面影島事件から一年後、二人の少女の談話。

※DX3rd公式シナリオであるハートレスメモリーのネタバレが含まれている可能性がありますのでご注意ください。

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八月十六日、とある一室で。

「こんばんは。元気にしてた?」

 

月明かりのみが照らす部屋に、一人の見覚えのある女性が現れる。その姿に少し驚きはするものの、あることに気付いて納得する。

 

「ああ、そうだな……特に病気等も無く、平穏無事に暮らしていたよ。久しぶりだな。案外、早い再開……いや、むしろ遅かったな、と言うべきだろうか。」

「うん、早かったのは会いたくなったから。時期も時期だしね。遅くなっちゃったのは、その……思ったよりも、遠くて。手間取っちゃった。」

 

えへへ、と笑って彼女は何事もないように言う。照れ隠しなのだろう、その頬は少し紅潮していた。

 

「そうか。まあ確かに、あの場所から来るにはここは少し遠いだろうな。」

「そうだよ。急に引っ越すし、探すのも大変だったんだからね?」

「それはまあ、すまなかった。」

「わかればいいんだよ。」

 

何故私が謝っているのだろうとふと疑問を抱いたが、それを口に出すのは憚られた。

 

「しかしもうこんな時間であるのだし、すぐに帰らなければならないのではないのか。」

「うーん、そうだね。でも、もう少しくらいなら大丈夫だよ。」

「そうか。なら好きな時間まで居るといいさ。私はもうお前に会えただけで十分だしな。」

「それってさっさと帰れってこと?」

 

彼女は機嫌を損ねたような表情を浮かべる。それはどこかわざとらしかった。

 

「いや、違う。そういう事じゃないんだ。気を悪くしないでくれ。」

「なんて、冗談。貴方がそんなこと言わないなんてわかってるよ。」

「……全く。」

 

彼女は悪戯っぽく笑う。それに釣られて私も笑みを浮かべ、少しばかりの静寂が訪れる。

 

「そういえば、こんな静かな時間を過ごすのは本当に久しぶりだな。以前はなんだかんだと忙しくて、しがらみも多かった。」

「そうだね……昔は、こんな風にゆっくりと話すことも沢山あったんだけどね。」

「そうだったか?私はほとんど外で遊んでた記憶しかないんだが。」

「もう。雨の日とか、すごく暑かったり寒かったりした日はやる事がなくて一日中お喋りとかしてたよ。」

 

そうだったか、と顎に手を当て記憶を探るも、やはり記憶にないようでうんうんと唸る。それを見て彼女は堪えきれずにといった様子で吹き出した。

 

「……ああ、しかし月が綺麗だな。」

 

話を変えようと思ったのだが、少し露骨過ぎただろうか。彼女の方を見ると、話に付き合ってくれるようで視線を窓の外に移していた。

そういえば、と言葉を発してからとあることに気づいたが、それを口に出すのは気恥ずかしく、黙っていることにした。

 

「そうだね。残念ながら満月ではないけど。……そういえば、十六日だし今日みたいな夜を十六夜って言うのかな?」

「それなんだが、どうやらそういう訳でもないらしい。元々旧暦の時の言葉だからな、今とは少しズレているみたいだぞ。」

 

今では満月の次の夜というだけで、十六という数字に大した意味はない。満月を過ぎ、新月に向かう既望の月夜。それが十六夜だ。

 

「そうなんだ。なんだか少し残念?」

「別に、そんな事は無いさ。そこまで思い入れがある訳でもない。」

「その割には結構詳しいみたいだけどねー。」

「……昔、少し調べたからな。私にもそういう時期があったという事だ。」

 

具体的には五年ほど前か。別段突飛な事をしていた訳では無いが……まあ、あまり思い出したくない過去ではある。

 

「うん、あんまり触れない方が良いみたい?」

「そうしてくれ。」

 

会話も途切れ、月に向けていた視線を彼女の方へ向ける。それに気付いたのか、彼女は私に向かって微笑んだ。

 

「……じゃあ、私はそろそろ行こうかな。時間も時間だしね。」

「む、もうそんな時間か 。」

 

時計を見るとその針は十二時を回ろうとしていた。

 

「すまないな、大したもてなしもできないで。」

「ううん。私は貴方に会えただけで満足だから。」

「そうか。」

 

そういえば、彼女はいつもこうだったな。仕方のないことでも、私に非があっても、私が謝るとなんともなしに良いのだという。あの時も、私は彼女に酷い事をしたというのに、最後には笑って許してくれた。

 

「なんだか浮かない顔だね。やっぱり寂しい?」

 

半分は冗談なのだろう、彼女は悪戯っぽく言った。少し感傷的になり過ぎたのか、言葉が上手く発せなかった。

 

「……そうだな、寂しくないと言えば、嘘になる。だが、大丈夫だ。私は前に進むと決めたから。お前が居なくても、しっかりとやっていくさ。」

 

そうだ。私は生きている。ならば、前に進んでいかなければならないのだ。医者になるという新しい夢もできた。ただでさえ立ち止まっていた時間が長かったんだ、もう、そんな暇はない。

 

「あーあ、なんだか私が寂しくなってきちゃった。昔は私にべったりだったのになあ。」

「そういうお前だって。まだたまにあの傷は痛むんだからな。」

 

腹に出来た大きな傷。一生消えることは無いのだろう。だが、それでいい。恨んだりはしていない。後悔もしない。

 

「う……それは、ごめんなさい。あの時はその……必死だったから。」

「いいさ。それに、あの時は私も悪かったしな。」

 

お互いにすれ違っていたのだろう。正当化する訳では無いが、色々と複雑でどうしようもなかったような気もする。

 

「……じゃあ、行くね。私が居なくても、元気で。……なんて、言わなくても大丈夫かな。」

「ああ、なんとかやるさ。そちらも元気で……というのもおかしいか。そうだな、あいつによろしく言っておいてくれ。」

「うん、わかったよ。ずっと眠っているけれど、きっと伝わると思うから。」

「ああ。……じゃあ、またな。」

「うん、またいつか。」

 

彼女は手を振って、そして、消えていった。



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