陰を照らした時に出来る陰   作:俺の眼鏡

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えー、今回の冥加ちゃんは
数字じゃなくて、ちゃんと言葉で話しておりますです、はい。

何しろセリフが多かったんで^_^;
そこんとこ、宜しくお願いします<(_ _)>


9箱目 蘇る

「おい、冥利」

「いやー、なんだい影兄?」

「なぜ、お前が俺と同じ制服を着ているのかを説明してくれ」

 

今日は箱庭学園の入学式

その場にはなぜか10歳の弟が、今年度入学する影照と同じ制服を着て隣に立っている。

その事態に驚きを隠せない影照の様子がとてもおもしろかったのだろう

冥利は終始ニヤニヤしてる。

 

「ここの学園長は立派だね。俺の異常(さいのう)を見抜き、ヘッドハンティングなんて」

「何で隠してたんだ?」

「へへっ、うっかりしてただけ」

イチイチ、感にさわる弟だな

 

ちなみに影照は、学園では一組に入る事になった。

サッカーのスポーツ推薦を受け、実技でも結構良い感じの点数が取れたんだが

紅白試合戦で意図的に手を使ってしまい一発退場という形になってしまった。

 

まぁ、あれは仕方が無かったんだ。

何しろもう、ここでシュートを防いどかなきゃ一点入れられてたし

だったらPKの方がまだ止められるチャンスが

 

と説明したら、非常に審査員に悪印象だったらしい

 

推薦で落ちたら、学園に入るのは無理かなと思っていたら、何故か一組に受かってしまった。

 

本来、スポーツ推薦で受かる人達っていうのは

スペシャルといわれる十一組、十二組に入ると決まっているのだが

なぜか一般入試で受かった生徒達用の一組(ノーマル)に入ることになった。

 

実際、裏で冥利が働いてくれているのだが

影照は当然その事は知らず、“珍しい事もあるもんだ”程度にしか思っていない。

 

「おい、影兄。言い忘れたけど、今日学園長室に呼ばれることになってるから」

「お前が?」

「いや、影兄が」

「なるほど、あ、今日買い物にお前着いてこい。冥加の機嫌を・・・・」

あれ、なんかおかしいぞ

「おい、冥利」

「なんだよさっきからうるせーなー」

「今日、誰がどこに呼ばれるって?」

「何だよ、ちゃんと聞けよな。影兄が学園長室に呼ばれる事になってるからな。せいぜい失礼の無いようにしないと、退学くらうかもな」

 

何をこの十歳児は

兄貴が大変なことになっているというのに、楽しそうにしてるんだ

 

 

・・・・いきなり、お前の入学は間違いだった。よって退学!

とか言われたらどうしよ・・

 

 

入学式当日、あのかったるくてくそつまらない入学式が終わった後といえば

そう、またあのかったるくてくそつまらない「クラスメイトの自己紹介合戦」が始まるものだと過去の経験から学んでいる。

 

つまり影照は今、二年十三組に訪れていた。

「影照、入学しょっぱなからサボりなんて、そんなんだからお前は頭が悪いんだよ」

「いいじゃん、自己紹介なんてしても意味無いよ。あんなつまらない茶番本当に勘弁してほしいよ」

この教室には、2m近い男が一人とサボりを決め込んだ新入生が一人いるだけだ。

 

「いやぁ、それにしてもお前凄いよな。本当に俺を見つけちまうんだから」

その男、日之影空洞は腕を組み、ほんの二ヶ月ほど前の事を思い出す

「結構、俺も本気で逃げてたんだぜ」

「言ったじゃん、お前みたいにおもしろい人忘れるわけ無いって」

 

あの日、影照が本当に死にかけたあの日

空洞はそんな影照の命を危機一髪で救った。

そして空洞は、影照が傷ついたのは自分のせいだとして、彼の中から自分の存在を完全に消した

ーーつもりだった

 

「あの日俺は、本当に死にかけた。空洞がいなかったら本当に死んでたと思う。でもさ、こんなこと言うのも何だけど、俺、あの日凄く楽しかった(・・・・・)んだ」

「ドMか?」

「違うわ!!、とにかく毎日毎日が死ぬほどつまらなかった俺が、初めて感じた“楽しい”ってやつをそうそう忘れるわけ無いって事」

柄にもなく自分語りをしてしまったと、影照はこっぱずかしそうに頬を掻く。

 

「まぁ、実際大変だったぜ、空洞を探すの。楽しかったのは覚えてるけどお前のことは忘れちまってるわけだから」

空洞は相変わらず腕を組んだまま会話を続ける

「じゃあお前の持ってる(・・・・)その異常(スキル)ってのは、もとから持ってた奴じゃないのか?」

「うん、お前を、知られざる英雄(ミスターアンノウン)を見つけるためだけに必死に努力した結果だよ」

 

そして話は本題へと移る

「じゃあ、少なからずその事だろうな、今回影照が学園長室に呼ばれるのは」

相変わらず、自分が呼ばれる意味のわからない影照は首を捻る

「ま、気にすんな。悪いようにはされない・・とも言えんが」

「え、ちょ、何それ、今俺の何フラグが立ったの!?」

「逝ってこい」

空洞はその大きな拳を突き出し、笑顔で親指を上に立てた。

 

 

 

放課後、約束通りに呼び出された影照は

空調のよく効いた厳かな一室、学園長室で茶柱の立ったお茶を(すす)っていた。

 

この部屋には、影照、その向かい側のイスに学園長と、長い黒髪でスラッとした体型の自分と同じくらいの年であろう人が一人座っている。

「まぁ、そう固くなる必要はないぞ、些細無君」

学園長が影照に気を遣ってか、そっとお茶のお代わりを入れてくれる。

「あ、ありがとうございます」

影照は粗相の無いように軽く頭を下げる。

 

そして、お互いにお茶を啜り、一段落ついたところで学園長が口を開く

「今日、些細無君を呼んだのはちょっとした年寄りの遊びに付き合って貰おうかと思ってなんじゃ。まぐろ君、アレ(・・)を出してくれ」

先ほど、まぐろ君と呼ばれた彼は、何やら机の下から六つのサイコロを取り出す。

 

「なぁに、お遊びなんだからそう身構えんでもいい。ただ、適当にこれらのサイコロを振ってくれるだけでいいんじゃ」

全く学園長の意図がわからない影照は、まぐろ君の表情を伺う。

しかし、彼も彼で終始ニコニコしており、何を考えているのか分からない。

 

影照はここで悩んだ。

結局、彼らの言うとおりに適当にサイコロを振ればいいのか

結果は“つまらない”になるのは自分でもよくわかる、ごく一般的な目が出るに決まってる。

嫌だなぁ、何が嫌だって“つまらない”って言われるのが嫌だ。

だったら、ちょっと俺の手品(スキル)をお披露目しようかな。

 

「じゃ、じゃあ学園長、1から6の中で好きな数字は何ですか?」

いきなりの質問に驚いたのだろう、学園長に少しの沈黙が流れる。

「じゃあ、4にしましょうか」

しかし、ちゃんと質問に答える。肝っ玉が座ってるというか何というか。

 

「分かりました」

影照は六つのサイコロを手の中でじゃらじゃらとかき回し、一斉に投げる。

 

「なんと・・・・」「ほぅ・・・・」

まぐろ君と学園長が驚きと感嘆の声を漏らす。

机の上に散りばめられたサイコロは全て、4の目を上にしていた。

 

「これは素晴らしい」

学園長が影照に賞賛の声をかける。

「是非、雲仙君の兄であるあなたにもこの計画にー」

「ーいや、待ってください学園長」

急にまぐろ君が会話を割って入ってくる。

「影照君、つぎはちゃんと(・・・・)適当に投げてくれるかな?」

「え?」

質問の意味がよくわからなかった、適当に、ちゃんと・・・・まさか・・

(あの一瞬で俺の手品(スキル)に気づいたのか)

そうなんだろう、そうじゃないとあんな事は言わないはずだ。

 

不正をした、怒られる、もしかしたら退学

怖くなってた影照は、今度はちゃんと(・・・・)適当に投げることにした。

 

・・・・まぁ、予想道理だ。

もう一度振られたサイコロ達はそれぞれバラバラな目を上にして止まる。

 

「これは・・・・?」

結果が違うことに驚いたのだろうか、学園長はしばらく考えこんでいた。

そこで、まぐろ君が口を開く。

「うん。影照君は間違いなく普通(ノーマル)の人間ですね。急に呼び出して悪かったね、もう下校時間だし帰って結構だよ。」

 

 

 

「もしもし、冥利?」

『影兄、姉ちゃんの様子は?』

「まだ、玄関前なんだが、凄い不機嫌オーラを扉の向こうから感じるよ、今日は友達の家とかに泊まってきなさい」

『わかったよ、じゃあ呼子ちゃんの家に泊まってくるわ。あとは宜しくな影兄』

 

ープツッ

 

ん?

え、今女性の名前が出なかったか?

気のせいか?気のせいだな、俺の弟が女性と一夜をともに過ごすわけない!

俺の頬を伝う雫?あれだよ、あれ、今日は暑いから!

 

影照は自分の家の玄関に手をかける、自分の家なのにこんなに入りづらいなんて

そして、ゆっくりとドアを開ける。

「ただいまー」

家からは返事がない、リビングを覗くと絶賛ス○ファイ中の妹を発見。

鬼のようなコンボが決まっている。この状態の妹は、はっきり言ってどうしようもないくらい不機嫌だ。

 

こんな時は下手に気を使ったり、刺激したりしないで、おとなしく冥加の好きなものを食べさせてあげるのが一番だ。

小さいころからそうだった、よく喧嘩をした弟と妹の間を保つのが影照の役目だった。

冥加に叩かれて泣く弟を、後から冥利に意地悪な仕打ちを受けて怒る妹を

慰めるのが影照の役目だった。

 

今日の晩御飯は、ちょっと高めの国産牛を使ったサイコロステーキだ。

冥利も居ないし、まあそこまで財布の中が寒くなるものでもない。

 

家の中には良いにおいが広がり始める。

「冥加、御飯出来たぞ」

 

手際良く二人分の食事をテーブルに並べる、今日の出来は我ながらなかなかいい方だと思う。

二人の間に高級ワインでも置けば、三ツ星レストランでのデートみたいになるな

なんて冗談をつぶやきながら二人の間に麦茶の注がれたコップを置く。

 

「っ~~~」

なぜか顔が真っ赤になってる冥加を不思議に思いながら、席に着く。

 

・・・・いつもなら、一口二口くらい進んだところでケロッと機嫌が直ってるはずなのだが

今日はなかなか仏頂面がなおらない。

流石に、このままでは駄目だろうと思い影照は口を開いた。

 

「なぁ冥加、何をそんなに怒ってるんだ?冥利のする変なことなんていつものことじゃないか」

冥加の箸が止まる。

「・・・・影兄は知ってたの?」

「ん、いや、俺も今日知ったよ」

「・・・・じゃあ、じゃあ何でそんなに平気な顔をしてるのっ!?」

「そんなに怒らなー」

影照は冥加の顔を見た、その顔は怒りの表情ではなかった。

目は赤く染まって、たくさんの涙を貯め込んでいた。

 

「ー泣いてるのか?」

「違うっ、違う・・もん・・・・・」

もう貯め込めなくなった涙があふれ出す。

冥加はその涙を抑えようと必死に拭うが、拭えば拭うほどその涙はあふれ出す。

「ごめん・・別に、影兄にあたっても意味ないのに・・・・」

影照は冥加の頭を自分の胸の上において、落ち着くまで頭をなで続ける。

 

「・・・・私、怖かった」

影照の耳に届くか届かないかの微妙な声で冥加が話し出す。

「影兄も、冥利も、いつか部屋に閉じこもりっきりの私なんかを置いて、私の知らない遠くの方に行っちゃうんじゃないかって」

「冥加の気にしすぎだって、俺はお前たちを置いてどこかに行ったりなんかしないよ。母さんにお前らの事頼まれてるしな」

「分かってる。でも最近、影兄は私の知らない笑顔で、今まで一言も話すことの無かった“楽しい”って言葉を言うようになった。冥利も、今日みたいに私に隠して学園に入学しちゃうし」

 

冥加はまだ息が落ちつかず、肩を細かく震えさせる。

「怖かった・・二人とも、私の知らない二人に変わっていくんだもん。いつか、私を忘れる日が来るんじゃないかって、そう思ったら・・・・」

「冥加・・・・」

 

冥加はギュッと影照の服をつかみ、赤くなった大きな瞳で影照を見つめる。

「おねがい、私を置いていかないで。いつまでも一緒に居てよ・・・・影兄・・・・」

 

小さいころから、何かと落ち着きのある妹だった。

甘えたい盛りだったころに両親が亡くなっても、弱音ひとつ吐くことは無かった、兄に心配をかけまいと

いつもしっかりしている妹だった。

 

でもきっと、甘えたかったのだろう。母さんにも父さんにも。

 

今、目の前に居るのは、しっかりとした妹では無く

弱々しくも、かわいらしい一人の妹だった。

 

「良く聞け、冥加」

影照はそんな妹の耳元で、優しくつぶやくように話す。

「俺は、絶対にお前たちを置いて遠くに行ったりなんかしない。たとえ、両足が無くなろうと、心臓が止まろうと、俺という全てのものが消え果てようと・・何度でも蘇って、お前達の所に戻ってくる。これは絶対だ。」

 

冥加は頷いた。

 

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