堪らぬ狩りを、罪溢るる異端の地にて   作:ホワイニキ

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アメンドーズに連れ去られてたため初投稿です。

めちゃめちゃ間が空いてすいませんでした。次いつ出せるかわかりませんが、完結目指して頑張ります。

あと隻狼ラスボスちょっと強すぎじゃない?


六話

突然だが、後悔という二字熟語は「後に悔いる」という意味を持ち、上の字が下の字を修飾する形をとる。

 

後悔。後々になってすでに修補不可能な己の言動に対して怒り、哀しみ、諦め、そして悔いること。

『テストの解答欄ズラし』や『会社の企画書の推敲不足』など、生きていれば誰であろうと襲われる、前述したような例を筆頭に重大になればなるほど無力感に包まれやる気そのものが消失するような、やるせない感情。

 

それは——

 

 

「ちっがーう!! だからもっと感情こめて役に入り込めって言ってんの!! これ何回言わせんのさこのすっとこどっこい!!」

 

「————」

 

 

——すなわち、普段の死んだ魚の目をさらに腐らせたような目をしながら、「何故己は劇もやってみせると安請け合いしたのだ」と考えつつも、開かれる劇の突貫稽古に臨む今の狩人が抱く感情それそのものであった。

 

 

 

話は数刻前に遡る。

 

狩人はウェイトリー家の智慧を根こそぎかっぱらい、上機嫌なまま『狩人の確かな徴』を使って森に移動した後、狩人の夢をつたいアビーの家近辺に建てられたランプに移動していた。

久々にいい収穫をした、とランプのそばにある大木の陰で、ヤーナムにおいて空前の大ヒットを成したあのオルゴールの鼻歌を歌いながらがさごそと戦利品(とうなんひん)を漁る。はたから見れば紛れもなく小悪党な犯罪者である。

 

 

『狩人。聞こえる?』

 

 

そんなどう見てもマジェスティックではない様子の狩人を知らないでか、突然立香の声が脳内に響く。以前教えてもらった"念話"なる技術だと思い至った彼はすぐさまその声に応じ、返答した。

 

 

『マスターか。何かあったのかね』

 

『うん。申し訳ないんだけど、ちょっと家の中に来て欲しいんだ。みんなもういるからできるだけ早く来てくれると助かるかなーって……』

 

『了解した。至急向かおう』

 

 

急な用事、しかも手前勝手な理由のもののためか申し訳なさげなマスターの招集に狩人は二つ返事で頷く。

そしてすぐさま彼は目の前に拡げた資料をしまい込み、ほんの少ししか離れていないアビーの家にむけて歩き出した。

 

 

少しして、アビーの家に着いた狩人は木造の扉を開け、すでに揃って卓を囲んでいる同僚のサーヴァントやマスターを一瞥し、空いていた椅子に座り、一言礼儀として謝罪する。

 

 

「すまない、遅くなった」

 

「いやいや! こっちこそ急なことでごめんなさい。でもすぐにみんなで内容を把握しなきゃいけないことなんだ。それで、狩人にも聞いて欲しくって」

 

「そうか。それで、聞いて欲しいこととは?」

 

「実は——」

 

 

ほんの小さなことに、素直にぺこりと頭を下げる立香に好感を持つ狩人。

狩人にとっての普通の人間とは己への忌避感を隠さず塩対応と呼ぶのすら生温い対応をしてくる連中である。

そのため、礼儀もきちんとしている日本人気質な立香は、狩人の中ではすでに好ましい召喚主(ホスト)程度から素晴らしい善良召喚主(ホスト)となっていた。

 

ちなみに、再誕者の上階に篭ったままボスは青に任せるような奴や、赤を倒した後ひたすら煽るような奴など、人間的にちょっとどうかと思う人物——つまり俗に言うクソホストは狩人の好感度のなかで底辺に位置する。

上位者へと至ったかの人物の『神の怒り』、もとい『彼方への呼びかけ』を至近距離で食らって死ねばいいとすら思っている。「クソホストはのこりひとらず制裁だぁ!」である。

 

閑話休題(そんな話はさて置き)

 

さて、名状しがたき電波のような啓蒙を巡らせていた狩人に迫っていたのは、栄えある藤丸立香演劇一座の初公演であった。当然一座の一員である狩人とて無関係ではいられない。

 

そこで、生前は一級のスパイであったマタ・ハリと座長の立香主導のもと、演劇指導が始まったのである。

マタ・ハリは世界で最も有名な女スパイである。生前から間者の役割を果たしていたため演じる技術は折り紙つきだ。

しかもその演技に関しては、彼女の右に出るものなど人理深しとはいえどおそらくは両の指で数えられるほどだろう。今回の件に最も適した人材であった。

 

だが、それ以外のメンツは正直言って微妙である。神代の魔術師に中国トップクラスの知名度、戦闘力を誇る武神、医者に戦闘力のないデミ・サーヴァントとばらついている。字面からして演技が上手そうではない。演技技能がまだマシそうに見えるのは義賊であったロビンフットのみだ。

とはいえこの場に揃っているのは各人分野は違えど人理に名を轟かせるほどの業を修めた一種のエキスパートばかり。目の肥えたプロに見せるわけでもなし、立香とマタ・ハリは「なんとかなるだろう」とタカを括っていた。

 

約1名、地雷と呼んでも過言ではない、とんでもない大根役者がいるとも知らずに。

 

そんなこんなで始まった練習によってなんとか演劇の形にはなり、リハーサルもうまくいったと形容しても良い出来ではあった。

先述した地雷を抜きにすれば、という枕詞がなければの話だが。

 

 

「フォーリナー、能面のような無表情を貫いたままじゃお客さんも話に入り込めないわ。百歩譲って表情はまだなんとかなるにしても、声の抑揚や身振り手振りもぎこちない。こんなことじゃ舞台には立てないわよ〜」

 

「——承知した」

 

「狩人ー! だからといって急に声の緩急を馬鹿みたいにつけたり大ぶりの演技したってアホにしか見えないよー! 下手な歌舞伎かっ!」

 

「——承知」

 

「あら、またぎこちなくなった。うーん、進歩がないわね〜」

 

 

散々である。これには上位者の軌跡を見つけ、るんるん気分であった狩人とて堪らない。正直自棄になりたい気分である。

 

 

「ま、まあ先輩にマタ・ハリさん。人には向き不向きがありますし、これからの課題ということにしてもう終わられては……。夜も遅いですし……」

 

「ぐぬぬ……。まさかこんな落とし穴があるなんて……。しょうがない! 狩人! あんたは明日も探索ね! 劇は私たちでやるから!」

 

「…………御意」

 

 

挙げ句の果てに食らったのはリストラである。是非もないよネ!

 

達成感などはない。やっと終わった、という疲労感と諦観の混じり合ったネガティヴな感慨しか湧いてこない。

端的に言ってあまり気分は良くなかったが、自分が人より劣っていたのは事実である。

 

やはり己は生まれるべきではなかったのだな……とトボトボ肩を落としながら狩人は狩りなんかよりもよほど辛かった稽古から抜け出すのであった。

 

 

 

 

 

翌日。劇を行うため準備に取り掛かっている立香に一言いれ、狩人は前々から気になっていたことを実行するため、人目の少ない森近辺に向かっていた。

 

狩人は歩きながら思案する。

やはりこのセイレムという場所はこう、パッとしない。土地は痩せているわけではないが、肥えてもいない。村も栄えてるわけではないが、寂れているわけでもなし。何とも評価に苦しむタイプの村だ。

 

だが、この並ではあるが実状余裕のないセイレムには、それ故に娯楽が少ない。

劇など産まれてこのかた見たことない、という人間が多くいるほどに。唯一の娯楽といえば、酒くらいだろうか。

しかし清廉潔白なセイレムにおいて、昼間からの飲酒はよろしくない。

そのため、住民は酒を飲み忘れる、などと言う現実逃避(酒に浸ること)もできなかった。憐れなことだ。

 

だがやはり彼らとて人間である。心の深奥には娯楽への欲があったのだ。

 

それ故だろうか、辺りを歩く人々は心なしか嬉しそうに見える。

 

その様子を見ながら狩人はひたすら歩き続け、ついに目的の場所にたどり着く。

 

やはり、住民の頭は開かれる劇のことでいっぱいになっているらしく、普段から人気ないこの森周辺はさらに閑散としていた。

時折聞こえてくる遠吠えや鳥の囀りを除けば全くの無音である。

 

 

 

「さて、この辺りでいいか」

 

 

そう言いながら狩人は歩みを止め、立ち止まり、口を開いた。

 

 

「出てきたまえよ。尾行しているのはわかっているのだ」

 

 

なんのことはない、気軽に挨拶をするような普段通りの抑揚。

それ故に狩人を尾けていた人物——ラヴィニア・ウェイトリーに、まるで喉元に刃を突きつけられたような寒気を伴った驚愕が襲いかかる。

 

 

——何故……!? 認識阻害と気配遮断の魔術は上手くいっていたはず……! 魔術師でもないアイツにバレるだなんて、あり得ない……!

 

 

ラヴィニアはバクバクと脈打つ心臓を抑え、考える。

 

狩人は本当に尾行者がいることがわかった上で言っているのか、否か。

おそらくは半信半疑なのではないか。あの悍ましい狩人は疑惑を晴らすためになんとなく言ってみただけではないか。

 

ラヴィニアの脳裏に浮かぶのはそうであったらいいという希望論に過ぎぬ思考。端的に言って、彼女は混乱の極みにあった。

 

 

「……やれやれ。こう言わねば判らぬか。出てくるが良い、ラヴィニア・ウェイトリー。貴公の居る場所はわかっているのだ」

 

 

——は?

 

 

彼女は停止した。呼吸も、思考も、心臓の鼓動さえも、仰天と形容することすら生温いほどの驚愕に襲われて。

その様子を言葉で無理に表すのならば、茫然自失という四字熟語が適当であろうか。

彼女はいま、狩人の言葉を認識することができず、呆気にとられ自らを失うほどに固まっているのだ。

 

 

——何故なんでどうして嫌だわからないなにゆえ私のことがバレているあいつは私のことなんて知らないはず嫌だ理解できない怖いなんで知っている怖いわからない怖いわからない怖いわからない怖い怖いわからない怖い怖い怖い怖い——

 

 

「ヒッ」

 

 

やっとのことで狩人の言葉の意味を飲み込んだラヴィニアは次に純然たる恐怖に襲われる。

 

それもそうだろう。あちらは明らかな確信をもって、己を尾けていた人物をラヴィニア・ウェイトリーだと断言したのだ。接点など全くなかったというのに。

それ故の恐怖。未知に対する怖気。ラヴィニアは今、それに襲われている。

彼女もこれほどの恐怖は産まれて二度もないほどのものだったろう。これを怖がらずになにを怖がれと言う。

 

だが、腐っても魔術師の端くれであったラヴィニアは咄嗟に魔術の重ねがけをする。

 

 

——け、気配、遮断にとと透明化、に、にに認識阻害も、か、か重ねがけして音もも消して……これ、だけ、これだけやれば、む、向こうも私の居、場所はわからない、はず……!

 

 

だが、怖気づいたならばしておかねばならぬこと。それを怠ったゆえに、ラヴィニアはさらなる驚愕に襲われる。

 

 

「頭隠して尻隠さず、とでも形容しようか。うむ、ピッタリだな。そうは思わないかね、ウェイトリー嬢」

 

「あ、あ、あ……」

 

 

ポン、と何かがラヴィニアの肩に触れた。

ボソリ、と誰かがラヴィニアに語りかけた。

 

これが誰で、何処にいるのか。すなわち、狩人が背後にいる、なんて冷静に考えればわかるはずのことだ。

 

わかるはずだが、わかりたくはなかった。脳が理解を拒んでいた。

このまま気を失うことができれば、どれほど楽なことだろう。

だが、それは許されない。こんな状況で気を失いでもしたら、それこそ永遠の眠りになりかねない。

 

まあ、ラヴィニアはこの程度のことすら考えることのできぬほど混乱しているのだが。気を失わないのは、ひとえに恐怖と驚愕が一周回って意識をハイにさせているだけなのだが。

 

ラヴィニアはぎちぎちぎちと擬音のつきそうなほどぎこちなく緩慢な動作で振り向く。

本当は振り向きたくなどないが、身体が言うことをきかず、勝手に動いていたのだ。

 

 

「少し話そう。色々と、積もる話もあるだろう」

 

 

にっこりとマスクに覆われた顔が笑みを浮かべる。

だがしかし、眼前にいるのはトラウマそれそのもの。恐怖でしかない。

それに、今回のことも彼女のトラウマその2になるであろうことは言うまでもなく。

 

 

「ふ、ふえぇ……」

 

 

色々と限界だったラヴィニアは泣いてしまうのだった。




《狩人の確かな徴》

狩人の脳裏に刻まれた逆さ吊のルーン。これを模し、よりはっきりとしたヴィジョンを可能にする呪符。

これにより、血の遺志を捨てず、狩人は目覚めをやり直せる。まことに都合のよい技術である。
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