ヒーローと魔法少女、或いは心理学カンストゴリラ 作:就鳥 ことり
主な改稿は後半部分。
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「踏み潰してやんよ」
「……久しいね、こうして手を合わせるの。なんだか懐かしいや。ね、かっちゃん」
うーん。殺意が高いすぎませんかね。
ぎらついた目で睨まれ、思わず昔の可愛かった『かっちゃん』を思い返す。
__おれさまとしょーぶしろ!!
きょうこそはっ、ぶっころしてやるよ!!
あ。昔から物騒だった。舌っ足らずの可愛さでカバーされてたけれど、普通に言ってることは今と変わらなかった。
しかしまぁ。あんなに小さかった男の子が、もうこんなに背も伸びて立派に努力の証である筋肉も付けて……。なんというか感慨深いものを感じちゃうね。
可愛い弟分である健信くんへの教育に悪いからと、公園を我が物顔で選挙占拠していた彼に苦言を呈しては、殴りかかられ、その度に返り討ちにしていたのが懐かしい。そのせいで会う度噛みつかれるようになったのもご愛嬌だ。可愛かったなぁ。
「いつと比べてんだァ、ふざけんな死ねぇ!!」
飛び出して来た彼に目を凝らす。右か。すぐさま右肘を立て、防御体制に移る。初手は敢えてくらって、爆発の威力を知っておきたい。
ボムっ
……っと。過去には無かった重みを右腕で全体でも感じる。うん、やっぱり威力が上がってる。動きも鋭さが増してて、見ないうちに随分と腕を上げたものだ。昔は足を払ってやれば、すってんころりんと容易く転がったのにね。
それもこれも、昔よりずっと逞しくなった体付きが努力を物語ってる。トレーニング頑張ったんだろうなぁ。
火傷するような痛みでは無いけれど、殴られるとはまた違う衝撃に骨を圧迫される。
でも、それだけだ。
これくらいなら今はまだ、当たる箇所さえ気をつければくらったところで動きに支障は無さそう。腹部や喉をやられない限り大丈夫かな。
彼を舐める訳ではないが、考えて欲しい。日頃の私が組手してるのは拳一振でトラック解体を終えてしまう人間ゴリラたる師匠だ。師匠相手なら衝撃波含めて当たらない所へと飛び回らなくてはならないが、当たっても少し痛いくらいで済むなら考慮する必要が無い。
……脳筋?
師弟は似るっていうからね、仕方ないね。
しかし、脳筋とも言ってられない。爆発の勢いそのまま背後から仕掛けてきたところに、顔面を狙って肘を突き出す。勢いは付けてない、相手の速度を考えればこれで充分だろう。変身して戦う以上、私は力加減に神経を尖らせなければいけない。
なんせ根菜類を拳で砕く女、それが私だ。
それが変身の身体強化により、そのパワーは格段に上がっている。当然、全力で肘打ちをしようものなら顔面骨折不回避だ。放送事故もいいところな、中々にグロテスクな見た目になってしまう。立派なR18のグロ指定だ。それは頂けない。なぜならこれは手合わせであり、淘汰する相手では無いからね。それにまだ皆18歳以下だし。
オールマイトは怪我を恐れずって言ってたけれど、限度があると思うんだ。
そのため細心の注意を払わなければならないので、どうしても若干動きが鈍ってしまう。なんなら、そんな気を使わなくていい分対人戦においては変身しない方が存分に実力を発揮できるだろう。正直、変身した私は対人戦が苦手だ。
……でも彼のことだからね。変身しないで相手しようものならへそを曲げられてしまうのは目に見えてる。彼の精神衛生上よろしくない。
「急所ががら空きだよ」
とは言え、手を抜くとは一言も言ってない。
先程の肘打ちにより体制を崩したところへ鳩尾、喉、顎、と力加減をする代わりに素早く打撃を打ち込む。……もう少し強く打つべきだった、脳を揺らすには足りない。やっぱりまだ加減が難しい。
カハッと苦しそうに胃液を吐く姿に、ジクリと胸が刺される。
残念ながら痛め付ける趣味はない。格闘技はそもそもプリキュアごっこの延長戦でしかなく。人を殴る蹴るするのに抵抗が無いといえば嘘になる。師匠? あれは筋肉という名の鎧を来ているので問題ない。私の鉄パイプもへし折る蹴りでは、うんともすんとも言わないのだ。そんな化け物相手に遠慮も何も無い。
えーと。テープを巻いてしまえばいいんだっけ
「っ、てめぇもなァ!!」
「しまっ」
た。……嘘やん。普通急所連打で膝を着いた状態から、そんな一瞬の隙なんて突けないというか、反射神経可笑しい。
テープを巻いてしまおうと1目ポーチに目を向けた。ら次の瞬間目の前で爆発。多分、目くらましだ。もう一度言う、君の反射神経どうなってんのさ。おかしい。
気を抜くつもりは毛頭なかったし、ポーチのポケットを確認したらすぐ目を向けるつもりだったのに。
本当にすごいよ、勝己くん。
反射で目を閉じた所を……恐らく背後に回られた。くっ、だめだ目が開かない。集中しろ、空気の流れと勘で……やっぱできない無理!! 師匠じゃないからそんな芸当できない。おっと、手首が捕まれっ……あ、まずい、投げられる。
「てめぇお得意の投げ技だァ!! 死ねぇ!!」
……っ、よしいける!!
背負われたそのまま体を左に捻り重心をずらす。投げられるままの勢いを膝のバネで殺して着地し、素早く足を払う。転んだ所をを上に乗って捻り上げたい所だが、手から爆破を起こされては吹き飛ばされてしまいそうだ。
意識を落とした方がいいな。よいしょ!!
「っ、__
立ち上がり体制が整う前に蹴り飛ばし、急いで変身を解く。焦るな。急な身体能力の変化に酔いそうになりながらも、足を動かす。よし、すぐさま間合いを詰めて。それから後ろに回って、首裏に手刀を。こればかりは力加減をしっかりしないと。首の骨が折れたらそれだけで一生残る麻痺を負うことになる。加減をしきれない変身したままではいけない。
「舐めんなよ、クソ花ァァ!!」
「っ、」
だめか。生身じゃ速度が足りない。すぐさま建て直し今までに無い構えを取る勝己くん……何か、くる。このまま突っ込むのは悪手だろう。足を止め、警戒しながら私も構えを取る。
「んで。変身解いてんだクソ」
あ。やば。見られる前に落とすつもりだったから……なんて。うん私が悪い。そら、君はキレるよなぁ。
「いやぁ恥ずかしい話、まだ変身した時の力に慣れてなくてね。だからこっちの方が武術的には本気が出せるんだよ」
断じて舐めてないよ!! 全部本当のことだ。前世で鍛えた言いくるめ能力の見せ場、なんだけど。勝己くんはこれしきで納得しちゃぁ、くれないよなぁ。
「チッ、そうかよ……俺の爆破は掌の汗腺からニトロみてぇなもん出して爆発させてる。俺の要望通りの設計ならソイツを内部に貯めて」
あっ、嫌な予感。というか、もしかしなくても貯めたニトログリセリン擬きを一気に爆破させれる的なやつだよねこれ、……威力を、想定したくない。
『ストップだ!! 爆豪少年!! 殺す気か!!』
「あ、察した」
監督者たるオールマイトの制止の声に、予想が外れる余地がないということを悟った。嫌な予感ほど外れてくれないよね、わかる。
雄英さんよ、そんな殺傷能力高いもん子供にホイホイ与えちゃダメだと思うな、私!! あっ、入試で殺意高い巨大ロボット導入してるような学校だもんね!! 今更だったね!! 無理。
「当たんなきゃ死なねぇよ!!!!」
何言ってんのコイツ。
勝己くん、勝己くん。よく考えて。ここ廊下の突き当たりだから、逃げ場なんてないんだなぁ。当たるよ? 死ぬよ??
「なァ? 花恵!!」
「いや無理だってっ、!!」
あーっ、引き金引いちゃったよこの子!! これは流石の花恵さんもこれは逃げの一択。
無理無理……えーと、ここは3階か。うーん、ワンチャンダイブある。
背に腹はかえられない。思い切って爆破から逃れるように窓を割って飛び出した。両親の手前控えていたけれど、私はアグレッシブな方でね。これくらいの高さなら、
「_
耳を劈く爆発音。それから空中で爆風に煽られバランスを崩される。例の浮かぶ如意棒を握り何とか持ちこたえたけど、肝が冷えたね。久しぶりのダイナミックエスケープ……涙目の愛弟子の顔が浮かんだ。いつも心配かけてばかりで、申し訳ないとはちょっと思ってたよ。
『陽向少女っ、陽向少女!! 応答してくれ!!』
「はい、なんとか生きてますよ」
……死ぬかと思った。普通に。本当、友人の殺意が高すぎて無理。まぁ、今回は私がフラストレーション貯めさせちゃったのもあるから半分自業自得で一概に責らんないけど。
『良かった、動けるかい』
「はい、演習続行可能です」
いやぁ、ここで死んだら勝己くんのヒーローへの道に影が差すからね、死ねないよ。私もやることまだまだやってないし。
しかしまぁ本当に。私相手じゃなかったら大変なことになってたぞ、勝己くん。
『_陽向くん、無事か? 応答してくれ』
「無事だよ、大丈夫」
飯田くんからの通信に、応答していると不満そうな勝己くんの声がする。
「なぁ、避けてんだろ? 花恵、出てこいよ。コイツはなァ、貯まれば貯まるほど威力が上がるんだぜ? なァ、力加減とかいいからよォ、全力でこいや」
貯まりに貯まったフラストレーションにより、内に内にと押し込めていたものが吹き出しているようだ。どう考えても私の悪どい焦らし作戦のせいである。弁解の余地がない、直接言うのは逆効果でしかないので心の中で深々と頭を下げた。
どうやら今の彼は私が思っていたよりずっと不安定で、危うい。思春期だもんね。っう、そんな思春期の不安定な心を弄ぶような策を取ってしまったこと、とても反省してる。自分のやらかし具合にも凹むし、罪悪感が津波のように押し寄せてくる。
「その上で叩き潰してやんよ」
しかしながら、その内に秘めてた部分が思ってた以上によろしくなさそう。これはちょっとヒーローとしては難ありというか、思考が少し犯罪者寄りな気がする。
それを無理矢理に矯正するつもりはないけれど、友人としては放っては置きたくない。
だってもし私じゃなかったらリカバリーガールが控えているとはいえ、あの爆破で死んでいたかもしれない。そしたら、彼のヒーロー人生はそれどころではないだろう。
「ねえ、勝己くん。君はすごいよ。戦闘センスがあって努力もできる」
「あ?」
「でも、君がなりたいヒーローってそれでいいの?」
__少なくとも、君が憧れるオールマイトはそんな個性の使い方、しない筈だよ。
ビルの裏から回り、背後から飛びつく。右腕を首に回し、後頭部を左手で圧迫する……所謂バックチョーク、絞め技の1種だ。打撃の手刀と違って、徐々に力を加えていけるから、力加減がしやすい。
「っ!! くそ、が……」
絞め技はあまり使わないし、そんなに得意じゃないんだけれど。分かりやすく血管をキュッとして落とせるから、気絶させる手段として少しだけ覚えてる。実戦で使う予定は無かったけれど、なんでも覚えておくものだね。
ふっと力の抜けた身体をそっと抱きとめてテープを巻いた。
「飯田くん、ヒーロー捕縛完了。応援に向かうよ」
『_了解した』
すぐさま飯田くんの元へ行こうとするも、その間のなく試合終了を告げる音が鳴る。
『タイムアァーップ!! ヴィランチーム、Win!!!!』
終わったぁ……ふっと息を吐いて変身を解く。
飯田くんには悪いことしたなぁ。後で改めて謝っておこう。
「お疲れ様だね、イズク」
「みゅーきゅ」
ぐっきゅーるるるる。
ぐーぎゅ。
「もきゅぁ……」
1人と1匹の腹の虫は気が抜けたのか揃って空腹を訴えた。お腹空いたねぇ……お昼はカツ丼大盛りとスタミナカレー食べようね。
「みゅきゅ!!」