ヒーローと魔法少女、或いは心理学カンストゴリラ 作:就鳥 ことり
「みゅーや、もきゅきゅ」
照れ混じりにもきゅもきゅ鳴くイズク。何とも言えない緊張が走り背筋が伸びる。イズクとは10年以上の付き合いになるが、今日この日初めての意思疎通の伴った会話を行おうとしているのだ。
「ダークシャドウくん、イズクはなんて?」
「『こう改まると緊張するね』だとよ」
「私も緊張してる。いっつも何となく適当で相槌してたから」
それと記憶共有の時に思考が読み取れる程度。こうしてしっかりと会話したこと後がなかった。
先日のイズクの暴走により、なんとダークシャドウがイズクの言葉が分かる事が判明したのだ!! そうなればちゃんと話してみたいと思い、通訳をお願いしてみたのだ。
「もきゅっ、もきゅーきゅ!! きゅぷぷ……みゅきゅぴ」
「『いつも僕を大事にしてくれてありがとう!! だいすき』かぁーっ照れるぜ」
「えぇ……可愛いこと言うね。私もイズクのことが好きだよ」
「もっ、もきゃーっ!!」
「『恥ずかしい』ってよ」
「君から言い始めたんじゃんか。あぁ、せっかく話せると思ったのに逃げられちゃった。ありがとうねダークシャドウ」
もう無理!! と言わんばかりにぴゅーっと飛んで行ってしまった。残念。
「常闇くんも時間取らせてごめんね、ありがとう」
「この程度のこと構わない。またいつでも言ってくれ」
「おうとも!! 俺に任せな」
「さぁ皆!! スムーズにバスに乗り込めるよう2列に並んでおこう」
けたたましくホイッスルを響かせ、カクカクシカジカ飯田くんは今日も絶好調だ。
「委員長、飯田くんに決まったんだってね。うんうん、しっくりくるよ」
キャラに合ってる。
「そうなんよ。ほんと似合っとるね。でもイズクちゃんは花恵ちゃんが選ばれなくて悔しそうにしとったよ。イズクちゃん、花恵 ちゃんならこの人に入れるって、別の人に入れたみたいなんだけど。なんで誰も入れてないんだ〜って」
「うん、イズクの記憶で見たよ。ほんとに昨日はごめんね」
そう、基本的に皆して委員長をやりたいから自分自身に投票するということもあり、私(の代理でイズク)は八百万さんに入れたため見事0票で落選したのだ。そのくせ誰も私に投票しなかったことが不服だったらしく、イズクが少し吠えてしまったらしい。重ね重ね申し訳ない限りだ。
「もういいって。謝って貰って侘び菓子も貰っちゃったし、皆ももう気にしてないよ」
美味しかった。と笑うお茶子。笑顔が素敵な女の子は無条件に愛らしいね。朝一で職員室に菓子折り片手に謝罪し、クラスメイト達にも深々と頭を下げて昨日の失態を詫びた。優しい友人達は快く許してくれたが、先生方からはお小言を頂いた。叱られたばかりで気落ちしていた(何年経っても怒られたらちょっと落ち込むものだ)が、彼女がそう笑ってくれると、気も晴れる。今日も彼女は麗らか朗らか少女、おかげで肩が軽くなるよ。
「あれ、花恵ちゃん。そういえばイズクちゃんは?」
「あぁ、イズクなら」
__BOMB!!
「みゅやぁぁぁ」
「朝っぱら鬱陶しいわ!! 離れろやクソ犬!!」
「ハートが目に見えるようだぁ。成程、爆豪くんにベッタリなのね」
「昨日良くしてもらったみたいでね、もう懐き度が上がったというか。そうでなくてもあの子は基本的に勝己くん大好きだから、一日に1度は引っ付かないと気が済まないんだよ」
「おいコラくそ花!!!!」
「はいはいごめんね、今行きますよ!」
想定していたバスのシートと異なっていたバスに落ち込む飯田くんを労る。そういうこともあるよ。
「ずっと思ってたんだけど、はなはなの髪の毛って綺麗だよね。なんだっけそういう色、えーと」
「ケロ、ストロベリーブロンドね」
「そうそうそれそれ」
「光の反射で金にもピンクにも見えて超イケてるよね!! 地毛? それとも染めた?」
「もきゅや!!」
そうだろう。とばかりに胸を張るイズク。なんで君が誇らしげなのさ。ありがとうね。君の白い毛並みに交じる優しいミルクカラーのミントや、耳先の灰桜も素敵だよ。
「地毛なんだ。珍しい遺伝の仕方をしたようでね。ある種そこの轟くんと似た感じかな」
「ん、俺か? ……まぁ、確かにそうだな」
少し会話を振れば、目線を下げられてしまったため位置関係上その表情は伺えない。しかしその声音は消して明るいものでは無い。……幼少の事象が原因となれば想像に容易い事だが、やはり複雑そうだ。ゆっくりつついていこう。
「その2人は見た目もそうだけど、何より個性が派手で良いよなぁ」
「演習凄かったもんなこの2人。俺は電気系統だけれど、帯電できるだけで電撃を飛ばしたりとかは出来ねぇしなぁ」
「それなら君にこれを貸してあげるよ。今日役に立つかは分からないけれどね」
そう言ってポーチの中から電気伝導体で出来た警棒を取り出す。元々今後警察官も個性使用可能になる時代を見越して、電気系統の警官のためにって設計されたものだ。彼にピッタリなんじゃないかな。
「私はこのグローブに仕掛けられた簡易スタンガンのようなのも合わせて使うんだけれど、帯電できる君には持ってこいじゃないかな。折り畳み式で持ち運びに便利でね、このぽっちを押すと伸びて30センチくらいになる。警棒として開発されただけあって刃物にも強いし、腹部を殴れば涙目必須な優れものだよ」
真向かいの彼にはよく見えないだろうから、後で見せながらゆっくり説明した方が良さそうだ。
「おぉ〜!! サンキュ陽向!!」
「まぁ、知り合いからの頂き物だから値段を知らないという恐ろしいところはあるんだけれど、もし気に入ったなら掛け合ってみるからね。詳しい説明は着いてからにしようか、その時渡すよ」
「おう」
ニカッと少年の笑みを向けられ、私も笑い返しこの話は一旦終了となる。
「良かったな、上鳴。俺の硬化は対人には強ぇけど如何せん地味でなぁ。ほらヒーローって結構人気職な所あるだろ」
「僕のネビルレーザーなら派手さも強さもバッチリさ」
確か50m走でレーザー射出の勢いを使ってた子だ。確かにあの空色の光線は綺麗だった。レーザーと言うくらいだ、当たったら焼けてしまうのだろうか。範囲も広かったし、加減を間違えれば致命傷を負わせかねない。難しいそうな個性だ。
「でもお腹壊しちゃうのは良くないね」
「うっ」
それは確かに困るね。
「でも、やっぱ派手と言ったら轟や陽向、爆豪だろ」
「あ?……けっ」
柄が悪いなぁ、勝己くん。
「でも爆豪ちゃんはキレてばかりだから人気でなそう」
「言うね梅雨ちゃん」
「あぁ!!? んだとコラ出すわ!!!!」
「ほら」
ね、と指さし言われて、否定できる要素が思いつかなかった。健信くんのことは可愛がってたけれど、今では小さい子ですら構わず睨みつけるし、キレ散らかすし。
「もきゃっ!! きゅーっきゅ!! きゅぴっ」
何やら慰めるように勝己くんの周りを飛び回る。
『例え人気が出なくても私は勝己くんのファンだよ!! 』みたいな感じだろうか。恐らく勝己くんにもそのニュアンスは伝わったのだろう、形相が凄まじいことになっている。
「いや、この付き合いの浅さでクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってすげぇよ」
「あぁ!!? てめぇのそのボキャブラリーは何だこの殺すぞ!!!!」
「まぁまぁ。確かに彼はキレてばかりだけれど、性格が悪い訳じゃないんだよ。その例えで行くならクソが下水で煮込まれたようで、実は煮込まれたことで煮沸消毒されているため無菌状態……うん?」
「てめぇも訳の分からねぇフォロー入れんなぶっ飛ばすぞ!!!!」
「うんごめん、適当な事言った」
暫くクラスメイト達と談笑していれば到着はあっという間だった。今日は災害救助訓練のため、外部施設へと出かけているのだ。
その風貌はまるでテーマパーク。「USJみてぇ!!」 と興奮するクラスメイト達に、今世の日本にもUSJがあることを知った。
さて、そのUSJ(仮)だが中身は勿論そんな楽しいものでは無い。地震、山岳救助、火災、水難なんでもござれ、その名も『嘘の災害や事故ルーム』略してUSJだそうだ。……本当にUSJだった。
そして、特別指導員に災害救助のスペシャリスト、スペースヒーロー13号を迎えての演習訓練となる。13号の登場に目を輝かせて興奮を顕にするイズクを宥めて彼の言葉に耳を傾けた。
「君たちは一歩間違えたら容易に人を殺せてしまう行き過ぎた力を個々が持っていることを忘れないでください。君たちの力は人を傷付けるためにあるのではない、救けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな。以上、ご清聴ありがとうございました」
本当にその通りだ。
まだ上手く力加減ができない私は改めて気を引き締めた。対人戦において私のそれは、1歩間違えば殺しかねない。今の私には手に余る力だと自覚している。だからこそ、日々修行に明け暮れているのだけれど。13号先生の言葉は人より直に響いた。
「ようし、そんじゃまずは……お前ら!! ひとまとまりになって動くな! 13号、生徒を守れ!!」
「ん、なんだあれ?」
しみじみと13号先生の言葉を脳内で復唱している時だ。先生の緊張で尖った声に弾かれ顔を上げれば、少し先の開けた所に黒々としたモヤが沸き立つのが見えた。間もなくそこからは無数の人間が顔を出す。チンピラのような風貌の大人達の中に、あからさまに堅気では無さそうなのがちらほら。
「なんだありゃ、入試の時みてぇなもう始まってんぞパターン?」
「動くな! あれは
まともそうな連中には見えなかったけれど、やっぱりそうか。少なく見積もっても50は優に居る。
「先生、私を使いますか?」
「駄目だ、わかるだろう」
「そうですね」
ここの初手で私を使うのが1番手っ取り早い。遠い昔、強盗達を戦意喪失させたあれである。解析の結果、恨み妬み等の憎悪により人を害そうとする感情を抑圧する他、極度のリラックス効果を与える。現段階ではそう判定されている。冷静に見てしまえば、要は1種の洗脳のような物だ。
当然こんなの使う機会がそうそう無く、効果が分かりきっていないため相手に悪影響を与えないとも限らない。そんな状況では安易に使えない。
そもそも、本職カウンセラーとしては禁じ手レベルで使いたい手では無いのだが。
しかし、この緊急事態にそうも言ってはいられない。
そう思って是非を問うたのだが、やはり先生は私が生徒であることを尊重してくれたようだ。
「侵入者センサーが反応してないということは、向こうにそういうことが出来るやつがいるってことだ。電話線もやられてるだろう。上鳴、お前の個性でも外部との連絡を試せ」
「うす!!」
「13号、あとは頼んだぞ」
「はい。皆さん、こちらです!」
「きゅうぅ……」
「大丈夫、行くよ」
心配そうに背中を見つめるイズクを撫でる。
1人飛び出した先生を見送り、大人しく13号の指示に従って避難しようと入口へと向かう。
「そうはさせませんよ」
しかし、そう平和には終わらないようだ。物腰柔らかそうな声が響いたかと思えば、目の前にあの闇色のモヤが立て込んだ。ワープ系統か。
「初めまして、我々は敵連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
その言葉に周囲の緊張がさらに張り詰めたのを感じる。オールマイト……あの文字通り筋力で殴れば大抵が解決してしまうスーパー野菜人を? あの人間辞めてるお師匠様が認める程の人を殺す? 私は彼の戦いを映像でしか見たことがないが、師匠が超人と呼ぶ人だぞ。戦闘機を用意しても勝てる未来が見えないのだが、どうやって殺すつもり……
あぁ、私達子供が人質か。ワープ個性というのもある。すぐには助けに来られない場所にでも人質を連れ去り、いたぶる様子をテレビ電話でお届けすれば、あの善人の塊のような人は抵抗が難しいだろう。
それならなぶり殺せそうだ。
でも、逆に考えれば捕まらなければ負ける気はしないな。
「上鳴くん、説明する暇が無さそうだけれどこれは君が持ってて。きっと役に立つ」
幸い傍にいた上鳴くんにあの伝導体警棒を握らせる。話を聞くに彼には武器はあった方がいい。
「いいのかよ、俺に渡して大丈夫なんか?」
「うん。それは元々個性が使えない場面用に、備えてるものだから平気」
それに、元はプリキュア完コピ作戦のためとはいえ、私は格闘家の端くれだからね。武器を使うより蹴りの方が得意だ。
さて、逃げ切れば勝ちだとすれば
「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるはず。何か変更があったのでしょうか。まぁそれとは関係なく、私の役目は」
私の役目は堪らず飛び出しそうな勝己くんを窘、あっ
「でらぁ!!」
「おらぁ!!」
……窘めることだと思ったんだけどなぁ。
モヤ男へと突っ込んで行った背中に肝が冷えた。思考が遅かったかぁ、勝己くんはそうだと思ってたんだよ。
切島くんもそういうタイプだったかぁ。
13号先生より前線に出てしまった2人に、さてどうしようかと頭を捻る。
「危ない危ない、生徒といえど優秀な金の卵」
「いけない!! 2人とも下がりなさい!!」
相手が動くのを察知した先生が対抗する間もなく、膨れ上がったモヤが周囲に立ち込める。モヤに覆われ周りがよく見えない。イズクは傍にいただろうか。
「私の役目は散らしてなぶり殺すこと」
あれ、なぶり殺されるのか。どうやら人質ではなかったらしい。
読みが外れた。
「これは、危ないな。下手に動くと方向感覚が無くなりそうだ」
視界を覆う黒い霧に慌ててイズクを呼ぼうとして気付く。体感100メートル以上離れた場所にイズクが移動している事に。……ワープさせられた?
確信にも近い予想が頭をよぎったその時、不意に足場が無くなった。
ふぁっ、お、落ちてる!!!!