ヒーローと魔法少女、或いは心理学カンストゴリラ   作:就鳥 ことり

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act.7:本領発揮

「ざっくりでいいからフィールドを見回して。どう、10分で回れそう?」

 

「もきゅ!!」

 

私はイズクの言語を理解出来ない。だが、事前にYESとNOのサインは確認済みだ。了承、GOサインは「みきゅきゅ!!」否定や反対等は「もきゅ!!」。主に鳴き声の音数で判別できる。よってイズクからの返答は不可。ふむ、10分で1周できる広さではないか、ならば到達が制限時間後半になる中部から奥には何か仕掛けられてると見た方がいいかな。

 

「イズク、そのまま空から仮装敵の位置を把握出来そう?」

 

「みきゅきゅ!!」

 

「じゃぁ、ナビゲート頼んだよ」

 

「みゅきゅーっ!!」

 

イズクの視力は2.7とかなり良いため、索敵能力が抜群に高い。上空を飛んでいくイズクを追って建造物の合間を駆ける。すぐに「きゅっ!!」と短く高い警戒の鳴き声を受けた。慎重に右折すると、予告通り仮装敵のお出ましだ。

機体に2と書かれている他、事前に配られたプリントと照らし合わせても、2ポイントの仮想的と見て間違いない。

 

「ヒョウテキ……カクニン」

 

頭部であろう箇所に着いたレンズが私を捉える……。さて、この機械の心臓は頭部が胴か。その判断は分断した方が早い。小型の戦車が基盤となっているが、コイツは首が長く細い。頭部を固定し蹴り飛ばせば、ちぎれるまではいかずともダメージはいくはず。1点集中攻撃すれば或いは破壊も出来るかもしれない。

 

「でやァっ!!」

 

地面を蹴って飛び上がって頭部に手を付き、そこを支えに身体を捻って蹴りを入れる。ぐしゃっとアルミ缶が潰れるように軋む音。ふむ、ちょっと壊れやすく出来ているようだ。ポッキリと折れてしまった首をダラっと垂れ下げて、ちぎれた電線からはバチバチと放電が起こっている。完全停止……つまり頭部を潰せば破壊及び行動不能に出来るという訳だ。まだわからないが、おそらく他のポイントの機体も頭部が心臓部位になってるのだろう。

 

「イズク、次に行こう」

 

「きゅぷ!!」

 

先行するイズクを辿って行き、先々で出会った仮想敵の頭を蹴り潰して回る。着々と溜まるポイント数から考えると、変身せずに済みそうだ。中々の高ペースで破壊している私は恐らくペースだけを見れば基準以上。変身すれば効率は上がるが、周囲を見回して考察してもその点だけを考えるならば十分だろう。後半に大きな仕掛けがある可能性を考えるとカロリーは温存しておきたいのだ。

 

「それっ」

 

「みゅっきゅ〜っ!!」

 

「なになに? ヒーローみたいでカッコイイって? ありがとう」

 

「みゅや!!」

 

 

頭部が砕け放電している仮想敵の姿にイズクが興奮気味に歓声を上げる。その声に適当に相槌を返せば肯定するように私の周囲をくるくる飛び回る。うんうん、この場で誰よりも君が楽しそうだ。

それにしてもこのロボット、ちょっと脆いな。鉄パイプで破壊していた受験者もいたからそんなもんなのだろうけれど。何を隠そう、私の蹴りは鉄パイプより強い。

 

私は初代キュア様の足技、投げ技に大変憧れている。そのため、ついつい練習に多く熱を入れてしまっていがちだったから、殴るより蹴るほうが得意になるというのは当然の流れだろう。

しかし、自分で言うのもあれなのだけどそのレベルがエグい。拳では瓦2枚がやっとだというのに、小学生にして既に瓦5枚をかかと落としで割れるようになってしまっていた。さらに言うなら、中学生の青春を捧げた結果、蹴り1つでプラスチックや竹は砕け、鉄パイプも車も凹むようになってしまった。

 

努力は裏切らないとはいうが、まさかこんなになるとは思わない。初めて蹴りで竹を粉砕した時は興奮すると同じくらい、自分のことながらとても引いた。しかし、上には上がいる。私の師匠は拳の風圧でトラックを止める漢(猫が引かれそうだったらしい)。

ここは少年漫画か格闘ゲームの世界かなのではないかと何度思ったことだろう。だかしかし、これは現実であり、尚且つ個性使わずこの破壊力。残念ながら私達師弟はどう足掻いてもステータス異常のゴリラである。ただ、それでもオールマイトの腕力には遠く及ばないという事実が私を救った。良かった、私はまだ人間。

 

……クラスメイトの男子が見た目詐欺の大食いゴリラ女と己に言い聞かせるように度々呟いていることを私は知っているし、力仕事となれば男子よりも先に私に声がかかる。それが現実。

悲しいかな、私は自他ともに認めるステータスゴリラなのだ。オールマイトにはゴリラって言わないのにね? 平和の象徴?? うるせぇ、私をゴリラと称するなら彼のことはキングコングと呼べよな!!!!

それか口に出さずに内心に秘めておいて欲しい。

 

「せェィりゃァッ」

 

……これで56ポイント。耳に入る周囲の得点をカウントする声によると多い人で60、低いところだと10。しかし、点数に関わらず誰しもが焦りを滲ませながら争うようにロボットに襲いかかっている。……あぁ、成程。思い返せば仮想敵の数は伝えられていない。他の試験会場の様子も伺えないから周囲に勝っているから安心、という訳にもいかない。

 

「イズク、あと3分切ったから奥に向かって行こう」

 

試験監督の残り時間の告知と共にさらに奥に向かって走った。終盤ということもあり、既に壊れている仮想敵が道に無造作に崩れ落ちている。それらを飛び越え乗り越え、出会った個体にはラッキーとばかりに蹴りを見舞う。

 

「きゅきゅぅ……きゅッ!!」

 

何かを感じたのか、空を先行するイズクがピクリと耳を揺らし、そして警戒の高い声を上げる。その直後だ。

低く重たい地響きが鳴り、突如1歩先の地面が盛り上がる。反射で、後ろに飛びのき巻き込まれることを回避する。他の受験者はまだ中間程の区間で仮想敵を探し回っていたし、周囲には誰も見かけてない。学校側も流石に安全確認はしてくれているとは思いたい。これに巻き込まれた人がいなければいいのだけど……。

 

「もきゃ……」

 

砂煙が舞い視界が悪くなる中、大きな影はどんどん空へと伸びて行く。おっとぉ?

目測、30メートル、40メートル、50……えっ、まだ止まらんのか。やがて砂煙が晴れその巨体が姿を現す。

 

「わぁぉ……お金かかってんなぁ」

 

この入試に幾らかかってるんだろう。目の前に仁王立ちする100メートルの高さは優にあるであろう、鉄人兵器。巨大ロボットなのに、ガンダムよりも人食いの巨人の方がイメージに近い気がするのは、恐らくその寸胴のせいだろう。駆逐してやるぞ。

破壊してOKという辺り、再起不能になることも視野に入れているのだろう。正直言ってこの学校頭おかしい。過去に事務所を経営していた身からも言わせて頂きたい。お金はもっと大事にしよ!!!! 普通大赤字どころの騒ぎではない。小さな機械を性能や材質そのまま大きくできる個性でもあるなら別なのかもしれないけれど。そうじゃないなら文字通り湯水の如くお金を使うね?

破壊して回った私が言えたことじゃないけれど、資源も物もお金も大切にしよう? 特にここ国立なんだから税金とかさ……あっ考えるの止めよ。

 

おもむろに動き出した奴に警戒しながら距離を置く。……この姿は例の0ポイント。全然見かけないと思ったけど、そういうことだったのか。さて、私の後半に何か起こるという推察は当たったのだけれど、これはハズレか。判断ミスしたかもしれない。

 

こちらへと重たい足取りで前進する巨人。その動きはだんだん加速している。さてどうしたものか。まだ他の受験生達のいる区域まで50mはある。奴に背を向けないようにバックステップで下がりながら考える。

 

とりあえず、他の機体同様に個体識別して私を追って来てくれているのなら、受験者達の方へ連れていかず奥へと進もう。0ポイントのロボットだ、誰も戦いたくはないだろう。……あ、私をロックオンしている訳じゃないな、これ。これでは否応なく連れて行くしかない。

奴の速度は時速20キロ強程にもなり、私も流石に背を向けて駆ける。

 

すぐに他の受験者達の元へ連れてきてしまい、私より先を走り逃げる受験者達に続く形になった。怯えながらも必死に走る後ろ姿に、ヒーローを目指してどんなに身体をつくる努力をしていても、彼らはまだ中学生なのだと感じる。しかしまぁ。まだまだ子供なのに、この圧倒的力を前にしても動けるとは、中々に肝が座っている。最近の子供達って凄い逞しい。

 

関心してばかりもいられない。私も考えなくては。

この巨大ロボを配置した意図はなんだ。

鬼ごっこさせるにしては割に合わない、もっと素早く小回りの効くものにするはずだ。かといって戦わせたいならもっとこう、受験者が戦いたくなるような条件を付けて評価してくれるはずだ。それがましてや0ポイントの無評価対象なんて……あぁ、ノーリターン、ハイリスクか。そして脅威に立ち向かう精神も問われてるのかな。成程ね、うんうん。ヒーローを育成するんだもんなぁ、納得。

中学生に要求するものが些か大き過ぎやしないかい。

 

前方で転んで足を挫いた少女を拾って抱え、足がもつれそうになった少年を寸前で支え、足の遅い子の手を引き。先を駆ける姿を後ろから眺めながら、なるべく誰も遅れを取らないように支援に徹する。あんな巨体に轢かれたらたまらない。雄英は入試で重体患者を出すつもりか。救護班もいるのだろうけれど、シビアだな。

 

 

「みゅやや?」

 

変身しないの? とでも言いたげに私を見つめるイズク。確かに、逃げるよりさっさと倒してしまった方がいい気もする。これから奴が加速しない保証はない訳だし、変身後の腕力をもってすればアレは敵ではない。だがしかし、私の変身には10秒程かかってしまう。その間は完全に無敵の手出し無用状態になる私はいい。でも生物を抱いて変身したことはなく、どうなるか分からない。今抱えてる子を下ろして変身するにしても、10秒あればあのロボが追いついてしまう可能性も十分ある。故に今は

 

「彼女を任せられそうな子を探しているところなんだ」

 

「ごめんな、アンタも大切な受験なのに」

 

「気にしないでほしい。私もヒーローになるのだから、人を助けてこそだと思うんだ。それでなくても、危ないってわかっていて放って置く訳にもいかないよ」

 

居た堪れなそうに俯く少女を抱く腕に力を込める。安心させるように笑いかければ、彼女は「ありがとう」と頬を緩めた。さぁて、サイドテール少女。スピードを上げるぞ。これから揺れるから口を閉じていて欲しい。向こうの力がありそうな彼に任せるからさ。

 

マッチョ体型の少年にサイドテール少女を託すと、少年は快諾してくれた上にロボットの破壊に行く私を心配してくれた。優しい世界だ。

 

「さて、イズク。行く、よっ??? おっとぉ? どこへ連れていくのさ?」

 

「キュッ!!」

 

少年に追いつくために加速したためロボとの距離は十分に取れた。よし変身するぞっと思ったら、イズクが私の袖を引っ張ったため体制危うく崩しかけた。えっ、なに? どうしたの? そのままどこかへと私を引っ張るイズクに疑問符が尽きない。なんでや、せっかく距離を取ったのに。

 

何も考えなしに意味なく行動する子ではないので、大人しく後を着いて走れば、どんどん0ポイント仮想敵まで近づいて行く。え。なんで??

 

「イズク!! 何考えているか分からないけど、このままだと変身間に合わないよ? 大丈夫?」

 

「みきゅきゅっ!」

 

「……そう。何か考えがあるんだね。じゃあ着いていくよ」

 

「きゅぷっ!」

 

どうやら、この先に何かあるらしい。こちらへと逃げる受験者達を躱してすり抜けながら先へ先へと駆けて行く。ロボとの距離が目測50メートルを切った頃に、やっとイズクが見ていたものが見えた。2.7ってそんな遠くまで見えるのか。なんにせよ、お手柄だ。

 

「イズクは彼女を助けに行きたかったんだね」

 

前方には瓦礫に半身が埋もれて身動きが取れずにいる少女、先刻私を助けてくれた麗か朗らか少女だ。颯爽と助けたいところだけれど、生憎とあの瓦礫は変身しなければ退かせない上に変身が間に合わない。

 

「今助けるよ」

 

「君は、あの時の……?」

 

ならば、一か八か。まだまだ上手くコントロールできないけれど。

 

解除(アン・ロック)__」

 

 

ぶわっと桃色に輝く花弁が舞い上がり旋風が巻き起こる。大丈夫、大丈夫。吐くほど練習してきたんだ。上手くやりなよ、私。

視界に映して変に意識すると、家屋やビルなど余計なものまで消散してしまう。カロリーも、資源も勿体ない。避けるために目を閉じて情報をシャットアウトして、手で瓦礫に触れる。瓦礫の全体を思い浮かべながら無くなれと念を送ると、瞬時に手から感触が無くなり風が舞う。だいぶ密度が大きかったらしく、ごっそり気力が無くなった。直接的表現に直すと、お腹空いた。

 

生物である少女は対象外なので、他を映さないよう真っ直ぐ彼女を見つめて安否を確認する……良かった無事だ。すぐ後方に迫るロボに顔を真っ青にする彼女の身体を覆い、パッと素早く後方に視線を移して奴の頭部を捉える。ただ頭部だけを一点集中。流石にあれ全部消すにはカロリーが足りない。他の型と同じだと信じて、頭部だけ、頭部だけ、頭部、頭部……と念じる。

 

 

__きゅぴんっ

 

ファンシーな音と共に桃色に発光したのち、奴の上半身が爽やかな春色の風と共に花弁となった。

……せ、成功。お腹空いた無理。朦朧とする意識に叱咤して

 

制限(ロック)……ふぅ」

 

制御装置を再び起動し、吹き出していた花吹雪を収める。上半身を失い、動きを止めて放電する仮想敵に安堵して、ぐーぎゅぐーぎゅと糖脂質を求めるお腹にカロリーゼリーを2本流し込んで宥める。お腹空いたし眠い、非常に眠たい。あと残り時間は1分あっただろうか。

 

その後間もなく響いた終了を告げる声に、肩の力を抜く受験者達と揃えて私も息を吐いた。帰りはバイキングだ、絶対。私とエネルギーを共有しているイズクがふよふよとふらついているのでそっと捕まえて腕に抱えてやる。たぶん飛ぶより抱える方がエネルギー的にも楽だろう。

 

ぎゅるるる……。

きゅるるる……。

 

1人と1匹の腹の虫が声を揃えて力無く鳴いた。

はいはい、もうすぐご飯だから我慢しましょうね〜??




その後の集合時に空腹音を鳴り響かせ続けるという醜態を晒す羽目になり、近くにいたあの時のマッチョ少年がチョコレートマフィンをくれた。
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