ヒーローと魔法少女、或いは心理学カンストゴリラ 作:就鳥 ことり
医者からの言いつけ通り定期的に個性検診に行っているものの、中々この個性の詳細は分からない。使い魔系の個性だと言うのが今のところの見解らしい。段階的に発現する子もいるらしく、ここから先があるのなら5歳までには確立するとのことだ。
冬休み明けから消したり出したり出来ないため、イズクと一緒に登園したところ。イズクは見事に友人達のおもちゃにされてしまった。まぁ予想はしてたけれど。活動エネルギーを共有している私達は揃って毎日ぐったりしてる。ちっちゃい子は元気でいいねぇ。疲労が酷いけれど、いいことだよ。
まあそんなこともあり、幼稚園でイズクは『どうぶつさんにやさしくしようね』というお話の題材にされた。イズクは絶対に噛まない攻撃しない優しいいい子なので、ふれあい体験も行われた。もみくちゃにされた。
また、疲労もそうだが、カロリー消費がやはりエグ過ぎる。間食なしにはぶっ倒れてしまうので、他の子が羨ましがらないように職員室で持参したカロリーメイトをこっそりもぐもぐしている。食費が馬鹿にならないが、こういった個性のために国からの補助金が出るので今のところは、余裕を持って過ごせている。
そんなこんなで、変わらず平和な日々が続いていた。
そう、超人社会のど真ん中とはいえ何かに巻き込まれたことは無かったし、初詣のおみくじでは大吉を引き当てていた。
この世界の現状を理解はしていても何処か他人事で油断していたとも言える。
「静かにしろ!!」
乾いた発砲音に、響く悲鳴。
2月13日の土曜日。私と母は人生初の銀行強盗に巻き込まれた。
この日は週1の個性検診だったのだけど、明日がバレンタインということでそれに向けて私たちはデパートに買い物に来ていた。デパ地下に潜って美味しいものを籠に入れ、私とイズクは上機嫌にるんるんと母の手を握り帰路についていた。途中、母が銀行に寄りたいと言うので着いて行ったところ、なんと間の悪いことか。
顔は隠れて無いが、黒のニット帽に黒いジャケットに拳銃。いかにも犯罪者な風貌の男が3人。今まさに店内を占拠しようとしていた所だった。
私達はあっという間に縛り上げられ、1部パニックを起こした客は猿轡を噛まされてしまった。私のような幼気な幼女までガムテープで手足を固く固定されてしまった。咄嗟の判断か私の腕に収まり動かなくなったイズクは、ぬいぐるみだと勘違いされたらしく、私の膝にフリーで置いてある。それが何になるのかはさておき、自由に動ける者がいるのはマイナスにはならない筈だ。うちのイズク、優秀。
彼らのうち主犯格と思わしき男は拳銃を使っているため個性は不明。
1人はじゃがりこでも爪に刺さってそうな長い爪を銀行員に突き立て現金を用意させている。
もう1人もまた、個性は不明。客の携帯、電子機器を集めている。警察、ヒーロー等への連絡をさせないためと見て間違いないだろう。
まぁ。その後まもなく駆けつけた警察とヒーローにより強盗達は籠城戦を強いられることになった。
店内に立てこもり、ヒーローからの呼びかけをBGMにこれからどうしたものかと3人が話し合う。
母は最初、焦り戸惑い恐怖に震えていた。当然だ。突然理不尽な暴力が襲って来たのだから。うちの近所はNo.2ヒーローのお膝元であり、そこらで悪事を働くような人間は早々居ない。居たとしてもたいした力のない者がほとんどで直ぐに鎮圧されてきた。日々暴れるヴィランの存在は画面越しに見ていても、実感が無かったのかもしれない。
母を落ち着かせようと、とりあえず体をくっつけ他者の体温を感じさせる。それからゆっくりとした呼吸を促して、副交感神経に働きかけた。
今は私の落ち着きぶりに、母もだいぶ平静を取り戻したらしくただ私を守るように身を寄せている。
ふと、感じた視線に顔を向ければ強盗犯と目が合う。……イヤな視線だ。不自然にならない程度にそっと視線を外して様子を伺う。……ふむ。あの主犯格、あまりこういったことに慣れてないのかもしれない。何処かグダグダとして計画性に乏しいのもそうだが、瞬きやら目の動きを見る限り相当緊張している。唇も頻繁に舐めているようだ。他2人の方がよっぽど余裕があるように見える。
……ん?
こちらに歩いてくるけど……これは私を見てるというか私に向かってきてないか??
「大人しくしてろよ」
「わっ」
「花恵!!」
乱暴に引っ張り上げられ、そのまま身体が宙に浮く。
母の悲痛に歪む顔に、大丈夫だと笑って大人しく抱えられた。おそらく人質にでもする腹積もりなのだろう。この主犯格はあまり肝が座ってないように見える。追い詰められたら暴走する可能性もあるけど、幼い子を殺せはしないだろう。勝ったな。
「待ってください!!」
響いた声に弾かれて後ろを振り向く。母が必死の形相で身を乗り出し倒れていた。
「お願いします、人質になら私が。私のことはどう傷付けても構いません!! お願いします。娘だけはどうか!!」
手足を縛られ不自由ながらも、縋るように這い寄り、懸命に訴える。
力強い眼差しの奥は不安と恐怖にどうしようもなく揺れているのに、どうしてこう母という生き物は強い。でも、家族を守りたいのは私も同じなんだよなぁ。今世こそはしっかり親孝行する。何もする前に親を失う訳にはいかない。
そして、私も死なない。
「おかあさん泣かないで。わたしだいじょうぶ」
母を安心させるように微笑み、強盗犯の方に顔を向けて、私がいかに都合のいい餓鬼かを売り込み、母を人質にするという選択肢をカッ消さねば。
「おにいさん、わたしおにいさんが『泣け』って言ったら泣いて助けてってするし、『黙れ』って言ったら一言もしゃべらないよ。こどもの方が守れなかったときに向く非難の声は大きいから、ヒーローや警察に効果はあるよ」
彼は得体の知れないモノを見るような目で私を見る。明らかに子供の言動としては気持ち悪いものだっただろう。しかし、私も背に腹は変えられない。
この主犯格は強制カウンセリングすれば、どうとでもなる気がしている。かなり凶悪そうな強面であるが、あまり気は強く無さそうだ。苦しそうに見えるのだ。傍に連れていかれるのが私なら、話す機会も出来るしまだなんとかなる筈だ。
「……わかった」
「へっ?」
てっきり上手くいったもんだと思っていた私はポイッとタイルの床に捨てられ、思わず間の抜けた声を上げる。代わりに布を引きずる音が聞こえ、顔を上げると母が腕を掴み上げられていた。なんでや工藤。
「どう傷付けても、いいんだな?」
「っ、えぇ!! だから娘は……」
「おかあさん!!」
「どうかあなたは無事で居てね、大人しくしてるのよ」
思った以上に彼は小心者だったらしい。
まじかよ。よく銀行強盗決行しようと思ったな???
アテが外れてしまい、苛立ちを誤魔化すように手をきつく握り締める。
母は安堵と戸惑い、不安と愛しさが混ざったようななんとも言えない表情で、でも名残惜しそうに見つめ引きずられ行ってしまった。
ぬいぐるみのフリをしているイズクの元までイモムシ、もしくはシャクトリムシのよな要領でニョキニョキ戻る。耳元で怒ったように小さく唸られ、小突かれた。ごめんね心配かけて。
ガラス窓越しに様子を伺えば、母と母にナイフを向ける強盗犯の1人が見えた。ふむ。あれは主犯格の男ではないな。やっぱり小心者は引っ込んでいるのか。まいったな……他の二人はあまり罪悪感を持っていない。それどころか、何処か楽しんでいる節を感じる。きっと、容赦なく母にナイフを突き立てることだってできるだろう。
……イヤな感じがする。
っ!!
不穏な波紋を感じた瞬間、鮮血が飛び散る。あの飛び散り方……嫌、そんな。でも、あの波を描くような吹き出し方するのは、動脈しか……
そこまで思考を進めてしまった刹那。目の前が真っ白になった。本来なら、そこで人質なのに死なせてしまっては意味がないことぐらい直ぐに思い至るのだが、思っていた以上に私にとって母の存在は大きかったらしい。
この時ばかりは思考回路がはち切れた。
「お母さんっ!!!!!!」
刹那。全身からエネルギーが吹き出した。薄紅に発光する花弁が発生し吹き荒れ、私を台風の目にするように荒々しい花吹雪が巻き起こる。
手足を拘束していたガムテープが花弁となって消し飛び、次に外と室内を隔てていた窓ガラスが花吹雪となって消散していった。それらを皮切りに直線上の障害物が次々と花弁と化して、母の元へと続く道が出来てゆく。
「なにが起こっていやがる!!??」
「何事だ!! 中で何をしているんだ!!」
「俺も知らねぇんだよクソが!!」
慌て騒がしくなる人垣に向けて、否。母の元へと向かって小さな幼女の歩みは力強く1歩、1歩と進んでゆく。
「みゅみゅっ!!」
心配そうに私の元へと飛び込んできたイズクを抱きしめたら、何故だか自然と口から音が零れた。
「__はーと、こねくと。るみえーる!!」
言霊と同時にイズクが光の粒子となり、私を覆い隠す程の竜巻にも似た花吹雪が巻き起こる。5秒程で収束し、それらが晴れるとようやっと思考が安定して我に返った。吹いていた花吹雪も止み、溢れていたエネルギーも内側に収まっているような感覚を覚える。
そして身を包む桜色と白を基調に差し色に黄色を使ったロリータのようなミニドレス。被っている魔法使いのような帽子には、あの兎と狼と狐の耳を大して割ったようなイズクと似た形状の獣耳が生えている。
????
……ナニコレ、魔法少女かな? いや少女にすらなってない幼女じゃん。成長バフはかからず四肢はもちもちのちぎりパン。どう見てもただのコスプレ幼女だ。ハロウィンかな? こんなんで戦えるの?? 殴りかかっても、むしろ殴った手が痛いみたいなことになりそうなんだけど。
前代未聞の魔法幼女に、小学生キュアパイセンもビックリだ。
冗談抜きになんでこうなった?? イズクは妖精さんだった??? どこの国がピンチなのかな? というかさっきの花吹雪は何?? ヤバない?? ただ分かるのは明らかにアカン。だってあれただの破壊活動。ガラスも壁も跡形もなく綺麗に無くなってしまったんだけれど。しかも、深層心理は置いとくとして、意図的に壊せた訳では無いと来た。どちらかと言うと破壊神として私がやっつけられそう。私は天性のヴィラン気質だった??? なるほどわからん。私は混乱している。
「え、何今の。女の子? 女の子だ!!」
「誰かあの子の保護に回れっ!!」
「リアル変身ヒロイン……? っていかんいかん。お嬢ちゃん!! 危ないから下がってなさい!!」
「花恵!!」
っ、お母さん。襲い来る混乱の中響いた母の声にハッとする。数十メートルばかり離れた先で血塗れの母を見つけた。見た目は酷いが、様子を見るに重症という訳でもなく元気そうだ。良かった……やはりあれは脅しか。いやよく考えてみずとも当たり前なんだけれど。人質が死んでは元も子もない。分かるはずだったんだけれどな。
どうしようもなく、焦った……
「おら、忘れんなよ? コッチにはまだ人質がいんだよ!! 餓鬼も来い!!」
怒声と共にナイフが再びお母さんの喉元にへ。あまり遠くて表情が伺えないが、心理学の知識がなくともわかる。先程までのアレコレで刺激してしまったようだ。
とりあえず、下手に動いてこれ以上刺激したくないので大人しく強盗の方へと駆け出した……
「ふぁっ!!??」
走りだすべく足を踏み込むと地面が抉れ、私の身体は猛スピードで前へと弾かれた。なるほど。超人的な身体能力の強化バフ……魔法少女と言うよりかはプリキュア仕様か。私のこのふにふにあんよからは想像のつかない爆速で、強盗犯との距離が縮まってゆく。
一方、強盗犯は爆走する幼女にギョッとして力んでしまっている様子。誤って母にナイフを当てかねない。
母が危ない。作戦を変更しよう。
速度から考えて、この身体能力の上昇ぶりなら急所攻撃ぐらいなら幼女ボディでも戦ってよさそう。20年以上昔のことだが一応護身術やら合気道はかじっている。とはいえ、脳にある知識に今世の身体がついて来るかは不安だ。
ナイフを蹴り飛ばせるのが最良なのだが……もっとも先程の壁のように消散してくれれば1番いいのだけどね。意図的な巻き起こし方なんて……ふむ。こうかな? 両手をペちっと合わせてナイフが消えたらいいなと念じる。するとどうだ。それは驚く程理想通りに花吹雪と化してくれた。中々に都合のいい仕様だな。さながらチュートリアルのよう。まぁ、私としては助かるんだけれど。
一瞬の出来事に目を瞬かせる強盗犯に考える隙を与えず、蹴り上げる。勢いを殺さず飛び上がり、躊躇することなく急所に狙いを定めた。可哀想だが、こちらも迷う暇はない。肉体強化されているとはいえ、幼女の格闘技が通じるかも不安だったからね。
蹴った箇所から花弁が舞い、中々にファンシーな効果音がする……男の急所から舞う花々とは中々にシュールな絵面である。
うめき声を上げて脱力する強盗犯をそのまま蹴り飛ばし、母の手をなるべく優しく引く。これで安全だ。
あとはヒーロー、警察に任せようと様子を見ると男性陣が股間を抑えて固まっていた。前世今世共に女の私には分からないが、つい庇ってしまう程痛いんだろうな。中には蹴られて失神する人間もいると聞く。
「お前ら!! 人質はその女だけじゃねぇぞ!!? いいからさっさと要求を呑め!!」
そう言えば荒々しいのがもう1人居たっけ。……ふむ。なるほど。これもチュートリアルかな。母の安全が確保されたためか、余裕を持った私はこの状況に少しワクワクしている。次はなんだろうね。掌に集まる熱に身を任せることにした。
「まっくらはーとにやすらぎのひかりをっ」
胸元でぎゅっと両手を握りしめエネルギを貯めて、弾くように開く。きゅぽんっと可愛らしい音と共に真っ白に輝くハート型のエネルギー体が現れた。そのまま身体が動くのに従って、浮かぶハートをパシッと握り、鉄砲のような形を作る。
「はーとふる、しょっと!!」
桜色の花吹雪が舞い上がり、指先からエネルギーが溢れ目の前に巨大なハートが飛び出した。
「ばきゅーーんっ!!!!」
巨大なハートは猛スピードで強盗達に放たれ、眩い光を放つ。あまりの眩しさにぎゅっと目を瞑った。なにこれ魔法少女。憧れを追体験してるようで興奮した。
「……ごめんなさいぃぃ」
「かあちゃぁぁぁん」
光が収まった先でわんわん泣いている強盗犯達。何事。
ふむ。私はとたたたっと駆け寄り女の子座りで泣きじゃくる強盗犯達をよしよしすることにした。もう暴れる気概も気力もないようだし、なにより私が泣かせちゃったようだからね!! 後始末しなくちゃいけない気がする。……あの光に3人は何を見たんだろうか。
「どうしたの、おにいさん。いたいいたいしちゃった? ごめんね、だいじょーぶ?」
あいあむ幼女!! 自己暗示をかけながら強盗達をナデナデ。変身の解き方よく分からんからそのままだ。
「がきのころをおもいだした。かあちゃんのおでんたべたい。つらいってうちにかえればよかった」
「ほんとはこわかった、こんなことするのこわかったぁ」
わんわん泣いている強盗達にうんうんそっかそっかぁと肯定を示しながら、警察やヒーローが回収しにくるまでずっとよしよししてた。
強盗達にばいばいってお手手振ったら唐突に変身が解けたのだが……また問題が起こった。
「お母さん、どうしよ」
花吹雪の嵐が止まらない。制御が出来ないのだ。もっかい変身する? どうしよう勝手に身体が動いてくれてたから出来たけれど、チュートリアル終わった今は何も感じない。そうこうしている間にも、私を中心に竜巻が吹き荒れさくら色に輝く花吹雪の柱が出来ている。とても、やばい。当然ものすごくエネルギーを消費するようでどんどんお腹も空いてくるし、意識が朦朧としてくる。
あ。だめ、ねる……