アズールレーン短編です。

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Z46と白紙のカード

 任務を終えて母港へとたどり着き、指揮官への報告も済ませて各々が寮舎に戻ろうとする頃。私が一枚のカードを拾ったのはそんな時だった。

 

 「ふむ」

 

 地面に落ちていたカードを屈んで手で摘まみ上げ、指でくるくると回しながら観察する。

 長方形の形をしたそれは、表にも裏にも何も描かれておらず(この場合、表も裏もないと言うべきだろうか)何の色にも染められていない、白紙のカードだった。

 

 「Z46?何をしているの?」

 

 白紙のカードを手の中で弄び観察を続けていたら、同じ任務を終え共に寮舎へと戻るところだったティルピッツに声をかけられる。ずっとカードを見続けていたのは不審だったかもしれない。無用な気を遣わせてしまっただろうかと自省する。

 

 「ティルピッツ。大したことではない。ただ、これを拾った」

 「これは……カード? 誰かの落とし物だろうか」

 「わからない。だがそこに落ちていたということは、落とした誰かがいるのだろう。持ち主がわかればいいのだが……」

 

 ティルピッツにも心当たりはないようだ。

 手がかりの乏しい色彩をしたそれを手にティルピッツと二人して頭を悩ませていると、声をかけてくるものがいた。同じ鉄血の空母であるグラーフ・ツェッペリンだった。

 

 「ふん……カード、か。ならば尋ねる者は一人しかいまい?」

 

 そう言ってグラーフは一人の空母の名を挙げる。

 成る程。同じ空母同士で何らかの面識があるのだろう。グラーフの助言に従って、私は名を挙げられた空母のもとを尋ねることにした。 

 

◇◇◇

 

 「なるほど。それで私のところへ来たというわけか」

 「肯定する。それで、これはあなたの落としたものだろうか」

 

 ハーミーズ。ロイヤルに籍を置く軽空母だ。鉄血の駆逐艦である私はあまり彼女とは交遊はない。『カンレキ』は空母の中でも古参と言ってよく、この艦隊においても長く戦っている古強者だ。『カンレキ』のない私はそのことに僅かな羨望を抱く。しかし、他者を羨むことが私に私自身が持ち得ないものを与えてくれるということはない。

 ハーミーズはカードを用いて行う『デュエル』というものに熱狂しているそうだ。グラーフがカードと聞いて彼女の名を挙げたのもそれが関係するのだろう。

 

 「白紙のカード……か。結論から言おう。それは私のものではない」

 「そう……か」

 

 ハーミーズの言葉を聞いて、私は少し落胆した。ここで持ち主が判明したのならば事態は終息を迎えたのだろう。しかし、現実には逆に私は持ち主に繋がる糸を失ってしまった。

 持ち主を探す手がかりを失ったカードを手に瞑目する私に、ハーミーズが言う。

 

 「君が持っていたらいいんじゃないか?」

 「しかし、これが誰かの紛失したものならば、持ち主が探しているかもしれない」

 「なら、持ち主が現れたらその人に返せばいい。だけれど、私はこう思うんだ。カードが君のところへと行きたがっている。だから、君のもとへと辿り着いたのだと」

 「カードが私のところへ……?」

 

 不合理で、不可解な言葉だった。この色のない紙に意志があり、私のもとへとやってきたとでも言うのだろうか。

 そんな疑問を浮かべている私に、彼女は言葉を続ける。

 

 「カードには様々なものが宿る。喜び、ワクワク、魂、精霊、悲しみ、憎しみ、痛み……時には意思すら宿すこともある。白紙ならば尚更だ。そのカードが君の手に渡ったということにも意味があるのだと私は思う。白紙のカードに何かが宿るまで、君が持っているといいんじゃないか?」

 

 その言葉を聞いて、私はこのカードを持っておくことにした。

 或いは、未だ何をも宿さぬ白紙のカードに、中身のない私自身を重ねたのかもしれなかった。

 

◇◇◇

 

 その夜。私は寮舎の自室で白紙のカードを見つめていた。

 カードに何かが宿るというのなら、このカードには何が宿るのだろうか?

 私が持っておくことで、私の何かが宿ることになるのだろうか?

 もし何も宿らないことがあれば、それは私自身が何も持たないことの証明ではないのだろうか?

 

 私は夜着を着替えて、自室を出た。

 

◇◇◇

 

 指揮官はその夜も執務室にいた。こんな夜遅くに突然訪ねたことに驚いている様子だった。

 そのことを謝罪しつつ、私は伝えた。

 

 「夜分遅くに済まない。だが、あなたに渡したいものがあった」

 

 そう言って、私は白紙のカードを指揮官に手渡した。

 指揮官は渡されたカードを見て不思議そうにしている。

 

 「白紙のカードには何かが宿る……そう、ハーミーズに聞いた。しかし、私は未だ何も持たない空虚。私のもとにあっては白紙のままだと、私は考えた。故に、あなたにそれを持っていて欲しいと思う。そのカードをあなたの何かで埋めてほしい」

 

 私の言葉を聞いていた指揮官は、得心したように頷いた。

 そうして、カードを指揮官に渡して、私は自室へと戻った。

 

◇◇◇

 

 翌日、私は指揮官に呼ばれた。

 新しい任務を任されるのだと思い執務室へ向かった私に、指揮官はあるものを手渡してきた。

 それは、昨日のカードだった。

 

 そのことに、私は少しの怒りと大きな悲しみを感じた。

 指揮官に持っていてもらいたいという気持ちを、昨日の今日で突き返されるという経験は、私の心のどこかに傷をつけたようだ。

 そうして私は同時に、私の中にもそういった心というものがあるのだと気がついた。

 そうだ。私はすでに空虚などではなかった。私の心の中には大きな存在として指揮官がいるのだと知った。

 

 その場で深く落胆する私に、指揮官は慌てたようにカードをひっくり返すように指示する。

 それを聞いて私はゆっくりとカードを裏返した。

 

 そこには、私へと送られた言葉が書かれていた。

 

 尋ねるような視線で指揮官を見ると、肯定するように頷いた。

 私という白糸が指揮官に染められていたように、白紙だったカードもまた指揮官の言葉をその身に宿したのだった。

 

◇◇◇

 

 「それで、カードには何て書いてあったの?」

 「それは、秘密だ」

 


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