デート・ア・ライブ―精霊喰いは精霊に恋する―   作:ホスパッチ

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十香デッドエンド&零弥ガーディアン
第四話『転入そして空間震』


 「……何してんの、ことりん」

 人類の奇跡とも思われる能力〈精霊喰い〉を有した少年は〈ラタトスク〉の援助もあって夢のマイホームを手に入れたのだが、挨拶をしに行った隣家から現れたのは〈ラタトスク〉の司令官である五河琴里だった。

 いまは白いリボンを着けていて黒いリボンの時の高圧的な態度とは真逆に受け取った菓子折りを持って嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。まるでウサギだ。

 「これって有名な和菓子店『和絽多』の栗饅頭だ! ありがとー! ほら早くおにーちゃんもお隣さんに挨拶しないと!」

 「ちょっと待ってくれー!」

 開けられている扉の奥から現れたのは、夕騎と同年齢そうなハッキリ言って本当に普通の男子高校生だった。エプロン姿のままで出てきたということは家事の途中だったのだろう。もう一度言うと普通すぎる。

 中肉中背、特に目立つ特技もなさそうな少年はこちらへ軽く一礼して自己紹介を始める。

 「はじめまして、五河士道(いつかしどう)と言います」

 「挨拶しに来た側なのに先に自己紹介されちったな、そこらの非礼は詫びるよ。俺の名は月明夕騎、敬語は要らねえよ士道っち」

 「士道っちって……」

 士道からしてみれば夕騎は初対面なのでいきなりアダ名を付けられれば少し困惑し、苦笑したものの夕騎のキャラを早くも掴み始めているのか受け入れたようだ。

 「俺のことは夕騎って呼んでくれ。月明とかいう苗字は嫌いだからな」

 「お、おう。わかった」

 「よろしくね、夕騎!」

 夕騎は夕騎でまだ琴里のキャラを掴みきっていないが、あとで事情を令音にでも聞けばいいだろう。というより士道はあの琴里の高圧的キャラを把握しているのかと気にはなったものの聞くタイミングを間違えれば夕騎の給料が危ない。下手な追及をして減給など笑えないのだ。

 「そういえば夕騎はどこの高校に通うか決まってるのか?」

 「んー、高校の入学手続きはしたって上司から言われてるから郵便ポストに案内書でも入ってっかな」

 夕騎は自分家の郵便ポストを探りに行くと何やら分厚めの封筒が入っていて封筒には夕騎宛で『来禅高校案内書』と書かれていた。

 「どうやら来禅(らいぜん)高校ってトコっぽいな」

 「おお! それなら俺と一緒だな」

 「……四月十日から転入かよ、つーことは明日か。もう少し日本を観光したかったんだが」

 「どのくらい観光したかったんだ?」

 「二年くらい」

 「なげぇ! てか高校生活終わってるし!」

 「何てジョーダンざんす。同じクラスになれるといいな、それじゃあ」

 「ああ、じゃあな」

 「ばいばーい!」

 もう少しで日が沈み、夜を迎えるので挨拶は充分以上にしたと思った夕騎は話を切り上げて自分の家へと歩いていく。

 士道や琴里に見送られてマイホームへ入ってみれば、なかなかの広さだ。外観は士道たちの家とほぼ同じで家内にはすでに家具が揃えられていた。

 「これで蛇口から水が出ませんとかいうオチはさすがにないよな」

 家に備え付けられた蛇口を全て確かめていく。次にガステーブルなど調理に使う器具もチェックしていき、生活に必要なものは全て揃っている。ついでに言えば無駄に大きい液晶テレビや掃除機にソファ、最新のゲーム機まで備えられていて逆に不気味なほどだ。

 最期にチェックするのは自分の部屋だ。二階の部屋はいくつかあってそれぞれが個人で使えるような広さがある。一人暮らしの夕騎には関係ないことだが。

 各部屋を見ていくとベッドと目覚まし時計だけがあり、それなりに寂しいもののそこは自分で環境を整えていくのも一興だ。

 そこまで調べていると急に腹が鳴って、どうやら自分の身体は食べ物を望んでいるらしい。

 「何か食いモンはねえのか?」

 〈精霊喰い〉とて霊力以外何も食べないということはない。ちゃんとした食事をするのだが、家のどこを探しても食糧はない。

 持ち金を確認してみると二〇〇円。DEM社、AST、〈ラタトスク機関〉の給料日はまだ先だ。

 『……どうだいユキ、気に入ってくれたかな?』

 「れーちゃんヤバイって、食糧難に陥った」

 〈フラクシナス〉にいるであろう令音の声が未だに着けていたインカムから聞こえてくると夕騎は大袈裟にそう言った。

 『……安心してくれたまえ、ガス代や水道代など家関連の費用は〈ラタトスク〉に請求が来る。だが食糧に関しては自分で何とかしてほしい、給料もあるからどうにかなるだろう』

 「給料前に絶命パターンだぜ」

 二〇〇円でこれから給料日までの約一ヶ月を凌がねばならなくなった夕騎は懸命に思考を張り巡らせる。二〇〇円を使えばコンビニでおにぎりを一つは買えるが男子高校生がそれだけで満たされる訳がない。

 『……ここは恥を忍んでお隣さんに頼るしかないだろう』

 令音から提案された案はあまりにも邪道で図々しいものだった。

 「さすがに……ねえ?」

 何かもうそれをしてしまっては人として色々と終わってしまうのではないかと夕騎でさえ思ってしまった。

 

 

 

 「夕騎って面白い人だったね、おにーちゃん」

 「変わってそうだったけどな」

 夕騎との対面を終えた士道と琴里は夕食の準備を始めていた。と言っても基本五河家では士道が家事を務めていて琴里はたまに手伝うくらいだ。

 「今日はカレーだ、何かと楽だからな」

 「わーい! 明日はカレーうどんだ!」

 「ぐ、そこまで喜ばれると手抜き出来ると思ってる自分が恥ずかしくなる……」

 ソファをピョンピョン跳ねる琴里を見て士道は良くわからない罪悪感に見舞われるが、そこでインターホンが鳴り響く。

 「ん? 誰だろう」

 「もしかして夕騎かな? 引っ越してきて早々食べ物に困ってるとか!」

 「さすがにそれはないだろ」

 士道はそう言いながらインターホンから外の状況を見てみるとかなり視線を彷徨わせている夕騎の姿があった。

 「夕騎、どうかしたのか?」

 『士道っち……聞いてくれ』

 先ほど挨拶しに来た時のテンションが嘘のように声音が低くなっていて、よほど重大なことが起こったのだろう。もしかすると引っ越してきて早々に泥棒に入られたなどの事件に巻き込まれたのかもしれない。

 だが夕騎は士道の考えとは裏腹にインターホン越しで言った。

 

 『我が家は引っ越してきて早くも食糧難に陥ってしまいました。どうか哀れなわたくしにお慈悲をぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』

 

 琴里の予想がまさか的中するとは思ってもいなかった。

 

 

 

 「いやー申し訳ないぜ、財布に二〇〇円しかないとは予想外だったよー」

 こうして夕騎は引っ越し初日からお隣さんにカレーを恵んでもらっていた。

 「きゃはは! 二〇〇円しかないって私よりボンビー!」

 「そんな電鉄ゲームでの難敵みたいな言い方はやめてくれよ、ますます惨めになってくる」

 「二〇〇円しかないのによく日本に来れたよな。あと一軒家住みなんて色々大丈夫なのか」

 食事を共にしている士道が何気なく聞いてくる。

 「まあ色んなトコロから助けて貰ってる訳だよん、食いモンは自分で何とかしろって言われたが。給料さえ入れば多少は裕福になるんだって、給料が入れば礼に食事でも奢るよ」

 「いいっていいって、困った時はお互いさ――」

 「私、中華料理がいい!」

 「台無しだよ!」

 お隣さんとして当然のことを言おうとした士道の発言に琴里が上から被せて台無しにする。

 夕騎は兄妹仲睦まじい様子を見て思わず笑みがこぼれるが忘れていたことがあった。

 それはもちろん。

 ――白ことりんのキャラについてだろ! 一番ツッコミてーよ!

 いまは無邪気にカレーを食べているがどうしても夕騎は気になっていた。というよりも疑問に持たない方がこの場合おかしいと思われる。

 「何か考え事か?」

 黙って考えていると士道がこちらへ怪訝そうに問いかけてくる。彼は知っているのだろうか、黒いリボンを付けた琴里が司令官で部下に愛の鞭という名のエルボーや目潰しなどを繰り出してくるということを。

 「あのさ士道っち、黒リ――ッ!?」

 言い切る前に足に琴里の踏みつけが炸裂する。もう質問することは予想されていたのかテーブルの下では夕騎の足に琴里の踵がグリグリと牽制している。

 白い琴里の目は語っていた、何も言うな、と。

 「……やっぱ何でもねえよ」

 自分で話題を切り出そうとしていたが身の危険を感じたので、ここはおとなしく引いておくことにする。

 「でも明日からはどうすんだよ、メシ」

 そんな普通の質問に夕騎はわざわざドヤ顔で答える。

 「運動控えて水飲んどけば二〇日くらい何とかなるでしょ」

 「いやならねえよ! 俺たちの親は二人ともエレクトロニクス企業に勤めてて家空けてっから食糧難のうちはメシぐらい食いに来いって。お隣さんが餓死してたら俺相当ショックだぞ」

 「敵の施しは受けん!」

 「もう受けてるから、バクバク食ってるからな。あと敵って何だ敵って」

 「ゴメンゴメン、人間から優しくされるのは慣れてないかな。つい疑っちまう」

 士道はここで夕騎の言い方に不審な点を感じるが、あまりにも彼がさらっと言うので問いかける間もなく話は進む。

 それから他愛もない会話を琴里も含めてし、いつしか三人は食事を終えていた。

 「この御恩は倍返しさせてもらうぜ!」

 「その言い方だと復讐されるみたいだね! あはは!」

 「じゃあな、道に迷うなよ」

 「隣ん家なのに迷うかヴァカめ」

 背中越しに適当な手振りで夕騎は帰っていくが、

 「そっち逆だぞ」

 「……これはギャグだぞ」

 素で間違えたところを認めないのは男の安いプライドだろう。夕騎は赤面しているのを隠しながら自分の家へと帰っていった。

 「……やっぱり変な隣人だよな」

 夕騎がいなくなったので士道は琴里にそんなことを呟いていた。

 

 

 

 次の日。

 「ギャアアアアアアアアアスッ!! 遅刻じゃんか!」

 夕騎は入学初日から寝坊という一種のバッドエンドを迎えていた。

 何が悪かったのか、元を探ってみれば簡単だ。夕騎は昨日目覚まし時計をセットし忘れ、時差ボケが就寝時に爆裂してしまったのだ。

 転入は最初の掴みが重要だというのにこのままでは自分に対するイメージが遅刻魔になってしまう。本人はそれでも気にしないが。

 三〇年前に空間震で更地となった東京都南部から神奈川県はさまざまな技術を応用して最新技術のテスト都市として開発されてきた。これから夕騎が通う来禅高校もその例の一つである。

 現在、夕騎は物凄く私事で狂三から受け取っていた霊力を使用している。自身の時間を早めて高速移動しているのだ。通りすがる人全てがすぎ去った後で怪訝そうな視線を向けてくるがこれ以上遅刻するよりかはマシだ。

 こんなことで寿命を勝手に使われている狂三の身も心配しなければならないが夕騎はまだそのことは知らないのでバンバン使ってしまっている。今度会った時にグーで殴られてもおかしくはない。

 ――マジ狂三愛してるぜ!

 などと都合よく思いながらようやく来禅高校が見えてくる。夕騎の健闘も虚しくすでに遅刻は決定しているのだが本人的にはまだ遅刻に入らない。遅刻は二時間以内なら遅刻にはならないのだ。まだ始業式が終わった程度。元いた部隊でさんざん学んだことだ、その度に上官にはブン殴られたが。

 入学案内書に書いてあったこれから世話になるクラスは二年四組。いままで外国にいたのだから友達なんて皆無なのだが、もしかしたらお隣に住んでいる士道が同じクラスかもしれない。

 「転入時って最初が大切なんだってな。遅刻魔でも別に構わねえけどもう少しインパクトがあった方がおもしれえよな」

 何を思ったのか夕騎は加速したまま一気に正門から下駄箱を通らずに跳躍し、そのまま二年四組の窓へと向かっていった。陸上部がこの姿を見ていたのなら間違いなくスカウトしに来ただろう。

 

 

 

 「やっほーはっじめまして、月明夕騎といいまーす」

 二年四組担任の岡峰珠恵(おかみねたまえ)は絶句するしかない状況に立たされていた。

 ――ど、どどどどどどうして人が窓から!?

 あまりの驚きで掛けていた眼鏡がズレて落ちそうになってしまう。何故なら夕騎が転入初日に遅刻してきたために、その担任である通称・タマちゃん先生はどうやって間を繋ごうか考えていた時に突然窓からノックされるような音が聞こえ、見てみると遅刻してきた転入生が笑顔でこちらに手を振っていたからだ。

 二年四組がある教室はとても人間の跳躍力では到達不可能な高さにあるはずなのだが、あんな笑顔で来られたら逆に怖くなる。

 あと夕騎の字が無駄に達筆でタマちゃん先生はそこにも驚かされていた。

 「日本には五年ぶりくらいに帰国して、この辺のことはあまり知らないんでよかったら地図をくだせえ」

 ――そこは案内してほしいとかじゃないんですね!

 クラスの生徒も先ほどのアブノーマルな登場には驚いているようで決してタマちゃん先生だけが置いていかれている訳ではないようだ。

 「あ、あの、えーっと……月明くんはどうやって窓から現れたんですか?」

 これは担任として聞いておかなければならない、そう思ったタマちゃん先生は夕騎に質問してみる。転入生の自己紹介の質問トップバッターが担任とはどうかと思うがこの疑問はみんなが抱いていただろう。

 「そりゃあ下から跳躍してだろ」

 さらりと返事てタマちゃん先生は素でズッコケる。

 「こ、個性的な返答ですね」

 自分でも何を言っているのかわからなくなってきたタマちゃん先生はとりあえず担任として自己紹介のうちに少しでも夕騎をクラスに溶け込ませられるようにクラスメイト達に話題を振る。

 「他に質問したいって人はいませんか?」

 そう問いかけるとクラスメイトの一人、殿町宏人(とのまちひろと)がビシッと手を挙げる。

 「ふ、男子とあらば聞いておかねばならないな。好きな女性のタイプは?」

 「好きなタイプねえ……精霊だな」

 こういうのは普通恥ずかしがったりして人前ではなかなか言えないはずなのだが夕騎は仁王立ちで自信満々に言い、挙句に人外だった。いや一般人には精霊と言っても伝わらないので生物かどうかも曖昧だ。

 「固有名詞を出すなら時崎狂三、一目惚れだぜ?」

 クラスメイト達はそれを聞いて時崎狂三と言う人物を精霊と比喩していると解釈したのかところどころで笑いが起きる。

 だが夕騎に敵意のような視線を向ける女子生徒がいた。

 その女子生徒は鳶一折紙(とびいちおりがみ)。同じASTに所属していて階級は一曹、夕騎は特別階級を貰っているために立場的には上か下かはわからないが精霊に対する敵意は人一倍強い。過去に何かあったのだろうが、そんなことは夕騎の知ったことではない。考え方は人それぞれなのだから。

 「ま、これから仲良くしてくれよな。以上、俺の自己紹介は終わり」

 夕騎は空いていた席に座ると後ろの席に座っていた人物は昨日食糧難に陥っていた自分を助けてくれた(これからもしばらく頼る予定の)五河士道だった。

 「おっす士道っち、これからよろしくな」

 「あ、ああ」

 「まあ緊張なさんなって、俺だって緊張してるんだからさハッハッハー」

 「緊張している様子が微塵も感じられねえ……」

 人間から嫌われようが好かれようがどっちでもいい夕騎からしてみれば転入時の自己紹介でどんなキャラを炸裂させようが構わないのだ。

 「緊張なんて寿命の無駄遣いだからなー」

 

 

 

 「くしゅん! ……誰かがわたくしの噂をしているのでしょうか?」

 狂三はまた夕騎に消費されてしまった寿命を回収していたのだが誰かに噂されたような気がした。

 

 

 

 そしておよそ二時間後、夕騎は遅刻したため始業式を丸ごと受けなかったので他の生徒よりも早く終わった気がした。

 教室でクラスメイトの男子や女子たちとほどほどに会話した後、琴里と食事に行く予定の士道と別れて夕騎はトイレに向かっていた。

 ――トイレって確かコッチだったよな。

 心中でそう思いながら廊下を歩いていくと。

 

 ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――

 

 現場で聞き慣れた警告音。空間震警報だ。

 『――これは訓練では、ありません。これは、訓練ではありません。前震が、確認されました。空間震の、発生が、予測されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに避難してください。繰り返します――』

 夕騎にとっては聞き慣れたものだが他の生徒たちは顔に緊張と不満を滲ませているが落ち着いていた。

 下調べによると三〇年前の空間震から学び、士道たちの学年などは幼稚園の頃からしつこいほど避難訓練をしてきたらしい。

 夕騎は常に前線に立たされていて避難用のシェルターなど見たことはまるでない。というより空間震警報は精霊と会える貴重な時間なのに避難などもったいないと空間震が直撃して重傷を負った経験がある夕騎は心の中で語る。

 ――てか俺ってどっちの立場で対処すればいいわけ!?

 自分はASTに所属していながら〈ラタトスク機関〉にも所属している。ASTは適当な理由をつけてサボることはできるが――

 「月明夕騎、何をしているの?」

 「げ」

 ここはあえて精霊とは会わずに人生初の避難というものをやっておくべきだと思った矢先に現れたのは人形のような顔立ちの少女だった。つまり鳶一折紙。

 「……いや避難しよーかなー的なことをオモイマシテーノ」

 半ば外国人の片言みたいな口調になったが折紙はまるで気にしない。

 「あなたは精霊と戦うために日本へ来た、違う?」

 「ハイソウデスヨネー」

 こうして折紙に引き摺られながら夕騎の人生初シェルター行きを諦めたのだった。

 

 

 

 「ぐえー、いつもの光景だぜー」

 いつも通りAST隊員の一人に両脇から抱え込まれて夕騎は運送されていた。周りには他のAST隊員もいて幸いだったのは折紙とは別動隊だったことだ。

 あまりにもいつも通りだった。

 隕石でも落ちたかのように出来たクレーター。一帯だけスプーンで綺麗に抉り取られたようになくなっていた。

 だが、抉り取られた地面の中心には玉座のような形をもった金属の塊が聳え立っている。

 「あれが今回の精霊――」

 全てを言い切る前に予想外の事態が起こる。その出来事はまさに一瞬の出来事だった。

 観測されている精霊〈プリンセス〉がいる方角とはまるで違う方向から何条もの光線が放たれ、AST隊員が羽虫を落とす感覚で落とされていく。それは随意領域(テリトリー)など関係なく、ガード越しでも構わずに光線が撃ちこまれ、霊力のゴリ押しで叩き込まれていた。

 「きゃあああッ!?」

 夕騎を抱えていたAST隊員も撃ち落とされ、案の定。

 「うん、詰んだコレ」

 まさか狂三の時と同じような体験をするとは思ってもいなかった。さらに言えば今回は前よりも落とされた位置は高く〈ボルテウス〉もない。

 「次があったら歩いて現場に向かおう、うん」

 そのまま夕騎は真っ逆さまに地面へ向かって落ちていった。

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