デート・ア・ライブ―精霊喰いは精霊に恋する―   作:ホスパッチ

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第二六話『オーシャンパーク』

 「プールとか何年ぶりだろうな……って学校の体育で泳がされてるけども」

 六月の半ばということもあってかオーシャンパークはピーク時よりも随分と人が少ない。屋外プールが解放されるのは来月からなのでそれも素直に頷ける。

 オーシャンパークはプール施設だけでなく大型浴場や屋内アトラクションから成るウォーターエリアと屋外にある遊園地がメインとなるアミューズエリアの二つで構成されていて長期の休みとなれば遠方から来る客も多い。

 そんな中で夕騎は女性陣の着替えを待ちながらあることを思い出した。

 ――そういえば俺インカム着けてねえじゃん。

 夕騎は狂三の白い手に握りつぶされて以来、新しいインカムを支給されていなかったので耳元にはASTの通信機しか着けていない。

 今日は士道たちも着ているはずなので上手いこと鉢合わせになることがないようにできるだけ善処しなければならないのだがインカムがないので〈フラクシナス〉とも連絡が取れず、こうなれば向こうに気を遣ってもらうことにする。

 「夕騎」

 「うぉおっ!?」

 急に背後から話しかけられた夕騎は驚いてプールに落ちかけたが背後のいた零弥がそれを落ちないように支えてくれる。

 「何か考え事をしていたの?」

 零弥の水着は昨日夕騎がベタ褒めした水色のフリルが付いた水着で今日もまたその艶姿に魅了される。もう何でこんなに精霊は美しいのだろうかと言わんばかりに夕騎はガン見している。

 夕騎が見ていると零弥はやや恥ずかしそうに自分の胸元を腕で隠し、

 「あ、あまり見ないで恥ずかしいから」

 「おう? 似合ってるし綺麗だし何も恥ずかしくないと思うんだけど」

 「素でそう言ってくるのが恥ずかしいの!」

 「わけわかんねーんだけど……で、狂三は?」

 零弥とともに着替えに行ったはずの狂三の姿はどうにも見えずそのことを零弥に問いかけてみる。

 「慣れない水着だから少し遅れるから先行っておいてって」

 「なーるほど」

 それから狂三を待つこと数分、ようやく着替えを終えたのか狂三が姿を現した。

 その姿はまさしく純白の女神。

 夕騎と零弥は二人揃って目を丸くする。

 狂三のプロポーションの良さは知っていたつもりだったがここまで白の水着が映えるとは思っていなかった。制服でさえ黒というイメージが根強く残り、私服はもはや真っ黒。

 だが、それを取り払って清純色……すなわち白を水着を着させてみればどうだろうか。

 えろい。何ともえろい。

 「どうでしょうか……?」

 不安げに聞いてくる夕騎は一旦冷静になって小さく頷き、そして一度大きく深呼吸をしてから――

 「可愛い可愛い超可愛べ狂三超似合っておりまするべ! マジでテンション上がって俺のテンションはフルボルテージになりましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! さすが精霊! さすが俺の嫁!」

 あまり目立っては士道たちと鉢合わせになるわけにはいかないと先ほど考えていたというのにもう忘れて夕騎はテンションを上げまくる。

 零弥は何か抗議しようとも思ったが自分も褒めて貰ったので文句を言うのもおかしいと思い、そもそもやはり夕騎の本質からして何か言っても「ほえ?」などと間抜けな言葉を発しそうなのでとりあえず足を引っ掛けてプールに入水させる。

 準備運動もしていない飛び込みは二重で危険だ。

 「わ、ぷぷぷぷ! 溺れる溺れる! しかもここ流れるプールぅぅぅぅぅぅぅぅ! 流されりゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 「夕騎、落ち着きなさい。足つくわよ」

 「あ、ホントだ……もぉう零弥たんは悪戯っ子だなぁ」

 夕騎は零弥の言葉で足がつくことに気づいた夕騎はプールから出ようとするが何とも運が悪く、足が動かない。

 「ん?」

 上半身はプールから飛び出していて下半身を見てみると何故かプールの水ごと凍らされており、まったくもって動かなくなる。

 「な、何スかこれ」

 「四糸乃の力かしら……?」

 零弥は冷静に状況を見極めていると四糸乃がいつも左手に着けている『よしのん』が水中を流されていて、それを取ると、

 「どうやら四糸乃がよしのんを落としたみたいね。私は少し四糸乃を探してくるわ」

 「え、ちょ、零弥さん!? 俺放置!?」

 「あなたには()がいるのでしょ? だったら狂三に助けてもらいなさい」

 そう言い残して零弥は『よしのん』を手に持って流れてきた方へと歩いていく。その態度は何やら不機嫌で夕騎は目を白黒させながら狂三と目を合わせる。

 「それにしてもどういたしましょうか。一旦、上半身と下半身を分けてから引っ付けるというのはどうでしょう?」

 「笑顔で言ってるのは可愛いけどそれ俺死んでるから!」

 「大丈夫ですわ。救出したあとで【四の弾(ダレット)】を撃ち込めば夕騎さんは死ななくて済みますもの」

 「いやいやいや死ななくて済むとかじゃなくて結論言えば俺一回死んでっから!」

 水面から上半身のみを出して二重のピンチに半ばパニックになりながら一度引きちぎられるよりも自分自身でどうにかした方がマシだと怪力で氷など関係なく引き抜いてしまおうと思ったが微動だにしない。身体に溜め込んでいる霊力がゼロの状態では【霊力砲(レイ・メギド)】も撃てない。いや撃てばだいぶ目立つことになるのだが。

 「夕騎さん夕騎さん」

 夕騎が色々と考えていると狂三がスケートリンクのようになったところに乗り、しゃがみこんで夕騎と視点を合わせて話しかけてくる。

 しゃがみこんだ体勢は水着がこう……どこの部分とは明確には言わないが、きゅっと食い込んでいてまたもやえろい。

 「霊力が欲しいとお思いになられませんでしたか?」

 「ビンゴ! くれるの!?」

 「ええ、差し上げてもよろしいですわ。――その代わり」

 「……その代わり?」

 「夕騎さんの何かをわたくしにくださいませ」

 狂三の急な申し出に夕騎は首を傾げ怪訝そうにする。

 「何かって言われてもなあ……」

 そこで耳元に着けているASTの通信機がビービーとうるさい音を鳴らしたかと思えばASTの燎子でもない声が聞こえてくる。

 『――コールサイン・シークレット、応答しなさい』

 嫌な声が聞こえてくる。

 詳しく言えばDEM社第二執行部部長――世界最強の魔術師と称されているエレン・(ミラ)・メイザース本人の声だった。いまは夕騎がシャチョーと呼んでいるウェストコットとともに忙しい身であるはずだがASTの通信機を遠くから利用してわざわざ連絡してくるとはよほどの用事なのだろう。

 「何だよエレンのババア、コッチはいますげー忙しいんですけど」

 シークレットとは夕騎にのみ特別に与えられたコールサインで夕騎自身は果てしなくこの呼び方を嫌っている。

 『あなたはもう少し口の利き方と立場の差というものを知っておいたほうがいいかもしれませんね』

 口調や物腰は丁寧なものだが『ババア』と言われたことで少々不機嫌な声音で言ってくる。

 「わっざわざASTの通信機を仲介してまでっつーコトは何? ヤバイコトでもあった? シャチョー死んだ?」

 『アイクはいまでも元気ですよ。ともあれ世間話をするために連絡したわけではありません』

 「もしかして俺の給料アップとか!?」

 『そんなわけありません。――シルヴィア・アルティーを覚えていますか?』

 即座に給料アップを否定された夕騎はえー……っといった表情をしていたが続け様に言われた名前にゾッとする。シルヴィア――愛称シルヴィのことは忘れたくても忘れられない。記憶の奥底に仕舞っていた名前がここで出てくるのは何かただ事ではない気がした夕騎は黙って続きを聞くことにする。

 『シルヴィア・アルティーはあなたにすべてを教えたあとでユニットの適正が認められ、魔力処理が行われました。彼女の才能は素晴らしく、真那にも匹敵するほどの実力を示していました……が』

 「……が?」

 ただの自慢ではないと思った夕騎は言葉を返すと、

 『率直に言えば彼女はDEM社を裏切り、DEM社が秘密裏に制作していた新型のCR―ユニットを強奪した挙句に姿を眩ませました』

 「はぁ!? いきなり過ぎるだろ! 大体、DEM社なら遠距離操作で奪われたユニットをブッ壊すコトもできるだろうが」

 『その装置を取り付ける前に奪われたのですよ。彼女はおそらく日本へ向かっているはずです。真那が倒れたいま――裏切り者を始末できるのはあなたしかいないのですよ』

 「つーか居場所もわからねえのによく言ってくれやがりますぜエレン」

 『居場所がわからずともシルヴィア・アルティーは必ずあなたと接触するはずですよ。その時が好機、あなたの活躍にアイクも期待してますよ』

 「ちょっと待てまだやるって言ってな――チッ切りやがった……」

 通信は一方的に切られ、まだ返事もしていないというのに勝手に承諾したことにさせられている。

 苛立った夕騎が氷に拳を叩きつけると氷はいとも簡単に割れ、夕騎の下半身が氷からようやく解放される。いまおもえば最初からこうやっていれば良かったのだが、狂三は珍しく苛立たしげな様子を見せている夕騎を見て心配になり問いかけてくる。

 「通信で何を言われましたの?」

 「……シルヴィって俺は呼んでた人がDEM社を裏切って日本に来るんだと、それを俺が始末しろとさ」

 「ちなみに訪ねますけどシルヴィさん……とは?」

 「シルヴィは俺に戦い方を仕込んでくれたえげつない軍人の女で教官。ずっと俺が勝てなかった女だべ」

 「そんなお強い方がどうして裏切ってしまったのでしょう」

 「俺が知りたいぐらいだってーの」

 氷のせいですっかり冷え、肩をさすりながら夕騎はプールサイドに座り込む、

 座り込んでふと考えてみると思い出す。あの地獄の日々を――

 

 

 

 (ふざけんなクソババア! ロクに訓練もしてねえ子供に本気出すか普通ッ!?)

 (だーれがいつ本気だって言うのよ。これでもアタシは手加減してるわ相手が子供(、、)だからね)

 あの火災が遭ってから夕騎はDEM社に引き取られ、少し経った頃軍人との対人戦に駆り出されていた。ユニットの適正さえあれば良かったのだが夕騎にはその才能は一切なく、せめてもとこういった訓練をすることになったのだ。

 その教官を務めていた当時二〇歳のシルヴィア・アルティーはブロンズヘアーの髪を戦闘時に邪魔にならないように肩よりも少し上の位置までしか伸ばしておらず、そのくせして軍服はラフに着こなしている。

 (ロクに訓練してないからいまこうやって実戦してやってんだろ? あまり甘えるなよジャパニーズボーイ)

 シルヴィアが用意した訓練はDEM社の本社からかけ離れた場所にある無人島で延々と実戦訓練を行うという鬼畜極まりないものだった。

 (寝てる時まで不意打ちしてきやがっておかげでコッチはマジで眠ってねえんだよ!)

 (あーうっさいうっさい、いつどんな時でも気を抜くなって攻撃したあとで教えてあげたでしょーが)

 (この鬼畜め!)

 (残念褒め言葉でしかないわ)

 当時一二歳ほどだった夕騎はこうやって毎日死にかけるまで訓練という名のリンチにされていた。

 もしかしたら夕騎はこういう訓練の中で人間の女は野蛮だと決めつけて精霊に現実逃避をするようになったのかもしれない。

 だが、シルヴィアは厳しくもたまに優しいところもあった。

 (こういうのは日本で『裸の付き合い』っていうのでしょ?)

 唯一持ってきていたドラム缶に海水を沸騰させて湯の代わりとして強制的に夕騎はシルヴィアと混浴させられていた。

 いつもは自分のことなど話さないシルヴィアだったが風呂に入っている時だけは優しい声音で話してくれる。

 (アタシには弟がいるんだ。ちょうどユウキくらいの歳の弟がね、親父の手伝いで漁をやってる。故郷なんて軍人になるために家を飛び出したから一度も帰ってないからいまは知らないけど)

 (だったらさ、シルヴィは何で軍人になったの?)

 夕騎の至極当然な疑問にシルヴェスタは目を丸くし、やがて懐かしそうに語る。

 (戦場で死にたかった……それが答えになるんだろうねえ。アタシの住んでいたところって内戦がちょくちょく起こっててね、何度も何度も巻き込まれた。そのたびに家が潰されて住むところがなくなって避難地で過ごす日々だった。だからもう我慢できなかったんだと思う。死に場所を求めて、いつしか内戦は完全に終わってて、何もすることがなくなったアタシはDEM社に拾われた。それでユウキと出会った)

 (ふぅん……シルヴィって意外と苦労人だったんだな、胸大きいのに)

 (胸関係ねえだろ)

 手刀を喰らった夕騎はそのまま頭を湯の中に押し込まれてバシャバシャと暴れる。

 (アタシもユウキに聞いてみたかったことがあるんだ。アンタは精霊が好きって言うけど何で訓練受けてるのさ、殺す気なんてサラサラないくせに)

 危うく溺れかけた夕騎はぜえぜえと息を荒げていると不意にシルヴィアは真剣な面持ちで問いかけてきた。夕騎は迷うことなく――

 (それは――――)

 

 

 

 「――起きて、夕騎」

 誰かに声をかけられ、目を開けてみるとそこには零弥と狂三の姿があった。どうやら思い出していく中で自然と眠ってしまったらしい。

 「ん……零弥、よしのんは届けたのか?」

 「ええ、とっくの前に渡してきたわ」

 「夕騎さんが寝ている間にわたくしと零弥さんだけでウォータースライダーなどを楽しみましたわ」

 「え、マジで!? てかいま時間!?」

 バッと起き上がった夕騎はすぐさま時間を確認してみると結構な時間が過ぎており、せっかく精霊たちとプールに来たというのにここまで時間を無駄にしてしまったと夕騎はその場に膝をついてがっくりとする。

 「なーんで起こしてくれなかったのぉぉッ!」

 「気持ちよさそうに眠ってたから起こすのは可哀想だと思って……」

 「いや可哀想なのは放置されてたコトだろうが!」

 「まあまあそう怒らずに」

 「てかお前ら一緒にウォータースライダー乗ったとか俺知らない間に仲が良くなっとる! せめて二人が一緒のボードに乗ってたトコロの写真んんんんんんんんんんんん!」

 半狂乱でプールサイドをゴロゴロと転がりだした夕騎をどうしようかと零弥と狂三が目を合わせていると、突然夕騎が立ち上がり徐にどこかへと歩いていく。

 「夕騎さん、どこかへ行ってしまいましたわ」

 「夕騎ってたまに何を考えているかわからないところあるから気にする必要はないと思うわ。すぐに戻ってくるだろうし」

 「それもそうですわね」

 そう言っておとなしく待つこと数分、夕騎は腋にビニール製のスイカを模したボールを抱えて満面の笑みで走ってくる。プールサイドは滑りやすく走っては危ないのだがすでに夕騎はそんなことは一ミリも考慮していない。

 「負けた者には罰ゲームありのビーチボールで遊ぼうぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 と、言いながら足を滑らせて流れるプールに落下していく。

 その姿を呆然と見ていた二人はまたもや視線を合わせ、

 「お昼寝をされましたから随分とお元気ですわね」

 「ちなみに罰ゲームって?」

 プールから飛び出して戻ってきた夕騎に零弥が問いかけると、

 「それは勝者が考えるんだべ、さあ仁義なき遊びの始まりじゃああああああああああッ!!」

 こうして物凄い温度差で戦いの火蓋が切って落とされた。

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