ヒーローと魔法少女、或いは心理学カンストゴリラ 作:就鳥 ことり
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俺はなんでも、人よりできる。
「かっちゃん足はぇぇ」
「まってぇ」
いつも上にいた。
「かっちゃんもう個性でたの? はやーい」
「かつきくんの個性かっこいいね」
「すごぉい」
個性が出んのも、扱いを覚えんのも1番早かった。
「お前らこんなのもできねぇのかよ」
「だって高いの怖い」
「木なんて登れないもん」
かけっこも、縄跳びも、折り紙も、ひらがなも。
なんだって俺が1番だった。
なんで、皆できねぇんだ?
いや違う。
俺がすげぇんだ。俺が偉いんだ。
そう思ってた。
そこに現れたのは
「ねぇ、お兄ちゃん達。ブランコ1つ譲ってくれないかな」
「あ? ここは今おれさまの城なんだよ」
「そうだ!! かっちゃんに逆らうと痛い目見るぞぉ」
「あっちいってろ、ぶーす!!」
歳の近そうな女の餓鬼と3つくらいの小さな餓鬼。
「はなねっぼく、砂遊びでいいよ。こわい」
「お兄ちゃん達ずっと使ってるでしょ、あの時計の長い針が5から7になるまででいいから。ね、ちょっとだけ貸して」
「うるせぇ!!」
「かっちゃんに、勝てるもんなら勝ってみろ」
ボムっ。周りに囃されるまま、執拗い女の餓鬼の顔を思いっきり殴った。
叩いたのは女の餓鬼でそいつじゃねぇのに、チビの方が涙をためて、後ろに隠れて怯えてた癖に前に庇って俺を睨むから。
「はなねぇに、いじわるしちゃ、だめっ!!」
生意気で、無性にに腹が立って。
つい手を挙げたのを覚えてる。
弱虫のくせに、偉そうにすんじゃねぇ。
掌いっぱいに爆発を起こしてぶん殴った。
ぶん殴ろうとした。
瞬間景色が回った。何が起こったのかもわからなくて。
気が付いたらそっと背を地面に付けていた。
「お兄ちゃん、すごくかっこいい個性だけれど。使い方がかっこ悪いよ」
個性も使ってない、しかも女に負けた。
その時、俺を囲っていた子供の万能感、無敵感が音を立てて転げ落ちた気がした。
**
「お疲れ様!! よく避けたというか、よく飛び出したよ!!」
「土壇場での判断力、凄かったわ」
「こないだの個性把握テストもそうだけど、やっぱすごいねアンタ」
「ありがとう。えっと芦戸さん、蛙吹さん、耳郎さん」
結局オールマイトが医務室に連れてってくれたから1人で戻って来たんけれど、最初は勝己くんを担ぎだそうとしたからほか2人より一歩遅れることになった。
モニター室に戻るとすぐさま気付いて声をかけてくれた優しいクラスメイト達に、座席表の名前と顔の記憶を手繰り寄せてお礼を言えば
「やだなぁ、名前で呼んでよ。三奈って」
「えぇ、梅雨ちゃんと呼んで」
「……ウチはどっちでもいいけど」
「そう? なら私のことも花恵って呼んでくれると嬉しいな。三奈ちゃん、梅雨ちゃん、響香ちゃん」
改めて名前を呼び返せば、各々に満足そうに笑い返してくれた。あっ、仲良くなれそう。ねぇねぇ麗日さん、私友達増えたよ!
「えっ、やだ。うちもうちも!! 私、陽向さんの友達1号やもん!!」
可愛いかよ……。
今日も彼女は麗らか朗らか少女。大変可愛らしい。
「んー? 何がいやなの? お茶子」
「くっ、それはずるいよ花恵さん……すき」
「勿論わざとだよお茶子さん」
胸を抑えて崩れたお茶子さん。
「ケロケロ。可愛いわね、お茶子ちゃん」
ほんとそれな。
私の友人の反応がコミカルで素直可愛い。
「おっ!! 見てたぜ、陽向!! あ、俺切島な!! なんつーかあれだな。窓割って飛び降りんのも凄かったけど、基本的な格闘術もすげぇのな!!」
赤髪ツンツンが特徴的な切島くんは、私に気が付くと目を輝かせて来てくれた。少年の幼さの残る無邪気な反応が可愛い。
「ありがとう切島くん。総合格闘技をやってる師匠の所に小学生の頃から通ってたから、それなりにできるんだ」
人間の急所は粗方頭に入ってるよ。そう言えば、さらにすげぇ!! と褒めてくれた。素直な反応がなんとも心地いい。これはどこへ行っても目上の人に可愛がられるだろうなぁ。
その後、砂糖くんも労りに来てくれて、主に腹減り具合を心配してくれた。そこで私が言葉にするより先にお腹の虫が返事したため、
「……バナナマフィン食うか?」
「食べます」
穴があったら埋まりたい、自重して私のお腹。思わず羞恥に頬が火照る。
しかし、かなりお腹空いてるのは事実なので有難く頂戴することにした。お昼までまだ時間があるからありがたい。まぁ、授業終わりまでもまだまだ時間があるんだけどね。だって私たち初戦。
それから、私の格闘技に興味を示してくれた子にちょっと解説していたのだが、オールマイトと勝己くんが戻って来たのでそれも間もなくお開きとなった。
女の子達にモフられていたイズクが、すぐさま勝己くんの所へ飛んでゆこうとするのを間一髪で抑える。ステイステイ、落ち着いたばっかりだろうから下手に刺激するんじゃない。それに、あの子は他人からの慰めが要らない人だ。
「さて、今回の講評だが。まずはヴィランチーム。なんと言っても陽向少女、良く土壇場で動けたな!!」
「肝は冷えたましたけどね。イズクのおかげです。ね、イズク」
「もきゅっぴ!!」
改めてイズクにお礼を伝えると、ご機嫌に頬を擦り寄せてくれた。
本当に、冗談抜きで死ぬかと思った。過去最速で変身してくれたイズクに感謝。
「まぁ、今回のMVPは飯田少年だけどな!!」
あら。やっぱり核兵器捨てて飛び出したのはダメだったかぁ。
「んー。なんでかなぁ、なんでかなぁ? はいっわかる人!!」
「もきゅ!!」
「はいっ、オールマイト先生」
オールマイトからの呼び掛けに真っ先に挙手したのはうちの獣と、ポニテ少女だった。
「え。えーと」
「うちのがすみません、八百万さんどうぞ」
「もきゃぁ……」
そっと強制的にイズクの手を下ろす。上目遣いで不服そうに鳴いても、ダメだ。憧れの大好きなオールマイトからの問いかけに答えたいのはとても分かるけど、君のもきゅもきゅは解読不可能だから諦めて。
「お可愛らしい……えー。コホン。では、イズクさんの分も私が述べさせて頂きます。
まず爆豪さんの行動は戦闘を見る限り私怨丸出しの独断、そして屋内での大規模な攻撃行為は愚策も愚策。
陽向さんも爆豪さんに感化されたように見受けられます。
麗日さんは気の緩みと演習への意識の低さ。本当に本番を想定して動いていたなら、
その点飯田さんは、突然の陽向さんの飛び出しにも臨機応変に対応し、ハリボテを核兵器として扱っていたからこそあのまま麗日さんの足止めをするのでは無く、個性で引き離して核を守りに行った。飯田さん以外有り得ませんわ」
おぉ……よく見てる。イズクも文句なしなようで感激とばかりに八百万さんの周りを飛び回る。勿論すぐさま回収しに向かう。うーん。おかしいなぁ、中学生の頃は何があっても授業中はしっかり大人しくしてたのに。
「うーん、飯田少年もまだ硬すぎる節はあったりする訳だが……まぁ。正解だ」
「すごいね、八百万さん。よく人を見てる」
「当然です。常に下学上達、一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので」
下学上達、一意専心とはどういう意味か分からないけれど、自意識と向上心の高い子なのは分かった。理解していないことを察したのか
「下学上達とは、身近で容易なことから学び、次第に進歩向上していくこと。一意専心とは他に心を動かされず1つの物事に心を集中させることです」
丁寧に解説してくれた。優しい。
「成程、その通りだね。大きな目標を見据える上で大切な心得だと私も思う。ありがとう八百万さん、おかげで1つ賢くなれたよ」
素直に感謝を述べると、彼女は少し照れたように「これくらい、お易い御用です」そう目を逸らした。可愛いなぁ。あまり、人と接するのに慣れてないのかな? 人見知りとか物怖じする訳では無いけれど、不慣れそうな感じがする。……ただの、ちょっとしたツンデレさんなのかもしれないけれど。
「それでは移動して次のチームいってみよう!!」
それからクラスメイトを知るためにも、彼女を見習って戦局を見守ってたんだけれど。うちのクラス超強いね。流石倍率300倍を勝ち抜いた猛者達。特に凄かったのはやっぱり轟焦凍くんだ。ビルを丸ごと凍結させて瞬殺。退治した相手が素足だったのもあり、氷で固められた足を下手に動すと皮が剥けてしまう。強い。
「成程、相手の戦力を削ぐことにもなるのか。流石八百万さん、よく気付く。勉強になるよ」
八百万さんの解説を聞きながら見てると尚面白い。互いに気付いた所を話しながら観戦してると、やっぱり1人で見てるよりもずっと勉強になる。彼女の着眼点がいいのも勿論あるのだけれど。
そして何より、八百万さんの気づかなかった箇所を指摘して、褒められたのは素直に嬉しかった。
**
「陽向、そんなに持って大丈夫かよ」
「うん、平気。鍛えてるからね。……中学の時も力仕事と言えば私だとばかりに、友人から先生から。いろんな人達にパシられてたよ」
半分以上の冊数を腕に積み上げた私に若干引き気味な彼に苦笑いを返す。
実は先生に頼まれて教材を上鳴くんと取りに来ていた。本当はお茶子が声掛けれてたんだけれど、量があるらしいし私の方が力があるからと代わることにしたのだ。
「んー。まぁ確かに、中学ん時は陽向ん周りに力あるやついなかったかもだけど。ここじゃそれなりに鍛えているやつばっかだし、俺も鍛えてんだから頼れって」
そう言って私から半分かっさらって残りを抱えた上鳴くんだったが、
「嘘だろ、くそ重てぇじゃん。言った傍からかっこ悪ぃけど、やっぱ頼りにしてんぞ!! 陽向!!」
大半が私に返却された。
清々しいまでの変わり身の早さ。いいと思うよ。
「うん任せて」
適材適所、大事なことだ。
2人でたわいもない話をしながら教室に帰ると
「そうだ陽向、今度メシ行かねぇ? 何好きなん?」
「お肉と炊きたてのご飯」
「んじゃ、焼肉だな」
「1000円で食べ放題のやっすいとこ知ってるよ、せっかくなら皆誘ってみようか。って、あれ。イズクがいない」
モフりたいと、控えめにお願いしてきた八百万さんに預けてたはずなのだけれど、その姿が見えない。
「陽向さん!! 申し訳ありません!! つい先程帰られた爆豪さんを追って飛び出してしまって、追いかけようとしたのですが」
「うーん、イズクぅ……わかった、追いかけて来るよ。ありがとう八百万さん」
本当、勝己くん大好きだからなぁ、うちのイズクさん。ちゃっちゃと早いとこ回収しないと……
あ、見えたっあーーーっ圧倒的手遅れ感。もう今日はやらかしてばっかりだ。1秒も惜しくて、昇降口を飛び出し上履きのまま駆け出した。
「イズク!!」
「みゅきゃあ!!」
勝己くんに首根っこ掴まれたまま、返ってきたのは嬉しそうないいお返事。イズクの名誉にかけて、この子は賢い子なんです。好きなことになるとちょっと理性がはち切れちゃうだけで。
「本当に何度もごめんね、勝己くん」
「おん……」
「ほらイズク、行くよ。勝己くんもまた明日ね」
多分彼に余計な声がけは要らない。
イズクを呼び戻して背を向ける。大丈夫、あの子は強い子だから。
「こっからだァ!!!!」
っわ、びっくりした。急な叫びに驚いて思わず肩が跳ねる。……意外。聞かせてくれるんだ。
「うん」
私は足止めてしっかり向き直り、彼を真っ直ぐ見つめ返した。零してくれるのなら、私も心してその言葉を聞きたいと思ったからだ。
「今日っまたてめぇに勝てなかった!」
「……うん」
「俺が培った3年より倍も強くなってるてめぇに、越えらんねぇかもって。一瞬でも考えちまった!! クソッ!!」
「うん」
「氷のやつを見て、適わねぇんじゃって、思っちまった!! クソが!!!!」
「うん」
「ポニーテールのやつの言うことに、納得しちまった!!」
「うん」
「くそっ、クソッ、クソォっ!! また、こっからだ!! 俺はこっから強くなってやる!! 誰にもっ、負けねぇ!!」
涙を滲ませながらも、一際強く私をその強い眼差しが射抜く。
あぁ、なんだ。
本当に心配要らなかったね。
「てめぇもだ!! いいかァ、てめぇも踏み付けて、俺はっここで1番になってやる!!!!」
「うんっ!」
ほんと、強いよ君は。
「私も! 君の期待を裏切らない、踏み付け甲斐のある奴でいるよ!!」
「……チッ、俺が勝つまで負けんじゃねぇぞ、クソ花」
背を向け歩き出したのを見送って、私たちも教室へと戻る。上履きのままだし、飛び出して来ちゃったから荷物も置きっぱなしだからね。
突如旋風が私を煽った。なに、今の。
暴風が吹き抜け一瞬身体が浮く。驚いてつい振り返ると、勝己くんの所にオールマイトがいた。あ。察し。成程、発生源はオールマイト。恐らく、私達のやり取りが終わるのを待っててくれたのだろう。そして帰りそうな勝己くんに慌てて飛び出した。と言う具合か。さて、
「イズク。気になるのは分かるけど、聞き耳立てるのは野暮ってものだよ。行こ」
「みゅきゅ!!」
三奈ちゃん
「なんだったの。今の」
お茶子さん
「昔の因縁ってやつです(`・ω・ )フンスッ!」
梅雨ちゃん
「爆豪ちゃんが一方的に何か叫んでたみたいだったけれど……」
お茶子さん
「昔の因縁ってやつです!! (`・ω・ )フンスッ!!!」