魔獣創造を手に入れたが開き直ることにした 作:ダ・ヴィンチちゃん
「仮眠できるぐらいの、か……神様は寝るときは本当に深い眠りにつくからなぁ」
フィエルダーは聖剣型の魔獣を生み出す。
儚い寿命しか持たず生物として得るべき機能も感情も全て捨て去り、剣としてのみ存在を許された結果強大な光力を得た『忠誠の劣兵』の亜種は、普段より光力が押さえられている。
「なめられたものよねぇ、確かに産み出せる聖剣は私のに匹敵するけど、手加減して倒せ、だなんて」
聖剣を生み出しクルリと回して再び構えるジャンヌ。その目は既に自分が勝者であると騙っていた。
「一つ質問だが、ジャンヌというのはあのジャンヌダルクの事かな?」
「ええそうよ。私、彼女の生まれ変わりなの」
「僕は元は教会の信者だけど、家に輪廻転生なんてあったけ?」
と、首を傾げるフィエルダー。しかもジャンヌダルクの魂は鳩になって飛び去ったという逸話もある。天に召されたのなら何故こうして現世に産まれているのだろうか?いや、それより気になるのは………
「ジャンヌダルクは救国の英雄だろう?君はいったい何を救う気なんだ?」
「ん?救うって……別に?ただ前世にならって偉業を成さなくちゃって思ってね♪」
「…………なる程、馬鹿か……」
何も救う気がないのに何で聖女名乗ってるんだろうコイツ。
「時間をかけて倒せと言われたし、寝起きは運が悪ければ最悪だが、それは他の人に任せよう」
「あら、なめないでよね。私がただ剣を扱うだけとでも?
と、ジャンヌの足下から大量の聖剣が現れ重なり合いドラゴンの形を取る。
「この子は私の
「それで?」
「………へ」
視界がひっくり返る。見れば聖剣のドラグーンもバラバラに切り刻まれており、ジャンヌは有り得ないと叫ぶ。否、叫ぼうとするが、口がパクパク動くだけで声は出ない。仕方ない、人間は魔獣と違って肺がなくては声を出せないのだから。
「しかし魂、か……神は上質な魂を好むけど、無視してた。本当に生まれ変わりなのか?」
まあエミヤの興味なさそうな態度と彼女のアレっぷりをみる限り単なる馬鹿の可能性が高いが。
「がい!くそ、くそぉぉぉ!」
ヘラクレスは必死に拳を振るう。その度に爆発が起こるが子犬はその場でポリポリ後ろ足でかくだけで傷一つ無い。
「わあ、凄いですね!」
「わん!」
ルフェイは素直に褒めているが冗談ではない。なんなんだこの子犬達。殴る度に拳が痛み、何時しか子犬が巨大な狼に見えてきた。
「それじゃあ、えっと………噛みつく!わぷ!?」
ルフェイが新たな指示を出すと一匹の子犬が顔に飛びついてきた。慌てて離すと尻尾を振り首を傾げる。
「もー、今は戦闘中だから邪魔しちゃだめ………あれ?」
ヘラクレスの姿は何処にもなかった。ただ子犬達が尻尾を振り何匹かがケプ、とげっぷをした。可愛い。
「どうした、こんなものか?この程度で良く強気になれたものだ、笑わせる、いや、笑いすら起きないな」
ふん、と鼻を鳴らすデナイアル。巨大な炎が放たれるがそれをあっさり掌から生やした刀で切り裂く。
上着を脱ぎノースリーブ姿になったデナイアルの腕から複数の刀の刃が生えていた。近づくものを、歩み寄る者を拒絶するように。
「くぅ、貴様ぁ!」
「吼えるな、喋るな。不快だ、我が神が生み出した存在と、認められた存在なら息をすることを認めてやる。だが我が神に敵意を向けた者が息をするなど、存在するなど私は認めん。貴様の存在を否定する」
迫り来る凶刃に障壁と霧を同時に発生させるもあっさり切り裂かれる。
「無駄だ。我が剣に切れぬモノはない……そんな存在、私は否定する」
それがデナイアルの、『否定の将』の能力。魔力の結合、分子の結合、空間の結合、果ては刃が触れるという結果すら否定してあらゆるモノを切り裂く。あらゆるモノを傷つける。その気になればゲオルクなど空間ごと切り裂くことが出来るし、例えば触れるという概念すら否定し骨や肉に傷を付けず心臓を切り裂くことすら容易い。
「───っく!」
だが、攻めきれない。ゲオルクはそう判断する。まだ己は生きている。それが証拠だ。
もちろん勘違いだ。殺さぬように、さらに手加減するよう言われているから時間がかかるだけ。他の全てに否定的でも、否定的だからこそデナイアルの忠誠はフィエルダーにも劣らない。
「………10分か、もう良いだろ」
「何を………───な!?」
と、突然ゲオルクの身体が崩れ始める。デナイアルに斬られた場所から、分子の結合が否定されているのだ。
「脳と心臓と肺、血管さえあればとりあえず生きれるだろう?このまま連れて行くか」
血管と内蔵、脳の固まりになったそれを運びやすいように纏めると主に向かって歩き出すデナイアル。眼球を失い鼓膜を失い皮膚を失い神経を失った五感のないゲオルクにはもはや神器を操ることすら不可能だった。
「まさか、そんな………」
幹部達がまるで相手にならない。しかも派手な戦闘音はいっさいしない、エミヤの寝たいという意思を尊重したのだろう。見誤っていた、彼等の強さを。まずい、まずい!内心焦りながら何とか手を探す曹操。仲間もやられて、思いつくはずがない。だが──
「………?」
全身から流れる冷や汗を押さえられずにいた曹操の顔から不意に表情が消える。エミヤの頭を撫でていたブリュンヒルデが訝しみオーフィスがピクリと肩を振るわせ目を開ける。
「…………ほう、
「旦那様?」
ムクリとエミヤが起きあがる。その口調は何時もと異なり、その声は何時もより高い。
髪が深い海底の水のように青色に染まり不機嫌に歪められた眉根の下に輝く瞳は翡翠色で、瞳孔は縦に避けていた。
「あ、まずい方の寝起きだこれ……」
戻ってきたフィエルダーがそう呟く。
エミヤは女神の魂を取り込んだ。故に本来性別などあってないようなもので、その気になれば女にも男にもなれる。元が男だから男の姿を取っているが力を解放すると女神の側面が出て女になる。なら、果たしてそれは外面だけですむだろうか?
「………久しいなティアマト、子に殺された哀れな神よ」
曹操の見下したような言葉にエミヤはさらに不快そうに顔を歪める。髪が伸び、胸が膨らみ背が伸び角が生える。
「我はエミヤだ、間違え───む、エミヤ?いや確かにティアマト……ああ、イライラする!だが、どうでも良い!何せ貴様がそこにいるのだからなぁ!」
「………既に取り込まれつつあるか。皮肉なものだ、外敵に備えたモノが外敵に喰われるなど」
「な、何の、話をしているですか?」
ブリュンヒルデが問いかけるとオーフィスが代わりに答えてくれた。
「エミヤ、一番馴染んでないのがリリスだったから気づかなかった。まだいる……あれ、その一人……一人?でも、殆どエミヤ」
「馴染む?」
「それとあっち、もう曹操じゃない……あれ、聖書の神」