ハンターさん、集めるのが好き   作:ryure

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あらゆるものが枯渇している話。


ハンターさん、枯渇する

「金がない」

 

 例のハンターは死にそうな声で言った。

 

 自慢の顔がブリゲイドの帽子に半分隠れていて、憂う表情は非常に絵になっていたが、内容は正直よろしくない。心なしか丁寧に結っている髪の艶も少し普段より衰えている気もする。

 

 血を浴び、毒を浴び、暴風を受け、雷にうたれ、焼かれ、爆破され、凍らされ、泥に突っ込まれてもなお普通の人よりはよく手入れされて艶があるので特に問題にするところではないかもしれないが。ハンターはハンターなので髪を焼かれてもチリチリにならないのである。

 

 人間なのだろうか。……ハンターは、ハンターなので。

 

「いつものことじゃないですかー」

 

 受付嬢は至極爽やかな口調で答えた。事実である。

 

 ハンターは相談相手や話し相手が欲しかったのではなく、ただただ相槌を打つ相手が欲しいという中の人の基準である女性的な考えでものを言っていたが、互いに相手の話を聞かないので相手がなんと答えようが特に問題はなかった。

 

 よく似たコンビなのかもしれない。ただしハンターは受付嬢の「頑張れー!」があまり好きではない。受付嬢はハンターのこと全般を好きでも嫌いでもない。なので半分噛み合ってないくらい、話を聞いていないくらいで丁度いいのだ。

 

「鎧玉もほとんどない」

「ありゃー」

 

 少しばかり事情はいつもより深刻だったが、普段の鎧玉ストックも火の車である。財布の方はそれを通り越してファイアーチャリオットだが。最近は調査ポイントすらかなり減っていてわざわざ探索によく繰り出すほど。たくさんのブルーマリンを抱えて戻り、その場を凌ぐのだ。つまり何もかも足りないのだ。執念と愛だけがそこにある。

 

 そうなるのも、被弾が多い例のハンターは身につける防具全てをカスタム強化しなければ絶対に気が済まないせいなのである。当たらなければどうということはないのだが、当たるので問題なのである。

 

 しょぼくれた今日のハンターは、枯れたような茶色のブリゲイドをけだるくもしっかり着こなしていたが、顔は絶望に染まっていた。

 

 ジョッキの中にある薬草をすり潰してぶち込んでとびきり苦くした液体を飲み下しながら、この世の終わりを告げているようだった。なお、アステラに戻ってまで薬草を飲んでいるのは匠の護石のためにクシャルダオラを狩ってきた際に、被弾が多すぎたあまり服を汚す勢いで皮膚が裂けて出血していたからである。

 

 ゲーム的には回復済みで問題はなくても、ハンターの肉体的には現実の世界なので、眠りもせずに傷が完治するのはちょっと難しい。寝たらすっかり治るのだが。

 

 このハンター的には服が汚れるのが最も困るのだ。なので彼はきちんと治しにかかる。しかしそのような理性はあっても、資源が枯渇した事実には変わりがない。

 

 たまに血も滴る良い男! と嬉しそうにしているが、スクリーンショットには撮れないのであまりしていない。なにより鉄臭くてかなわないし、やっぱり痛いし沁みるので。流石にそれは良くないと思う程度の倫理観と常識はあるのだ。

 

 彼が資源が枯渇させた経緯といえば、装備のドラケン一式をカスタム強化したところで全てを使い果たしたことによる。各種歴戦王装備を強化およびカスタム強化する余力を失ったのだ。

 

 宿敵、討滅戦ベヒーモスを倒した祝杯がてら、ずっと作りたかった装備を作りまくって財布と素材をすっかりカラにし、売り飛ばしていいところの限界ギリギリまで素材を売って作った金もすぐに使い果たしたのが主な原因である。

 

 完全な自業自得である。

 

 なお、その段階になってようやく、狩猟王のコインがちっともないせいで装備のブリゲイドを作れないことが判明し、二度とやりたくない闘技場をどうするか少し悩んでいたりする。ただでさえ被弾が多いプレイヤーが、装備のしょぼい戦いをするとそれはもう悲惨で、目も当てられない。

 

 平気でソロにして八乙三十分とかかけてクリアするので。装備が弱いと、必死で乗ってダウン中にタコ殴りする以外の勝ち方を彼は知らない。正面から挑むと瞬く間に乙、それだけである。

 

「新しい装備を組んで作っては登録して、もちろん使うつもりだからカスタム強化までするじゃないか。そしたら気づいたらすっかりスッカラカン」

「しばらくお金が貯まるまで装備作るのも強化するのもやめたらどうですか?」

 

 今日の受付嬢、最高にキレッキレであった。また隣のテーブルから逃げ損ねた五期団ハンターも内心頷いている。ちょっとは堪えろよ、と。

 

「……そうだな」

 

 しばらく、装備を作れない。その事実に直面して禁断症状で手を震わせながら、もう、そうするしかないのだ、と納得せざるを得ない。正論なのだ。

 

 それを理解する頭はあったが、軽い財布をしっかり掴んで、いつまで自分が耐えられるかを静かに考えていた。すでに限界に近い。無理だと悟る頭はあった。なんとかなるだろうとまで楽観しなかったが、馬鹿なので、頭があっても手が勝手に動くことは理解しなかった。

 

「鎧玉のためにはバウンティもやってかなきゃな。確かまだ配信バウンティが終わってなかったから……あと瘴気の谷とウラガンキンか。☆9は勝手に終わってたみたいだけど……調査クエストで済ませたらバウンティも達成できるかな。歴戦をソロで……いや一人はなんか寂しいし、救援参加かな」

「ニャン」

「にゃんにゃんちゃん! ごめん! ソロでも一人じゃなかった!」

 

 オトモアイルーの寂しげな鳴き声に反応し、抱き上げて猛然と頬ずりするハンターがいるせいで別のハンターたちは食事場にとても入りづらかったのでキャンプで食べることにした。物理的に塞いでいなくともこのハンター、邪魔である。逃げられない五期団はぎごちない動きで食事を再開した。

 

 オトモアイルーは、オトモとして一般的な範疇でハンターのことを慕っているので微笑ましい光景のはずなのだが、相手が例の狂人ハンターというだけで禍々しい光景に見えてしまう。

 

 受付嬢はもちろん、何も見ていないのでリンゴを気にせず頬張っていた。彼女こそが鋼のメンタルの持ち主である。

 

「普通、装備って一式同じモンスターで揃えてきますよね。どうして相棒は色んなモンスターのものを混ぜて使うんですか?」

「えっ、そっちの方が好きな様にスキル組めるし、自分にとって何が一番愛着があるモンスターなのかとか決められないじゃないか」

 

 平等にモンスターと親睦を深めてきたハンターにどれかを選べなかった。人並み以上にドスジャグラスを追い剥ぎ乱獲し、人並みにバゼルギウスに殺意を覚えてハンターをしてきたので。モンスターの好みこそあれ、特別これが好きすぎてほかより優先する! とかいうことはないのである。

 

 強いていうならこのハンター、ネルギガンテが戦いやすくて好きだった。ヴォルガノスとかいう届かないところで溶岩吐いてくるモンスターとは違ってパワー勝負を仕掛けてくるため、猪突猛進ハンターとしてはやりやすいのだ。しかし玉は落ちない。

 

 ヴァルハザクは落とすのに、クシャルダオラは落とさないように、ネルギガンテもなかなか落とさない。

 

「キメラいいよね」

 

 装備キメラの方がいろいろとスキルが組めて便利ということである。だからこのハンターは重ね着装備を手放さないのである。流石にてんで色も質感もバラバラな見た目には彼の美的感覚が許さなかったらしい。

 

 プレイヤースキル:被弾多し。なので、生存スキルをしっかり組めないと困るのだ。硬派な一式派のことを尊敬するハンターなのだ。ハンターの知り合いに一式派がいるので彼は彼女のようになりたかった。ちなみにネカマではない女ハンターである。なによりオトモを愛するハンターらしい。

 

 堪え性のない素っ頓狂の知り合いハンターのことはともあれ、まずは、その注意散漫を直さなければ話にならないのだが。

 

「そんなものなんですかー」

 

 ハンターは受付嬢のクエストリストをむさぼるようにチェックしながら、適当な相槌を聞き流した。調査クエストとフリークエストを見比べながら。

 

 金がないなら、高い報奨金の歴戦四枠調査クエストに激運チケットを使って乙らず戻ってきたり、もう素材に用途がない手負いのベヒーモスでも狩ってきて素材を売っぱらえばいいことは理解しているのだが、効率厨を極めるには彼はライトなプレイヤーであった。

 

 黙々と、淡々と狩り続けるのには向いていない。定期的にファッションショーを開催したり踊ったり、ほかのハンターと共闘したりしなければ続かないのだ。プラスに加入しないという選択肢のないタイプである。

 

「バウンティ……バウンティ……バウンティと金が両立できるやつ……」

 

 受付嬢はそっと救援リストをハンターの方に押し出すと、すっかりハンターのことを頭のすみに押しやって忘れた。あまり直視すると精神衛生上良くないことは理解していた。

 

 ハンターは救援リストを手に取ると、素早くめくって参加を決めると、いつものように上機嫌とは言い難い切羽詰まった顔でひと狩りしに行った。

 

 

 

 

 

 

「金がない」

 

 例のハンターは憔悴していたが、だれも同情はしまい。例のハンターにとっては唯一の救いとして、憔悴しても魅力的な顔は魅力的だったので、それで満足して前を見据えてほしい。

 

「さっきあれだけ稼いだのに、もうないんですか?」

「あれっぽっちじゃカスタム強化した装備の強化分も賄えないよ。装備いくつか作ったらなくなった」

「はぁ」

 

 受付嬢にも例のハンターの金銭感覚だけは理解ができない。ものすごい大金を稼いでいるはずなのに、一瞬で使い切ってしまうところが。自分なら、そんなにお金があるなら美味しいご飯をいっぱい買うし、ご飯ごときで早々無くなるような金額でもないからだ。

 

 しかし、このハンターは、装備に金をかけているのだ。高額な報奨金を高額な装備に費やしているのだ。装備自体は完成し、新たな狩猟スタイルを確立するために新しい装備を作って金を使いまくっているのだ。受付嬢にはまったく理解ができない。もう戦えるならいいではないか。

 

 火力装備も汎用装備も、広域装備も補助装備ももうあるのに。だが探究心の高いプレイヤー的には、新しい武器と戦闘スタイルを開拓していく普通の行為なのだ。

 

 スッカラカンのハンターの顔にはどこかやりきったような笑みがある。しばらく作らないとは何だったのか。禁断症状は抑えられたようだ。

 

 しかし、装備を作ったということはナルシストタイムもあったということ。しばらくスクリーンショットを取り続けるために課金ジェスチャーのポーズをマイハウスではなく外でキメていたらしく、ほかのハンターたちが加工所の近くで立ち往生していたのには気づかなかったようだ。

 

 ようやく動けるようになったハンターたちがやれやれと言わんばかりに人混みを解消しているのを背景にしながら、ハンターは軽い財布を投げてあそんでいた。チャリンチャリンと軽い音がするので猫飯代くらいはあるのだろう。本当に切羽詰まっているときには金属音すらない。

 

「次、なにか受けます?」

「うん」

 

 ハンターはもはやめくってくれもしない受付嬢の手から本を借りるとペラペラとめくり、真剣な顔をしてなるべく稼げそうなものを選んでひと狩りしに行った。

 

 もちろん、戻ってきたハンターはそろそろ集まってきた鎧玉と稼いだばかりの金を持って加工所に突撃し、全部スって食事場に戻ってきてまた狩りに行くことになるのだが。

 

 落し物で調査ポイントと金を稼ぎ、さらに新しい武器まで手に入るマム・タロトの次のシーズンが来るまではしばらくハンターの懐事情は台風迫る秋風如く、激しく吹き荒ぶことになりそうだ。

 

 ハンターには堪え性がない。そのことをアステラ中に轟かせながらも、今日も例のハンターは鏡の前では最高の笑顔だった。




財布が寂しいハンターさん
最近課金ジェスチャーの存在を思い出して大喜びで買った。決めポーズ各種とダンスでスクリーンショットが潤う。リアル財布はそこまで寂しくないようだ。
受付嬢の着せ替えはスルーしてしまった。なにせ中の彼女は女の水着に興味はない。
倒しても倒してもクシャルダオラが玉を落とさないので悲しみのマカ錬金をし、腹いせのヴァルハザクは一発で落としたのでこの憤りをどこへ向けたらいいのかわからない。
今日の一言「ゾラの素材が案外足りない」

どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。

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