「ほかのハンターに武器の使い方を教えてやってくれないか?」
総司令は、目の前に今にも暴れそうな手負いの歴戦個体のイビルジョーがいるような顔をしていた。相手はもちろん例の導きの星である。もちろん暴れそうな様子はないが、暴れてからでは遅いのだ。
面倒がって逃げないように、左右を総司令の孫とハンターが大好きなソードマスターに固められた例のハンターは椅子に座らされていた。ソードマスターが好きなのは渋くてカッコイイからである。なお、背後は海である。
そして、あたりに漂う雰囲気はゾラ・マグダラオスを海へ逃がす時のように緊迫していた。遠巻きに例のハンター捕獲網が敷かれているが、そんなものは地図画面からのファストトラベルで無意味なのだ。
それに、例のハンターの今日の得物は彼がすべてが面倒になった時に使う弓である。もう何もやりたくないがとにかく狩りはしたいという顔である。
実際、逃げられそうにないように見えても、メニューを開かせないようにしたとしても、ハンターからすればログアウトすればいいだけなのでボタンをちょいと押して電源を切ってしまえば逃げられてしまう。
現状、このハンターの気をソードマスターで引いてなんとか留めているのだ。実際例のハンターは紅をさした顔を喜びに上気させて子犬のように尻尾でも振りそうな勢いでソードマスターに話しかけようと必死であった。今日も化粧の微調整をしてきたので本人的にはお洒落してきてキメキメなので。もちろん顔をおおう兜をかぶった相手が分かるような大きな変化はないのだが。
このハンターは顔が良いということが好きである。もちろん硬派なイケメンも好きなのである。しかしながら、自分がプレイするには、中性的な顔にキャラメイクしておきながら方向性を変えるとかそれはないだろうということで、観察するにとどめている。ソードマスターは、顔が見えなくとも渋くてカッコよくて、しかも強いとわかっている。ゆえに人間キャラの中でイチオシなのであった。
「教えるったって、適当に武器を振り回してたら覚えたってぐらいですけど。人様になにかコツを教えるようなくらい上等なハンターじゃあないですよ」
ハンターは謙遜せずに言った。事実である。ハンターとして上手いか下手かなら、アステラ的には強かったがプレイヤーとしてはどう足掻いても中堅層だった。
どこまでも上には上がいる。プロハンには到底なれない程度だが、すべてのクエストをひと通りクリア出来、例のコラボモンスター以外はソロでもクリア出来る。しかしソロだと結構乙るし、時間もかかる。つまり良くいる一般的な腕前に過ぎない。
しかし、そもそもこうなっているのも、例のハンターがあまりにもあまりにも右往左往して邪魔なのでひとつ、落ち着いてくれないかと総司令はいつも考えた結果である。そして行き着いた先は、たまに指導的立場におけばマシになるのではないか、と。
ハンターはプレイヤーなので新展開には目ざとくついてくるが、狩りや着せ替え以外のことには飽きっぽくもあるので、上手くいったとしても短期間に終わるのは目に見えているのだが。
ともかく、新大陸にいるハンターに完全なる初心者はいない。ということは、最低限丈夫であるということだ。つまり、うっかりやられてしまうこともなさそうだし、上手く行けばこのハンターのように複数の武器を扱えるようになれば儲けものという次第である。
上手くいかなければそれはそれで次の手を打つまでだった。たとえば、良い調査クエストをこっそり提示するとか。とりあえずハンターにいてもらいたいがアステラでこれ以上うろちょろされるのも問題であった。ハンターの機嫌を損ねたらどうなるのか分からないというストレスをこれ以上調査団にかけるわけにもいかなかった。
このハンターが主人公である時点でどう足掻いてもアステラは逃れられないのだが。彼は神ではないが、ここのアステラにとっては礎も同然である。彼がいるからこのアステラが存在する。彼がいなければここのアステラの存在は曖昧になり、どこかのアステラと収束して消えることになる。
もちろん、誰もそんなことはわからない。人々はテスクチャの貼られた世界の裏側を垣間見ることは出来ない。剥ぎ取ったあとのモンスターが消えるのも、宙返りするだけでモンスターの攻撃を無効化できるのも、すべてすべて当たり前なのでおかしいということに気づけない。
「物は試しだ。得手不得手というものはやって見なければわからないだろう?」
「はぁ。それって依頼になるんですか?」
なお、ロールプレイを人並みに好むプレイヤーなので、偉い立場の人間には敬語を使っている。ただし竜人棒野郎は除く。人並み以上に根に持っていた。
「もちろんだ。トレーニングルームに既に教えを請いたいというハンターが三人程待機しているから頼んだぞ」
「おしえるってなにをです?」
「そのハンターの使えない武器ならなんでも。希望が叶えばよりいいが」
「そうですか。まぁ堅鎧玉二十個には替えられませんからねぇ」
このハンターは人並みに現金な人間である。そういうことも把握されていて、だからこそ食いつきそうなところで報酬を出した。ハンターは鮮やかな水色のブリゲイドの帽子をクイッとやると、トレーニングルームへ飛び立っていった。
かくして、アステラは三人の生贄による一時の安寧を手に入れたのである。
選ばれた頑強そうなハンターたちは空からやってきたハンターを見て内心生き残れるように祈りを捧げることにはなったが。
なお、最初から最後まで例のハンターのオトモはやめておいた方がいいと思うニャンと言いたげな顔をしていた。
「総司令は、あたかもわた……お、俺が何でもできるみたいな言い草だったけど、すべての武器が使えるわけでもなんでもないんだけどなぁ。とりあえず大剣からやってみる? 希望があるならやるけど」
ハンターの中の人は女性なのでロールプレイで「俺」と言うにしてもかなり気恥ずかしかったのでNPC相手でも二度とやらないと静かに誓った。
「なんでもいいです……」
「そう、じゃあ短期間で覚えられたし大剣がいいんじゃないかな。火力出るし、納刀早いし、カッコイイし」
やる気はそこまで感じられないが、報酬目当てが手に取るようにわかる例のハンターは、愛用の大剣を構える。生贄のハンターたちにはそれぞれに用意されていたハリボテのものを配って。
そして、普段ガンナーのハンターも構えさせられたが、どうにもうまくきまりはしない。
当然のことだが、例のハンターがすべての武器を構えることが出来るのも彼がプレイヤーだからである。ハンターは、普通一つか二つの武器しか扱えない。
例外も存在するが、普通は持ったこともない武器を構えられるはずもない。いくら黒帯だからといって柔道部に突然竹刀を持たせても、剣道は未経験者なのだからやり方がわかったりはしないように。
ハンターとしては武器を操作するのも、コントローラーのボタン一つであるので、その構えられない気持ちが全くわからず、首を傾げた。ともかく傍目には嫌味はないが、天才肌で周りの気持ちを理解できない人間である。
アステラの人々とプレイヤーなハンターとの溝はますます深まっていく。
「こっちも大剣は七十回くらいしかまだ使ってないんだけどね。基本は構えながらさんかく、スティック倒しながらさんかくで強溜め、もう一発ぶち込んで真溜め、真溜めから復帰を待ってたら被弾するから急いで離脱にバツボタン、バツボタンからさんかくでタックル。普通にゆっくり待って強溜めでもいいかな……」
例のハンターはアステラの人々にとっては呪文を唱えながら、教科書のような完璧な動きで実演する。美しい模範的な動きは、正確に的に轟音を立ててぶち当たる。
発言の内容がまったく理解できないものの、動きだけは完璧である。思わず大剣を構えたままハンターの動きに見惚れたが、だからといってまったく参考にはならない。
そもそもこのハンターは、魂がプレイヤーなので視点は己の目ではなく、自分の背中より後ろにあるし、武器を手に持って振るっているのではなく、コントローラーのボタンをポチポチ押して発動させている感覚なので生身の人間に教えるなんて到底できやしないのだ。
中の人も武道経験者ではない。むしろ反射神経が少しとろい運動音痴である。だからこそ被弾が多いのだ。とはいえアステラの人々がそれを知るはずもない。
「応用も、ジャンプ切りしてさんかくでこう斜めに切り上げるじゃん、それからさんかくで強溜め、もう一回で真溜め。スティックは常に傾けてさぁ、えっと、タイミングよく? あとはまぁ、モンスターが動くから間に合いそうになかったら横殴り混ぜたり?」
ハンターの呪文は非常にメタな発言なので現地の人間にはまったくもって理解不能である。プレイヤーなハンターは、ようやくそこでぽかんとして立ち尽くすほかのハンターたちを視認した。
そしてなんとか思い当たる。
「あー、えっと、コントローラーのボタンってわかる?」
当然、首を振られた。
「そういう感じ? えー、めんどくさいなぁこれ。リセットしちゃおうかな。口頭でやるのかこれ」
無意識にタックルを繰り返しながらハンターはブツブツ言う。
早速飽きたことを察知したハンターたちは、自分たちがアステラの安寧のための生贄であることを思い出した。これを乗り切りさえすれば次の生贄がハンターを止める手はずなのである。バトンを落とすわけにはいかなかった。
「うーん、鎧玉が惜しい。じゃあ弓にしようかな……」
ハンターの中の人は塾講師アルバイトなどの経験がないため、もう全くのド下手くそな講師だったが、とりあえずのやる気を見せた。
もちろん弓道経験者でもないので説明は混迷を極めた。構えるところからやり方の説明がなっていない。
「弓をこう、背中から取りながらパチーンって開いて」
ハンターはパチーンと弓を開いた。一度じゃわからないかと思って三回ほどパチーンとした。もちろん一ミリのズレのない動きで。プレイヤーなので。
しかし、それは周りから見れば異質にも程がある。
「それから、開幕はそうだね、チャージステップは横滑りしながら溜めて撃つ。前滑りでも後ろでもいいけどね。えーっと、照準はL……じゃなくてなんて言えばいいんだろ。よく狙って撃つ。弓の発射はさんかくで……いやダメか。手を離すんだ、こう! マルで剛射!」
こちらも実演した。何回かやった。
だが、見ただけで弓を使えるようになれば苦労はしない。三人のハンターは、別の生き物を見るような目で例のハンターを見ていた。
何度実演してもまったく動きがぶれないのだ。まったく同じ動きで誤差の欠片もなく、つまずくことも淀むこともなく弓を引く。そのわりにはたまに的から外すが中の人が飽きてきたせいである。
講師にしても人選ミスとしかいいようがない。ハンターは同じ目線に立って生きる人間ではないのだから。自分の背中から世界を見て、ボタンによって行動するアバターに過ぎない。しかしそんなことは理解されるはずもないのでますます不信感は深まっていく。
しかしここに拘束できればできるだけアステラでは平和な時間が流れているのだ。粘らなくてはならない。
ハンターは弓を教えるのも諦めたようだった。どう足掻いてもボタン一つでハンターが動くものを口頭で説明しろと言われたって無理であるのだから。
だからといってほかの武器を教えるにしても、すべて同じである。だからハンターは諦めることにした。
「……ネギ狩りたくなってきたよ、ごめんね!」
しかし、ハンターは、祈りも虚しく、飽きて速攻見切りをつけた。唐突に後ろにバタンと倒れてログアウトし、その瞬間世界はぐにゃりと歪んだ。セーブもせずにアプリケーションを終了したからである。
「ちょっと相談があるって総司令が言ってたわよ」
ハンターは目を細めた。さっき聞いた会話だ。駆り出された同期の編纂者は顔見知りだ。だがそんなことは彼にはどうでもよかった。流れが同じなので展開はもうわかっているのだ。
「お姉さんごめんな、遠慮しとく。今ネギ狩りたい」
「……そう」
リセットされた世界でこのハンターはそもそも依頼を受けることなく、総司令に近づくことなくネルギガンテを討伐しにひと狩りしに行った。連続してヴァルハザクも狩ったが突然ネット回線が切れて周りのハンターが消え、泣く泣く一人で討伐したりもした。
もちろん、今までにもハンターをどうにか大人しくさせようと作戦はいくらかあったのだが、どれもこれも要するにハンターにとってはめんどうなことである。その度飽きられてリセット離脱されているのでアステラ的にはハンターを縛ることは実質不可能、という結論に達していた。
ハンターは思う。恐らくあれは戦力拡張イベントかなにかなのだろうけど、ボタンの説明しかできないハンターにやらせようとするのは無理だし、めんどくさいから攻略動画を見てさっさと済ませるべき案件だ、と。ストーリー以外はガンガン攻略を見るプレイヤーなのである。
しかし狩りから帰ってくるとせっかく考えたこともすべて忘れていたし、総司令も諦めていたのでいたちごっこは続く。
ハンターはアステラにいて巻き込まれるのも嫌だったのでいつもと違って一枚だけスクリーンショットを撮るとさっさとまたひと狩りしに行った。
少しだけ、アステラは平和になった。ボックスステップを道の真ん中で踊るハンターがいないだけでなごやかなのである。
その後、お金がたまったハンターはまた装備を作り、自分に見惚れるのでいたちごっこな同じことを繰り返す。
ハンターは素晴らしい笑顔で今日も情熱的な決めポーズをキメるのだ。
すべて実戦で覚えたハンターさん
実のところ、チャアクスラアク太刀などの変形したり、ゲージがあったり、装填したりする武器が全く使えない。仕組みを理解していない。
マルとさんかくでなんとかなる武器が好き。なにかの管理をしながら戦うような頭がないので双剣も適当に振り回しているだけに過ぎない。猪突猛進脳筋。故に空中回転乱舞中に叩き落とされて乙る。
ネルギガンテは思い出したら狩るようにしている。
今日のハンターさん「流通エリアの人たちの作業服、インナーベースでカッコイイから重ね着で欲しい。全裸状態の重ね着も欲しい」
総司令
ハンターの相手をして疲れないのは受付嬢だけだとよく理解したが、理解した記憶をセーブできなかったのでまたなにか仕掛ける予定。
どういった話を期待していますか? 最も当てはまるものを選んでください。
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ゲームシステムによるもの
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クエスト頻度、難度、クリア時間
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イベント関連
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メタ戦法(確定行動、戻り玉回避等)
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アナザーストーリー