デート・ア・ライブ―精霊喰いは精霊に恋する― 作:ホスパッチ
「……むぅ」
「どうしたの美九、不機嫌そうだけど」
夕騎が<ヴァンフェイルバンテ>と戦うことを決めて早くも作戦から外れたことで零弥にお姫様抱っこをされて聞き出した情報先の第一舎を目指していた美九だが頬を膨らませて何やら不満そうにしていた。
「なんでもないですよー」
「わかってるわ、夕騎が守るって言ったのにすぐにいなくなったことに不満を抱いているのよね」
「むー、わかってるなら聞かなくても良かったじゃないですかー」
もう一度頬を膨らませる美九の顔がひまわりの種を口に含みすぎたハムスターに似ていて零弥は思わずくすくすと笑ってしまい、
「でも夕騎が『助ける』って言ったのだから大丈夫よ。どこにいても美九が危機に陥れば絶対に助けに来てくれる、どこまでも夕騎は
「零弥ちゃん、一つ質問いいですかー」
「ん、何かしら?」
「零弥ちゃんは霊力を失う時不安はなかったんですかー?」
美九の質問は過去の零弥も抱いたもので零弥は初めて霊力を封印された際に夕騎からその答えを貰っていた。だから美九の質問にも考え込むこともなくすぐに答えられる。
「私も不安に思ったわ。夕騎は精霊が好き、でも霊力を封印すれば精霊も普通の人間と変わらなくなってしまう。それで違う精霊が現れたら夕騎は私のことを特別視してくれなくなると思ったの」
「その時あの人は何て言ったんですかぁ?」
「『愛してもらってないって確証ができたら迷わずに言え、ブン殴ってくれても構わない』って言ったの。夕騎にとって精霊は霊力を失っても変わらないって言ってくれたの」
懐かしむように言うと零弥が言うと美九も本当のことなんだろうなとその言葉を信じるがそれでもどこか不安に感じているのがわかって零弥は言葉を続ける。
「霊力を失ったけれど夕騎は私に色んな思い出をくれたわ。どれもかけがえがなくて、ASTと戦ってる時は考えもしなかった幸せな時間をくれたの。それにどうしても霊力が必要になった時のために封印されている霊力を取り戻す方法も教えるわ。今はもう完全に取り戻せるようになったのよ」
「そ、それっていいんですかー?」
「いいのよ、ただでさえ夕騎は無茶をするのだから支えてあげられる精霊が多いに越したことはないわ。それに霊力を封印する時はキスするの、私にとってはそれも夕騎との大切な繋がりよ」
「キス……繋がり……」
唇を指でなぞるように押さえる美九に零弥は初めて出会った時よりも随分変わったと微笑ましく思うがそろそろ目的地である第一舎が見えてくると窓から士道が
「突撃よ、美九」
士道が倒れていることが吉と出たのか零弥は横薙ぎに霊力を放つと建物の窓ごと
「零弥、来てくれたのか!」
「ええ、だけど私は屋内にはついていってあげられないわ」
屋内でも零弥は充分に戦えるのだが零弥は霊力加速を行うだけで余波が周りのものを壊してしまうので戦い続ければ建物自体を崩落させてしまうかもしれないと夕騎に言われた通り窓際に立つだけで入ろうとはしない。
代わりにタン、タンと士道の前に降り立った美九は冷然とした目で見下ろし、
「ふん、情けないですねー。女の子に守ってもらって恥ずかしくないんですかー?」
「ぐ、でも来てくれたんだな美九も」
美九は悪態をつき、図星な士道は何も反論出来ないがそう言うとますます美九は不機嫌そうな表情を浮かべ、
「気安く私の可愛い名前を呼ばないでくれますかー? 男のあなたのその汚らわしい声帯から紡がれたおぞましい声で呼ばれれば私の名前に拭いきれない穢れが蓄積するんですよー」
「それなら夕騎だって散々呼んでたじゃないの。ここに来たのも夕騎の言うことを聞いて――」
「あーっあーっ!! 聞こえません聞こえません聞ーこーえーまーせーんーっ! もう零弥ちゃんは余計なこと言わないでくださーい!」
「ふふ、わかったからそんなに声を荒げないで。私はもう行くけど大丈夫?」
「大丈夫ですー! だからもう行っちゃってくださーい!」
これ以上何か言われるのかわからず若干赤面している美九は半ば追い払うように零弥の背中を押して外へ行かせるとこれからだというのにすでに肩で息をしており、
「だ、大丈夫か美九?」
「ふんっ、だから私の名前を気安く呼ばないでくださいよぉ。ここに来たのはあなたのためじゃないんですからぁ!」
すっかり不機嫌な美九はツカツカ靴裏を床に響かせながら歩いていき、何があったかよくわからない士道はとりあえず協力してくれるのだと考え後ろをついていく。
○
「帰ってきなさい、ユウキ」
いつ襲い掛かってくるかもわからない状況でも一種の余裕を見せるエレンは夕騎に謎の執着を見せる。いつもはあれほどまでに仲が悪いことを知っているので夕騎は勿論だがシルヴィも真那も不審そうにしており、夕騎はべーっと舌を出して挑発しつつ問いかける。
「もし嫌だーって言ったらどうする気?」
「力づくで連れ帰らせて貰います」
「そこまでこだわるのはやっぱりユウキの<精霊喰い>の力を手放したくないってワケかい」
「それもそうですが、あなた達と違って
「過保護もここまでくりゃあ上等なもんでやがりますよ!」
レイザーブレイドを片手にエレンに向かって真っ先に突貫しようとした真那だが<スカーレット・リコリス>で武装したジェシカが高出力レイザーブレイドを構え突っ込んでくるのを視認して回避行動を取る。
「逃げても無駄よォマァナァッ!!」
「チッしつけーでやがりますね!」
『ユゥキィィイイイイイイイッ!!』
「ちょっと放すよユウキ!
<スカーレット・リコリス>、<ヴァンフェイルバンテ>の両機から放たれた夥しい数のマイクロミサイルを真那とシルヴィは背中合わせになるようにして立ち互いの
ただ一人
「なあエレン」
「何でしょう?」
「ジェシカは確かに嫉妬深くてブスで性格も腐ってて東洋人をバカにするような発言も散々してたし、ワンナは天然で何を考えてるのかわからなかったけどよ。こんなことをされるような人間じゃなかったろ」
「何を言っているのですか、力を望んだのは彼女達の方です。真那を殺したい、ユウキを殺したい、彼女達は己が身を顧みずに頼み込み我々はその願いを叶えただけです。あなたにもあったでしょう、精霊を守るために我が身を顧みなかったことを」
「あったさ、でもこれは後に何も残らねえだろ。殺しても廃人になるだけで何も得ることすらねえ、ワンナに至ってはすでにその症状が出てる」
「それも承知の上でした」
さも当然のことのように淡々と答えるエレンに夕騎は最後に一つだけ問いかけた。
「同じ会社の仲間じゃなかったのか?」
「ええ、仲間ですよ。だからこそこうして魔力処理を施してあげたのでしょう」
「ああ、そうかよ。やっぱり俺は――お前が嫌いだよ」
静かにそう言えば夕騎は何か諦めたかのような表情をし、自分を支えていたシルヴィの
「バカか!」
夕騎の代わりにワンナと相対していたシルヴィはあまりの無謀な突撃に叱咤するがそんなものは構わずに夕騎は真っ直ぐエレンに向かって飛べばエレンは掌を夕騎に向け、
「捕らえさせて貰います」
「出来るモンならな!」
すでに準備は出来ていた。
夕騎を捕らえようとエレンは
――動きが、止まらない……?
今までの夕騎ならこれで動きを封じることが出来たというのに今ではまるで止まる気配がなく直進する夕騎の拳は見事にエレンの左頬に直撃し、殴り飛ばす。
「ぐッ!」
殴った後の夕騎はまるで宙に透明な地面があるかのように靴裏を擦らすように拳を突き出したまま着地すれば黒い電撃のような粒子が夕騎の全身に通ったかと思えば左手から順にやがて全身に黒き鎧を纏う。
鎧を纏ったその姿はまるで竜人そのもの。
竜の頭部を模したフルフェイルマスクからは双眸が輝き、左手の篭手は右のものと比べ一回りほど大きく指先は全て牙を嵌めている時のような鋭く分厚い爪に覆われている。
一際目立つのが一○もの尾。それぞれ微妙に形状が異なり、白の尾、灰の尾、黒の尾、青の尾、赤の尾、黄の尾、緑の尾、橙の尾、紫の尾、四の色が入り混じった尾がゆらりと蠢く。
「……その姿は」
「【
「まさかすでにここまで……アイクに計画を早急に進めることを進言しておくべきですね」
エレンは少しばかり予想外なことが起きたことを確信し、レイザーブレイド<カレドヴルフ>を構える。
眼前にいる竜人はもはや夕騎と同一人物とは思えないほどの威圧感を放っており、これまで色々な精霊と戦闘してきたエレンでさえ感じたことのない緊張感が脳を過ぎる。
「行くぞ、人類最強」
何もないはずの空中を蹴って駆け出した夕騎はものの一歩でエレンに接近し同時に赤の尾、橙の尾が振り下ろされる。すると尾の先端から唐突に武器が姿を現す。
それは琴里が使っていた天使<
相変わらず
「がは……っ!!」
「ユウキそっち行ったぞ!」
『グルァアアアアアアアアアアアアッ!!』
エレンに一撃を加えた直後にシルヴィが相手をしていたワンナが獣のような咆哮を上げながら爪を構えて肉薄し振り下ろすものの【
「凍れ」
一秒も掛からずに<ヴァンフェイルバンテ>の機体は一縷の隙もなく凍らされ、制御を失ったのかそのまま真っ逆さまに地面に向かって落ちていく。
「ハハハハ! 超強いじゃないかユウキ!」
「そんだけつえーならこっちの援護もして欲しいんですけどね!!」
圧倒的な強さに腹を抱えてゲラゲラ笑っているシルヴィに対し、未だにジェシカと戦っている真那は苦戦を強いられているようで夕騎はそんな光景を見つつ、
「んー、『助けてお兄ちゃん!』って言ってくれたらいいよー」
「見た目それだけ変わって中身何も変わってやがりませんね!!」
真那はジェシカだけならばまだ対応出来るものの時折地上から飛んでくる【
「どうやら
迫り来る【
「ちっ……」
動きを封じられてしまい夕騎は使い物にならないとシルヴィの方に目を向けるが彼女は遠くの一点を見つめて何かを発見してしまったのか一瞬怒りに満ちた表情を見せそちらに向かって飛び出していってしまった。
「ほらほらピンチだぞ真那ちゃーん?」
「そ、んな真横で見てるなら早く……」
ぐぬぬと唸り声を上げてどうにか
夕騎は真横で攻撃を喰らっても平気と言わんばかりにおっさんのような寝転び方で状況を見ており余裕ぶっていて本当ならば絶対に頼りたくないが断腸の思いで真那は言葉を紡ぐ。
「……た、助けてお兄ちゃん」
「……はい? 聞こえんのう?」
物凄く恥ずかしそうに言う真那に夕騎は耳に開けた手を当てながら首を横に振り、ノーカウント扱いする。真那は顔を赤らめるがこれ以上悠長に言っていられるほど時間がなく一生の屈辱だと言わんばかりに叫ぶ。
「助けてお兄ちゃん!」
「もっと可愛いトーンで!」
「たすけておにいちゃん!」
「もっときゃるるんとした感じで!」
「た……たすけておにーたん!!」
「よっしゃ任せろォ!!」
もうインスタント麺でも作れるくらいに顔を真っ赤に紅潮させた真那の叫びに夕騎は真那を抱きとめるようにして全ての攻撃を尾で弾き飛ばして迎撃し、ジェシカに向かって尾を叩くように振るう。
「【三鳴衝撃】!」
「ふはははははははは! どうよ真那ちゃん!」
「……ぜってー後でぶん殴ってやりますよ」
この上なく屈辱を受けた真那はプルプル震えているが夕騎は<フラクシナス>で映像撮ってるだろうし後で貰おうと考えていると――
「……あ」
何かを思い出したかのように声を上げたと思った途端に【
突如として起こったことに真那は一瞬何が起こったかわけがわからず、
「な、何しやがってるんですか……? 戦闘はまだ終わってねーんですけど」
「……真那ちゃん、【
「……まさか」
「……纏っている時は常に集中してなきゃいけないんだ。でもさっき調子乗ってお兄ちゃんの余韻に浸って別のこと考えたら解けちゃったみたい。てへぺろ☆」
「てへぺろ☆じゃねーですよ何しやがってんですか!」
「助けて真那ちゃん!」
「ふざけんじゃねーです!!」
見事に真那の嫌な予感が当たったかと思えば夕騎は真那の身体に抱きついたまま「オーマイガッデム」などと言い出し、一難去ってまた一難状態になればボディーブローを喰らって飛ばされていたエレンも再び現れ、
「随分と派手にやってくれたようですがもう先ほどの鎧は纏わせませんよ」
「マァナァ……っ!!」
『よくもヨクモやってくれたなァァァァァァァァァァァァァ!!』
そんなタイミングで飛ばしたジェシカも氷漬けにしていたはずのワンナも復活してきてまさに状況は絶体絶命だった――
○
ようやく見つけた。
シルヴィは真那達には悪いと思いながらも自らの目的を達成するためにスラスターを駆動させていた。
「ひぎ、うぐ……」
「助け、助けて……」
周りに見えるのは十字架に磔にされて【
高速で十字架の数々を通り過ぎていくシルヴィの目にはすでにその精霊が映し出されていた。
「ねえねえ痛い? 痛い!? はっきり答えてよねえ!?」
「い、痛いです!! 痛い痛い痛い痛いっ!!」
高揚感に満ち溢れた声音に気が狂った声音、その両方がシルヴィの耳に届く。
見れば手に収まらないほどの木の杭で十字架に磔にした
「あはははははははははははは!!」
そのセーラー服は返り血に塗れ、残虐の限りを尽くす精霊。
シルヴィは奥歯をギリッと噛みしめながらその精霊の後ろに立てば片手を興奮している相手の肩に置き、
「……おい」
「ん、なぁ――」
言葉を最後まで言わせるまでシルヴィは自身の怒りを抑えることは出来なかった。血が出るほどまでに握り締めた拳を相手の顔面に浴びせ、殴り飛ばす。
「ようやくだ、ようやく見つけたぞ――<リッパー>ッ!!」
シルヴィの弟を惨殺し、故郷である島国の人間を皆殺しにして国自体までも殺した精霊――<リッパー>。
「――アハ、は、ハハははははハははハはハはハっ!!」
殴り飛ばされた<リッパー>は血だらけの地面に大の字で倒れたかと思えば大声で笑い、地に足をつければそのまま不気味に起き上がるとシルヴィを見据える。
「なぁにオネエサン、キザシと遊びたいのぉ? いいよぉ、死ぬまで遊ぼうよ!!」
「死ぬのはテメエだけどな!!」
殺すべき仇との再会に呼応するようにスラスターは駆動音を轟かせた――