ヒーローと魔法少女、或いは心理学カンストゴリラ 作:就鳥 ことり
皆様、誤字報告ありがとうございます。5回は読み返してから投下してるのですがどうにも私の目は節穴だらけなようで。助かっております。極力無いよう気を付けておりますが、ゴジゴジの実の能力者にして節穴の目を持つ私には見落としが多いようです。今後も誤字脱字ございましたらそっと修正してくださいますと大変助かります。
お気に入り300件超えました!!ありがとうございます!!
……心無しかダルい気がしないでもない。
「あら、珍しいね。花恵が熱だなんて。きっと、疲れが溜まってたのね。ゆっくり休んで」
プツリと昨晩意識が溶けて目が覚めたこれである。
「お母さん38度は熱に入らないから大丈夫だよ。薬も飲んだし学校行かなきゃ」
「休みなさい」
「もきゅ!!」
額に冷えピタをビターンっ!! と貼り付けて母は欠席連絡をしに行ってしまった。母に同意するように鳴くと、イズクは私のパジャマを咥えて横になるよう促す。わかった、わかった。ちゃんと寝るよ!! 寝るから、引っ張んないで……。相変わらず私の不調には引っ張られないようで、今日もイズクさんは絶好調。
このまま夕方まで下がらなければ道場には行かせて貰えないだろう。……熱出したなんて師匠には絶対言えないな。
「花恵、お父さん今日はビニールハウスに行ってて夕方まで戻らないだろうから何かあったら私に連絡してね。お昼以降なら動けるから」
「はい……」
もったいないことしたなぁ。今日は座学とはいえヒーロー基礎学フルスロットルの日なのに……勿体ない。お茶子に電気伝導体の警棒触らせる約束も延期してたのに。
「もきゃ!! みゅややや、みゅきゃ!!」
……イズクがもきゅもきゅ言ってる。うんうん、心配してくれて
「ありがとう、いずく」
その後の記憶は玄関のチャイムが鳴るまで全く無い。
*No side*
「イズクちゃん花恵ちゃんは? ずっと見当たらんけど」
「もきゃっ、みゅややや」
__アッ……聞ぃといてどうしよ、わからん。
イズクが教室に入って来てから、その宿主である陽向が姿を見せないことへの一同の疑問。しかし誰もが越えられない言語の壁に触れずにいたのだ。
それを打開しようとした麗日だったが、呆気なく言語の壁を前に撃沈してしまった。
イズクの弾けんばかりのいい笑顔に、麗日は「そっかぁ〜」と曖昧な返事を返すしかない。
「あー、赤いマフラー? かっこいいね」
「みゅぷ」
その結果何を思ったのか、デートで話題に困って取り敢えず服を褒める男子のような対応をすることになった。頑張れ麗日。
そしてイズクは我が物顔で陽向の机に鎮座し、周囲に見守られる中、首から下げたポシェットから小さなメモ帳と筆記用具を取り出した。
__授業受ける気だ!!!!
多少の差異はあるにしても、クラス全体の思考が重なった瞬間である。そしてその推察は大正解だ。
「もしかして花恵ちゃん、お休み?」
「もきゅっ、みゅややや、みゃっ」
そして行き着いた答えを確認してみれば、麗日にはやはり何を言っているのかはわからない。しかし頷いてくれたことにより、とりあえず陽向は来ていないということはわかった。
「どうしよう、とりあえず花恵ちゃんに連絡した方がいいよね」
「あぁ、そうだな。場合によっては監督不行届とも言える」
「ふみゃ……っ!!」
ダメだとばかりに麗日のスマホに飛び付いたイズク。……連絡されるのは嫌だときた。たぶん、というか確実に陽向はイズクが学校に来たことを知らないのだろう。
その通りだ。
イズクは微睡みに主人が溶けるのを見送ってから登校している。陽向はイズクが出たかけた時には既に深い夢の中だった。さらに言えば。イズクが自分の傍を離れたことがかつて1度も無かったことにより、彼女は知らないどころかなんなら一緒に寝てるもんだと思っている。
そうとなれば殊更連絡しない訳にはいかない。麗日や飯田にイヤイヤと訴えるイズクを横目に、連絡先を知る者達は迷わずメッセージアプリを開いた。賢明かつ的確な判断だ。
しかし一向に既読はつかない。天はイズクに味方した。その実、昔から丈夫な子で病気と無縁だった陽向は、薬の耐性が全くと言っていいほどない。一般薬の案内通りの量を摂取したら、当然のように副作用が大張り切りで仕事し絶賛おねんね中である。すやぁ。
「はい、席に付け……陽向来てんのか。あの馬鹿、38度は立派な熱だ大人しく寝とけよ」
さすが幼少の頃からの先生、3年のブランクがあれど陽向の思考回路はバッチリお見通しである。
「いやぁ。先生、それが花恵ちゃんに黙ってイズクちゃん1人で来たみたいで」
「帰れ」
一瞬驚いた後、すぐあからさまに面倒くさそうな顔をする相澤。心中お察しする。しかし、残念ながらここで大人しく帰るような根性をイズクはしていない。
「むきゃっみゅきゃぁっ!! ぷきゅ!! みゅやや?」
どやぁっ
そんな副音声が聞こえるばかりの表情である。なにやらドヤっているはわかるのだが、悲しいことに何一つ主張が伝わらない。
「はぁ……。口田、それか従魔繋がりでダークシャドウ。どうだ、いけるか」
「ダークシャドウ。奴の言うことわかるか」
「あいよっ」
なんだかんだ甘い男である。
口田もコクコクと頷き通訳可能であると示すが、ダークシャドウの方が早かったため彼に任せることになった。
※通訳中※
「みゅーみゅ、みきゅっ」
「あーな」
「もきゅや、もきゅぴ、ぷぴ!!」
「おうおうわかった」
「『花恵は身体を休めて、元気なボクが代わりにお勉強する。記憶は共有できるからね。合理的判断だ!! ドヤァ…!』。らしいぜ!」
「みきゅっ!!」
__確かに合理的っちゃ、合理的かもしれない!
まさかの宿主を差し置いて、イズクの半生において初の意思疎通が行われてしまった。
「……登校するには制服の着用が義務付けられてる」
「もきゃっ!!」
「抜かりないってよ!!」
「……それネクタイか」
ご名答。スカーフのように首に巻かれた赤い布は、陽向のネクタイである。屁理屈のようだが制服の着用も満たしていれば、しっかりポシェットには学生証も入ってる。イズクはとても優秀な獣なのだ。
「もきゅやぁ」
キラキラとした眼差しと睨み合うことに30秒。ついに相沢が折れた。公私混同はしないプロとはいえ、イズクのその視線は、小動物に弱い相澤には弱点を永遠に突かれるようなものである。
「……出席扱いにはできない。各教科担任に入室を許可された時に限り参加を認める、邪魔するようなら即帰宅だ。いいな」
「もきゃっ」
基本陽向にベッタリなイズクがこうして単独行動に出ることが、非常に珍しい。突発的に離れても半径100m以内である。しかしこれからこのように別行動ができるようになれば、陽向の行動選択も増えるというものだ。いい機会だ、1人に馴れさせるのも大事だろう。という先生のご判断である。断じて小動物の目に負けただけではない。
「あと爆豪」
「あ?」
「授業外の時間はイズクの面倒見てやれ。先週の戦闘訓練の映像データ見せてもらった。いつまでもガキみてぇなことしてんじゃねぇよ」
「っ、わぁーってるよ」
つまりそれは肯定。爆豪の言語においては間違いなく了承を示すものだ。それを聞いた爆豪大好きイズクは大歓喜である。抑えきれない喜びが薄紅の花びらとなってヒラヒラと吹き出した。うーんセウト。ダメだイズクさん、それは刀剣が乱舞してしまう。
「!! もきゅあっ」
「今日だけだわ調子乗んな殺すぞ!!」
一方、キラっキラの笑顔を向けられた爆豪は掌で小規模な爆破を起こして即威嚇を返した。しかし幼少の頃から慣れっ子なイズクには効果はあまりない。察した爆豪も悪態をつきつつ矛を収めたのだが
「つーかてめぇ、花恵と離れて平気なんか」
「……」
瞬間時が止まった。まるで思い出してはいけないことを思い出してしまったかのように、ピシャリとイズクが固まる。
そう、爆豪は見つけてはいけない地雷を的確に踏み抜いたのだ。
「……もきゃぁぁ」
ちなみに訳すと「……ほんとだぁ」となる。つまり
__嘘だろ今気付いたのかよ!!??
そういうことだ。
皆心に留め口に出さないだけ優しい。
名誉のために述べるが、普段イズクの知能は下手な大人よりかはずっと高く、思考力も発想力も高い優秀なモフモフだ。
しかし、宿主含め誰も知らない事実がある。陽向は自分の不調にイズクは関係ないと考えているが、それは間違いだ。現在イズクは陽向の高熱の影響を受け著しく知能指数が低下している。
一見いつもと変わらず無邪気で愛らしい獣なようだが、その実知能は小学生低学年並に下がっているのだ。
今更ながら勢いとノリで飛び出してしまったことに気付いたイズクさん。
「……帰るか?」
「もきゅゃ」
ふるふると身を震わせる姿に相澤が呆れ混じりに声をかけるも、イズクはメモ帳を抱き締めてブンブン首を横に振る。そう、決めたのだ。学校に来れない陽向に今日の授業内容をしっかり伝えると。
ボク頑張るんだもん!!
そんな姿に1-A教室内における脳内BGMは某幼児のおつかいを見届ける番組である。頑張れイズクちゃん!! 皆応援してるよ!!
**
「クゥン、キュゥン」
ガシガシガシガシ……
__噛んどる……
__噛んでるわね
__ホームシックか
三限終わりの休み時間。イズクは自身に巻き付けたネクタイを
きゅるるるる……。
お腹も減った。帰りたい、頑張りたい、帰りたい、頑張りたい。
「イズクちゃん、大丈夫?」
「ケロケロ。無理は良くないわ、4限目のノート明日花恵ちゃんに見せてあげるから」
そろそろ限界を迎えそうなイズクに、女子達が気遣わしげに声をかけた。するとハッと我に返ったのか、すかさずキリッと表情を変え気丈に振る舞う。
「きゅっ!!」
イヤイヤと首を振り、大丈夫!! ボクはやるんだもん!! そう言い聞かせるように鋭く鳴いた。
「おうおう、頑張るってなら止めねぇけどよ。頑張りすぎんなよ」
ほら、腹減ったんだろ。と差し出されたのはチョコレート。おずおずと受けとり口に含めば、とろりと甘さが広がる。瀬呂はその大きな手で優しくチョコを頬張るイズクを撫でた。
「よし。5限以降は1時間目とやることチェンジした委員決めとかだって言ってたから、受けなくても支障はねぇだろ。あと1時間セメントス先生の授業頑張ろうな」
「きゅぷ!!」
良い兄ちゃんだ。
「おいコラクソ犬」
乱雑に開け放たれた扉から聞こえた声にイズクは耳を震わせる。三限終わってすぐ何処かに行ったかと思ったら、成程。こういうところが彼がスパダリみがあるとされる由縁なんだろう。机に並べられたのは菓子パンや栄養補給菓子の数々。たぶん、軽く野口さん一人は飛んでる。
「……食えや。んで、そのクソうるせぇ腹ん虫黙らせろ」
「ぷっきゃぁぁあ」
しゅきぃ……。もしイズクが雌豚系オタクだったなら迷わずそう遺言を残していただろう。
現に大喜びで爆豪の周囲を飛び回り全身で『好き』と『嬉しい』を表している。すぐに鬱陶しいとばかりに爆破されたのだが。
**
「今日の授業はここまで。お疲れ様」
「ありがとうございました」
「みきゅきゅや!!」
「お疲れ様〜」
「頑張ったわねイズクちゃん、花恵ちゃんに胸を張って帰れるわ。でも、ちゃんと謝らなくちゃダメよ」
無事に4限目を生き抜いたイズクに、気にかけていた優しいクラスメイト達揃ってイズクを労う。そして口に出さないにしても内心拍手を送っていた。
「クソ犬」
「もきゃ?」
「飯だ、てめぇも食うだろうが」
早くしろとせっつかれ。イズクは大喜びで爆豪の肩に飛び乗ると、ご機嫌に擦り寄る。爆破してこない爆豪に不思議に思いつつも、甘んじることにしたイズクはその首に丸まった。乱暴な言動が目立つ爆豪だが、なんだかんだ優しい奴なのだ。
食堂でも、もきゅもきゅ食べたいものを主張するイズクにキレながらも注文をこなし、お金あるよとポシェットを漁るイズクに「うっせえ黙って食えや」と笑う子も泣き出すような顔で奢り、食べこぼしを拭いてやったりと中々の世話焼きっぷりを発揮したのだった。
『セキュリティⅢが突発されました、生徒達は速やかに屋外へ避難してください』
「あ?」
イズクが美味しかった。とお腹をさすっていた時だ。けたたましく鳴り響いた警戒を促すサイレンベルと、非常事態を知らせるアナウンス。
その不穏な放送にどうしようもない不安が生徒間にどんどん伝染し、広まってゆく。
「おいコラてめぇ、セキュリティⅢってのはなんだ」
春先のこの季節。避難訓練もまだ受けていない爆豪達には、いまいち状況を把握するには情報が足りない。
そこで、逃げなくちゃと席を立った隣の生徒を捕まえて訊ねることにした。この緊急時にガン飛ばされ縮こまる男子生徒には同情を禁じ得ない。
紛うことなきチンピラである。そんな爆豪に怯えながらも優しい生徒は丁寧に説明してくれた。
曰く、校内に誰かが侵入して来たらしい。
雄英高校には、生徒を守るため最新鋭のセキュリティシステムが敷かれており、ここ数年で近付く不届き者は居ても侵入されたことはなかったそうだ。そんなことができるような人物が相当な手練れであり、且つ真っ当な人間ではないのは、プロヒーローの巣窟でもあるこの雄英に不法侵入しようとする時点でお察しである。
道理で生徒達はパニックにもなる訳だ。すっかり入り口付近から、もう既に大渋滞である。
「イズク。てめぇいけんな? できる範囲でいいから様子見てこいや」
「みきゅきゅ!!」
大好きな爆豪にお使いを命じられたイズクは大喜びで食堂を飛び出した。小さく空中を闊歩することの出来るイズクは余裕で生徒の頭上をすり抜ける。
……侵入したってことは外に出て見た方が何かわかるかもしれない。
そう考えイズクは窓へと視線を向ける。
「みゅや……!!」
そこにはわかり易いまでの答えが広がっていた。
100人単位の人だかりに見える大きなカメラや音響マイク。イズクは知っているあれはテレビ局の人達が使う機材だと。つまり侵入者の正体は大勢の報道陣だったのだ。
ということは、何もそんなにパニックになる必要も危険もないのでは??
その通りである。
瞬時に導き出した解答に、イズクはこのパニックを収める方法を考えだした。人を止めるのは大きな声と情報伝達だ。
取り敢えず、窓きわにいた生徒達をつついてみる。しかし残念ながら無反応で相手にして貰えない。こうなれば仕方ない。その生徒の額に自分の額を当て、今見た映像を流す。
「これは……っ、おい外見てみろってもしかして……」
ハッとしたように窓の外へと顔を向けた生徒は近くの生徒に呼びかた。そしてそれは廊下の窓際を中心に広まる。
あとは勝手に共有してくれることだろう。イズクは次なる情報源を作ろうと先へと飛ぶ。
すると見知った顔が見えた。
「もきゅっ」
「君は、イズクくん」
真面目カクカク飯田くんである。イズクはすぐさま額を押し当て情報を共有を行い、皆に伝えて欲しいという念を送った。
「これは、確かなのか」
イズクはコクコクと全力で頷き、窓の外を足で指し示す。指示にしたがい窓の外を確認しした飯田は頷く。
「わかった……しかしどうやって」
「もきゃっ」
飯田の後ろに見えたお茶子にも映像を共有する。情報を受け取ったお茶子は、神妙な顔で「お手柄だよイズクちゃん、ありがとう」と頷き飯田との合流を図る。
あとは2人も考えてくれる。何故かあの二人にさえ伝われば後は何となる。そう直感したのだ。
イズクは自分にできることを続けることにした。
窓際の生徒に映像を流し込み、また情報が広がる。
そして何人か目に映像を送ろうとした時だ。ごった返した廊下にガンっという大きな衝突音が鳴り響く。
「皆さん!! だいっじょーぶっ!!!!」
そのよく通る声を受け、波を打ったように静まった一同は呆気に取られ、非常口の上に張り付く発生源を見上げた。
「ただのマスコミです、何もパニックになることはありません!! 大丈夫!! ここは雄英、最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!!」
その後聴こえたサイレンに警察の到着を察したこともあり、廊下は落ち着きを取り戻して行った。その後食堂に戻ったイズクは、爆豪からのおつかいである“ほうれんそう”をすっかり忘れていたことを思い出し、全力で反省の意を示すことになる。
*Side Change*
ピンポーン
「ん。んん……今何時?」
玄関から聞こえた呼び鈴の音で目が覚めた。窓から差し込む夕焼けに相当な時間眠っていた事を察する。
そして、スマホの画面を見ると大量の通知。私が休むのはそんなに意外だったのか。連絡先を交換したきり、まだあまり話せてない子からもわんさかスタンプが届いていた。つい、時間よりも気になってチャットアプリを開いてしまう。
『お茶子:イズクちゃん来とるけど大丈夫なん?』
『お茶子:イズクちゃん頑張っとるよ』
『お茶子:寂しそうにしとる……帰ったら褒めてあげて!!』
……?????
お茶子からの連絡をすべて目を通し、その他クラスメイト達からのメッセージにもすべて目を通したけれども理解が追いつかない。何事?? だってイズクは私から離れられないはずだ。家に置いて学校に行こうとしたら、キュンキュン寂しそうに泣いた後当然のように私の周りをぐるりと飛び回っているのだ。あの子は瞬間移動のようなものが使えるのだろう。そうでなくちゃ鍵をかけた部屋から一瞬で私の隣に戻ってくるなんて有り得ない。って、今はそうじゃない。
「っ、イズク!!」
部屋をぐるり見渡しても姿のないイズクに慌てて名前を呼ぶ。私が呼べばこんな風に姿の見えない時でも直ぐに現れたものだ。
しかし現れないもふもふに、熱で溶けた脳みそなりに事態を把握していく。なんてこった。回収に行かねば。
ピンポーン
着替えようとタンスに伸ばした手を止める。……お父さん帰ってないんだ。2度目のチャイムに父が戻ってないこと察した私は、カーディガンを羽織って玄関へと向かう。
「はーい、どちら様ですか……勝己くん!」
「おら、届けもんだ。起きろやクソ犬」
「いずふぐぁっ!!??」
「もきゅあっ!! きゅー、きゅー、ぷぅ」
ドアを開けたら相変わらず不機嫌そうに眉を顰めた勝己くんの姿があった。その手には首根っこを掴まれたイズクがスヤスヤと眠っていた。その体制で眠れるのかと、落ち着いて疑問を考察する間もなく、すぐさま飛び起きたイズクが私の顔面へとタックルを決める。
「っと……ありがとう」
衝撃のまま後方へと倒れるも、咄嗟に掴まれた腕により事なきを得た。
「おう。気ぃつけろやクソ犬」
「みきゅぅ……」
「熱はもういいんか」
「うん、だいぶ下がったから。明日はいけるよ。今日イズクが迷惑かけたみたいでごめんね」
「なんもしてねぇし、こんなクソ犬1匹問題ねぇわクソ」
顔からイズクを引き剥がしながら謝れば、彼は舌打ちと共にそんな言葉を吐いた。優しいんだよなぁ。そして差し出されたゼリー類を受け取り玄関先で別れた。何から何まで申し訳ない。御礼しなくちゃなぁ。勝己くん何が好きだろう、光己さんに聞いてみよう。
ひとしきり労り、小言を並べた後。イズクが受けてきたという授業の記憶を見せてもらった。
記憶を覗くということはその時考えていたこともわかるということである。
お察しの通り後半部分は『寂しい』『帰りたい』『頑張る』というイズクの思念に埋め尽くされてしまい、授業内容は全くわからなかった。しかし一生懸命頑張ってきてくれたイズクには黙っておこうと思う。
明日みんなにも謝らないとなぁ……。
ちなみに道場にも行かせて貰えなかった。