ハンターさん、集めるのが好き
「よう、五期団! 飯食ってくか?」
「おすすめで頼むよ……あと調査ポイントで……」
それだけ言い残した若い男は巨大な石を切り出した食卓にぐたりと伏せた。ブリゲイドを黒く染めた帽子が頭から落ち、赤っぽい茶髪をきちんと縛った頭が露出する。気障ったらしい格好はしているものの、くたびれはてた哀愁を漂わせる彼をわざわざからかう命知らずな人間はいない。
五期団のハンター、白い風だの青い星だの好き勝手呼ばれる彼は今日も朝からひと狩り行ってきたらしい。正直に言って、朝昼晩と日に三回出撃するのは異常だったがそれを指摘する者もいない。
何しろ彼こそが古龍渡りを解明し、その元凶を単身討伐したハンターなのだから。特等マイハウスに住み、アステラを新米ながら悠々と闊歩できるのもひとえに功績がモノを言っている。
と、ここまでは若いながらも凄腕のハンターなのだ、と誇ればいいし、ここまでくるといっそ妬まれもしそうな輝かしい功績だった。しかし、誰も別に彼を妬んだりはしない。羨み、多少なりと憧れはしてもみな口を揃えて「あぁはなりたくはない」と言われるのがオチなのだ。
なにしろ、彼は筋金入りの阿呆である。つまり馬鹿である。頭はそう悪くないようだが、金の使い方、そして命の張り方が馬鹿なのである。
アステラにいる人間に聞けばわかることだが、稼いだその日に報奨金をすっかり使い尽くし、食費も残っていないと気づくとそのまま彼は単身狩りに向かい、「適当に」飛竜を狩ってくるとその報奨金で晩飯を食べるような人間なのだ。その雌火竜を狩るために命を張っているという自覚も、張っている人間がいるという事実も気にすることなく、ただ食い扶持に困ったからついでに倒してきただけのことなのである。
強いが馬鹿である。流石にそうそう使い尽くせない調査ポイントで飯が食えることをすっかりわすれていた馬鹿なのだが、頭は悪くないので今日は学んでいるようだ。
なお、彼は血塗れになった狩り帰りでも疲れてなどいない。自分の血が大半であろうともだ。なにせ馬鹿なので、彼がくたくたのぼろぼろになり、哀愁を漂わせている時はきまって財布がすっからかんの時だ。
なお、彼ほどのハンターの報奨金は安くはない。一日や二日で使い尽くすような馬鹿はここにいるのだが、なるほど、彼に金を払ってもすぐに手元を離れると思えば気前よく払えるというものである。貨幣経済的には見習っても良いかもしれない。
しかしせっかくの美丈夫もその馬鹿さ具合でモテやしない。外見には気を使っていて、目元に紅をさし、生来の女のような顔をしているというのに、言動には気を遣わないので。
男性の装備ながら、優美で到底戦えるような格好でなくてもそのまま適当なモンスターを時に討伐し、時に捕獲し、後ろ姿の筋肉質なところを気にしなければいっそ艶やかな彼は、なんといっても馬鹿なので、今日も鍛冶場でスッている。
折角の優男の美形も、美しく整えられた気障な服装も、モテるという点においては何も発揮しない。なにせ馬鹿なのでいくら愛があったとしても愛が枯渇するような経済状況なのである。財布は火の車を通り越してファイアーチャリオットなのである。
幸いにして借金はしないようである。しかし間違いなく返すあてを狩りの腕というもので証明しているというのに借金がないのは、馬鹿なので気づいていないだけだろう。誰ももちろん持ちかけたりしない。馬鹿に関わるのは祝杯をあげる時だけだ。
馬鹿曰く、顔についてはハンターとして無意味なので……彼に言わせると金にならないことなので……ただの着せ替え人形の付属なのだ。紅をさすのも、髪を整えるのも、すべては彼が愛するものに少しでも釣り合うため。
「ちょっと聞いておくれよ、昨日はやっとガンキンまで揃えたんだ。残り半分は切った、そうだろう? だってのに、金がもうないから要らない素材をうっぱらって、鱗コレクターどもが好みそうなやつも全部おさらばしたのによ、それで半分ちょっとなんだ、おかしくないか?ただ揃えたいだけなのに」
「あー、はいはい」
相棒である受付嬢が捕まえられて酔っ払ってもいないのに絡む様子はもはや食堂では見慣れたものだ。
なにせ、馬鹿な彼はある種の気狂いである。過ぎたることはもはや狂気である。ペアでもなければ彼女もあまりお近づきにはなりたくないのでは……と噂されているが、実のところ何も気にしていないのでそういう意味では息の合ったコンビと言える。
とはいえ相棒に何も思うところの無い男は適当にあしらうし、それをなにも気にしない彼女は今日も食材を食い荒らす。二人とも秀でた能力があるというのに、人間性には問題しかないようだった。
「だってのに、あーーーーーー、玉が足りない。鳥竜玉、竜玉、各種玉。装備ってものはなんでこう、高いんだろうな? コレクターには出費が痛い、なぁ?」
「相棒ならちょちょいのちょいで狩れるんじゃないですか? またひと狩り行けば大丈夫ですよって!」
「金は狩れば手に入るけど、狩れども狩れどもぜんっぜん玉なんて落ちやしない。素材がないと始まらないしな。早く全てのモンスターの防具と武器を揃えたいのに……あー、金もまた蒸発した。もう飯食う金もないんだよ。
受付嬢、なんか割のいい依頼ある?」
「ランク七以上ならどれもそんなに変わりませんよね! どれがいいですか?」
「……君も適当だなぁ、じゃあ、うーん、指が当たったからこれで」
「適当ですね!」
彼こそは誰もがお近づきになりたいような、やっぱりなりたくないアステラ一の散財魔、誰よりも多くの狩りをし、つまり稼いでいるというのに、普通の人間なら子孫まで遊び暮らせるような報奨金を全て高額な武具に費やし、集めることにやたらと執心する馬鹿である。
武具の着せ替えに命を懸けていると言ってもいい。だから容姿に関しては少々ナルシズムが過ぎると人に指を指されようが構わない。愛する武具たちを着こなすために気を使っているだけなのだから。
そして、それを無駄と唾棄するにはあまりにも彼は狩りが上手かった。組み合わせによって色々試せるという言い訳もあながち嘘ではないのが周りにとって辛いところである。
もはや災害である古龍を半日で狩ってくるハンターが他にいるだろうか。
彼の相棒が食に執着しているというなら、彼は衣に執着しているのである。もっと言うならば、狩りを好いている彼がその証拠として、愛するたくさんのモンスターたちの死した骸を纏うことに恍惚を感じている。馬鹿だが詩的な馬鹿であり、もはや行き過ぎは狂人である。戦闘狂の末路である。
ゆえに、高ランククエストも彼には割のいいバイトかなにかの扱いなのである。危険な橋を目をつぶって橋板を落としながら渡るような真似をしているのにも関わらず、目立つ傷がないことも一層不気味と言ってもいい。たまに眼帯をつけているが、それがただのファッションで、そのまま狩りに行くような舐めたマネまでしているほどだ。
曰く、弱点特効が上がると。周りには何を言っているのかさっぱり理解ができないような、分かるような。そういうものなのだ。
ハンターとしてはピカイチには違いなく、人外じみたその能力を誰もが惜しむがその生き様の豪快っぷりというか、馬鹿というか、なにせ彼の装備は曰く完成しているのでこれ以上揃えるのはただの、コレクター魂を満足させるものでしかないのだ。
しかし、彼は嫌な人間ではないので人並みに謙遜はする。自分よりも狂気的なコレクターの存在を主張し、自分よりも優れたハンターの存在を語る。彼の話だと、それこそそのハンターたちは完全に人間ではないのだが、彼は当然のように語るのだ。
曰く、野良ハンター。誰も見たことのないそのハンターはまことしやかに伝説として囁かれている。
「すべて集めたらどうするんですか?」
「そんな日はなかなか来ないよ。来たとしても新種が発見されて作れる武具が増える、するとこっちは楽しくなってくる」
「幸せそうですねぇ」
ハンターはあぁ幸せだと返し、軽い財布を懐に口笛を吹いてひと狩りしに行った。
なお、彼の素晴らしい内装の特等マイハウスの敷地は彼の収集した装備品で溢れかえり、主にマム・タロトという古龍の報酬のせいで何がどうなっているのかわからないほどの積み上がりっぷりになっているという。
彼は幸いにしてダブりは売る派であり、そうでなければ彼の愛するフワフワの鳥たちも埋まる羽目になっただろう。
プレイヤーからしたら別にそんなにやりこんでいるわけではないし、一日3クエならむしろゆったりライトプレイヤー。
装備をすべて揃えているわけでもなければハンターランクが999なわけでもないただの一般プレイヤーもゲームの中の人たちから見れば戦闘狂で散財癖をもつやばいコレクターになってしまうのでは。
それにしても一生懸命中性的な顔立ちのポニーテールイケメンにしたのに画面の暗さで顔全然見えないし、化粧もしたのに分からないし、背中と尻しか見えてないし、だからたまにムービーで顔アップになるのをひたすら待ってるよ。悲しいので頑張って美化したのでスリンガーで投石しないでください。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
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アナザーストーリー