ヒーローと魔法少女、或いは心理学カンストゴリラ 作:就鳥 ことり
感想や、評価も頂けてとても嬉しいです。
コメントでご指摘を受けたので、少し補足を入れて見ました。
「資料で見ていたけれど自己主張が激しいね?」
濃いめの青地に、でかでかと上下に渡り白のラインで型どられるは『UA』の文字。
「そう? 私はそこまで気にならんけれどなぁ」
「みゅきゅ!!」
不思議そうに身に纏うジャージを見回すお茶子と、同意を示すイズク。あれ? 私だけ? そうか。
パチンとウェストポーチのベルトを留めて、中身を確認する。高カロリーゼリー飲料がぴっちり6本、ミニ救急箱、電気伝導警棒……は今日は要らないか。グローブ手袋やバッテリー類や臭い玉も取り出してロッカーに仕舞う。
「わ、陽向さんそれ何? ペンと、充電器……? みたいな」
「ああ、これらは知り合いの発明家から貰ったんだけれど……」
こっちは電気伝導体でできた警棒で、このグローブのコードにバッテリーを繋いで置くとグローブの掌部位から流れる電気が警棒にも伝わるという、まぁちょっと過激な不審者撃退グッツだよ。それでこちらも同じく撃退アイテムなんだけれど、こっちは世界一臭いと言われる缶詰の臭い玉だね。などとお茶子に見せると興味深そうにしてるので、後で触らせる約束をして指定されたグラウンドへと歩き出した。
少し余談になるが、入試時に世話になった優しいマッチョ少年の姿をクラス内に見つけた。彼も合格していた上に、同じクラスだったのだ。嬉しい。声を掛け、チョコレートマフィンの御礼と感想を伝えたところ、嬉しそうにまた作ると言ってくれた。お菓子作りは趣味なんだという彼の名前は砂藤力道。砂糖を摂取することで身体強化される個性で、お菓子作りはその副産物なんだそうだ。とても美味でした。また作ってくれるのが楽しみだ。
閑話休題。
今頃入学式だったと思うが、ジャージで移動とは? 私の両親が今か今かと体育館でスタンバっている筈だ。疑問符を浮かべているのは私だけではないらしく、皆多少の不信感を持ちながらゾロゾロと春空の下担任の元に再集結した。
「それじゃこれより個性把握テストを行う」
突拍子もない発言にクラスメイトの大半がオウム返しの如く「個性把握テスト!!??」と反応を示した。うんうん、わかるよ。私もそう思う。なんでや先生、これから入学式って放送あったよ。もしかして、ヒーロー科に入学式なんてものは無かった。いいね? な展開なの? そうなの?
「えっ、入学式は!? ガイダンスは!?」
私の心を代弁してくれたお茶子に拍手。良かった可笑しいと思ったの私だけじゃない。
「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間ないよ」
まさかの正解。ヒーロー科に人権は無かった。いいのかそれで。学校として大丈夫なのだろうか? 私としては両親に娘の高校生デビューを見せられないので、大変よろしくない。
「雄英は自由な校風が売り文句、そしてそれは先生側もまた然り」
つまり同じヒーロー科でもB組は普通に入学式してるのか。
成程、よろしくない。ごめん両親。今頃姿の見えない私にアワアワしていることだろう。
3年会わないうちに先生の合理主義がさらに重症化しているご様子。先生〜っ、昔はもっと甘かったじゃないか……もしかして、あれは小学生対応だった?? あんなに容赦なかったのに? 嘘やん、でも先生なら有り得る。幼女の私は生徒第1号だと言っていたから、私を小学生の基準にしてる可能性。ダメです。
うーん。その他の行事も参加不可となっていたらどうしようか。私はヒーローにそこまで執着してる訳でもないし、両親的には子供のそういう姿って見たいもの、だよね? でも、ヒーローという高い目標に向けて努力する姿の方が好ましいかもしれない。これはしれっと聞き出しておかねば。学科編入は確か可能だったはず。
それらは今考えても仕方ない。とりあえず今は大人しく先生の指示に従おう。どうやら中学生までにやってきた体力テストを個性使用ありで行うらしい。
「確か、実技のトップも陽向だったな」
「はい 」
ご指名だ。先生のその言葉に周囲の視線が私に向かう。若干1名は睨みつけているが気にしない。……先生、もしかして私のこと覚えてない? あまりに何の反応も無いと不安になってくるよね。先生は教師でプロだから表に出さないだけかもしれないけれど。
「中学生の時、ソフトボール投げ何メートルだった?」
「えーっと、40ちょいだったかと」
「じゃ、個性使ってやってみろ」
白線から出なければ何しても良いとのことだったので、とりあえず変身しておこう。麗日さんと砂糖くんからのエールに手を振り返し。風に気をつけるようクラスメイト達に注意喚起をする。大丈夫だとは思うけれど一応ね。
「
「みゅや!!」
巻き起こる花吹雪を、神経を集中させて抑え込む。
そばを漂うイズクを手招きで呼び寄せ、抱きしめた。
「ハート・コネクト、ルミエール!!」
文言を唱えるとすぐさま私を覆い隠す花弁の竜巻が吹き荒れる。先が灰桜の白い獣耳の生えた、魔法使いを彷彿させる桃色の帽子。耳の上でストロベリーブロンドのシニョンが小さく2つ、付け根から細い三つ編みが腰まで流れる。詰襟に三段のダブルボタンと首元を飾るリボン、濃淡2色の桃色を基調としたなんとも形容し難いホットパンツ丈の繋ぎ。そのすぐ下まである編み上げブーツ。一見、二重になった生地により後ろの裾が長いワンピースにも見える。シルエットは強いて挙げるならプリンセスプリキュアに近い。
現時点のコスチュームは動きやすさ特化、ミニドレスタイプは過去数年見ていない。
竜巻が収まり、私の姿にざわめく周囲を一目する。驚かせてしまったようだけれど、見たところ風による被害はなさそうで安心した。
「それでは」
円のギリギリ後ろから、野球部の友人の姿を思い起こしながら左足を踏み込めばそこから花弁が舞い、軽く地面が抉れ土煙が上がる。……後でグランド整備するから許して欲しい。
「飛べっ!!」
勢いそのまま80度の角度に上空へと放り投げる。殴るように力を込めて右手を振り下ろせば、指先から花弁が零れ、いつものファンシーでどこか間の抜けた効果音と共に球は爆速で遥か上空へと飛んで行った。
球が見えなくなり、暫くすると先生の手元の端末が受信音を奏でる。
「718メートル」
おぉー。と素直な歓声を上げてくれるクラスメイト達に頭を軽く下げて、制御装置を起動する。きゅぴんっとファンシーな破裂音と共に光が弾けてイズクが飛び出し、私も元の体操着に戻った。変身中は個性が安定し低燃費になるとはいえ、そのカロリー消費は通常時とは天と地ほどの差がある。タイムラグ等が問題ない場合はこまめに変身を解いた方がカロリー消費を抑えられるのだ。
面白そうだと沸き立つクラスメイトに、先生の眉がひくついた。……鬼スイッチの入る音が私だけに聞こえた。説明しよう!! 鬼スイッチとは、生徒(私)が調子こいていると偶に押してしまうスイッチであり、先生からの課題がハードモードにモードチェンジするぞ!! 余裕ぶっていると地獄を見る。私は学んだ。
「面白そう、か。君らそんな腹積もりで3年間過ごすつもりかい? よし決めた。8種目総合成績で最下位の生徒は見込み無しと判断して除籍処分とする」
鬼だ。
理不尽だと。困惑を隠しきれないクラスメイト達に私も同意だ。倍率300倍に勝って念願の雄英入学、多少の浮かれくらい許してあげてほしい。いくらなんでも入学早々除籍処分は可哀想が過ぎる。
理不尽はこの現代社会人において付き物だし、それを乗り越えるのがヒーローだ。という先生の言葉に納得はしたけれど、流石ハードモード、容赦ない。最下位の子に心の中で合掌を送った。余裕ぶるつもりは無いし全力でやるけれど、身体能力爆上げ型の私に利があるのは明らか。たぶん最下位にはなり得ないだろう。
いやぁ、取れたらいいなと緩く気構えている私だけれど、手を抜くという選択肢は残念ながら持ち合わせていない。手を抜いて最下位になれば先生から軽蔑されることは避けられないし、入学初日で除籍とは両親にとても聞かせられる話じゃない。
それに、これから同じ目標へ向かう仲間なのだから、手を抜いてはどちらにせよ彼らに失礼だ。
何より、3年で成長した私を先生に見て欲しい。
制御装置切っても10分は少しはまともに動けるようになったんだよ、ドヤァ。ってしたい。とてもしたい。
ということでかっ飛ばして行こうと思う。
**
50メートル走か……何してもってことは走らなくてもいいのかな。現にレザービームの勢いだけで飛びきった子もいるし。いや、事前に個性を使ってお茶子は服や靴を無重力にするなどをしていたから、変身してからのスタートで問題ないのか。制御装置切ってもやれる姿を見せたかったけれど、よし。
「イズク、変身しておこうか」
「みゅきゅ!!」
機械の合図に従って地面を蹴れば身体は爆風に煽られたかのように飛び出す。滞空時間が長いが、速度がえげつないためタイムロスはしていない。その結果僅か3歩で50メートルを走り抜けるとは思わなかった。そして急には止まれない。……慣れないなぁ。体制を低くして足と手を地面に擦り付け、土煙を上げながら2秒強かけてやっと止まれた。練習しよ。
記録、3秒27。
エンジンの個性を持つ眼鏡少年に次いで2位。なかなかに上々では!?
先生っ、見た!? 見た!? ……見てない、おっけー次だ、次!!
反復横跳び。
「なにあれ凄い」
ぽよぽよと何かグミのような弾力性のある塊の間を跳ね返されて高速移動するぶどう頭の少年……なるほど頭いい。
私も何か工夫、工夫……思いつかない直球勝負だ!! 迷ったらいつだって物理思考でいこうぜ!! って師匠が言ってた。
「イズク」
「みゅきゅ!!」
脳筋では無いんだよ、師匠。ただ考える時間が短いからそう見えるだけで。対人戦においては相手をよく観察し、策を一瞬で練っちゃう凄い人なんだよ。私変身しても師匠に勝ったこと1度もない。
「……見た目魔法少女が反復横跳びってなんつーかシュールだな」
わかる。
立ち幅跳び。
立ち幅跳びかぁ……変身して普通に跳んでもそれなりの数値は叩き出せるけれど。
「先生」
「なんだ」
「個性の1部でこんなものもあるんですが」
念じるとぽんっという破裂音と花弁と共に30cm程の杖が握られる。まぁ、魔法少女あるあるのいわゆる『魔法の杖』や『プリキュアの武器』のようなものだ。と言ってもこれは伸縮自在なだけで、ビームやら魔法が出る訳ではないのだけれど。どちらかと言えば魔女の箒か、如意棒に近いかもしれない。
その見た目は先端には水晶の中に花弁が舞うスノードームのような物が付いており、杖との接続部分にはリボンが結ばれた大変可愛らしいデザインをしている。
「使用しても構わないでしょうか?」
「構わん、何したっていいよ」
許可を頂いたので杖を身長丈に伸ばして。その場で飛び乗り跨がれば、杖は空中浮遊を始める。そのまま前へと飛ばし進むと彗星の尾のように桃色に輝く花弁が散った。綺麗だけれど、敵を撒くために逃げるのにはあまり使えないのだ。けれどまぁ、今は関係ないだろう。最高時速は200キロで理論上は新幹線と並走することができる。しかしスピードが速ければ速いほどカロリーを消費するので、空腹との戦いとなるが。速度によっては走るよりはずっと楽に速く移動することもできるのだ。
記録はグランドの端まで飛んで着地したため1キロ弱。狡いと言われてしまったが、個性だと言い張らせて貰おう。あと何種目だっけ……やばいお腹空いてきた。水分補給してる子も致しいいよね!!とゼリー飲料を2本胃袋に流し込んだ。カロリーは取れても空腹感が埋まらないから辛い。お腹空いた。
握力。
……これにはあまりいい思い出がない。師匠に弟子入りして1年。右39キロという女児新記録を出したのが私のゴリラ伝説の始まりだった。その後急成長した私は小学生4年生にして生卵を握り潰し(1点に負荷をかけるように親指と人差し指、中指でベシャッだ)、中学生にしてじゃがいもやリンゴを粉砕。そして現在、片手くるみ割りに挑戦させられている系女子高生である。挑戦相手はオキクルミという殻の分厚いクルミで、80キロは必要との事だ。
ちなみに去年の握力測定は右76キロ、左72キロという記録を残した。勿論個性不使用で、だ。校内及び県内の最高記録を3年連続更新したことにより中学の握力、シャトルランの女子記録は全て私1色になってしまった。ちなみに20年間全国記録を塗りかえられてないのは我が師匠で、右250キロという男子最強記録をお持ちです。中学生にして250キロとは……末恐ろしい。過去に測定器を破壊して以来測っていないので、現在の数値は知らないとのことだ。壊したって、ひぇっ、師匠まじゴリラ。
「気乗りしないけれど、全力でいこうねイズク」
「もきゅっ!!」
「さん、びゃくじゅ、キロ!?? 陽向さん凄い!!! あれなん? リンゴとか握り潰したりできるん!!?」
「あはは……。この状態ならリンゴどころかコンクリもいけるかもね。通常時ならじゃがいも、人参、根菜ぐらいならなんでもござれ。だよ」
案の定、変身したことによりパワーアップした私の握力はいよいよ3桁に上った。麗日さんに女子らしからぬ数値を見られて死にそうになりながらも、無邪気な友人に癒された。今日も彼女は麗らか朗らか少女。
女子とは思えない男子すらも超越する怪力だなんて今更だけれど、ふとした瞬間なんとも言えない物悲しい気分になるよ。中身は三十路、通算精神年齢アラフィフとは言えど、私だって女子だからね。
「おぉ!!? すげぇな。540キロってゴリラじゃねぇか!! いやタコだったな??」
しかし、その後間もなく出会った右手三本により生まれた500越えの記録に感動することになる。思わず手を握ってしまい、学年で私より力強い人がいなかったから感動したのだと伝えれば、
「そうか。今後力仕事が必要な時は言ってくれ、力になろう。俺は障子目蔵だ」
ぐう紳士……!!
「私は陽向花恵、さっきは不躾に悪かったね。こちらこそ仲良くしてくれると嬉しい、よろしくね障子くん」
すると彼のそばにいた黒髪の元気そうな少年は、不思議そうに
「そんな感激するもんか? 陽向の個性って強化系だろ。使わなければ普通なんじゃねぇの? 気にすることないって、なぁ?」
それより、マジもんの変身ヒロインの方が感激したぜ!! と目を輝かせてくれる少年に、思わず苦笑が零れた。
「恥ずかしながら変身しなくても優に70キロは超えるんだ」
「おっと墓穴、それはすまん」
素直に謝ってくれた少年に気にしないでと告げて、そのまま麗日さんの元へと戻ることにする。
後方で「ひぇっ、ゴリラじゃん……」って言ったのちゃんと聞こえてるからな、ぶどう頭少年。その通りだから責めないけど!!
**
その後もボール投げから上体起こしまで難なくこなし、前屈では新体操で磨いた体の柔らかさが火を吹いた。ボール投げでは、ボールを無重力にした麗日さんが無限という記録を叩き出し、場を騒然とした。無限……私も大概だけれど、彼女も中々に。そう言えば彼女は立ち幅跳びでも超人的な記録を出していたけれど、その後グロッキーになっていたなぁ。大丈夫だって言っていたが、恐らく自分にかけるのは不得手なのかもしれない。
あとは「死ねぇ!!」という掛け声でボールを放った勝己君にもビビった。その後記録が僅か5m私に及ばなかったらしく、思いっきり睨まれつつ盛大なる舌打ちを頂いた。
雄英ではシャトルランではなく持久走を行うらしく、その距離5キロ。まぁ、体力作りのために昔から死ぬ程走ってた私の敵ではないね。エンジンの彼には叶わなかったけれど難なくこなし、総合成績はかなりの上位にくい込んでいた自信がある。
きゅるきゅるぐぅぐぅと情けない声を上げるお腹の虫を恨めしく思いながら先生からの講評を待つことになった。お昼ご飯が待ち遠しい。
花恵は何やらチート臭い感じがしますが、早熟なだけです(あと怪力)。逆に言えばもう伸び代があまりないとも言えてしまう。あとは追い抜かれるだけ。きっと主人公は爆豪さんで、いつか越えるラスボス的ライバルが花恵のポジションなんだと思います。爆豪さんにとって、出久くんとはまた違った形で目の上のたんこぶになってます。