。

 

 まさに、相性は最悪である。

 それでも、飛沫は笑う。

 

 この程度の逆境など、欠伸が出るほどに体験してきた。

 そしてその度に負け、叩きつけられ、虐げられ、奪われ、何度も何度も地面を舐めてきた。

 

 それでも、生きている。

 生き難きを、生きてきた。

 

「……最悪の相性だよ。まさに天敵だ」

 既に室温は最高温度である。

 呼吸をするだけで、喉が肺が火傷していくのが分かる。まともに目も開けられない。

 対して名瀬は汗の1つも流していなかった。

「何を考えてやがる」

「アタシもマイナス。アンタもマイナス……こんなとき、どっちがよぉ、負けるんだろうなぁ?」

 

 名瀬は両手から業火を放った。

 服もろとも飛沫を燃やし尽くす算段である。

 その光景は、まるでアメリカのスーパーヒーローのようであり、不気味に笑う飛沫は、悪役の末路そっくりな姿であった。

 

 ただ、次の瞬間、誰もが飛沫の行動に眉を潜め、目を反らした。

 あの球磨川でさえ、予測もつかない行動だった。

 

 あろうことか、何百度にまで熱されている地面に這いつくばって、背中にのみ業火を背負ったのだ。

 飛沫の叫び声と、焼き肉店で聞くような、肉の焦げる音がこだまする。

 焼かれた服は背中のみ。

 前面は熱に溶けてはいるものの、辛うじて服の体裁を、保っていた。

 黒く焦げた頬や腕、腹。その焦げ付いたひび割れから覗く鮮やかな赤色が、何よりも痛ましい。

 

「片や無様にボロボロの体で這いつくばり、片やスーパーヒーローのような立ち姿。マイナス対マイナスの結果は、試合に勝って勝負に負けた、ってなところか」

 

 そう言って、飛沫は立ち上がり、笑う。

 名瀬はというと、まるで美しき彫刻のように、ピクリとも動かなかった。

 

「アタシの開いた古傷は、悪化し、更に広がる。深く、負荷くな。そんなもの全部を凍らしてたら、テメェでテメェを全身凍結させちまうってことさ」

 

 動かない名瀬。飛沫は剃刀を片手に、その衣服を全て剥ぎ取った。

 

 

「志布志様と名瀬様による今回の書記戦は、志布志様の、そして新生徒会側の勝利となります」

 

 

 志布志は笑顔のまま、意識を失った。

 

 

 

 

 現在の勝敗。現生徒会、一勝一敗一分。

 

 




 大変お待たせした上に、短い話になってしまい申し訳ございません。
 お久しぶりです。

 今後の更新予定や活動内容等は、私の「活動報告」にて、お話しいたします。

 数年もお待たせしてしまい、それでもここまで読んでいただき、ありがとう御座います。
 皆様のおかげで、私は何年も物書きを続けていられます。

 これからもよろしくお願いいたします。

 それでは、また。
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