ヒーローと魔法少女、或いは心理学カンストゴリラ   作:就鳥 ことり

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今回は少々長めになっています。


act4:轟冷

いやぁー。あれはびっくりしたね。3ヶ月寝たきりになるとは思わなかった。両親にも心配を掛けてしまった。さぞ寿命が縮まる思いをさせたのだろう、無事に目を覚ました私を2人揃って泣きながら抱きしめてくれた。ちょっと苦しかったけれど、それくらいは我慢した。

 

あれから半年過ぎて私は無事に4歳になった。個性の大暴走以外に大した不調もなく日々楽しく過ごしている。

 

そして私が睡眠薬とお友達している間に無事に生まれた健信くんと私は初対面を果たした。生後6ヶ月の健信くんは最高に可愛かった。私がニコッとすると健信くんもまた、にぱっと笑うのだ。生理的微笑だと分かっていても可愛いもんは可愛い。指も握ってもらった。

 

それからママ友会として、引子さんと母は以前より頻繁にお茶会を開くようになった。

 

私達は少しずつ、強盗事件から平穏を取り戻して行った。

 

 

 

**

 

 

 

何事も無く季節は巡り春が来た。強盗事件から一年経ち、すっかり平和に溶け込んだ日常が続いている。

 

この日は花かんむり作りの練習をするために、すぐ側の公園まで来ていた。というのも、老衰が進み寝たきりが多い曾祖母のために、花かんむりをプレゼントしたくてね。花かんむりは水を張った皿に飾っておけば暫くは美しい状態で持つのだ。子供らしくて、尚且つ可愛らしいだろう? プレゼントしたら曾祖母はきっと喜んでくれる。

 

野花を摘み取り、本を開いて図面に従って花を編んでいく。……ふむ。幼女のもみじのおててでは難しいものだね。幼女の不器用さに四苦八苦しながら、必死に手を動かす。その傍らで、イズクが茎を喰いちぎっては次の花を用意して待っていてくれていた。有難い。それを手に取り、また短い指を酷使し、指して捻ってを繰り返していく。

 

やがて日が高くなり、お腹の虫が情けなく音を上げた。それでも尚作業を続けようとしていると。休憩してお弁当を食べよう。そう言うように、イズクが私の袖を引いて主張する。

って、あぁっ。

待って待って、あともうちょっとだからさ。あ、だめ? うんうん。わかった、わかったからお袖を噛まないでほしい。伸びちゃうから、ね? そんな目で見なくともちゃんとご飯は食べるから。ほら、あそこのベンチに行こう。

 

 

「みゅーっみゅー!!」

 

「今日のお弁当はなんだろうね?」

 

背負っていた、うさぎの耳が生えたリュックをガサゴソと漁る。水筒とお菓子をかき分け、ランチボックスを取り出す。可愛らしいサイズのその蓋を開けてみれば、中にはこれまた小さなサンドイッチが詰まっている。

とても美味しそう。

 

「イズク、どれから食べたい?」

 

「みゅやっ」

 

サンドイッチのどれを選ぶでもなく、イズクは私の鼻先を肉球で押した。……ふむ。

 

「私が先に選んでいいのかい?」

 

「もきゅぴ!!」

 

「成程。おーけ、おーけ、あいしー。ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて……そうだね。卵貰おうかなぁ」

 

「みゅきゅ!!」

 

イズクは優しい。こういう時はいつでも私に譲ってくれるのだ。はぁーいい子〜。お礼にと、耳の付け根を掻くように撫でてやれば、イズクは気持ち良さそうにダラっと身体の力を抜いてしまう。うんうん。ここが弱いんだもんね? どうだ、気持ちいいだろう。

 

「きゅぅ~」

 

桃色の花をヒラヒラと舞わせながら、甘えた声で鳴くイズク。まさに骨抜きだ。

 

「どれ。イズクは何が食べたい?」

 

さっと手を止めればイズクもハッと我に返る。それから(いつもこうなのだが)、瞬時にイズクはぽんっと顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに顔を隠した。それから恨めしそうに私を見てはペシペシと私の肩を叩く。

 

「みゅみゅっ!!」

 

「ははは、愛いやつめ。……あた、あいたたた…いたい、痛い!! わかった、わかった、もう外ではしないから!! 許してイズク、ごめんて」

 

痛くないと、余裕ぶっていたら、容赦なくべしばしと叩き始めたイズクに慌てて許しを乞う。まるで外でイチャつこうとして怒る恋人のようだ。イズクは私の彼女かな? そう問えば、もふもふアイアンテールをくらう羽目になりそうなのでお口チャックだ。

 

イズクは、もうっ!! とでも言うように小さく鳴いて、ぷりぷりとカツサンドを咥えてそっぽを向いてしまう。

これはかの……いやよそう。

 

仲良く並んで、サンドイッチをもぐもぐ。

常にエネルギー消費の激しい私だが、胃袋は幼女の平均と変わらないので一度に多くは食べれない。それ故、リュックの中にはその他高カロリーな携帯非常食……という名のおやつがいっぱい詰まっているのだ。

これにより、空腹への対処は自分1人でもできる。さらに、私が早熟且つ聡い子供であると認識されていること、イズクもしっかりしており両親からの信頼を勝ち取ったこともあって、近場の公園程度なら1人でも長居する許可も得たのだ。

 

花屋、即ち我が家の裏から道を挟んで広がる大きな公園も私のテリトリーになったのだ。私は行動範囲が広がって大喜びだ。万歳。

仕方ないとは言え、幼女には制限が多くて窮屈だったからね。

 

次の目標は図書館に1人で行かせてもらうことだ。心理学に関する書籍を早く読み漁りたい。何処へ行くにも親の同伴を避けられない現状では、絵本しか読むことが出来ない。そうだ。子供向けのイソップやグリム童話の絵本の絵柄が少女マンガになっていたのには驚いた。その方が女の子受けはいいのだろうけれど、なんとも微妙な気分になる。

 

 

「ごちそうさまでした」

「もきゅ!!」

 

 

美味しい昼食を終え、再び花かんむり作成練習の続きに戻ろうと立ち上がると、イズクが私の袖を引く。おっ? どうした、どうした?

 

「みゅみゅ!! きゅーきゅっ、もきゅっぴ!!」

「おっけ、何一つわからん。大人しく着いてくからナビよろしくな」

 

意図を読むことを諦め、引かれるままに小山を登って下る。どこまで行くのさ。不思議に思いながらもとたとた走って行くと、ベンチに座って俯く女の人が見えた。

とりあえずあの人が目的地なのは理解した。しかし何故……?

あっ、そういうこと?

 

「いや、私まだ幼女。確かにSAN値ピンチそうなお姉さんだけれど!親戚だった引子さんとは訳が違うからね!!」

 

行きたい気持ちはいっぱいだが、私はまだ子供で何かあれば両親に責任がゆく。手前のケツを手前で拭けないうちはまだダメだ。

 

そんな私の声は聞かないイズクを引き留めようと、私はその体に手を伸ばすが、避けられる。こ、こいつぅ……大人しく捕まれっ!! このっ、このっ!! あっ。

勢いを付けて伸ばした手が宙を切り、頭とお尻が重たい幼児体型はコロンといとも簡単に転がった。そのままコロコロとギャグ漫画のように草むらを転がりアスファルトでべシャっと着地。その際にあちらこちらを擦りむいてしまった。

 

い、痛い……。うわ、生理的なやつだけど涙出てきた。この感じ、絶対血が出てるだろうなぁ。花かんむりは諦めて1度お家に帰らないと……。こんな怪我を見たら暫くは1人で出かけるのは無理になるだろう。残念だ。

 

「あららっ、痛かったねぇ、大丈夫だよ」

 

空から降ってきた優しい声に涙で潤んだ目を上げる。先程のお姉さんが心配そうに眉を下げ、背中を優しくトントンと叩いてくれた。

よし、泣くか。

 

「ふぇぁっ。ぅあああぁぁぁっいたいよぉぉ、いたいぃぃふぇえええ」

 

1拍遅れてわんわん声を張り上げ出した私に、お姉さんは焦ったように背をさすってくれる。それでも泣き止まないで居れば、躊躇いながらもそっと抱きしめて頭を撫でてくれた。

 

いやはや、手を煩わせてしまって申し訳ないが、見られてしまった以上はこちらも泣かない訳にはいかない。なんせ私は幼気な幼女、こういう場面では全力で泣かなくてはいけないのだ。

私は園で沢山の園児達を見てきたが、こんなに擦りむいて泣かない幼児は居ない。私は幼女。園のすっ転んで泣いていた友人達……いや、幼児パイセン達の姿を思い起こしながら精一杯泣き喚いた。演技の才は当然皆無なので、涙の出し方は知らない。生理的涙はこれ以上出ないのでそこは手で目を拭うフリをして誤魔化す。

 

体感3分程(実際はもっと短いかもしれないが)お姉さんにヨシヨシしてもらい。すんすん鼻を鳴らしながらお姉さんに手を引かれ水道で傷口を洗ってもらうことになった。何から何まで申し訳ない。

 

途中からわんわん泣く私に罪悪感でも覚えたのか、キューキュー鳴きながら心配そうに擦り寄るイズク。なんだ、元凶。心配せずとも中身三十路ババアは元気だよ。

 

「あいがと、っぐす。ござい、ます」

 

ぐずるフリをしながらお礼を言い、これで最後だとばかりに袖で目元を擦った。

 

「どういたしまして。うん。ちゃんと泣きやめて偉いね」

 

「あい、わたし、ひなたはなえっていいます。おねぇさんは?」

 

「おばちゃんは轟冷といいます」

 

「れーちゃん」

 

間違っても“おばちゃん”とは縁遠い見た目の冷さんに、突っ込む代わりに『れいちゃん』と呼ぶことにした。すると彼女は驚いたような顔をしてからふっと悲しげに微笑み、私を支える手に力が入った。ふむ。何か刺激してしまっただろうか。

 

「れいちゃんも“ママさん”なの?」

 

「えっ」

 

「だってやさしくて、バイキンもばいばいしてくれたもん。わたしのおかあさんといっしょ!!」

 

どうしたの? と無邪気を装って首を傾ければ、慌てて取り繕ったように「なんでもないよ」と私に笑いかける。苛立ちは見られない。私の『れいちゃん』が気に食わない訳では無いらしい。瞳孔の様子から“ママ”にも反応していたし、私の子供っぽさが彼女の心を揺すったのだろう。

それから「そうなの。はなえちゃんと同じくらいの子がいるよ」そう続けた冷さんに確信する。

成程、子供関連の悩みを抱えていそうだ。

 

陰を落として微笑む顔は他人から見ても分かるほどに(やつ)れている。ふむ。子供というだけ拒絶する程までは来ていないが、思った以上には弱っていそうだ。

 

しれっと心療内科とかを勧めよう。勿論私でなく身近な大人に勧めて貰うつもりだ。

こらこらイズク。そんなに小突いたって私はカウンセリング始めたりしないぞ。確かにあまり煮詰めていてもネグレクト等の虐待に発展する可能性はあるけれど、私がやっていい事ではない。

 

「みゅきゅぅ……」

 

そんな顔しなくても、放って置いたりもしないよ。

よーし、私は世界が羨む幼女だ。いいな? よってこれから行う行動は何も問題ない。素敵なお姉さんを母に『見て見て〜!! あのねあのね!!』ってしたいだけの幼気な幼女だ。

 

「そぉだ!! れーちゃん、わたしのおうち行こ!!」

 

「えっ? えぇっ?」

 

「すぐそこでね、お花屋さんなの!!」

困惑する冷さんの手をぎゅっと握り歩き出した。好き勝手に喋りながら、引っ張って進んで行く。助かることに、気が強い方ではないらしく冷さんは困惑しつつも私に着いてきてくれる。

大丈夫。苦しい時は苦しいって言ったっていいんだよ。

 

その時、ポツリと冷たい水が頬を掠めた。それはだんだんと強まりシャワーのように私達に降り注いだ。紛うことなき豪雨である。

 

「えっ……」

 

ゲリラ豪雨ってやつだ。えぇ……嘘だぁ。そんなことってある? そういや降水確率10%って言ってたもんなぁ。降らないとは言ってない、むしろ当たりだ。

 

「ごめんね、はなちゃん揺れるよ。お家どっちだっけ?」

 

思わず固まった私を、冷さんは抱き上げて駆け出してくれる。……ふむこの豪雨は好都合かもしれない。お人好しの母のことだ。ずぶ濡れの、しかも娘を助けた相手となれば、高確率で冷さんを家に入れるだろう。

 

 

「態々ありがとうございました」

 

「いえいえそんな。風邪をひくと悪いですから、早くはなえちゃんをお風呂に」

 

「あのね、あのね。わたし、ころんじゃってね、ないてたの。そしたらね、このお姉さんがお水でばいきんバイバイしてくれたの!! それでねっ」

 

「そうなの。風邪を引くといけないのは貴女もなんですから上がってくださいな。顔色も何だか優れないわ」

 

ほらね!! こっそりイズクと親指立て合う(サムズアップができるとは、まったく器用な獣である)。

 

「えっ、そんな、とんでもないです」

 

「わっ。れいちゃんおてて冷たい!! 風邪ひいちゃう!! はなちゃんとお風呂入ろ!! れいちゃん風邪ひいちゃったらやだぁ!!」

 

逃がしてたまるかと、私は更に騒ぐ。

 

「えぇっ」

 

「あらあら、うちのがごめんなさいね。でも良かったら温まっていってくれないかしら。娘を助けてくれた優しい人をこの雨の中出す訳にもいかないし」

 

私の珍しい駄々こねに不思議そうにしつつも、冷さんを家に上がらせることに成功し、さらに風呂場へと背を押してくれた。お母さんファインプレーだ。ナイスマム!!

 

「れいちゃんとお風呂!!」

 

「えっと、では、お邪魔します……」

 

何故か顔を真っ赤にして珍しく入って来ないイズクを放って置いて、れいちゃんをお風呂場に突っ込むと私も飛び込んで強制洗いっこをする。幼女の特権だ。

それから、なんて事ない無駄話をした。いやほんとに無駄な話が8割だ。なんせ私が子供らしく自分語りを披露したからね。隙あらば自分語り、幼児に多い傾向を流用させて頂いた。

それでも、優しい冷さんは全部聞いてくれた。それと、あまりお子さんのことには触れずに冷さんのこともちょっと聞いてみる。そしたら旦那さんの話もダメっぽい。……旦那さんがお子さんに虐待をしてるケースの反応に似ている。しかし、それにしては私への反応が気になる。心配だし気にもなるけれどまぁ、この辺りは勧めた先のプロに任せよう。

 

冷さんはここから少し離れた住宅街に住んでるそうだ。街の名前は聞いたことあるが、たしかバスで15分はかかるはず。そこの大きな日本家屋に住んでるそうだ。

以前、隣町へ行くために乗ったバスにて、その街を通り抜ける際に見えた大きな家がそうかと思って尋ねたら肯定されてしまった。えっ、あのお家かなり立派だった。裕福な家庭というのも大変なんだろう。

 

すっかり打ち解けた私達は、その後母の用意したおやつを一緒に食べることになった。主に私の我儘のせいで。

現在イズクは父と一緒にお風呂だ。 雨が酷いので一時的に閉店するらしい。この激しさを見るに通り雨だろう、父も同じ考えらしく様子を見て再開するつもりだと言っていた。

 

さて、私はココアとドーナツを両手に構え、幼女の上に更に猫を被る。前世で有名だった見た目は子供、中身は男子高校生な探偵のように。彼の『あれれ〜』の如く、私は『あのね〜』と勝手に冷さんの家庭事情(と言っても私と同じくらいの子供がいるよ〜ってくらいのことだ)を怪しまれない程度に話した。

母に同年代の子供を持つ仲間として親近感を持たせるためである。母からみた冷さんの好感度はかなり高い。なんせ、愛娘を大雨の中連れ帰って来てくれた恩人なのだ。冷さんの異変にさえ気付かせればもう、今回の私の役目はおしまいだ。

 

全力で空腹を訴える虫をドーナツで黙らせながら、ちょこちょこ口を挟んでママ友トークを誘導すること1時間。世間話を1周して子供の話に戻って暫くすると、母も冷さんの陰りに気づいた。

 

「轟さん、どうかした? 悩み事?」

 

「あ、いえ何も!! それで、はなえちゃんはどうなったんですか?」

 

「……無理してるでしょ。私の従姉妹も子供の事で昔そんな顔してたからわかるのよ。会ったばかりの私に言えとは言わないけれど。溜め込むのは良くないわ」

 

「……っ、はい。ありがとうございます」

 

「わたししってるよ!! 苦しいとき、お話聞いてくれるお仕事もあるんだって。おなまえかくしてね、おでんわでお話しできるところもあるんだよ!! わたしものしりさんだからね!!」

 

ここぞとばかりに補足して、エッヘンと胸を張る。よく知ってるね。と驚く2人にポスターで見たのだと伝える。そして同調する母に、とりあえず私のお仕事はお終ったとホッと息を吐き、ドーナツを頬張った。

 

 

**

 

 

甘かった。

 

勿論ドーナツがでは無い。

あれから3週間程して、再び冷さんはうちを訪れたらしい。その日は平日で母は出勤、私も登園。その間に先日のお礼だと、父はお菓子を受け取ったそうだ。

その時の彼女は、比較的鈍い父でも分かるほどに疲弊していたという。恐らくあの後も、心に巣食う重苦しい苦悩を誰にも言えずにいたのだろう。あの気の弱さとその様子を想えば、こんなことは想像に容易い

 

包装を解いてみれば両親は目をひん剥く程驚いていた。成程、どうやら中々お目にかかれない高級菓子だったようだ。母はお返しをしなくちゃと目を白黒させていた。

 

その時の私はお返しを渡すついでに冷さんの様子を見ようと少々、いや、かなり楽観視してしまっていた。

それが。私らしくない、結果を残してしまったのだ。

 

 

その翌週末、菓子折りを持って轟家を尋ねると。冷さんと揃いの綺麗な白髪(はくはつ)に赤毛が混ざった少女が戸を開けた。小学高学年か、中学1年生くらいのまだあどけなさの残るそんな少女は不安を滲ませた表情(かお)でこちらを伺う。

 

彼女は冷さんの娘だった。あの大学生と言われても違和感のない冷さんにもうこんなに大きな娘さんがいたとは驚きである。

 

冷さんを尋ねて来たのだと母が伝えると、少女は瞳を歪ませ絞り出すように、「母は精神科の病院に入院することになった、末の弟に煮え湯を掛けてしまって……」。

中学生だといってもまだ子供、本当はまだ事実を呑み込めていなかったのだろう。そんなことを全て他人にポロポロと話してしまう程度には。

 

私は救える筈だった1人の尊い心に手を伸ばさなかったのだ。そして。また、その余波を受け心にヒビを入れている少女がいる。

 

「おねえちゃん、いいこ、いいこ」

 

あぁ、遺してきた愛弟子に顔向けできないね。

今世の両親のことを考え、自らの行動選択を狭めたばっかりに、尊い心がこの手から滑り落ち、割れてしまった。

 

なんて、情けない。

 

 

私は東雲万智である前に、陽向花恵である。

それは当たり前で変わらない、ここにいるのは名をあげたカウンセラーでも心理学者でもない。親の庇護下にいる非力な幼女だ。

しかし、その事実と同時にもう1つの事実が存在する。

私は陽向花恵である前に、東雲万智でもあるのだ。

ただの幼女ではなく、知識と知恵がある。言葉の力と人間の心の繊細さを人より理解している。非力であるが、無力ではないのだ。

 

勿論今後も両親を困らせることは独り立ちするまで極力避けていく方針だが、それでも、もう二度と手を伸ばすことを躊躇わない。

他の誰でもない私のために。

 

 




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