デート・ア・ライブ―精霊喰いは精霊に恋する―   作:ホスパッチ

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第九九話『親友として』

 「はっ!」

 最初の拳の打ちつけ合い以降、夕陽と十香では近接格闘が行われていた。

 放たれた右のストレートを十香は持っていた〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を一旦消し、いなすように流せば返す刀で左手で裏拳を放つ。

 その裏拳を受け止めた夕陽はそのまま十香の左拳を握り締め、横薙ぎに振るうと十香と正面を向き合いしゃがみ込むような仕草から頭で十香の顎を打ちつける。

 「う……っ」

 顎を打たれ怯んだ十香に夕陽はさらに雷を纏った拳を十香の身体に打ちつけ、最後に蹴り飛ばす。

 「ぐっ! 〈鏖殺公(サンダルフォン)〉!」

 壁に打ちつけられた十香はすぐさま〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を顕現し、跳んで上から夕陽に斬りかかる。衝撃で床が捲り上がって宙を舞い、確かな手応えはあったものの十香は顔を顰める。

 「はははっ!!」

 聞こえたのは夕陽の笑む声。

 振り下ろした十香の手首に夕陽の拳が当てられており、腹部には夕陽の靴裏が押し付けられている。

 つまり完璧に防御されたのだ。

 防御すれば夕陽は肘打ちを十香の額に当てて仰け反らせれば腹部、顔を打撃し、伸びた腕を掴んで振り回せば天井に向かって投げ飛ばしてぶつける。

 「どれだけ強い精霊でも私には敵わないのさ!! 【雷嵐(トゥローノ・グレイズ)】」

 快活に笑う夕陽が手を合わせれば夕陽の中心から雷の嵐が巻き起こり、十香の身体を飲み込み空へ打ち上げる。

 ――ぐっ……強いな。

 全身に迸る電流に苛まれ十香は苦痛に顔を歪める。

 折紙の時もそうだったが夕陽の攻撃の威力は桁違いなもので霊装など最早意味を成していない。

 十香の身体はすでに青痣も浮かんでおり、ダメージを隠し切れない。

 「だが、行くだけだッ!!」

 令音や琴里ならばもっと相手のことを分析し、最良の手段を持って戦えるかもしれないが如何せん十香はこの方法しか知らない。

 正面きって戦う、そして勝つ。

 そうしなければ夕陽にとって意味がないのだ。

 十香が夕陽に向かって突貫すれば夕陽は笑んだまま左手を前に突き出す。

 「【遮断(シャット)】ッ!!」

 「――ッ!?」

 夕陽の左手に小さく霊力が電気のように迸ったかと思えば十香の身体に突然異常が起こる。

 ――動けない……?

 まるで脳と身体の神経が切り離されたかのように動けなくなり、十香の身体は慣性で夕陽の前まで進んでいく。

 十香を待っているのは右拳を構えた夕陽。そしてゆっくりと振り抜かれる。

 顔面に吸い込まれるように直撃した十香の身体は幾度にも回転し、床に倒れ伏す。

 「く……何だ今のは……」

 突然のことに受けたダメージのことも入ってこないが立ち上がれない十香の腹部に足を置いた夕陽は右拳を天へ掲げる。

 「【雷帝断罪(ウダル・モルティ)】ッ!!」

 稲光と共に雷が上空から夕陽の拳に落ちてくれば拳には紫電が迸り、絶大な威力を持った一撃が十香を襲う。

 「うぁあっ!?」

 直撃すれば爆発するように紫電があたりに舞い、光の粒子が飛び散る――

 

 ○

 

 「どうした士道! 俺を止めるんだろうが!!」

 「ぐ……っ!」

 蹴り飛ばされた士道が八百屋の商品棚に激突し、商品を散乱させる。

 <贋造魔女(ハニエル)>の能力よって実力は同じにされているはずなのだが士道よりも夕騎の方が圧倒的に実戦経験が上だ。

 次にどう打つか頭よりも身体が覚えている夕騎は容赦なく士道を攻め立てる。

 「こんな死にかけで利き腕もない奴にこんなザマで何を守れるって!? 言ってみろよおい!!」

 挑発するように怒鳴り声を上げる夕騎は商品棚に倒れている士道に向かって長剣を叩き落とす。

 辛くも士道はその場から身を転がして躱すものの夕騎の一撃一撃は全て士道を本気で殺すために振るわれている。

 「はぁ……はぁ……」

 「これからはお前が精霊を守るんだろうが! なのにこんなんで何が守れるんだよ!!」

 明確な敵であるはずなのに夕騎は先ほどから何度も士道の『これから』のことを紡いでいる。

 夕騎は夕陽と共に世界をやり直し、現在の士道も消そうとしている。

 それなのに何故――士道の頭の中では疑問が過ぎるが夕騎は思考の時間さえ与えてくれない。

 「……何しに来たんだよここによォ」

 止めると言っておきながら士道は一向に反撃してこようとしない。

 まだ話し合いでどうにかなると思っているのか。それがたまらなく腹立たしかった。

 長剣を手放し両肩で息をする士道の胸倉を掴めば夕騎は士道の身体を近くの棚に打ちつける。

 「がは……っ!」

 「お前は俺達を止めるんじゃないのか? 本当に止める気なら殺す気で来るのが当たり前だろうが。死ぬ気で来るのが当たり前だろうが。何を迷ってんだよ」

 思い切り打ちつけられ残骸が舞うなか士道の身体からいくつか出血し、それでも夕騎は胸倉を掴み続けている。

 「敵は目の前にいるんだぞ。俺を逃せば確実に十香は殺される。ただでさえ相手は夕陽だ。そこに<精霊喰い>の俺が加われば万が一にも勝ち目がねえんだぞ。お前が俺を殺して止めるしかないんだ」

 わかっている、士道は頭の中では理解していた。

 だがどうしても、どれだけ覚悟を決めたとしても、士道に夕騎を斬ることは出来ない。

 どれだけの時を共に過ごしたのだろうか。

 いつも明るい夕騎がどれだけ頑張ってくれていたか、どれだけ支えられていたか、士道は知っている。

 どれだけ感謝してもきっと感謝しきれないだろう。

 夕陽が現れる前までの精霊達との平和な日々は他の誰でもない。夕騎が頑張って、戦ってくれたおかげなのだ。

 だから――親友として、斬ることは出来ない。

 士道の様子に夕騎は呆れるように一度息を吐けば何かを諦めるようにもう一度士道の身体を他の場所に叩きつける。

 「誰かを斬り捨てる覚悟もなく! 意思もなく! そんな腑抜けた顔で! 俺の前に立つんじゃねえよ!!」

 何度も何度も叩き続けた夕騎はすっかり血に塗れた士道の身体を乱雑に放り投げれば肩で息をする。

 「呆れたよ士道。……俺は、お前だったら止めてくれると思った。お前ならやってくれると思った。だけど、どうやら見当違いだったよ」

 夕騎は表情を暗くし、踵を返す。

 「――十香を殺してくる。安心しろ、お前は殺さない。十香の首をここに置いてやるからそれまで待っていろ」

 暗くしてた表情を戻したその眼は本気だった。

 夕騎は本気で十香を殺し、その首を士道の前に差し出すつもりだ。

 ――……駄目だ。

 そんなことは絶対にあってはならない。

 十香を失うのは勿論あってはならないことだがそれよりももう二度と夕騎に精霊を討たせるような真似をさせてはならない。

 士道の頭にそんな想いが過ぎる。

 「あ、あ、あぁ…………」

 夕騎が背を向けて歩いていく中、情けない声を上げながら士道は剣を杖のようにして支えとすれば徐々に立ち上がっていく。

 身体の節々が痛い。もしかすると骨にヒビでも入っているのかもしれない。

 琴里の霊力がない以上士道の身体の傷は自動では治らない。

 あまりの痛みに涙が出そうになるが士道はあらん限りの力を込めて〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を握り締める。

 「あ、あぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ――ッ!!」

 声にもならない雄たけびを上げながら士道は去っていく夕騎に向かって走り出す。

 〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の切っ先を夕騎に向け、全力を持って向かう。

 構えられた〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の色が変化していく。それは十香のものとはまるで別種のものとなっていくがそんなものは構わなかった。

 「――それでいい」

 対し夕騎は切っ先が迫る寸前に振り向き、そして――何もしなかった。

 まるでこれを待っていたかのようにその一撃を迎え入れる。

 刃が夕騎の腹部を刺し貫き、夕騎の身体は士道にもたれかかるように脱力していく。

 本来ならば<精霊喰い>の能力を持ってすれば〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の一撃など効くはずもなかったが士道が今持っている大剣は〈鏖殺公(サンダルフォン)〉とはまるで違う似て非なるものへと変化していた。

 夕騎はそれを待っていた。

 「夕騎……?」

 「……はは、何つう顔してんだよ士道っち。お前は精霊を守るためにちゃんと戦えたじゃねえか」

 それだけ言えば夕騎は士道の身体から後ろに下がって離れていく。

 刃も身体から抜け、服に滲むのは真っ赤な血。

 「それで、いいんだよ……。その剣、絶対必要になるから持っとけよ」

 それだけだった。

 夕騎はそれだけ言って地面に倒れると<贋造魔女(ハニエル)>によって作られた世界は歪み、元に戻っていく――

 

 ○

 

 「もう一発【雷帝(ウダル)――…………え?」

 「何だか知らんが余所見をしたな!!」

 もう一度【雷帝断罪(ウダル・モルティ)】を撃とうとした夕陽がある一点を見つめ静止したのを見れば十香は踏みつけていた足を払い、夕陽の背中に蹴りを二発打ち込んで蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた夕陽はたたらを踏みながらももう一度同じ方向を見て驚愕で目を丸くする。

 「あ、兄貴……?」

 夕陽の目に映ったのは――倒れた夕騎の姿。

 腹部からは血が出ており、死んではいないようだが前には士道が立っている。見る限りどうにも負けてしまったようだ。

 「……悪いな夕陽。負けちまった」

 「……嘘だ! 兄貴があんな奴に負けるわけない!! 手を抜いたんだ!!」

 「抜いてないよ、ただ純粋に負けたんだ」

 バチバチと電気を迸らせ怒りを露わにする夕陽に夕騎はありのままの事実を告げるが夕陽はまるで信じようとしない。

 むしろ、寄り添っていたはずなのに夕騎に向ける目に『敵意』が篭る。

 「……もう要らない。弱い兄貴なんて私に必要ない。要らない要らない要らない要らない要らない!!」

 あれだけ一人を拒んでいたはずなのに夕陽はまるで癇癪を起こした子供のように地団太を踏み、夕騎の存在を拒絶する。

 「負けるってことは弱いってこと弱いってことは生きてる価値がないってこと!! 生きるためには強くなくちゃならないのに負けるなんて!!」

 頭を手で押さえて声を上げる夕陽は強い強迫観念に駆られていた。

 あの火災の経験が夕陽をここまで捻じ曲げてしまったのだ。

 それを見た途端に夕騎は悲しくなってしまう。

 しかし、髪を掻き乱す夕陽の顔に思い切り拳骨を加える者がいた。

 「馬鹿者が!! 貴様のたった一人の家族だというのに貴様が切り捨ててどうする!!」

 十香は夕陽のことを殴り飛ばして城の壁を突き破れば拳を強く握り締める。

 「シドー! 今のうちに琴里を頼む!」

 「あ、ああ! 十香も気をつけろよ!」

 「うむ!」

 短く言葉を交わせば十香は自身も殴り飛ばした際に空いた壁の穴から飛び出していく。

 油断していたために夕陽の身体は大きく吹き飛ばされており、地面に靴底を引き摺らせながら着地すれば現れた十香を睨みつける。

 「……私は今最ッ高に不機嫌だ。殺すぞ」

 「やれるものならやってみろ!! 兄すらも捨てた貴様に負けるはずがない!!」

 〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を構え十香は再び夕陽と相対する――

 

 ○

 

 「<岩寵祖武・零の極(ゾフィエル・パーラスト)>――【刃ノ型】」

 排気口から光の粒子を噴出し空を舞う零那はただでさえ巨大な刃を持つ大剣に逆巻く銀の炎は膨れ上がれば一振りで戦艦を丸ごと一刀両断出来そうなほど巨大な刃が形成され、ゆらりと振り下ろされる。

 そんなものを真正面から受け止めようとするほど零弥も冷静さを失っていない。

 余波でさえ大地を砕く一撃に零弥は篭手の肘部分に付けられた円筒のような推進機から霊力を噴出し、身を回転させながら軌道から身を逸らしていく。

 「逃がさない」

 零那も翼状に展開した岩石の排気口から霊力を片方だけ噴出させれば軌道を強引に変え零弥を追撃する。

 さらに翼を広く展開し、周りを浮遊している砲身の照準を零弥へ向ける。

 「――【鎖ノ型】」

 回転しながら飛ぶ零弥に砲口から打ち出されたのは先端に錨のようなものが付いた鎖。

 勢い良く撃ち出された四本もの鎖に零弥は回転する視界ながらにそれらを捉える。

 「<神剣星聖・零の極(ルシフェル・アラディアータ)>――【十字(クロス)】」

 ヒールの踵にも推進機が付けられており霊力加速を行えばまるで舞うようにして迫り来る鎖を次々に躱していく。そして構えられるのは金の炎に包まれた剣。

 斬った箇所から十字の炎が噴き出し、諸共吹き飛ばしていく。

 さらに追撃してきた巨大な銀の炎を纏った大剣には真っ向から打ち合わず下部を狙って剣をぶつければ十字の炎が爆発を引き起こし大剣を上方へ誘えば軌道が狂わされる。

 「ッ!」

 あれだけの重量の大剣を再び軌道を変えるには零弥の行動が早かった。

 零弥は両足を曲げるとまるで水泳の壁蹴りのように宙を蹴り、初速から一気に加速し即座に肉薄しようとする。

 「【爪ノ型】」

 あまりの接近の速さに零那は選択を狭めさせられた。

 武器の一つでもある砲身を全て腕に纏わせ照準を直線に構えれば全ての砲口から霊力による光線を放つ。

 その行動を読んでか零弥はすでにヒールからの推進を止め、再び篭手の肘からの推進に変更すれば霊力の光線を切り裂きながらその砲身ごと真っ二つに斬る。

 寸でのところで分離していた零那の腕は無事だが爆発によって零弥は上空へ、零那は大地へと綺麗に分かれるように距離を取ることになる。

 着地した零那は上空にいる零弥を見上げ、零弥もまた大地に降り立った零那を見下げる。

 二人には互いが考えていることが分かる。

 二人共、次の一撃で決めようとしているのだ。

 『ねえ零那、次に会えるとすれば私達はどうなっているかしら?』

 零那の頭に零弥の声が伝わってくる。

 どうなっているか、間柄なのかそれともこの世界に存在しているのか。どちらかはわからない。

 だが何となく、本当に何となくだが零弥が言っているのは前者の方だと思った零那は静かに想いを告げる。

 『出会い方さえ違えば私達は――もっと会話が出来たかもしれない』

 『友達、とは言わないのね』

 零那にとって『友達』がどういうものなのかわからない。

 不審そうな表情を浮かべる零那に上空にいる零弥はどこか微笑んでいるようにも見えた。

 しかし手加減は出来ない。

 「<岩寵祖武・零の極(ゾフィエル・パーラスト)>――【魔刃ノ型】」

 先ほどで戦艦を斬られるほどに巨大な炎の刃は濃縮されていき、元の<土寵源地(ゾフィエル)>の細剣(レイピア)に近くなるまで刃は圧縮される。その刃は全ての威力を秘めており、一度触れるだけで零弥の身体は塵にもならないほど蹂躙するだろう。

 周りには砲身ではなくいくつもの銀の炎によって作られた槍が漂い矛先を零弥に向ける。

 「<神剣星聖・零の極(ルシフェル・アラディアータ)>――【聖刃(ブレイズ)】」

 篭手の肘から、ヒールから、金の炎が溢れ出しまるで不死鳥の翼の如き形を作り出す。

 剣は何も変化させずそのままの姿で零弥は迎え撃つつもりだ。

 翼状の岩石にある排気口から霊力を放出して飛び立つ零那。

 それに合わせ下に向かって推進する零弥。

 剣と剣、鍔迫り合えば数秒も経たず様々な音が響き渡る――

 何かが折れる音、何かが切れる音、何かが砕ける音、本当に様々な音が響き渡った。

 あまりにも膨大な霊力のぶつかり合いにより生じた爆煙を裂いて落ちてきたのは――

 「本当に……私達は似てるわね」

 「……ここまで来れば同意する」

 零弥と零那、二人共だった。

 受身もなしに地面にぶつけられた二人を見れば衝撃がどれほどのものかわかる。

 霊装は引き裂かれ武器も粉々、身体中は傷だらけだった。

 「痛っ……、これじゃあ少しの間立てないわね」

 「…………」

 痛みで互いに思うように動けずに偶然にも寄り添うように地面に倒れており、手は自然と重ねられていた。

 拒絶する力もない零那は無言でそのままでいると不意に零弥がゆっくりと零那の手を握る。

 「あなたはこれからどうする気? 回復したらまた戦うつもりかしら?」

 「……私は夕騎の元へ行く。嫌な予感がする」

 「嫌な予感……?」

 「そう。何かがおかしい」

 零那はそう言うと自身と手を繋いでいる零弥を淡い光で全身を包み込む。

 怪訝そうな零弥は傷を見れば徐々に回復しているのがわかり、零那に目をやると零那は特に何も思っていない様子で言葉を紡ぐ。

 「……あなたが私に触れているから効果が反映されてる。それだけ」

 「ふふ、素直じゃないのね」

 零那の態度に不器用さを感じつつ零弥は少しばかり目を閉じた――

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