「やぁおはよう! 今日も気持ちのいい日だね!」
「お、おはようございます」
「うん!」
にこにこ! と聞こえてきそうな素晴らしい笑顔を浮かべたハンターは、静まり返るアステラで一人うるさかった。表情もうるさかった。そこまではいつも通りと言って良いのだが。
ハンターの会話相手は受付嬢でも、世界樹の人でも、生体報告所長でも、オトモアイルーでも、二期団の親方でも、武器屋のおばちゃんでも、でかいコックアイルーでも、集会エリアの受付嬢のどちらかでも、バウンティのために調査報告をしているわけでもないのだ。もちろん買い物をしているわけでもない。マカ錬金をしているのでもない。船長が持ってきたものを買い占めている訳でも、ない。
単に誤爆して船長の隣の人に話しかけているだけならどれだけ良かったか。誤爆される人は誤爆され慣れているので速攻で終わる会話にいつも心を無にしている。紛らわしい場所にいて悪かったな。
つまるところ、普段のハンターはプレイヤーとして必要最低限な機能を果たす以外で他人にわざわざ話しかけるような暇人ではないのだ。そんなことよりも鏡を覗きこんでうっとりしたり、今日も絶好調な重ね着ブリゲイドの黄緑色の装いの調整をした方が良いと思っているからだ。
なお、ドラケンはよそ行きである。ブリゲイドはこのハンターの魂の衣装なのだ。つまり普段着である。外にも行くが。彼の正装であり、普段着であり、一番のお気に入りなのだ。彼は、というかこの場合彼女は、気障っぽい格好の中性的なイケメンをやりに来たのだ。一つのゲームで何種類も楽しめる幸せなプレイヤーである。
つまり、自分のことで忙しいのが日常だと言うのに今日は道行く一般ハンターや(このハンターはアステラ的には到底一般ハンターとは言えない)、特にハンターに何かをする訳でもない流通エリアの人々に片っ端から愛想よく挨拶してくるのだ。
流通エリア以外でも話しかけてくることもあるし、今日は三期団の気球研究所に前触れもなく突撃したのでその他の場所のは人たちも油断はできないが。
しかも、今日に限って返事まで期待してくる。普段は間違えて話しかけても話なんて聞いていないですぐどっかに行ってしまうくせに。会話を楽しむ素振りまで見せる。なんて厄介な。いつものように流通エリアをイノシシのように突っ切っていけばよいのに。
「ご主人、ご機嫌ニャー」
「にゃんにゃんちゃん今日も最高に可愛いね!」
「いつもと変わらなかったニャー」
オトモアイルーに対しては何も変わっていない様子、と人々は分析する。迂闊に仕事に集中してハンターを無視でもしたら命がどうなるかわかったものではないのでアステラ流通エリアには張り詰めた空気が流れていた。
普段、皮を力強くなめす職人も、リンゴ選別マンも動きが非常にぎこちない。この二人はモーションがハンターのお気に入りとかで、普段から無言で観察されているのでハンターの視線には慣れていたが、話しかけられたのは初回くらいなのでとてもとてもびっくりしたからだ。
ハンターの今日の得物は、ハンターにとって第二の相棒である、困った時はこいつにおまかせ無属性片手剣である。ガイラのボルボである。よって取る幅はそこまでではないことが唯一の救いだった。これで大型な武器なら緊張のあまり目測を誤り、ハンターにぶつかって吹き飛び、導きの星になってしまうところだった。
「今日も元気ですか、レディ」
「おお、お、お上手ですね」
気障な言葉に女性はつい頬を染めた。狂人としかいいようのない行動をしていても、顔はいいのだ、顔は。
というか顔はいいに決まっているのだ。ハンターはハンターしに来たのが半分で、顔がいい男をしに来たのが半分のプレイヤーなのだから。そんな顔でこう、ご丁寧な挨拶をされたら緊張が一周まわってしまう。つまり緊張である。しかし顔がいいので心には顔が良かったという事実が残る。すぐにハンターのナルシズムの思うつぼであることを思い出す。
ハンターが顔を自分の理想に作り上げたことは知らなくとも、ハンターが自分の顔を自慢に思っていることくらいは周知の事実である。
例のハンター、あいつ何しにきたんだ。そんな雰囲気が流れる。もちろん気付かれない程度に、遠慮がちに。誰も目をつけられたくはない。今日は名物カップルも不穏な気配に引きこもって、気づかれないように必死であった。
「なにか依頼は?」
「ク、クエストボードにどうぞ」
「そうだった、ハハハ」
なんだこいつ。爽やかな笑顔、文句は言えない会話、走る緊張、自分の顔に見とれている訳でもないのにクエストになかなか出発しないハンター。
真相は、ハンターの遊び心である。非常に迷惑である。
ハンターはハンターである。新大陸の拠点アステラ所属の推薦五期団ハンター。それになりきって遊んでいるのである。その人なのに、中の人がそういうつもりで遊び始めたのだからそうなのだ。
なので普段はスルーする人々に話しかける、つまりアステラに馴染んだハンターのロールプレイをしているつもりなのだが、馬鹿なハンターは知らなかった。馴染むどころか上空にいるくらい、自分は既に浮いた存在なのだと。
「ご主人、狩りに行こうニャ」
例のハンターは狂人で良心的でなくとも、彼のオトモアイルーは良心の塊である。周りの人々が必死で刺激しないようにしているのをしっかり察知して外へ連れ出そうとして、ついでに本業をさせておこうという素晴らしい行動力を見せている。
周りは変な行動に見られないようにしながらオトモアイルーを拝んだ。
「そうだね、そろそろいつもの調査クエスト消化をしようかな」
「どれにするニャ?」
「そうだなぁ、一度アステラの人と狩りを共にしてみたいんだ。ゾラ・マグダラオス以降、そりゃあもう一人だし? ゼノも結局一人だったし?」
ゼノ・ジーヴァにて開幕一乙竜人棒野郎はそっと目を逸らした。あれ以降、自分を尊敬し、キラキラした目をしてくれたかつての様子はすっかりなくなった。例のハンターとは彼が生態報告をするときすれ違うのだが、毎回不信感ありありの絶対零度の目線を寄越してくるのだ。身に覚えがありすぎる。
その一乙という名の撤退のせいで自分たちが巻き込まれそうなのだけど! という抗議の視線が竜人ハンターに殺到するが誰も口には出せない。出したら例のハンターに連れていかれること間違いなしなので。なので無言の視線の戦いが始まっていた。
「古龍は何故かみんな来ない。歴戦個体もみんな遠慮する。回数残ってなくても別にまたクエスト出せばいいんだから、遠慮しなくてもいいのによ」
クエスト枠に遠慮して参加しないわけではない。回数に遠慮しているわけでももちろんない。
例のハンターはアステラ的には強いハンターなのである。そして古龍とは存在自体がほぼ天災である。歴戦個体とは歴戦の猛者なので歴戦個体なのである。どちらもおいそれと狩れるものではない。
腕におぼえありの熟練ハンターであれ、少なくとも、入念な調査と準備を行ってから仲間と綿密な打ち合わせをし、練習を重ね、そして何日もかけて狩るものである。スナック感覚で十五分やそこらで狩るやつと一緒に行きたくはない。
例のハンターは、ほんの準備体操にネルギガンテを倒し、なんとなくヴァルハザクを狩り、次のイベントクエストの軽い練習をするためにクシャルダオラをボコボコにし、弓の気分だからナナ・テスカトリを制し、クエストがあったからテオ・テスカトルの宝玉をもぎ取れるまで戦い、刺激が欲しくてキリンに立ち向かい、武器が欲しいからマム・タロトの角を折りまくる。
狂人である。強靭と言い換えてもいいが、普通ではないという意味では確かだった。アステラ的に手放したくないハンターだが、関わらないでいてほしい。それが総意で、本音だった。つまりいつも通りはバランスが良い。話しかけてくるな。
「歴戦古龍でも、遠慮しなくていいように回数制限のないイベントクエストで今、誰が玉座に牙を剥く? ってのがあるんだけどね、にゃんにゃんちゃん」
「にゃーん」
そんなのに誘おうとするのはやめてくれ! ツッコミを入れてくれ! という願いは、すっかり魅惑の手に魅了されたアイルーは使い物にならなくなったことで潰えた。アイルーはとろけてとろけてふにゃふにゃになった。
「これは難易度高いし来てくれないだろうってのはわかる、だからまぁ下位クエストでもどうかなって、ねぇそこの君ぃ」
「先約が! ありまして!」
「それは仕方ない」
「ニャー」
先約があればハンターは無理強いしない。その程度の常識はあった。
しかし、その後もしつこいハンターは、とうとうフリークエストのジャグラス狩りまで難易度を下げてきたが、難易度はともあれ例のハンターと狩りを共にするのはなかなかに危険なので全員にフラれ、ハンターはつまらなそうにひと狩り行った。
なお、ネギの玉が落ちたという理由でロールプレイをしていたこともすっかり忘れて上機嫌で帰還したのでアステラの人々は胸をなでおろしたのだった。
もちろん作りたかった装備を作ったのでその玉は一瞬にしてなくなり、例のハンターのファッションショーはしばらく続いていた。
ファッションショーを遠目に見ながら、常にしていてくれという想いがそこにはあった。
ロールプレイングゲームが好きなハンターさん
理想のイケメンにカスタマイズしたキャラクターでロールプレイしたくなった。特定の角度から見ると性別不詳になれる。具体的には四十五度ほど正面から傾ける。
馬鹿なので、なにかあるとすぐにやっていたことを忘れる。やっていたことを簡単に忘れる鳥頭でなければ毎日毎日飽きもせずに自分の顔に見とれたりはしないはず。はず。
ハンターが最初から最後までこのノリを貫くことが出来ればそれはそれで互いに幸せになれた。
結局ソロで玉座に牙を剥いた。オトモとデートとはいえ寂しかったので次からは救援を呼ぶことを誓う。
本日の反省「黄緑色は少し幼かったかな。明日はもっと落ち着いた色にしよう」
ハンターさんのオトモ
全てのアイルーを魅了する手の持ち主であるご主人に骨抜きにされた。可愛くて有能。その毒武器にハンターはよく救われる。
現在盾持ちですごく頼れる。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
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ゲームシステムによるもの
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クエスト頻度、難度、クリア時間
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イベント関連
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メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
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アナザーストーリー