ヒーローと魔法少女、或いは心理学カンストゴリラ   作:就鳥 ことり

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第1部 1章 魔法☆幼女爆誕
act1:リスタート


私は死んだ。それは間違いない事実だ。

東雲万智は8月13日、お見舞いで頂いた花に水をやっている最中にぽっくり死んだ。のだが。

 

 

『こちらの都合である世界から1個体の魂を攫ったのだが、その空きを埋めるため急遽死にかけていた君の身体から魂を抜かせて貰った。さぞ沢山の者を良い方へ導いて来たのだろう。稀に見る形状をしておる。この魂を死なせるにはもったいないと思い勝手ながら、転生させることにした。

まぁ、延長戦だと思って楽しんでくれ』

 

 

だそうだ。

私よりも位が高い何かの意思により、どうやら私は死ぬことが許されなかったらしい。あれが俗に言う『神様』なんだろうか。まぁ何にせよ、私に抗う術は用意されていなかった。弟子を見守ることが出来ないことが残念だ。

 

暗い意識が弾き出されるように目を覚ますと、桜色の髪の女人に抱かれていた。もしかせずとも今世の母親だろう。

 

誰かの変わりとして産み落とされた先は陽向家、花屋の長女として新しい身体を得た。母親の桜色の髪に度肝を抜いたが、ニュースを見る限りここは変わらず『日本』一応日本ではあるらしい。

お人好しだが芯がハッキリとしている強い母と、他人に甘く自分に厳しい努力家で負けず嫌いな父。

私の両親は実に良い人達だった。

 

始めは慣れない赤子の世話にてんやわんやだった2人だが。何処で練習してきたのかみるみるうちに改善されてゆき、実に快適な赤子ライフだった。

喋れないなりにオムツか空腹でしか泣かず……と簡略化し、夜泣きに関しては一切せずと、2人の努力に報いようと私も頑張った。

 

 

「はなちゃーん」

 

「はーいっ」

 

おや、お母さんがお呼びだ……そういや今日はお祖母さまのビニールハウスに連れて行ってくれると言っていたな。現在、私は3歳。可愛い盛りの誰もが羨む幼女だ。

 

母の元へ駆け寄ると、後ろから伸びてきた腕が私の体をすくい上げた。お父さんは最近、肩車がブームのようで、隙あらば肩に乗せようとしてくるのだ。

特に抵抗する理由もないので、きゃっきゃと笑っておく。子供が親の笑顔に安心するように、子供の笑い声というのは親の安心感にも繋がるのた。

 

この通り両親との関係も良好、とても可愛がって頂いている。勿論、将来の夢はお花屋さんだ。

 

「おとうさん、おしごとおつかれさまでーす」

 

短くカットされた父の金髪をジョリジョリ撫で回し、疲れを労る。

「花恵、そのジョリジョリ好きかぁ?」

「すき~っ」

なぜか病みつきになる魔性の手触りだ。

それにしたって、純血日本人の地毛が金髪だとか前世では考えられなかった_もっとも、それを言うなら母の桜色なんて考えられないどころの騒ぎではないが_。

 

髪色だけでない。この世界と前世は少し人間の仕様が違うらしい。数十年前から『個性』と呼ばれる特異体質を持つ人間が現れ始め、現在世界人口の実に八割が何らかの特異体質を持つ時代なんだそうだ。髪色も個性の影響だと予想されている。

 

とある災害でのニュース中継で知ったのだが、その特異体質から前世では夢物語だった、『ヒーロー』という職業があるらしい。うちの花屋が店を構えているのも、有名ヒーロー事務所のある通りなんだそうだ。名前は忘れた。

 

両親にも例に漏れず個性があり、母は植物限定で『遺伝子操作』父は両手から太陽光を生み出せる『太陽光人間』。

個性はほぼ遺伝によって決まる、私も2人のどちらかに似た個性になるだろう。そしたら2人の手伝いをさせてもらえるかもしれない。今から個性の発現が楽しみだ。

 

 

 

 

と、思っていたのだが。

 

 

 

「んー……君のような個性は見たのは始めてだ。召喚獣系統のものだと思うですが。現段階ではその獣の特性等は特定しかねるので、経過を見ていきましょう」

 

「あら、まぁ」

 

医者の診断を受け、母は驚いたように、私に抱かれた白いモフモフを見やった。

 

「みゅー?」

 

当の本人は不思議そうに小首を傾げ、母や医師からの視線をものともせず私に擦り寄る。

このマイペースなやつが私の個性だそうだ。遺伝子どうした。

 

 

事が発覚したのは3歳になった年のクリスマスの朝のことだ。

 

布団をのければ枕元の確認をする前に目に入った、ふっくらお腹の上で丸まる真っ白な毛玉。円な黒いお目目と目が合う。

 

クリスマスの朝。見ならぬモノ。私の布団。この状況下で想像できるのは1つ。

もしかしなくてもクリスマスプレゼントだ。

ならば

 

「わぁーっすごぉーい!!可愛い!!」

 

娘の役目を全うするべく、毛玉を抱き上げてぴょんぴょんくるくると跳ね回って全力で喜びを表現する。

 

私は幼女、国宝だ。ふっくらした体型に、もちもちちぎりパンの四肢、ぷにぷにほっぺた、ふにゃふにゃの笑顔。私は今、何をしても可愛い最強の生き物、人生のピーク。幼女!!

故に、この行動に恥じるものはない!!!!

 

向こうで構えられているビデオカメラに向かって、幼女スマイル~もふもふキュートな動物を添えて~をキメる。それくらいのサービスはしなくては。

 

中身が三十路、それも今世の両親から見たら他人に育てられた他人の魂だと知ったらどう思うだろうか。

……無論、態々カミングアウトするつもりは微塵もないが、せめてもの罪滅ぼしに私は全力で無邪気でキュートな娘を演じている。

 

「おかーさん、おとーさん見てぇ~っ!!サンタさん来たよぉ!!」

 

真っ白毛玉を見せるため、とてとてビデオカメラへと駆け寄る。

しかしながら、この動物は何という動物なんだろうか。狐と狼とモルモットを足して割ったような顔立ちと足先、尻尾。そして兎のような体。耳や手足、尻尾の毛先が桃色がかった灰。なんというか、とてもファンタジー。

この世界特有の生き物だろうか。

 

「おとーさん、このこはだぁれ?」

 

ビデオカメラを、構えるお父さんの方へ尋ねる。が、動揺を映すその顔をみて瞬時に悟った。あ、これちゃう。チラッと振り向くと別の小包を見つけて、あ~っ枕元ォ……。と反省した。

一方で動揺から喜色へと変わっていく父の表情に違和感を覚える。

 

「さゆっ、さ、咲百合っこれって……!!」

 

感極まった様子の父を見て、母は嬉しそうに頷いた。どうやら、2人は何かしらを共有した模様。私にはさっぱりだ。大人に置いていかれて私の頭に?が乱立する。

さて、こんな時には小首を傾げて必殺、『ぼくにも教えてほしいな』!!!!! 両親よ、私にも分からせてほしい。

 

そんな私の様子に気づいた母は、幸せそうに私を抱きしめた。

 

「おめでとう、花恵!!その子はあなたの個性よ!!」

 

 

これが個性発現発覚の一部始終。

因みに本当のプレゼントの中身は幼女向け番組『プリマジ』の玩具だった。喜んで変身ごっこをした。

 

 

そんなこんなで。年末の休診前に滑りこんだのだが……

 

「この下の階、3階が個性検診、育成ルームになっていますので、後日そこでお子さんの個性を見て行きましょう。正月明けから1週間に1度は来てください」

 

私のもふもふ生物は、専門家も首を傾ける謎個性だった。

お前はなんなんだろうねぇ?モフ太郎?

 

 

「みゅーっ!! もきゅぴっ、みゅみゅーっ!!」

 

んーっごめんね。何言ってるかさっぱりだよ。

しかし、宿主すら意志がわからないとは難儀だな。

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

「みきゅきゅ! きゅぅっきゅっ、みゅーっみゅみゅーみゅ!!」

 

「うるちゃい……」

 

「もきゅぴっ!!?」

 

防犯ブザーのようにうるさく執拗い、頭に響く鳴き声に思わず手に握っていたクッションを投げ付ける。

幼女の微睡みを邪魔するとは、万死。もう少しで……なんだったかな。何の夢を見ていたか忘れたが、今いいところだったというのに……

 

「もきゅっ、みゅきゅぅぅ……」

 

か弱い、不服そうな声を最後に、謎生物は大人しくなった。私の個性、即ち私と一心同体の癖になぜ奴は眠くないのだ。なぜ、あんなに元気なんだ。

 

 

「はな〜……そろそろプリマジの時間だけれど起きれる? 録画しようか?」

 

「おきます……」

 

母の呼びかけに、むくりと身体を起こす。小さな手で目を擦り、意識の覚醒を図る。……駄目だ、眠い。ふっと力を抜いて布団に再び沈んだ。ぽふっ。あーんお布団が私を甘やかしてくるぅ~。

 

前世は3徹くらいなら屁でもなかったのだが、現在は8時間睡眠にプラスで3時間のお昼寝が活動の最低ライン。

昨日は1日遅れの個性発現祝いを行い、一個前のプリマジの映画のDVDをレンタルして視聴した。

そのため寝る時間が1時間ほどずれ込んだのだが……その結果がこの有様である。死ぬほど眠い。

 

 

「はなちゃん、無理しなくていいのよ。ママが録画しておくから」

 

「おきます」

 

母に引っ張り上げてもらい、洗面台に向かう。

プリマジ__プリティマジックの略だ__とは、女の子なら誰でも通る、幼児向け大人気変身ヒロインアニメシリーズだ。ちなみに今年で3作目と、前世のものと比べるとまだまだ歴史が浅い。

実はこの番組を認知してからというもの、やむを得ない事情(幼稚園の行事等)がない限りは、1度もリアタイ視聴をかかしていない。

 

何を隠そう、前世から変身ヒロインは大好きだ。

最推し初代に至っては全話脳内再生できるくらいに。

 

 

おもちゃ箱からプリマジの変身1式を引っ張り出して(これは、ちょっとした両親への家族サービスの一環だが)、テレビの前に座って待機する。

前世からの私の最推しである初代や、推しの魔法使いには及ばないが、こちらの世界のも中々にいい。

 

 

「「ジュエルセット、トランスレーション!!」」

 

キュピルーン。音質の悪い効果音が手元で鳴る。テレビの中のヒロインと同じように、コンパクト片手にぽふぽふ。

 

「「大きなリボンは可愛いの必需品!!プリティリボン!」」

 

「「エレガントなフリルは乙女の装備品!!プリティフリル!」」

 

「「「可愛いは女の子を強くする魔法、あなたの可愛くないトゲトゲハートもまぁるく可愛くしてあげる!!」」」

 

 

このとおり、口上も完璧だ。

こうしていると彼女達に憧れた昔を思い出す。

 

初めて出会った時、画面の向こうの世界の輝きに胸が高鳴ったのを覚えている。勿論、その輝きはずっと……いつだって、何十年経っても変わらない。褪せることなく、今このときだって

 

「カッコ悪くない‼ 大切な人を想って頑張ったはるちゃんがダサイ訳がない‼」

 

誰かを想って、戦うキラキラと輝く私の憧れ(ヒーロー)

 

「はるちゃんは最高に可愛い女の子よ‼ せっかく喜んで貰おうとはるちゃんが用意したのに。それを台無しにして嘲笑うなんて許せない‼」

 

いつも誰かのために一生懸命、自分を愛し他人を愛し、どんな壁も友を信じ、自分を信じ、乗り越えてゆく……そんな強くてカッコイイ女の子になりたかった。

 

「愛を忘れたその不細工な心‼」

 

「眠っている可愛い気持ち、私達が叩き起こしてあげる‼」

 

誰かの心を守れる存在になりたかった。

彼女達のようになりたくて、少しでも近付きたくてカウンセラーを目指した。

 

心を聞いて、触れて……初めて人が笑顔を取り戻した時の高揚を覚えている。

沢山の笑顔を、キラキラとした輝きが灯る瞬間を覚えている。

 

「「プリティーマジック‼ ラブハート……デコレーション‼‼」」

 

 

私は死んだ、東雲万智の人生は終わった。

ここにいるのは誰かの代わりで、東雲万智ではない。

それは覆しようのない事実だ。

けれど。

 

『先生は光みたいな人ですね』

『……これまた唐突だね』

『皆、大きな光の先生からみんな光を灯してもらって、自分の光を思い出しているみたいに見えます』

『大袈裟だなぁ……皆自分で見つけてるんだよ。私はそれをちょっと手伝ってるだけ。そんな大層なことはしてないし、出来ないよ』

『そんなことないです‼だって、先生は__』

 

 

「「可愛くなぁーれ‼」」

 

 

『__少なくとも僕にとっては光なんですから』

 

 

私は生きなくてはいけない、東雲万智は死んだけれど。この生が誰かの代わりであり私のものでは無いとしても。

私という魂が生きている限りは、私を慕ってくれた愛弟子に、憧れに、本来ここで生きているはずだった誰かに、恥じない生き方をするべきだ。

 

 

「はなちゃんは、プリマジみたいなヒーローになりたい?」

 

「なりたい‼ でも、わたしはね、まずはおかーさんとおとーさんのプリマジになるから、おはなやさんになるの。もう少し大きくなったらいっぱいお手伝いして、ふたりをたすけるからね‼」

 

将来の夢は、花屋。両親の立ち上げたフラワーショップを継ぎ栄えさせるのは、きっと一番の親孝行だ。私を育ててくれる2人への恩返しだ、これは生まれてからずっと決めていた。

 

そして、こちらでも資格を取って、無償のカウンセリング室も運営しよう。こっちは趣味でいい。思い詰めた人の顔はよく知っている、見つけるのは得意だ。世間話に交えて精神分析を振るのも得意だ(明らかな危険信号以外、そんないきなり振ったりしないが)。人通りの多いこの場所なら、悩み苦しむ人が多く訪れるかもしれない。

 

上手くいくかはわからない。でもやってみなくては何も始まらない。

 

 

勤勉であれ、学習に貪欲であれ。

憧れに近付くために。なりたい自分になるために。

まずは更なる心理への学びと、この世界での心理学も知らなくてはならない、それと新しい力の把握。

まだ3歳。大人になるまでに沢山知るべきことが山盛りだ。




『僕にとって、先生は僕の光なんです!』

『……まぁ、そう言われて悪い気はしないね』
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