デート・ア・ライブ―精霊喰いは精霊に恋する―   作:ホスパッチ

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第五二話『ラブリースピリッツ』

 「狂三を救えないからって零弥を選んだ? そんで零弥を幸せにするって決めたくせに零弥や他のヤツら全員見捨てて狂三救いにいった? 挙句の果てには何もせずに撃たれて死んだ? お前がした行動をまとめれば零弥やみんなを苦しめただけだクソ野郎!! 女一人幸せに出来ねえくせに他の女の尻追いかけてんじゃねえぞブッ殺すぞ!!」

 未来の夕騎を殴り飛ばした夕騎はそのまま我慢していたことを一気に叫ぶ。

 「黙ってりゃ言いたい放題言いやがって――」

 「何か反論できんのか? 今言ったこと全てが事実だろうが言っててコッチがだいぶ恥ずかしくなってくるぜ!! 士道を見習え! アイツは何だかんだ言って最終的にハーレムを形成し一癖も二癖もある女達を纏め上げ子沢山ときたモンだ!! 同級生が聞いたら発狂するレベルだぜ!! すでにオレは発狂したがな!!」

 指を差したまま夕騎は未来の夕騎に接近し、その額に差したままの指先を捻り込む。

 「ここまで言われて悔しかったら零弥と狂三の二人とも幸せにしてみろ!! そして子供作れ! 野球チーム出来るぐらいに子沢山になれ!! 童貞卒業しろ!! お前も早くユニコーン系男子からゼウス系男子に昇華しろ!!」

 「ぐ、腹立つほどボロカスに言われてるけど何か勢いで正しく聞こえてくる……」

 圧倒的な勢いに未来の夕騎も反論することが出来ずに徐々に萎縮してきたところで夕騎は言いたいことはまだあるが一息つくと、未来の夕騎に短銃を手渡す。 

 「もし本当にお前が狂三を救いたいと、今度こそ二人を幸せに出来るというのならその短銃に【四の弾(ダレット)】が装填されているからそれで狂三を撃て」

 「……俺は」

 手渡された短銃を見つめ、未来の夕騎は覚悟を決めたのかその照準を隣に安置されていた狂三の遺体に定め引き金を引く。未来の夕騎だった時と同様に一発では元通りとはならなかったがやがて切断されていた首が元通りになれば静かに目を覚まし、

 「……ここは、どこでしょうか」

 「狂三」

 「ゆ、うき……さん?」

 まるで寝ぼけているように思考が定まっていない狂三を未来の夕騎は優しく抱きとめる。

 「ごめんな、狂三。今度こそ俺は失敗しない。誰かわからなかったけど俺はまだまだ必要とされてることがわかったんだ」

 「夕騎さん……本当に、申し訳ございませんでしたわ。わたくしのせいで……」

 「もういいんだよ、これからはずっと一緒だ」

 狂三の謝罪に未来の夕騎はそっと首を横に振り、狂三のことを迎え入れる。

 「ありがとう、誰かわからなかったけどアンタのおかげで俺は――っていねえ」

 先ほどまではいたはずなのに未来の夕騎が礼を言おうとすればそこに相手の姿はなく、誰にも知らせぬまま過去の夕騎は姿を消した――

 

 ○

 

 「ふぅ、これでどうにかなるだろうな。また未来のオレがしくじらない限りだが……」

 夕騎はあれから狂三が復活したところを見届ければすぐに影に潜って姿を消し、どこかの建物の屋上に来ていた。

 「それにしても未来の俺は何で過去の俺がわからなかったんだよ。マジで初対面の人みたいに扱われて軽くショックだったんですけど……まあ流石にスカートを履いてる女装系男子が過去の自分とは思えないか」

 やけに軽い身体をクルクル回転すれば霊装のゴスロリチックなスカートが翻り、自分の生脚が見える。

 「オレこんなに脚細かったっけ? 鍛え直しだなこりゃ、もはや女の脚にしか見えねえんですけど」

 まるでモデルのような細さを持つ脚にこんなのでは蹴りの威力も格段に下がっているだろうとやや戦闘気質な脳に変わっていた夕騎はぷにぷにした自分の脚に触れつつ考える。

 「腕も細いし、髪も長いし、どうなってんだ……ってとにかく過去に帰らないとな。そろそろ帰らないとマイラブリースピリッツ狂三たんは意外に寂しがり屋だから泣いちゃうぞ」

 とりあえず過去に帰ろうと<刻々帝(ザフキエル)>を顕現させると夕騎は顕現させた巨大な時計を見てはうーんと悩み、

 「……過去に戻る弾ってどれだっけか、確かきのが言ってたんだけどなぁ」

 どれかが過去に行ける弾だったはずだがそれを思い出せずにいると<刻々帝(ザフキエル)>がガタガタと振動し、短針を模した剣を出したかと思えば意思があるように動き『ⅩⅡ』の数字を指し示す。

 「おお<刻々帝(ザフキエル)>教えてくれたのか、サンキュ。なるほど【一二の弾(ユッド・ベート)】が過去に戻る弾なのね。それでもう一つ教えて欲しいことがあるんだけどそれ戻っても時間経つとコッチ戻っちゃうじゃん? 『その時間に固定』する的なのないの?」

 もう相手が意思を持っている前提で話しかけてみると今度は<刻々帝(ザフキエル)>本体の色が薄暗く変色し、まるで夜を示すような色に変化する。

 「何か色変わったけど……これは夜を示してるのか? つまり【一七の弾(ユッド・ザイン)】ね、オーケーオーケーわかった。ありがとう!」

 幸いこの時代の精霊たちから受け取った霊力はまだまだ余っている。

 【一二の弾(ユッド・ベート)】や【一七の弾(ユッド・ザイン)】を使っても有り余るくらいだ。

 「そんじゃ帰りますか、<刻々帝(ザフキエル)>【一二の弾(ユッド・ベート)】!!」

 『ⅩⅡ』の文字から伸びた影は短銃に装填され、よほど<刻々帝(ザフキエル)>に負荷をかけてしまっているのか本体が軋むような音を奏でている。

 「七年前に――」

 そう言って自らの頭を撃ち抜けば妙な浮遊感や倦怠感と共に夕騎の視界は歪んでいった。

 

 ○

 

 「おっ……おぉう……吐く、何か、吐きそう……」

 元の時代に帰ってこれたのか確認よりも先に床にのべーっと倒れ、何とも言えない吐き気を催していた。

 「と、時計……時計はないか……?」

 「あ、あなた、大丈夫?」

 「……ふぁい?」

 起き上がれないほどに吐きそうになっている夕騎が何とか首を動かして上を見上げてみるとまず目に入ったのが谷間だった。

 「……これは立派なものをお持ちで」

 「何を言っているのかしらこの子は……とりあえず立てる?」

 「無理っぽい……」

 「よくわからないけど仕方ないわね」

 自分が一体どこで着地したのかわからないがとにかくお姫様抱っこされた夕騎はそのまま近くのソファに寝させられ、ソファの感触と見たことがある天井を見てわかった。

 ――ここ、オレん家か……。

 「水用意したけど飲める?」

 「……うーっす」

 差し出された水が入ったコップを受け取ると差し出してきた少女の容姿を眺める。

 艶やかな黒の長髪に整った容姿、見間違えることがない――零弥だった。

 つい先ほどまで共にいた未来の零弥と比べれば少しだけ幼いが今でも充分に大人びた雰囲気を醸し出している。

 「あなた、急にこの部屋に現れたけれど何者? その服からして普通じゃないと思うけれど」

 それなのに零弥は夕騎が夕騎だと判別出来ていない。

 未来の夕騎はまだしも零弥にすら気付いて貰えないとは流石に傷つくと夕騎は起き上がり、

 「オレだよオレオレ! 気付いてよ、オレだよーっ!!」

 「……最近高齢者に流行っている『オレオレ詐欺』かしら?」

 「ちげぇ!! だからオレはゆ――」

 「零弥さん? 先ほど大きな音が聞こえましたがどうしましたの?」

 夕騎はもう名前を出すしかないと思い、名乗ろうとしたところで騒ぎを聞きつけたのか狂三が夕騎達がいるリビングにやってくる。

 狂三の姿を見れば零弥は夕騎を見ながら首を傾げ、

 「時崎狂三、突然この子が現れたと思ったら『オレだよーっ!!』って言われたのだけれどどうすればいいかわからなくて困ってたのよ」

 「それはそれは困ったものですわね。このご時世『オレオレ詐欺』が多発しているようですから気をつけてくださいまし」

 「……それはあれかしら、軽く私のことを高齢者扱いしてないかしら?」

 バチバチと火花のようなものを散らす二人の間に挟まれて何とも言えない夕騎だが、今目の前にいる狂三が本体の狂三だということは何となくだがわかった。

 さりげなく日付も表示される時計に目をやると夜三と共に未来へ行ってから三日ほど経ってしまっている。その間に狂三はどうにか立ち直ったのかわからないが元通りになっていた。

 「それにしてもこの子……わたくしと同じような霊装を纏っておりますわね、まさかあなた夜三さんですか?」

 「だーかーらオレは夕騎なの! 月明夕騎!!」

 「「……はい?」」

 夕騎はいくら自分を夕騎だと言っても零弥と狂三は互いに怪訝そうにし「何言ってるのこの子」状態になってしまっている。

 どうしてここまで信じてくれないのかわからず軽く心が折れた夕騎はぶわっと大粒の涙が溢れ、

 「メイのバカ!! もう知らない!!」

 「え、ちょ、ちょっと!」

 「ここにはメイさんという方はおりませんが……って聞かずに出て行ってしまいましたわね」

 「結局何だったのかしらあの子……」

 「わたくしに聞かれてもわかりませんわ」

 涙ながらに飛び出していってしまった夕騎に二人は本当にわけがわからずにただ見送るだけだった。

 

 ○

 

 「……【一七の弾(ユッド・ザイン)】」

 夕騎家から少し離れた場所の路地裏ですっかりテンションが下がってしまった夕騎は三角座りになりながら<刻々帝(ザフキエル)>で自身に弾を撃ち込んでいた。これでこの時代に自身の存在を固定できたので【一二の弾(ユッド・ベート)】の期限が切れたとしても未来に帰ることはないだろう。

 「ちくせう、誰もオレのことをわかってくれねえ……」

 ここに来る前、実は士道や琴里にも会ったのだが案の定二人も夕騎が夕騎だと気付いてくれずに着ている霊装のせいで精霊だと思われ、早速離れて今頃<フラクシナス>で会議でも行われているだろう。

 「はぁ……どうしてだ? どうして誰もオレが月明夕騎だって気付いてくれねえんだ?」

 失意に沈む夕騎だが俯いていた顔を上げるとちょうど透明化されているがカメラのようなものがあると感じ、とりあえず短銃で撃ち抜いておく。

 「これアレじゃね? 完全に精霊扱いじゃね? オレ攻略対象じゃね?」

 何が何だかわからない状況だが夕騎は立ち上がると物凄く重たい足取りで路地裏から出ようとするがその途中でゴミ捨て場があり、偶然にも捨てられていた鏡に自分の容姿が見える。

 「………………ん?」

 そこに映っていたのは夕騎のものではなくもっと別人な――そう、少女の姿が映し出されていた。

 「んんんんんんんん?」

 それを見た夕騎は思わず捨ててあった手鏡を拾うともう一度良く自分の顔を映し出す。

 どこからどう見てもその容貌は女のものではなく、夕騎が男の頃の面影なんてゼロだった。

 「どへぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 これは仰天の出来事。

 腕や脚が細いのも髪の毛がやけに長いのも胸が何やら膨らんでいると思ったがそれら全て夕騎の身体が完全に『少女』のものとなっていたからだ。

 「待て待て待て待て、お願い待って全然状況が把握出来な――ヴェェ!? 何でオレ女になってんの!?」

 声もよくよく考えてみれば男の声の時よりもはるかに違う声音でますます戸惑いが止まらなくなる。

 自分の身体が女のものになっているとなれば芋づる式に出てくる真実。

 「だから零弥たちは気付かなかったのか、ヤバイ。このままだとオレ確実に士道に口説かれるパターン来ちゃうんじゃないの? てかこれからどうするか落ち着け落ち着けステイステイ。とりあえず何が原因なのか、それが出て来れば解決への一歩だ!」

 夕騎は懸命に何が原因なのか考えてみれば一つ浮かぶのが――霊結晶(セフィラ)を身体に取り込んだこと。それ以前は周りからきちんと『夕騎』として感知されていたのだ。それをこの霊装を纏うようになってから唐突に認知されなくなった。

 つまり、

 「霊結晶(セフィラ)を出せば解決すんじゃね?」

 そうと決まれば早速胸に手を当て、

 「ぐぬぬぬぬぬ……」

 しかしいくら力んでも霊結晶(セフィラ)は出る気配もなくしばらく頑張ってみても一向に状況は進むことがなく夕騎は膝をつき、

 「む、無理……出し方なんてわかんねえよ……」

 そんなことが出来れば琴里の時も苦労していなかったかと冷静になった夕騎。

 だがそのおかげで零弥と狂三にどうすれば自分が月明夕騎だということを証明出来るかも思いつく。

 「オレっちには<精霊喰い>の牙があるじゃん! そうだ、それを見せれば流石に零弥達も納得してくれる!」

 いつもならただ念じるだけで歯は牙へと変化し、いつでも霊力を喰らうことが出来るようになるのだが今回に至っては――

 「あ、あ、あれー? 出ないんですけどー? どったのオレの<精霊喰い>の牙? まさか、発動出来ないなんてことは――アリエール……」

 とうとう<精霊喰い>の力にさえ見放された夕騎は壁に手をつき、一人壁ドンをするまでにショックを受ける。

 「うっそだろ……オ、オレと精霊の繋がりが今破綻した……。せ、<精霊喰い>の力がなかったらオレ<ラタトスク機関>でもASTでもDEM社でももはや不要人物じゃねえか!」

 まさかのトリプルプレーでバッターアウトチェンジになってしまった夕騎はますます失意に沈み膝から崩れ落ちそうになるが何とか堪えると、

 「い、いやこうなったらもう一度零弥達に俺が月明夕騎だってことを証明してやる! 証明するモンなんて何もねえけど!」

 折れそうな心をもう一度奮い立てると夕騎は路地裏から飛び出して来た道を戻っていった。

 

 ○

 

 影の中から夕騎家に忍び込んだ夕騎。

 正直何故自分の家なのにまるで不法侵入のような方法で侵入しなければならないのか少々疑問に持ったが見てみればリビングで零弥と狂三はじっと何かを見つめていた。

 「時崎狂三、これは何の本なのかしら?」

 「『この世の職業全てのコスプレを巨乳素人が忠実に再現!』と俗に言う『えっちな本』、ですわ」

 「『えっちな本』と言えば殿町が読んでいそうな本のことよね?」

 「ええ、そうですわ。でもまさか夕騎さんの部屋からこんなものが発見されるとは」

 零弥達に秘密裏に殿町から入手していたえっちな本が今まさに見つかっていたようで今出て行くのは些か状況がよろしくない。夕騎は影の中で軽く冷や汗をかきながらとりあえず状況観察を続ける。

 「夕騎さんも、『男の子』でしたわねぇ。精霊にしか興味ないと言いつつ裏ではこういう本を読んでいらしたとは」

 「いいえそれは早合点よ。夕騎はただ世界中のコスプレを知りたかっただけなのよ、その証拠に何かと部屋に精霊用ってタグがある衣服が沢山あるわ」

 ナイスフォロー! と夕騎は影ながらに零弥のフォローに拍手を送る。

 確かに入手した理由が世界にどれだけのコスプレがあるのか確かめたかったのだ。決して胸の大きな子を見たかったわけではない。零弥や狂三も充分だがそれ以上のサイズを見たかっただなんて微塵も思っていない。微塵も。

 狂三は疑問が浮かんだのか人差し指を頬に当てつつ、問いかける。

 「零弥さんはいつも頼まれれば着ていらっしゃるのですか?」

 「……ご、極稀に」

 「これは着ていませんわね」

 そう。零弥はいくら頼んでも体良く断ってくるのだ。

 恥ずかしいのかスタンダートなメイド服でも巫女服でもナース服も着てくれず、コスプレ欲を持て余した夕騎はたまに十香に「これ着て見せれば士道喜ぶ」などと軽く騙して着て貰ったり、四糸乃のサイズに合わせたものを用意して四糸乃に十香と同様な手口で着て貰ったりしていたのだ。

 やや呆れた様子で狂三は息を吐く。

 「これでは夕騎さんがこのような本に惹かれてしまうのも必至ですわ」

 「だ、だって恥ずかしいじゃない!」

 「わたくしならどんな洋服でも夕騎さんのために着てあげられますわ」

 「でも時崎狂三、夕騎はそれだけじゃないわ」

 零弥も狂三と同じように息を吐くと家に輸送されてきた段ボール箱を開ける。

 「これは……?」

 「信じて送り出した夕騎がとあるアイドルの奴隷(ファン)になってしまったのよ」

 中身は合宿時に宿泊していた部屋に置いていた宵待月乃グッズの数々。ポスターからCDなど数は少ないものの種類は豊富で収拾率から完全にハマってしまっていることを意味する。

 精霊にしか興味がない、そう言っていたはずなのにどこぞのアイドルに心を奪われたことを知ると狂三は静かに目を伏せ、

 「これはこれは、夕騎さんに詳しい事情を聞かなくてはなりませんわねェ……」

 桜色の唇を舌で舐める狂三の仕草に明らかに『浮気は極刑』時の緊張感が走る。

 ――逃げるべし!

 自らの証明をほとぼりが冷めるまで一時的に『逃走』を選んだ夕騎はそっと自分の家から抜け出したのだった――

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