ヒーローと魔法少女、或いは心理学カンストゴリラ   作:就鳥 ことり

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緑谷家親戚を捏造しております。


act2:緑谷引子

「あけましておめでとうございます!! ひぃおばあちゃま」

 

「みゅーっ!!」

 

年末年始の里帰り。

母方の曾祖母、祖父母が暮らす檀操(だんそう)家にて親戚の大宴会。昨日の年越しに引き続き、今日はこの後お正月人生ゲーム大会が開催されるらしい。母の従兄弟達までが揃っている。

 

 

「あけましておめでとう、花恵。白いキツネさんも」

 

「朝ごはんができたの。ひいおばあちゃま、たべれますか?」

 

「ありがとう、頂こうかね」

 

 

曾祖母の寝室にお膳を運び、そこでちょっとだけ一緒に頂いて、少し残ったお膳を台所へと持ち返った。

 

「はなちゃん、おてつだいありがとうね」

「どういたしまして!!」

 

どんちゃんせずに早々におやすみした私と祖父母達は、起きない酔っ払い2度寝の大人達を放ってお雑煮を頂く。

 

「おばぁちゃん、わたしあんこがいいです」

 

「はいよ」

 

「はな、どうだ。じいじの取っておき、のり醤油餅もやろう」

 

「わーい……わっ。ふみおばあちゃん、ずんだ餅もあるの? たべたいです!!」

 

「喉に詰まらないように、ちゃんと噛むんだよ」

 

私が初曾孫、初孫なのもあり、とても可愛いがって頂いている。史子さんは祖父の妹に当たる人とで血は繋がってないが、彼女もこうして可愛いがってくれる。

この家の2人目となる曾孫、史子さんにとっての初孫はまだお腹の中なので、もうしばらくは私がこの家のアイドルだ。

 

 

「その犬っころも食べるのか?」

 

「うん、たべるよ!!」

 

 

本当に、なんでも食べる。人間である私の1部なのだと考えれば当然なのだが。カツ丼をもりもり食べる姿には正直びっくりした。お前さんスプーン使えるんか器用だな?

 

ケモ助は消したり出したり出来ず、常にふよふよ周囲に漂い続ける上、私のカロリーを消費して動いているらしい。幼女には耐えられず、1度ぶっ倒れてから私のおやつは豪華になった。1日6食だ。どすこい。

 

そして発覚して以来はケモ自身でもカロリー摂取して貰っている。

 

 

「おはようございます、遅くなりました」

 

「おはよう引子ちゃん」

 

「おはよう引子、お雑煮食べる?」

 

「食べる」

 

 

緑谷引子さん。史子さんの娘で、母の従姉妹に当たる。膨らんだお腹の中には噂の初孫くんが育っていて、予定日は3月だそうだ。

 

 

「引子しゃん、あけましておめでとうございます」

 

「明けましておめでとう、花恵ちゃん」

 

「あかちゃんも、おめでとう」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 

ふにゃっと微笑む笑顔に安堵した。うんうん、いい笑顔だ。少し前まで見せてた陰りはなりを潜めている。

 

実は引子さんには私と同い年の子がいる筈だった。彼女は母が懐妊する少し前に流産しており、無事に産まれた私を可愛がる一方で、流産してしまった自責に押し潰されそうになっている様子が見られた。

 

 

優しくて愛情深い、そして責任感の強さにより自分ばかりを責めてしまう不器用な人。

こういったケースだと、彼女には旦那さんや近しい人は勿論、他人からの優しい言葉掛けがあまり良く作用しないことが多い。どうやら引子さんもそのタイプだったらしく、「気にするな、あなたは悪くない(意訳)」と言われてもかえって負担になっている様子が伺えた。

 

この場合は自分で納得するまではいかずとも、折り合いを付け自分自身が自分を許す必要がある。

そして、それを補助するのには、たまた無知で他意の存在し得ない、幼児(わたし)のような存在からの肯定が存外覿面(てきめん)だったりするのだ。

 

 

とは言え流石に一歳半で精神分析を振る訳にも行かないので。遠回りになるが、ゆっくり少しづつ一緒に立ち上がっていこう……という方針を定め、私による乳幼女セラピーが始まったのだ。

とにかく安らいで癒されてもらうところから始まり、ちょっとづつ触れ合いの時間を増やし、偶に預かって貰った時には、辛くて泣きそうな引子さんを「よしよし、引子さん頑張ったねぇ」とちぎりパンの腕ともちもちな手をフル活用した撫で撫でコースを行い泣かせたりした。

 

 

その工程を繰り返すうちに、彼女は独り言のように心の内を零すようになった。

その度によしよしして泣かせ、少しづつ心に出来た塊を溶かして。

やがてそれが減り、引子さんは少しづつ私を見る目から影が消えていった。

 

 

「……はなちゃん、本当ありがとうね」

 

2年かけてゆっくり立ち上がった彼女は、前と比べて随分と逞しくなったように見える。

 

 

「んー?? なにが?」

 

「内緒。なんでもないよ~」

 

「え~っ!! 変なの~」

 

 

しかし私は中身がどんだけおばさんでも見た目は幼女。幼児とは記憶があまり持たないものだ。だから、私は泣いて泣いて強くなった彼女を知らない。

というより、そういうことにした方がいいとは思うのだが、『よしよし』が元気の出るおまじないだと言って、時偶に要求されることがあるので何とも言えない。まぁ、お望みとあらばいくらでも撫でるけど。それで元気が出るというのなら一向に構わん。

 

 

「そうだ、はなちゃん。その子には名前付けないの?」

 

「お名前かぁ。んー……お名前付けようとしたことはあります。でも、わたしの考えたお名前はぜんぜん気に入ってもらえなくて……」

 

眉を下げてしゅんと俯く。

……嘘はついてない。脚色を重ねがけしてるだけで。

 

そりゃまぁ、最初は考えた。

しかし、悩めば悩む程何が良いか分からなくなってきて、結果投げやりに「モフ太郎」と命名したところ案の定頂いた不服そうな反応にもう考えることをやめた。今はその時の気分で適当に呼んでいる。

 

「でも。やっぱりお名前は欲しいのかな」

 

 

そうこぼした瞬間餅を食べていたはずのケモが目を輝かせて飛んで来る。あ。やべっ聞こえてた。

 

「みゅややっ!! みきゅーっむきゅっ、 きゅー!!」

 

「……日本語でどうぞ?」

 

うーん、わからん。なんで君は私の話を理解出来るのに、私は聞き取れないんだろうね? まぁ、名前を欲する熱意は伝わった。

 

「ふふっ、名前を欲しがってるように見えるよ?」

 

「もきゅっ!!」

 

肯定すふように高く泣いて私に擦り寄る。

名前、名前、なぁ……やっぱりモフ太郎でよくない?

 

「もきゅっぴ!!」

 

あ、やっぱりダメ?

抗議するように尻尾をぴんと立て、私を叩く。ペちペち。

はいはい。気が向いたらまた考えてあげるから、落ち着こうね~?

 

「名前といえば赤ちゃんのお名前はきまったんですか?」

 

 

これ以上はこの毛玉が面倒なので、話題のスライドを試みる。するとこの話が終わることを察したらしく、哀愁漂わせてお餅の元へと帰っていった。聞き分けのいい子だ。

祖父が慰めながらさらなる餅を勧める……そのお酒を勧めるようなノリで餅をお皿に乗せるのなんなの。

うっ、急に生前愛していた日本酒が恋しくなってきた。お酒は20歳になってから!! 先生〜精神年齢20歳どころか三十路なんですが、成人ってことでいいですか〜? いいって言えよな?? 残念ながら御歳3歳の肝臓さまがアルコールは解釈違いの地雷だと喚くので黙る。生きるって決意してそうそう死ぬ訳にはいけない。くっ……!! 待ってろ成人したら必ず直ぐに迎えに行くからな!!!!

 

思いっきり思考が逸れた。

 

 

「あのね、はなちゃん。その事でお願いがあるんだけれど……」

 

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

『公園かぁ、子供っていいですよねぇ』

 

『……ブランコに乗りたいなら背を押してあげるよ。あの子らはたまに戦闘中ごっこをする仲だ、交渉して来ようか?』

 

『不要です…… って、いやそうじゃなくって!!……何してるんですか先生仕事は!!?』

 

『勿論休日の話だよ。ちなみに私はシノビ役ね。ゲームマスター兼レフリーは高島くんがしてくれるよ、ほらスーパー付近にある交番の』

 

『本当に先生何してるんですか、休日のお巡りさんまで巻き込んで……僕がいいなあってのは子供や家庭を持つ事です』

 

『わかってるよ。私は晴臣に結婚願望があって安心したよ』

 

『もう……そりゃぁ僕だって可愛い奥さんと子供がいたらなぁとか妄想したりしますよ』

 

『へぇ……どんな?』

 

『嫌ですよ、先生揶揄うでしょ〜!!』

 

『ははは、否定はしない。それで、息子と娘ならどっちがいいとかあったりするの?』

 

『……生まれてきてくれたらもうそれだけでいいですよどちらでも……あっやだ、お嫁に行かないで!! パパはまだソイツを認めてないから!!!!』

 

『こらこら戻っておいで、電柱にぶつかるぞ……言わんこっちゃない。気が早いにほどがあるよ、晴臣。大丈夫?』

 

『アイタタタ……すみません大丈夫です。でもそうだなぁ、名付け親は先生にお願いしたいなぁ。ね、先生!!』

 

『……まずは彼女を作ってこい、話はそれからだよ』

 

『へへっ。1番は僕ですからね、約束ですよ』

 

 

 

ハッ!!……罪悪感からだろうか、走馬灯が見えてしまった。

まぁ、なんだ。

 

 

「けんしん……健信。正直と信じることは人の美徳かぁ。そして何より健やかに……うん、すごく素敵。ありがとうはなちゃん」

 

 

……晴臣の子より先に名付け親になってしまった。

 

いや、普通3歳児に名付け親なんて頼まない。

話を聞いた時は正直(なんて?????)と固まったよね。

勿論私は「いやアカンやろ……」と思い、丁重に退いた。だって名前って1番最初の両親からのプレゼントでしょ? 3歳児には荷が重すぎやしないか??

 

しかしながら、「はなちゃんは覚えてないかもしれないけれど。今この子が私のお腹に居るのは、はなちゃんのおかげなんだ。久おじちゃんもはなちゃんにって言ってるんだけれど……だめかなぁ」そう言われてしまったら、幼女のボキャブラリーでは断れなかった。私悪くない、許せ愛弟子。

 

 

私だけでなく、ケモ助までなぜだか名前決めに食い付き、異様に意欲的に参加してくれた。なぜ君が私よりノリノリなんだ……

幼女が漢字を使いこなす訳にはいかず、漢字辞典広げてさも今調べながら決めました風を装い、さらにはそれとなく引子さんの希望を伺いつつ……頑張った。とにかく私は頑張った。

 

まだ見ぬ緑谷Jrよ、君の名前は健信になったぞ。

君のママも甚く気に入っていたようだから許して欲しい。

 

 

「くぁ……いんこさん、わたしおひるねだから……」

 

「あら、もうそんな時間……長い間考えてくれてありがとう。おばちゃんが連れてくからおいで」

 

 

一件落着と一安心したのとお昼寝の時間が近かったのもあり、ふと襲ってくる眠気にまけて大人しく引子さんにしがみついた。

 

 

そこから先は闇の中だ。目が覚めたらお布団でタオルケットしゃぶってた。

 

「もきゅぴっ!!」

 

 

おはよう。と挨拶してくれたのだろう。ぷにっと私の頬に肉球を押し当てる。うむ、これはなかなかに……

 

 

「あぁ。おはよう、___イズク」

 

 

そう名前を呼べば嬉しそうに尾を揺らす。

 

「君は本当にイズクって名前で良かったの? 亡くなった子の名前を無理に背負わなくたっていいんだよ」

 

 

イズク。基、出久とは引子さんの流産した子の名前だ。

 

 

私が引子さんに「わたしがいんこさんの赤ちゃんのお名前考えるから、いんこさんはわたしのケモケモにお名前考えてね!! お名前のこうかんこ!!」と子供っぽさ演出のために提案して、了承を頂けたところまでは良かった。

 

「イズク。私のもう1人の息子の名前を貰ってくれるかな。生きていたらはなちゃんと同い年でね、きっとその子とはなちゃんみたいに仲良しで一緒に大きくなってくれた筈なの。だから、その子に託しても……その子と一緒に先の未来に連れて行って貰ってもいい?」

 

どこか縋るように私を見つめる。明らかに3歳児に向けるには異質過ぎる視線だ。言葉の内容もそうだけど。彼女は何処か私に神的何かを見ているように見えた。やり過ぎちゃったか……まいったなぁ。と反省しつつ全力で幼女を演じた。わたしむずかしいお話わからない!!!!

 

「んー??? いんこさんのお話むずかしい……あっでもね! お名前もらうのはケモケモだからこの子が気に入ったなら、なんでもだいじょうぶです!!」

 

どうする〜?ってケモ助を見やったら、なんとも言えない、けれども大真面目そうな顔をして声高らかに鳴いて、引子さんをヨシヨシしてたから了承したのだと思う。

たぶん知能は私と同じだから、引子さんの話をモフ太郎は理解してる。ケモが本当にいいと思ってるなら言うことはない。

 

 

「もきゅぴ!!」

 

「ならいいけれど。イズク、みんなにお名前自慢しにいこうか」

 

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